アメイジングな恋をあなたと

cyaru

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大噓つきのアルフォンソ

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レオンでは話にならないと次にアルフォンソが向かったのはパルカス侯爵家だった。

アドリアナがいなくなったと右往左往しているであろう両家にアルフォンソは「私が保護した」と告げるために向かった。

カレドス家の人間もいるだろうかと、そちらから先に回った方がとも考えたが釘をさす意味もありパルカス侯爵家に向かったのだった。


「で、ではロカ子爵様が保護してくださっていると?」

へなへなとその場にへたり込んだカレドス伯爵からは本気で娘のアドリアナを心配していた事が伺える。夫人は足をガクガクさせながらも従者に肩を貸してもらい「ロカ子爵家に連れて行って」と叫ぶ。

対してパルカス侯爵夫妻は「大事にならなくて良かった」と安堵するなり不貞腐れるブラウリオに向かってこれからの事を言って聞かせる能天気さ。

イラっとしてしまったアルフォンソはカレドス伯爵夫人は従者と共にロカ子爵家に向かったようだったが、幸いにまだ当主であるカレドス伯爵はいるし、パルカス侯爵家も夫妻とブラウリオが揃っている。

――この場で了解を取り付ければいいだけだ――


それにしても、いい年をして不貞腐れているブラウリオの近況も知らぬアルフォンソではない。

わざわざ昨夜集まった招待客に「こんな婚約なんですよー!」と説明をしなくても理解をしている者が大半。むしろ知らない者の方が珍しかったのではないか。

それほどまでにブラウリオとソフィーリアの関係は貴族や商人の間では有名だった。

何が有名かと言えばパルカス侯爵夫妻の親馬鹿ぶりと、ガモンド伯爵家の沈黙を貫く態度。余りにも相反するものなのでこの結末がどうなるのかと興味津々。

何でも賭け事の対象にしたがる貴族達はこの2人の未来がどうなるかという賭けもしていた。一番オッズの低い本命がパルカス侯爵家がガモンド伯爵家にソフィーリアを何処かの家の養女にせよと働きかけてソフィーリアに貴族籍を付けた後に結婚するというもの。

大穴がブラウリオを廃嫡し、平民となった2人を侯爵家が支援するというもの。

カレドス家との婚約はオッズにもなかった。それだけ3年という月日を無駄にしたい令嬢がいるとは誰も思わなかったし、婚約破棄や解消でも十分に傷物。それが離縁で出戻りとなれば家の駒としての使い道はないし修道院に入れるための寄付金すら勿体ない。

かと言って令嬢を放逐すれば家の評判はがた落ちになる。八方塞になるような案を飲む貴族がいるとも誰も思わなかった。

勿論アルフォンソも興味はなかったので食いついてこの話題を詳細まで知っていた訳ではなかったが、ブラウリオとソフィーリアがどうなるか。貴族達が喜んで飛びつく噂話がある事は知っていた。

だからこそ、アドリアナを好きになってしまった今、放っては置けなかった。


「アドリアナ嬢だが、予定ではこの後パルカス侯爵家の別邸で住まう事となっていると聞いたが間違いないか?」
「間違いございません。それが何か?」

問題はないだろう?とパルカス侯爵がアルフォンソの顔色を伺いながら言葉を返せばアルフォンソが次の言葉を言う前にカレドス伯爵が怒声をあげた。

「預けられる訳がないだろう!娘は3年の間、自宅に住まわせるッ」

しかし、それは出来ない相談。
婚約中ならいざ知らず、結婚をしても実家暮らしとなれば結婚の実態がない。
別居ならどこでも良いという訳ではなかった。

「カレドス伯。ここにきて冗談はやめて頂きたい。確かに今回の事はこちらの不手際だ。その件については十分に反省もするし、今後の事も対応をする」

「何とでも言える。そもそもでだ!暴力行為などあり得ない行為だ。そんな事まで契約に盛り込む馬鹿が何処にいる。こちらは騙されたも同然だ!」

「それを言うなら息子にそこまでをさせてしまったそちらのご息女にも何か問題があったとは思わないのか?息子はとても優しい子なんだ。相当な事が無ければ手をあげることなんてあり得ないんだ!」

「なんだと?まるで娘が焚きつけたような!!もう許せん!そこまで娘を愚弄するならこっちにも考えがあるッ!」

「ほぅ?どんな考えですかな?いいんですよ?支援した金に利息を付けて返して頂ければいいだけです。こちらは来月、再来月になって領民の数割が餓死しようが痛くも痒くもないんですから」


子供を信じる親の気持ちは大したものだが、言い合いをしたところで息子可愛さに金を出す事は惜しまないパルカス侯爵家に分があるのは間違いない。
カレドス伯爵家は娘も可愛い。だが、この婚約そして結婚の後ろにはカレドス領の領民の命もかかっていた。


「落ち着いてください。今回の事は騎士団としてもどう扱うか。その話をする為に来たんです」

アルフォンソは嘘を吐いた。
レオンに特別扱いは出来ないと言われた時点でカレドス伯爵家に残された道は多少の改善を望んだ現状維持か、支援の金に利息を付けて叩き返すかの2つしかない。

完全なるアルフォンソの独断専行で、黙らせるために騎士団での扱いと脅し、身勝手な案を2人の当主に出したのだった。

「暴行については実際に打撲創も確認していて無かった事には出来ないのです。暴行事件として事情聴取となればパルカス侯も面白くないでしょう?」

「確かに」パルカス侯爵は頷いた。

「カレドス伯もです。暴行されたと公表されて今後のご息女の為になるとお思いですか」

「それは…思わないが‥」とカレドス伯爵も口籠る。

「そこで提案です。今後白い結婚が成立するまでご息女の身柄は当家で預かります。私は近衛隊の隊長職にも就いておりますし実家はロカ公爵家。その日が来るまでご息女は身綺麗なままでお預かりします。勿論書類上とは言えブラウリオ殿は夫。面会の許可もします。そうすれば別宅に使用人を配置する必要もありません。そのような費用は離縁後にご息女の今後に充てられては如何か?離縁をした後の女性の生き辛さを知らない訳でもないでしょう?」

「私はその案に賛成だ。ロカ公爵家の子息でありロカ子爵家の当主、そして近衛隊の隊長。これほどまでに安全な場所は他にない。面会も自由でしたら問題ないでしょう」

カレドス伯爵が全面的に賛成をするとパルカス侯爵も頷くしかない。
ただでさえ離縁後にやって来る次の嫁は不出来を絵にかいたような娘。ここで息子のブラウリオに暴行罪で取り調べを受けたという事実を付ける事は出来ない。

あくまでもブラウリオ可愛さでパルカス侯爵もアルフォンソの案に同意をした。

「では、間違いが無いよう3者で同意書を作成しましょう」

伸るか反るかの大博打にアルフォンソは見事乗り切った。

――人生でここまでの嘘を吐いたのは初めてだな――

そうまでさせてしまう恋にアルフォンソはあっという間にどっぷり浸かってしまったのだった。
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