アメイジングな恋をあなたと

cyaru

文字の大きさ
11 / 41

特別扱いは出来ない

しおりを挟む
この回は第三者的視点です。

★~★

アルフォンソは馬に跨ると城までを爆走した。
舞い上がる土煙と、手綱を持つ手の手首には「馬が通りますよ」と警告を知らせるベルが巻かれ、馬の背に揺られるアルフォンソの動きに比例してベルも鳴る。

チリンチリンと可愛いものではなくガランガランとまるで騒音。

音を聞いた人々は道の縁に寄って馬の進路をあけていく。城に到着をしたアルフォンソは玄関付近にいた従者に飛び降りた馬を預けるとそこからも猛ダッシュ。

第1王子レオンの執務室に向かった。


「なんだい。騒々しいね」
「殿下、お願いが御座います」
「お願い?それは良いんだがその前に報告する事があるんじゃないか?」
「その件についてのお願いがあるのです」
「へぇ。アルが私にね。珍しいこともあるものだ」

アルフォンソは胸の中に滾る思いがある。
これが世に言う一目惚れ。恋に溺れる自分を想像した事もなかったし、まさか自分が恋に落ちる事など今世ではないとまで考えていたが、今アルフォンソを突き動かしているのは紛れもなくアドリアナに対しての思いに他ならなかった。

――形振りなりふりなんて構っていられるか!――


ググイっとレオンに近づくと、バンッ!!執務机に剣で鍛えて厚くなった皮を持つ手を叩きつけた。

「王子令を出してください」
「王子令?これまた物騒な事を言い出すんだな」
「笑い事ではありません。カレドス家とパルカス家の婚約は認めないと王子令を出してください」
「おぃおぃ。アル。頭のネジが飛んだのか?貴族の家と家の取り決めを――」
「だから王子令です。即効性があり強制力のある命令が必要なのです」


性格の歪んでいるレオンはアルフォンソの必死な様子さえ楽しくて仕方がない。どうやら昨日の暴行事件、アルフォンソの保護した令嬢がまさかまさかの当事者だったら面白いと思っていたら、どうやら当たりだったと思うと報告を受ける前からレオンの頭の中には楽しい未来予想図が描かれていく。

「王子令を出す前に、先ずは報告だよ。アル、何事も順番だ」

口角をあげて、肘をついた手を組んで顎を乗せてアルフォンソに微笑んだレオンは宥めるような優しい言葉を吐く。


「申し訳ございません。報告をします。昨夜保護した令嬢はアドリアナ・カレドス。カレドス家のご息女です。同時に保護したのはカレドス嬢の侍女で名をポリー。暴行をした人物はブラウリオ・パルカス。パルカス侯爵家の嫡子となります」

「へぇ…昨日婚約した2人が加害者と被害者という訳なんだね?」

「はい。両家の婚約は婚約期間も含め3年で解消をする離縁ありきの結婚を前提としたものです。カレドス嬢は暴力を受けたことで恐怖を感じ、その場から逃げようと馬車乗り場まで来たものの、当日はパルカス侯爵家に宿泊の予定であったため乗車できる馬車が無かったと。そこに私が声を掛け保護。これが経緯です。尚、保護をする際に左頬に打撲創を確認しております」

「なるほどね。で?私に王子令を出せというのはその保護を継続した方がいいから?なら王子令ではなくても両家の当主に強めに言えばいいだけでは?」

「こ、この婚約、そして半年後には婚姻となります。被害者に敢えて加害者との接点を継続させる必要はないと考えます」

「騎士道精神ってやつかな。でもね?家と家。貴族はそうやって今まで血を繋いできたんだ。アルの言いたいことはわかるんだけど王子令を出すまでもないよ。同じような事例、もっと酷い事例は過去に幾つもある。アルが保護した女性だから特別扱いをする事は出来ないな」

「殿下!それでは彼女があまりにも惨い!」

「言ってるでしょ。特別扱いは出来ないって。書庫に行って過去事例を見てもいいよ?打撲創って言ってもさ。頬を張られた程度じゃないのかい?それで王子令なんて言ってたら書庫の報告書。王家がひっくり返るよ」


取り付く島もないレオンだが、レオンの言っている事もあながち間違いではない。
哀しいかな過去にはもっと酷い扱いを受け、命からがら訴え出た者もいたが家と家の取り決めは個人の命よりも優先されてきた。

当時よりは多少改善はされているものの、貴族の家に生まれた者の生き方が大きく変わったかと言えばさほどに変わってはいない。それは有事の際に王族がその首を差し出す事で責任を取るのと同じなのである。

「判りました。ではどうにもならないという事ですね」
「なるかならないか。そんな2択の話をしている訳じゃないだろう?そもそも…私情を挟みすぎというか…一夜にして感情移入が激しくない?いつものアルじゃないね」


アルフォンソもレオンに半分揶揄われている事は解るけれど、今回はいつものように流せなかった。

「いつもの私と違うのなら、違うのでしょう。私もこんな気持ちは初めてなので」

キっと睨み返すアルフォンソにレオンは益々悪戯したい気持ちが搔き立てられたのだった。
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい

麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。 しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。 しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。 第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。

その言葉はそのまま返されたもの

基本二度寝
恋愛
己の人生は既に決まっている。 親の望む令嬢を伴侶に迎え、子を成し、後継者を育てる。 ただそれだけのつまらぬ人生。 ならば、結婚までは好きに過ごしていいだろう?と、思った。 侯爵子息アリストには幼馴染がいる。 幼馴染が、出産に耐えられるほど身体が丈夫であったならアリストは彼女を伴侶にしたかった。 可愛らしく、淑やかな幼馴染が愛おしい。 それが叶うなら子がなくても、と思うのだが、父はそれを認めない。 父の選んだ伯爵令嬢が婚約者になった。 幼馴染のような愛らしさも、優しさもない。 平凡な容姿。口うるさい貴族令嬢。 うんざりだ。 幼馴染はずっと屋敷の中で育てられた為、外の事を知らない。 彼女のために、華やかな舞踏会を見せたかった。 比較的若い者があつまるような、気楽なものならば、多少の粗相も多目に見てもらえるだろう。 アリストは幼馴染のテイラーに己の色のドレスを贈り夜会に出席した。 まさか、自分のエスコートもなしにアリストの婚約者が参加しているとは露ほどにも思わず…。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

[完結]貴方なんか、要りません

シマ
恋愛
私、ロゼッタ・チャールストン15歳には婚約者がいる。 バカで女にだらしなくて、ギャンブル好きのクズだ。公爵家当主に土下座する勢いで頼まれた婚約だったから断われなかった。 だから、条件を付けて学園を卒業するまでに、全てクリアする事を約束した筈なのに…… 一つもクリア出来ない貴方なんか要りません。絶対に婚約破棄します。

【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。

木嶋うめ香
恋愛
五歳で婚約したシオン殿下は、ある日先触れもなしに我が家にやってきました。 「君と婚約を解消したい、私はスィートピーを愛してるんだ」 シオン殿下は、私の妹スィートピーを隣に座らせ、馬鹿なことを言い始めたのです。 妹はとても愛らしいですから、殿下が思っても仕方がありません。 でも、それなら側妃でいいのではありませんか? どうしても私と婚約解消したいのですか、本当に後悔はございませんか?

この祈りは朽ち果てて

豆狸
恋愛
「届かなかった祈りは朽ち果ててしまいました。私も悪かったのでしょう。だれかになにかを求めるばかりだったのですから。だから朽ち果てた祈りは捨てて、新しい人生を歩むことにしたのです」 「魅了されていた私を哀れに思ってはくれないのか?」 なろう様でも公開中です。

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

処理中です...