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特別扱いは出来ない
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この回は第三者的視点です。
★~★
アルフォンソは馬に跨ると城までを爆走した。
舞い上がる土煙と、手綱を持つ手の手首には「馬が通りますよ」と警告を知らせるベルが巻かれ、馬の背に揺られるアルフォンソの動きに比例してベルも鳴る。
チリンチリンと可愛いものではなくガランガランとまるで騒音。
音を聞いた人々は道の縁に寄って馬の進路をあけていく。城に到着をしたアルフォンソは玄関付近にいた従者に飛び降りた馬を預けるとそこからも猛ダッシュ。
第1王子レオンの執務室に向かった。
「なんだい。騒々しいね」
「殿下、お願いが御座います」
「お願い?それは良いんだがその前に報告する事があるんじゃないか?」
「その件についてのお願いがあるのです」
「へぇ。アルが私にね。珍しいこともあるものだ」
アルフォンソは胸の中に滾る思いがある。
これが世に言う一目惚れ。恋に溺れる自分を想像した事もなかったし、まさか自分が恋に落ちる事など今世ではないとまで考えていたが、今アルフォンソを突き動かしているのは紛れもなくアドリアナに対しての思いに他ならなかった。
――形振りなんて構っていられるか!――
ググイっとレオンに近づくと、バンッ!!執務机に剣で鍛えて厚くなった皮を持つ手を叩きつけた。
「王子令を出してください」
「王子令?これまた物騒な事を言い出すんだな」
「笑い事ではありません。カレドス家とパルカス家の婚約は認めないと王子令を出してください」
「おぃおぃ。アル。頭のネジが飛んだのか?貴族の家と家の取り決めを――」
「だから王子令です。即効性があり強制力のある命令が必要なのです」
性格の歪んでいるレオンはアルフォンソの必死な様子さえ楽しくて仕方がない。どうやら昨日の暴行事件、アルフォンソの保護した令嬢がまさかまさかの当事者だったら面白いと思っていたら、どうやら当たりだったと思うと報告を受ける前からレオンの頭の中には楽しい未来予想図が描かれていく。
「王子令を出す前に、先ずは報告だよ。アル、何事も順番だ」
口角をあげて、肘をついた手を組んで顎を乗せてアルフォンソに微笑んだレオンは宥めるような優しい言葉を吐く。
「申し訳ございません。報告をします。昨夜保護した令嬢はアドリアナ・カレドス。カレドス家のご息女です。同時に保護したのはカレドス嬢の侍女で名をポリー。暴行をした人物はブラウリオ・パルカス。パルカス侯爵家の嫡子となります」
「へぇ…昨日婚約した2人が加害者と被害者という訳なんだね?」
「はい。両家の婚約は婚約期間も含め3年で解消をする離縁ありきの結婚を前提としたものです。カレドス嬢は暴力を受けたことで恐怖を感じ、その場から逃げようと馬車乗り場まで来たものの、当日はパルカス侯爵家に宿泊の予定であったため乗車できる馬車が無かったと。そこに私が声を掛け保護。これが経緯です。尚、保護をする際に左頬に打撲創を確認しております」
「なるほどね。で?私に王子令を出せというのはその保護を継続した方がいいから?なら王子令ではなくても両家の当主に強めに言えばいいだけでは?」
「こ、この婚約、そして半年後には婚姻となります。被害者に敢えて加害者との接点を継続させる必要はないと考えます」
「騎士道精神ってやつかな。でもね?家と家。貴族はそうやって今まで血を繋いできたんだ。アルの言いたいことはわかるんだけど王子令を出すまでもないよ。同じような事例、もっと酷い事例は過去に幾つもある。アルが保護した女性だから特別扱いをする事は出来ないな」
「殿下!それでは彼女があまりにも惨い!」
「言ってるでしょ。特別扱いは出来ないって。書庫に行って過去事例を見てもいいよ?打撲創って言ってもさ。頬を張られた程度じゃないのかい?それで王子令なんて言ってたら書庫の報告書。王家がひっくり返るよ」
取り付く島もないレオンだが、レオンの言っている事もあながち間違いではない。
哀しいかな過去にはもっと酷い扱いを受け、命からがら訴え出た者もいたが家と家の取り決めは個人の命よりも優先されてきた。
当時よりは多少改善はされているものの、貴族の家に生まれた者の生き方が大きく変わったかと言えばさほどに変わってはいない。それは有事の際に王族がその首を差し出す事で責任を取るのと同じなのである。
「判りました。ではどうにもならないという事ですね」
「なるかならないか。そんな2択の話をしている訳じゃないだろう?そもそも…私情を挟みすぎというか…一夜にして感情移入が激しくない?いつものアルじゃないね」
アルフォンソもレオンに半分揶揄われている事は解るけれど、今回はいつものように流せなかった。
「いつもの私と違うのなら、違うのでしょう。私もこんな気持ちは初めてなので」
キっと睨み返すアルフォンソにレオンは益々悪戯したい気持ちが搔き立てられたのだった。
★~★
アルフォンソは馬に跨ると城までを爆走した。
舞い上がる土煙と、手綱を持つ手の手首には「馬が通りますよ」と警告を知らせるベルが巻かれ、馬の背に揺られるアルフォンソの動きに比例してベルも鳴る。
チリンチリンと可愛いものではなくガランガランとまるで騒音。
音を聞いた人々は道の縁に寄って馬の進路をあけていく。城に到着をしたアルフォンソは玄関付近にいた従者に飛び降りた馬を預けるとそこからも猛ダッシュ。
第1王子レオンの執務室に向かった。
「なんだい。騒々しいね」
「殿下、お願いが御座います」
「お願い?それは良いんだがその前に報告する事があるんじゃないか?」
「その件についてのお願いがあるのです」
「へぇ。アルが私にね。珍しいこともあるものだ」
アルフォンソは胸の中に滾る思いがある。
これが世に言う一目惚れ。恋に溺れる自分を想像した事もなかったし、まさか自分が恋に落ちる事など今世ではないとまで考えていたが、今アルフォンソを突き動かしているのは紛れもなくアドリアナに対しての思いに他ならなかった。
――形振りなんて構っていられるか!――
ググイっとレオンに近づくと、バンッ!!執務机に剣で鍛えて厚くなった皮を持つ手を叩きつけた。
「王子令を出してください」
「王子令?これまた物騒な事を言い出すんだな」
「笑い事ではありません。カレドス家とパルカス家の婚約は認めないと王子令を出してください」
「おぃおぃ。アル。頭のネジが飛んだのか?貴族の家と家の取り決めを――」
「だから王子令です。即効性があり強制力のある命令が必要なのです」
性格の歪んでいるレオンはアルフォンソの必死な様子さえ楽しくて仕方がない。どうやら昨日の暴行事件、アルフォンソの保護した令嬢がまさかまさかの当事者だったら面白いと思っていたら、どうやら当たりだったと思うと報告を受ける前からレオンの頭の中には楽しい未来予想図が描かれていく。
「王子令を出す前に、先ずは報告だよ。アル、何事も順番だ」
口角をあげて、肘をついた手を組んで顎を乗せてアルフォンソに微笑んだレオンは宥めるような優しい言葉を吐く。
「申し訳ございません。報告をします。昨夜保護した令嬢はアドリアナ・カレドス。カレドス家のご息女です。同時に保護したのはカレドス嬢の侍女で名をポリー。暴行をした人物はブラウリオ・パルカス。パルカス侯爵家の嫡子となります」
「へぇ…昨日婚約した2人が加害者と被害者という訳なんだね?」
「はい。両家の婚約は婚約期間も含め3年で解消をする離縁ありきの結婚を前提としたものです。カレドス嬢は暴力を受けたことで恐怖を感じ、その場から逃げようと馬車乗り場まで来たものの、当日はパルカス侯爵家に宿泊の予定であったため乗車できる馬車が無かったと。そこに私が声を掛け保護。これが経緯です。尚、保護をする際に左頬に打撲創を確認しております」
「なるほどね。で?私に王子令を出せというのはその保護を継続した方がいいから?なら王子令ではなくても両家の当主に強めに言えばいいだけでは?」
「こ、この婚約、そして半年後には婚姻となります。被害者に敢えて加害者との接点を継続させる必要はないと考えます」
「騎士道精神ってやつかな。でもね?家と家。貴族はそうやって今まで血を繋いできたんだ。アルの言いたいことはわかるんだけど王子令を出すまでもないよ。同じような事例、もっと酷い事例は過去に幾つもある。アルが保護した女性だから特別扱いをする事は出来ないな」
「殿下!それでは彼女があまりにも惨い!」
「言ってるでしょ。特別扱いは出来ないって。書庫に行って過去事例を見てもいいよ?打撲創って言ってもさ。頬を張られた程度じゃないのかい?それで王子令なんて言ってたら書庫の報告書。王家がひっくり返るよ」
取り付く島もないレオンだが、レオンの言っている事もあながち間違いではない。
哀しいかな過去にはもっと酷い扱いを受け、命からがら訴え出た者もいたが家と家の取り決めは個人の命よりも優先されてきた。
当時よりは多少改善はされているものの、貴族の家に生まれた者の生き方が大きく変わったかと言えばさほどに変わってはいない。それは有事の際に王族がその首を差し出す事で責任を取るのと同じなのである。
「判りました。ではどうにもならないという事ですね」
「なるかならないか。そんな2択の話をしている訳じゃないだろう?そもそも…私情を挟みすぎというか…一夜にして感情移入が激しくない?いつものアルじゃないね」
アルフォンソもレオンに半分揶揄われている事は解るけれど、今回はいつものように流せなかった。
「いつもの私と違うのなら、違うのでしょう。私もこんな気持ちは初めてなので」
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