アメイジングな恋をあなたと

cyaru

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目の付け所が違うのです

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アルフォンソ様に用意をしてもらった店舗は以前ネイルサロンだった事もあって、個別にお客様対応が出来るブースが幾つも御座いました。

壁紙や床材は交換となりますが、間取りそのものは変に工事をして変えてしまうよりも今のままの方が使いやすそうです。

ただ、設備的にはあった方がいいかな?と思う物もあります。
初めての経験なのでパルカス侯爵家の元使用人さんも「何処かで見た」記憶頼りな部分もありますが、思いつくままに先ずは意見を出して頂きます。


「アドリアナ様。手洗いなどの水場はどうします?」
「それぞれのブースにあった方がいいかしら」
「そうですね。皮膚炎などになっている方もいらっしゃるでしょうし」
「だけど目の前で手を洗われたら如何にも汚いって思われてると感じるんじゃないかしら」


クリームなどの日常使い出来る品を販売するのですが、医師の診断も受けられるのもウリの1つ。診察をして頂く先生には事前にお話を聞いたのですが、どの先生も目視の他には触診を素手で行なうと仰います。

「やはり手洗い場は必要ね。改装した方がいいかしら」
「裏になる通路に手洗いを設置したらどうでしょう」
「医療院の処置室みたいに?」
「そうです!そうです。処置室の裏手には手洗いや薬品棚があったりしますよね。そんな感じです」
「だけどそちら側の通路はあまり幅がないのよね。出会い頭にゴツン!ってなるかも」
「だったら扉を引き戸にしてみてはどうでしょう」
「それはいいかも。手洗いが必要なのにドアノブでしょう?結局診察を受ける側から扉を開ける時は洗う前の手で握るわけだから‥‥引き戸のハンドルレバーをフットレバーにして足で開閉するようにしてみたらどうかしら」


1つが気になると他も気になってしまうものです。
お客様それぞれの状態を記録した所謂カルテも保管せねばなりません。
カルテ棚は縦置きに出来るように幅の狭い棚を新しく作らねばなりませんが、余りにも高さがあると取るのも一苦労です。

「上下に交差させるやつにしたらどうです?」
「奥が取り難くなるよ。それなら回転式にした方がいいよ。何処だっけ…ほら…昔旦那様が買ってきて直ぐに使わなくなった回るテーブル。アレに高さを持たせれば回転で取り出せる」
「場所を取るわよ。それにテーブルだとそれこそ高さが出るじゃない」


元使用人さんがカップに蜂蜜を溶かすようにクルクルと指先を回します。そうねぇ‥私は首を傾けて考えた時に「んんっ?」閃いたのです。

「その回転方向…向きを変えてみたらどうかしら」
「向き?こうですか?」

元使用人さんは下向きに回していた指を前に向かって回します。

「あぁっ!!そうか!こうするんですね」

私のヒラメキを手振りで元使用人さんが再現してくれます。

回転をさせるのを左右ではなく上下にするのです。井戸から水を汲みあげる時、滑車の両側に桶を付けたロープが下がっているのですが、それを輪っかにする感じです。

滑車は桶に当たるとそれ以上引っ張れなくなりますが物の動き方はまさしくその感じ。取り出したいカルテを回して目の高さに来た時に取る。前に来た時は上から下に、後ろに回った時は下から上に。

書類も奥に差し込むのではなく、斜めにしたポケット型にすれば場所も取りません。


「でもこれは…どこも売ってないな。特注で頼むしかない」
「何処に頼むってんだ?回るんだから…荷馬車の車輪を造ってるところか?」
「家具屋だろう。収納の棚なんだから」
「木で作ったら重くて回せないよ。針金みたいな細い金属で作った方が良くないか?」
「って事は鍛冶屋か?」


それだけなく品物を置くショーケースもどうするか。
高級感を出すためにはガラス製のショーケースで見せて欲しいと言われた物を取り出す方法もありますが、結局購入に至らなければ触れただけになります。

「ならいっそのこと、自由に触れるようにしてみたらどうかな」
「それだと一点物ん価値がないよ」
「じゃぁ見本としてみたらどうかな。絵柄とかは自由なデザインを受けるとか」
「それはいいわね!だけど貝殻はそうはいかないのよ」
「ショーケースで区切ってしまうと間口が狭いから奥の診察室に行くのに通り難いよ。表になる所はインテリア風に数個のサンプルで良いんじゃないかな。カフェというか、お洒落な待合室のようにして実際に購入してもらう容器はお客様の通る廊下の側面にガラスのショーケースで並べてみたらどうだろう」


色々な案が出るのですが、予算も御座います。
それから棚などが製作出来るかどうかも問い合わせてみなければわかりません。

一旦はここで話を終えて、また後日集まりましょうと解散しようとした時、まだオープンもしていない店舗の入り口が開いたのです。

「これはレオン殿下。どうなさいました?」
「カレドス嬢がこっちにいると聞いてね。隣国から菓子が届いたんだ。どうかと思ってね」
「まぁ…お菓子…」

レオン殿下は後ろに控えた従者から可愛いパッケージの箱を受け取ると、蓋を開けます。
そこには色とりどりの一口サイズのお菓子が並んでおりました。


「わぁぁ!凄い。レオン殿下。ありがとうございます!」
「気に入ってくれて嬉しいよ」
「なんて画期的!上下じゃなく本のように開く箱なんて!」

通常の菓子の入った箱は上下に分かれているのですが、その箱は本を開くようになっていて分離をしません。隣国って凄いわ。目の付け所が違うわぁ。

「箱っ?そっち?いや、中身の菓子はマカロンと言ってだな。このピンクはイチゴの果汁、緑はほうれん――」
「そんな事より!箱です。箱!こういうのでもっと小さいのに入れると他のお店と一味違うって気がします」
「いや、色によって味は違うらし――」
「ありがとうございます!本当にもう!レオン殿下って千里眼ですの?容器を持ち帰り頂く際の袋もですが、容器を入れる箱もどうしようかって!!これ、いいですね!うん。いいわぁ」


正直な気持ちとして、レオン殿下…私は苦手なのです。
何と言いますか…こうすれば喜ぶだろうって思惑が見え隠れする気がして…「あざとい」って言うのかしら。でもこの箱は素敵です。この点に於いてはレオン殿下に大いなる感謝をした私でした。
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