交際7年の恋人に別れを告げられた当日、拗らせた年下の美丈夫と0日婚となりました

cyaru

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第22話   招かれないなら

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王太子主催の夜会が緊急で開催されるにも関わらず高位貴族はこぞって参加に承諾の返事を返した。

突然の事なので堅苦しいドレスコードもかなり緩め。
その事も招待状に記載をしていたので、意味が解らない者はいないと思われていた。

ヴォーダンはあくまでも私的にメゼラ王国に滞在しているし、妻のフライアも荷造りを終えているので煌びやかなドレスは仕立て屋には申し訳ないが無用の長物。
何より今日明日と言う短時間で何十人もいる夫人や令嬢から注文が殺到するのも目に見えているので仕立てられない。

公爵家、侯爵家、そして1カ月ほど前にようやく大陸の英雄ヴォーダンがメゼラ王国の令嬢を妻に迎えたと聞いた辺境伯まで遠い道のりを駆けて本人には会えなくてもリヒテン子爵家に祝いの言葉を!と遠くから来る。

剣を握る人間にとって魔法駆使の剣士は伝説の人。同じ時間軸を生きているというだけでも奇跡だと年齢に関係なく、憧れの的で崇拝していたのだ。

国内の貴族全員を呼ぶことは出来ず、子爵家はリヒテン子爵家のみ。
伯爵家は任意参加で、数が多い場合は時間を割り振られての参加となった。


★~★そして迎えた夜会当日★~★

アメリアの家であるオレイト伯爵家にも招待状は届いていた。

「行くわ。ねぇお父様、いいでしょう?」
「あなた。アメリアも支度をしちゃったのよ?」
「判った、大人しくしていてくれよ」

単独で参加をすると返事をしたのに当日、さぁ出掛けようとするオレイト伯爵の前に着飾ったアメリアと夫人がやって来て、オレイト伯爵より先に馬車に乗り込んだのだ。

降りろといって聞くような2人ではない。
オレイト伯爵は会場の隅で2人が大人しくしていてくれることを願うばかりだった。


オレイト伯爵も貯えを切り崩しての生活に転落していて、以前は昼と夜合わせて100人ほどいた使用人も20人ほどになり、家令は解雇、5人いた執事も1人を残すのみ。

この夜会はチャンスだと思ったが見送ろうとしていた。
夜会の主役は王太子夫妻ではない。エスティバス少将とその妻であることは明らかで、巷では娘のアメリアが流したと思われる噂が全くなりを顰める事もなく流れ続けていた。

エスティバス少将を刺激してしまえば家が潰えるどころではない。メゼラ王国そのものが大陸地図から消滅する可能性だってある。

迷っていたのは高位貴族が軒並み参加をする。オレイト伯爵家は今まで通りですよ、噂は噂ですと資金繰りにも困っている様子を見せない、噂とは無関係だと見せつけるチャンスでもあった。

ピンチはチャンスとも言う。

アメリアが流したのではなく、流したと思われている噂なのだから否定する事も出来る。そこでエスティバス少将とワンチャンスあるのなら主産業である羊毛。

なんせ戦と言うのは「消耗戦」とも呼ばれていて品物の類は基本が使い捨て。ドンドン新品を購入してくれるのだからこれをブルグ王国の陸軍が採用してくれれば今まで以上の売り上げも見込める。

アメリアを連れて行かなければ大丈夫だろうと思っていたのに。
夫人も参加なら事業の話が出来るだろうか。暗澹たる気持ちで馬車に揺られた。


同じころ、ファネン子爵家では家の中が蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。と、言っても使用人はおらず夜会への参加もないため騒いでいるのはファネン子爵夫妻とエトガーの兄。

脱獄不可能と言われたアルカトラズ連邦刑務所から脱獄した者が実在するように、強い信念を持って物事を敢行すれば目的を成し遂げる者だっている。

エトガーは勤めていた商会も辞めることになり、結婚するはずだったオレイト伯爵家も「こちらは被害者だ!この詐欺師め!」と結婚詐欺を仄めかされ、商会の後輩やフライアだけでなく友人からも金を借りていた事が発覚。

アメリアに貢ぎに貢いだ金は商会に入り、フライアとの結婚に向けて貯めていた金、商会の給料、他者からの借金を合わせると2000万を超えていた。

リヒテン子爵は受け取ってくれず、リヒテン子爵家にだけ金は貸せていないが、両親が立て替えた借金は400万。よくもここまで借りられたものだと感心を通り越して呆れた。

部屋に閉じ込められて、反省する様子を伺っていたのだが今朝になり部屋の中がもぬけの殻である事に気が付いた。

窓は壊れされていないし出入り口となる部屋への扉は外鍵。しっかり施錠されていた。
エトガーは天井板を外し、天井のフトコロから外壁の給気口を外し逃げ出したのだ。


エトガーが何処に行ったのかなど判らない。友人の家に匿って貰っているかと思えば「もうエトガーとは付き合ってない」と噂を流布したのがエトガーとアメリアと言われている今、敢えてエトガーと関わろうとする元友人は1人もいなかった。

恥を忍んでリヒテン子爵家に出向いてみればリヒテン子爵夫妻とフライア、そしてヴォーダンは既に登城した後で屋敷には兄ブルーノとその妻ビアンカだけが在宅していた。

「今度顔を見たら憲兵に突き出すだけでは済まない」未だに怒り心頭なブルーノに「ここにはいない」とリヒテン子爵家を後にした。

「こんな日に騒ぎなんか起こさないでくれよ」

家族の願いはエトガーに通じるのか。

そのエトガーは事もあろうか王宮に忍び込んでいた。
夜会があると聞き、屋敷を抜け出し、執念だろうか。
納品業者の荷台の下に張り付いて背中を時々地面に擦られながらも入り込んだ。

そして会場設営をする従者が庭で用を足している時に後ろから襲い掛かり衣類を剥ぎ取ると従者に成りすましたのだった。
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