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第23話 臭いには敏感
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王宮に到着をしたリヒテン子爵一行は先ず国王の部屋に招かれた。
国賓級の対応を受けるのも当然。ヴォーダンは少将の立場で幕僚長でもある第2王子の覚えも目出度い。陸軍、海軍どちらに肩入れするでもないブルグ王国の国王や王太子もヴォーダンの価値はよく判っている。
暴虐武人な事をするのなら処罰もあるが、「少々やり過ぎる少将」という見解。
命令違反をする事もなく、国家には忠誠を誓っているので現在62歳の中将が退役をすれば実質陸軍のトップになる。
そのヴォーダンの元に「弱点」となるのが解りきっているのにメゼラ王国からフライアが嫁ぐ。
フライアに対し唯一無二を宣言するヴォーダンがフライアを大事にしているのは周囲にもよく判っている。つまりフライアの憂いはヴォーダンが全てを薙ぎ払う。母国であるメゼラ王国には両親や兄夫婦も居り、この婚姻がメゼラ王国にとっては「見返りの不要な軍事協定」に等しかった。
「メゼラ王国としても出来る限りのことはする」
「ブルグの国王陛下もそのお言葉には喜びましょう」
全裸の甘々ヴォーダンと同一人物なのか??
フライアは国王相手にも怯むことなく堂々と受け答えするヴォーダンの隣でその横顔を見た。
「では、時間になるまで控室でお寛ぎください」と控室に戻るなり上着を脱ぎ棄ててシャツのボタンも外そうとする。
「お父様もお母様もいるのよ!脱ぐのはダメ!」
「そんな事言って…ナディはさっき僕の顔をずぅぅっと見てて煽ったじゃないか。ずるいよ」
「ズルないわ!あのね!ここは王宮なの!」
「うん。ナディのお家じゃないね」
「判ってるなら脱がない!ついでのようにお尻も触らないの!」
「えぇーっ。どうして?触れていたいのに」
「もぅ…手を握ってあげるから。我慢しなさい!」
手を握ると言えば嬉しそうな顔をして、指の間に指を滑りこませて恋人つなぎ。
――向かいに私の両親がいるって判ってるのかしら――
ちらりと両親を見て見れば、2人は明後日の方向を見ていて正面を向いていない。
――娘を助けようって思わないの?!薄情者!――
薄情者なのではなく、ヴォーダン以上にフライアを幸せに出来る男はいないだろうし、守れる男もいないだろうと思っているだけである。
子供の時の記憶と言うのは本人にすると忘れてしまっている事が多いが、親は子供の記憶に残らない時から事あるごとに色々な思い出を心の中に刻み込んでいる。
幼い少年のヴォーダンと一緒に穴掘りをして、フライアは自分の堀った落とし穴に嵌るおっちょこちょい。
当時庭には池があったのだが、カエルが蓮の葉の上にいるのを見て「私も!ケローン!」と蓮の葉に飛び乗り、溺れそうになったフライアをヴォーダンが必死に助けた事も知っている。
庭の探検で蜂の巣を壊し、フライアを庇ってヴォーダンは3カ所も刺されてしまった。
お昼寝をする時に2人が寝台を所せましと転がり、しょっちゅう寝台から落ちるので当時は床に寝具を敷き詰めてお昼寝をしていた。ヴォーダンがいない!?と探せばフライアの下になっている事もいつもの事。
フライアはすっかり忘れていても、両親はそんな2人を知っているので微笑ましくも思っていた。
――あのひ弱な少年ここまで成長するとは――
そんなヴォーダンはリヒテン子爵夫妻に約束をしたのだ。
幼い日、帰国をせねばならないのにフライアは水疱瘡で会えない。
『大きくなったら迎えに来る。だからフライアと結婚させて!絶対に幸せにするっ!』
その少年は大きくなってリヒテン子爵夫妻にもう一度、言葉を少し変えて誓った。
『フライアと一緒に幸せになりたい。結婚を認めて欲しい』
違っていないのは15年前と同じ真っ直ぐ向けてくる瞳だった。
「ナディ?こっち向いて?」
「なによ」
「あはっ♡向いたっ」
「向けと言ったでしょ?だから何?」
「こっち向いて欲しかっただけだよ」
少々、度が過ぎている気もするが15年分の愛を表現していると思えばいいだけだ。誰かが見ているからと取り繕うよりずっといい。
従者が「そろそろご入場をお願いいたします」と声を掛けて来た時、ヴォーダンは上着に袖を通しながら「臭いな」と呟いた。
「臭い?どこが?ちゃんと汗抜きもしたし陰干しよ?ほら、ちゃんと自分でボタンも留めて!」
「ナディがして♡ここ、留めて?」
「自分で出来るでしょ!」
「して欲しいんだ。ナディの手が首元にあるかと思うと絞められるかも?って思っちゃうよ」
「ホントに絞めるわよ」
「喜んでっ!その前に(ちゅっちゅっ)」
「吸うな!ここで吸うなぁぁぁ!」
ヴォーダンの呟いた「臭い」の意味はヴォーダン以外には判らなかったが、扉を出て直ぐに控えていたアルドフにヴォーダンは静かに目配せをした。
アイコンタクトを交わした気がしたフライアは扉の前で礼をして見送るだけのアルドフを見てヴォーダンに「アルドフさんは出席しないの?」と問う。
「ナディ。この可愛い口から僕以外の男の名を発するなんて…塞がれたいのかい?」
「へ?名前って…アルドフさんはいつも呼んでるけど?」
「僕は今、嫉妬を感じてるよ…胸を焼けつくすこの感情が嫉妬。ナディには教えられてばかりだ」
――暑がりなだけでしょ!って!耳を揉むな!――
さりげなく手を背の側からも回して耳たぶを揉み始めた手は「ぺちり!」リヒテン子爵家でもハエ叩き名人のフライアによって叩き落とされたのだった。
その手が器用に動き、指の動きでアルドフに手信号を送っていた事まではフライアは気が付くはずもなかった。
国賓級の対応を受けるのも当然。ヴォーダンは少将の立場で幕僚長でもある第2王子の覚えも目出度い。陸軍、海軍どちらに肩入れするでもないブルグ王国の国王や王太子もヴォーダンの価値はよく判っている。
暴虐武人な事をするのなら処罰もあるが、「少々やり過ぎる少将」という見解。
命令違反をする事もなく、国家には忠誠を誓っているので現在62歳の中将が退役をすれば実質陸軍のトップになる。
そのヴォーダンの元に「弱点」となるのが解りきっているのにメゼラ王国からフライアが嫁ぐ。
フライアに対し唯一無二を宣言するヴォーダンがフライアを大事にしているのは周囲にもよく判っている。つまりフライアの憂いはヴォーダンが全てを薙ぎ払う。母国であるメゼラ王国には両親や兄夫婦も居り、この婚姻がメゼラ王国にとっては「見返りの不要な軍事協定」に等しかった。
「メゼラ王国としても出来る限りのことはする」
「ブルグの国王陛下もそのお言葉には喜びましょう」
全裸の甘々ヴォーダンと同一人物なのか??
フライアは国王相手にも怯むことなく堂々と受け答えするヴォーダンの隣でその横顔を見た。
「では、時間になるまで控室でお寛ぎください」と控室に戻るなり上着を脱ぎ棄ててシャツのボタンも外そうとする。
「お父様もお母様もいるのよ!脱ぐのはダメ!」
「そんな事言って…ナディはさっき僕の顔をずぅぅっと見てて煽ったじゃないか。ずるいよ」
「ズルないわ!あのね!ここは王宮なの!」
「うん。ナディのお家じゃないね」
「判ってるなら脱がない!ついでのようにお尻も触らないの!」
「えぇーっ。どうして?触れていたいのに」
「もぅ…手を握ってあげるから。我慢しなさい!」
手を握ると言えば嬉しそうな顔をして、指の間に指を滑りこませて恋人つなぎ。
――向かいに私の両親がいるって判ってるのかしら――
ちらりと両親を見て見れば、2人は明後日の方向を見ていて正面を向いていない。
――娘を助けようって思わないの?!薄情者!――
薄情者なのではなく、ヴォーダン以上にフライアを幸せに出来る男はいないだろうし、守れる男もいないだろうと思っているだけである。
子供の時の記憶と言うのは本人にすると忘れてしまっている事が多いが、親は子供の記憶に残らない時から事あるごとに色々な思い出を心の中に刻み込んでいる。
幼い少年のヴォーダンと一緒に穴掘りをして、フライアは自分の堀った落とし穴に嵌るおっちょこちょい。
当時庭には池があったのだが、カエルが蓮の葉の上にいるのを見て「私も!ケローン!」と蓮の葉に飛び乗り、溺れそうになったフライアをヴォーダンが必死に助けた事も知っている。
庭の探検で蜂の巣を壊し、フライアを庇ってヴォーダンは3カ所も刺されてしまった。
お昼寝をする時に2人が寝台を所せましと転がり、しょっちゅう寝台から落ちるので当時は床に寝具を敷き詰めてお昼寝をしていた。ヴォーダンがいない!?と探せばフライアの下になっている事もいつもの事。
フライアはすっかり忘れていても、両親はそんな2人を知っているので微笑ましくも思っていた。
――あのひ弱な少年ここまで成長するとは――
そんなヴォーダンはリヒテン子爵夫妻に約束をしたのだ。
幼い日、帰国をせねばならないのにフライアは水疱瘡で会えない。
『大きくなったら迎えに来る。だからフライアと結婚させて!絶対に幸せにするっ!』
その少年は大きくなってリヒテン子爵夫妻にもう一度、言葉を少し変えて誓った。
『フライアと一緒に幸せになりたい。結婚を認めて欲しい』
違っていないのは15年前と同じ真っ直ぐ向けてくる瞳だった。
「ナディ?こっち向いて?」
「なによ」
「あはっ♡向いたっ」
「向けと言ったでしょ?だから何?」
「こっち向いて欲しかっただけだよ」
少々、度が過ぎている気もするが15年分の愛を表現していると思えばいいだけだ。誰かが見ているからと取り繕うよりずっといい。
従者が「そろそろご入場をお願いいたします」と声を掛けて来た時、ヴォーダンは上着に袖を通しながら「臭いな」と呟いた。
「臭い?どこが?ちゃんと汗抜きもしたし陰干しよ?ほら、ちゃんと自分でボタンも留めて!」
「ナディがして♡ここ、留めて?」
「自分で出来るでしょ!」
「して欲しいんだ。ナディの手が首元にあるかと思うと絞められるかも?って思っちゃうよ」
「ホントに絞めるわよ」
「喜んでっ!その前に(ちゅっちゅっ)」
「吸うな!ここで吸うなぁぁぁ!」
ヴォーダンの呟いた「臭い」の意味はヴォーダン以外には判らなかったが、扉を出て直ぐに控えていたアルドフにヴォーダンは静かに目配せをした。
アイコンタクトを交わした気がしたフライアは扉の前で礼をして見送るだけのアルドフを見てヴォーダンに「アルドフさんは出席しないの?」と問う。
「ナディ。この可愛い口から僕以外の男の名を発するなんて…塞がれたいのかい?」
「へ?名前って…アルドフさんはいつも呼んでるけど?」
「僕は今、嫉妬を感じてるよ…胸を焼けつくすこの感情が嫉妬。ナディには教えられてばかりだ」
――暑がりなだけでしょ!って!耳を揉むな!――
さりげなく手を背の側からも回して耳たぶを揉み始めた手は「ぺちり!」リヒテン子爵家でもハエ叩き名人のフライアによって叩き落とされたのだった。
その手が器用に動き、指の動きでアルドフに手信号を送っていた事まではフライアは気が付くはずもなかった。
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