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第15話 気持ちの伝え方が解らない
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「旦那様!」
「え?旦那様なの?」
泥だらけで顔の判別も目と鼻、口だけの小ぶりな瘦せ型ゴーレム風泥人形をケルマデックと判別出来たのは執事プエールだけだった。
「その恰好はなんです!作業着でもどうかと思いますが、湯を浴びて来て下さい!メリーとポーラはお嬢様を客間に」
「はいっ!」
メリーとポーラだけではとても運べないのでマリアナと共にやって来た男性従者がマリアナを抱え上げるがケルマデックの心に嫉妬の炎が燃え上がる。
★ここからケルマデックの1.5秒★
部屋に入るなり、ケルマデックは目に映ったマリアナが眩しい光に包まれた女神のように見えた。
目が合って白目を剥くまで時間にして2秒もなかったが、ケルマデックには卒倒するまでの1.5秒ほどが今まで生きて来た時間の半分以上を占めているかのような長い時間に思えた。
――こんな美しい人がこの世にいるなんて!!――
心臓から送り出される血液が熱湯となり、全身を駆け巡る。
脂下がってしまいそうな表情を引き締め、口や鼻だけでなく全身の毛穴から蒸気が噴き出す感覚。
そしてカムチャの言葉が脳内をグルグル。
――旦那様の奥さんになる女性ですよ!――
マジか…俺ってそんなに徳を積んでいたのか?!前世、いや来世の分まで今先取り?!
しかし、大問題があった。
――俺でいいのか?いや、いいんだろうな。でも‥最初はなんて言えばいい?――
女性とのお付き合いは母親、祖母、領民の御婦人方、領民の女児を除けば皆無。婚約者がいた経験もなく、幼少期はそれなりに伯爵子息だったが貧乏となってからは弟を結婚させて領地を切り盛りするのがやっと。
恋愛をしている時間など無かったのだ。
――くっ!この日の予行練習のために村のパーティーに参加するんだった――
後悔しているが、参加はしているのだ。但し主催者として。
村の未婚男性と未婚女性を引き合わせる「領コン」を定期的に開催し領内に定住してくれる夫婦は何組も仲介をした独身のケルマデック。
残念ながら領内の女性もとても現実的で、農作業など働くのは領民と同じ量なのにケルマデックに嫁げばそこに「当主夫人」としても役目も加わるかと思ったら是非ご遠慮したい。
ケルマデックが働き者なだけに甘えも許されない環境下にわざわざ伯爵夫人という箸にも棒にも掛からぬ肩書のために突入しようと思う女性などいなかったのだ。
――あぁ♡でも可愛いな♡どうしよう。俺が夫で良いのかな――
★ここまでケルマデックの1.5秒★
しかし、マリアナは目の前で卒倒してしまった。
ケルマデックを襲う絶望感は半端ない。
――そりゃあそうだよな――
これと言って取柄もないケルマデック。
長所としては生涯妻だけで他に愛人を持つ事はない。
金がないので女遊びという金のかかる遊びは出来ないだけでもある。
金があっても女より先ず生活だ。
借金のない生活が出来る。
貸してくれる所がないだけなので、借りる事もないだけである。
目も当てらない醜男ではない。
但し美丈夫でもなく、所謂その他大勢に分類をされるだけの見た目だ。
がっくりと肩を落としたが、卒倒された原因が「見た目です!見た目!」とプエールが更にケルマデックの心をへし折る言葉をかけてくる。
プエールとしては頭から泥だらけで他の使用人も「誰?」と人物判定が出来ない状況だから声をかけただけだが、目の前で卒倒をされてしまったケルマデックは言葉を違う意味で捉えてしまった。
「湯を浴びてくるよ」
半乾きになった泥がとぼとぼ歩いて先ずは屋外の井戸に向かうケルマデックの痕跡となり部屋に残る。
井戸の水を何杯も浴びながらケルマデックは心に燃え上がる恋の炎を鎮火させようとしたが、不思議な事に冷たい水を何杯浴びても体は熱を持ったまま。
――どうしよう…俺、間違いなくあの子のこと好きになってる――
王都にいた頃、12、13歳頃までだが、今は疎遠になった友人達とデヴュタント前の令嬢を見て「あの子、可愛いな」「あの子は大人になったら胸も大きくなるだろうな」と話をした事がある。
確かに可愛いなと思った令嬢もいたが、だからと言って自分を良く見せようとか、声をかけようとまで思った事はなかった。
――これって…初恋ってやつかな――
「くあぁぁ…なんてこった!初恋は叶わないというじゃないか!」
心はアツアツ。体は冷え冷えになったケルマデックは冷たい井戸の水から熱い湯に体を浸し、取り敢えず手持ちで一番良い服に袖を通すと、髪もセットする。
何をしてもピコンと角のように跳ねてしまうくせ毛が恨めしくて仕方がない。
このくせ毛が目立たないように無造作ヘアにしてみたが、単に手入れが面倒なだけに見えてしまうし、自然な地毛を生かすマッシュにもしてみたが毒キノコ感が高まっただけだった。
グイっと引っ張って伸ばし周囲の髪に混ぜ込むが跳ねる髪が素直に従ってくれるわけがない。
「25年もこれなんだ…今更だよな」
卒倒するほど初見で嫌われてしまったと泣きそうになる気持ちを押さえてケルマデックは「お目覚めになりました」とマリアナが目を覚ました事を伝えられると、「しても無駄なのに」と思いながらも襟元を最後の鏡チェックで整えてマリアナの元に向かったのだった。
「え?旦那様なの?」
泥だらけで顔の判別も目と鼻、口だけの小ぶりな瘦せ型ゴーレム風泥人形をケルマデックと判別出来たのは執事プエールだけだった。
「その恰好はなんです!作業着でもどうかと思いますが、湯を浴びて来て下さい!メリーとポーラはお嬢様を客間に」
「はいっ!」
メリーとポーラだけではとても運べないのでマリアナと共にやって来た男性従者がマリアナを抱え上げるがケルマデックの心に嫉妬の炎が燃え上がる。
★ここからケルマデックの1.5秒★
部屋に入るなり、ケルマデックは目に映ったマリアナが眩しい光に包まれた女神のように見えた。
目が合って白目を剥くまで時間にして2秒もなかったが、ケルマデックには卒倒するまでの1.5秒ほどが今まで生きて来た時間の半分以上を占めているかのような長い時間に思えた。
――こんな美しい人がこの世にいるなんて!!――
心臓から送り出される血液が熱湯となり、全身を駆け巡る。
脂下がってしまいそうな表情を引き締め、口や鼻だけでなく全身の毛穴から蒸気が噴き出す感覚。
そしてカムチャの言葉が脳内をグルグル。
――旦那様の奥さんになる女性ですよ!――
マジか…俺ってそんなに徳を積んでいたのか?!前世、いや来世の分まで今先取り?!
しかし、大問題があった。
――俺でいいのか?いや、いいんだろうな。でも‥最初はなんて言えばいい?――
女性とのお付き合いは母親、祖母、領民の御婦人方、領民の女児を除けば皆無。婚約者がいた経験もなく、幼少期はそれなりに伯爵子息だったが貧乏となってからは弟を結婚させて領地を切り盛りするのがやっと。
恋愛をしている時間など無かったのだ。
――くっ!この日の予行練習のために村のパーティーに参加するんだった――
後悔しているが、参加はしているのだ。但し主催者として。
村の未婚男性と未婚女性を引き合わせる「領コン」を定期的に開催し領内に定住してくれる夫婦は何組も仲介をした独身のケルマデック。
残念ながら領内の女性もとても現実的で、農作業など働くのは領民と同じ量なのにケルマデックに嫁げばそこに「当主夫人」としても役目も加わるかと思ったら是非ご遠慮したい。
ケルマデックが働き者なだけに甘えも許されない環境下にわざわざ伯爵夫人という箸にも棒にも掛からぬ肩書のために突入しようと思う女性などいなかったのだ。
――あぁ♡でも可愛いな♡どうしよう。俺が夫で良いのかな――
★ここまでケルマデックの1.5秒★
しかし、マリアナは目の前で卒倒してしまった。
ケルマデックを襲う絶望感は半端ない。
――そりゃあそうだよな――
これと言って取柄もないケルマデック。
長所としては生涯妻だけで他に愛人を持つ事はない。
金がないので女遊びという金のかかる遊びは出来ないだけでもある。
金があっても女より先ず生活だ。
借金のない生活が出来る。
貸してくれる所がないだけなので、借りる事もないだけである。
目も当てらない醜男ではない。
但し美丈夫でもなく、所謂その他大勢に分類をされるだけの見た目だ。
がっくりと肩を落としたが、卒倒された原因が「見た目です!見た目!」とプエールが更にケルマデックの心をへし折る言葉をかけてくる。
プエールとしては頭から泥だらけで他の使用人も「誰?」と人物判定が出来ない状況だから声をかけただけだが、目の前で卒倒をされてしまったケルマデックは言葉を違う意味で捉えてしまった。
「湯を浴びてくるよ」
半乾きになった泥がとぼとぼ歩いて先ずは屋外の井戸に向かうケルマデックの痕跡となり部屋に残る。
井戸の水を何杯も浴びながらケルマデックは心に燃え上がる恋の炎を鎮火させようとしたが、不思議な事に冷たい水を何杯浴びても体は熱を持ったまま。
――どうしよう…俺、間違いなくあの子のこと好きになってる――
王都にいた頃、12、13歳頃までだが、今は疎遠になった友人達とデヴュタント前の令嬢を見て「あの子、可愛いな」「あの子は大人になったら胸も大きくなるだろうな」と話をした事がある。
確かに可愛いなと思った令嬢もいたが、だからと言って自分を良く見せようとか、声をかけようとまで思った事はなかった。
――これって…初恋ってやつかな――
「くあぁぁ…なんてこった!初恋は叶わないというじゃないか!」
心はアツアツ。体は冷え冷えになったケルマデックは冷たい井戸の水から熱い湯に体を浸し、取り敢えず手持ちで一番良い服に袖を通すと、髪もセットする。
何をしてもピコンと角のように跳ねてしまうくせ毛が恨めしくて仕方がない。
このくせ毛が目立たないように無造作ヘアにしてみたが、単に手入れが面倒なだけに見えてしまうし、自然な地毛を生かすマッシュにもしてみたが毒キノコ感が高まっただけだった。
グイっと引っ張って伸ばし周囲の髪に混ぜ込むが跳ねる髪が素直に従ってくれるわけがない。
「25年もこれなんだ…今更だよな」
卒倒するほど初見で嫌われてしまったと泣きそうになる気持ちを押さえてケルマデックは「お目覚めになりました」とマリアナが目を覚ました事を伝えられると、「しても無駄なのに」と思いながらも襟元を最後の鏡チェックで整えてマリアナの元に向かったのだった。
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