17 / 33
第17話 落ちぶれて
しおりを挟む
何日経ってもジュエリットは部屋に帰ってこなかった。
ロミオスが「おかしいな?」と判ったのはジュエリットが帰って来なくなって11日目。
部屋に残る食材で食いつないでいたが施錠していた扉が外から開かれた。
「何処に行ってたんだ!心配したんだぞ!」
金もなくホースレース場に行けなくなったロミオスは非常に苛立った声を上げたのだが、扉の先にいたのはジュエリットではなく大家と、大家に頼まれた掃除人だった。
借主が退去をする際に多少は掃除をしてくれているのだが、床などは張り替えねばならないし時々、次の人に使って貰ったらとお節介で大きめの家具などを置いていく者もいる。
掃除もだがリフォームも兼ねた掃除人と大家は部屋の惨状に目を丸くした。
「あんた!誰だい!」
大家にしてみればこの部屋の借主はジュエリットであって目の前の男ではない。
単身者用の部屋なので基本的に誰かとルームシェアする時は家賃の取りっぱぐれがないように届け出が必要だ。
1、2か月の短期ならそれも見逃してくれるだけ。
しかし、部屋は片付いているどころかゴミだらけ。
飛び回るコバエを手で追い払いながら、部屋に入って来た男にロミオスは問答無用で押さえつけられて不法占拠で捕縛されてしまった。
部屋を見回した大家に掃除人はゴミの撤去費用が上乗せになる事を告げた。
「あんた、払ってもらうよ」
「そんな!どうして俺が払わなくちゃいけないんだよ!」
「勝手に住んでるからさ。良かったねぇ家賃迄踏み倒すのなら男娼になってもらう所だったけど、風通しが良くなるのはこの部屋だけにしといてやるよ」
ロミオスは全身の穴と言う穴がキュっと引き締まったが、どんなに叩いたところで垢と埃しかロミオスからは出ない。片付ける費用は家賃の10倍以上。
そんな金をロミオスが持っているはずがなかった。
「あんた、年は幾つだい?」
「に、22だ…」
「22?!嘘吐くんじゃないよ」
大家がそう言うのも無理はない。子爵子息だった頃は美丈夫としても名を馳せたが落ちぶれてたった2、3カ月。ロミオスはただの小汚いおっさんにしか見えなかった。
特に運動もしていなかったロミオスは食べる、寝る、ホースレース場に行くと繰り返していて不摂生からブクブクと太り、デブではないものの腹は弛んでベルトの上に乗っかっているし、髪はぼさぼさ。無精髭も生えて以前の姿は見る影もない。
キャーと手を叩いて喜んだ令嬢の代わりに今では体の周りを飛ぶコバエと銀映えがピタリと止まって手をこすり合わせていた。
「どうでもいいけど、払うものは払ってもらうからね」
「俺にどうしろっていうんだよ!」
「へぇ…元気だけは良いようだね」
実際には舐めないが、頭の先からつま先までじろじろと目線を這わせた大家は「元気ならアレに使える?」と怖い事を呟く。
ジュエリットの住まう地区は治安が宜しくない。
ただ、もう少し先の貧民窟よりはマシな程度だが、ギャング同士の抗争も絶えない地区。
ロミオスの体からは冷や汗と脂汗が流れ、ドキドキと高まる心拍数に体臭がより酷く香ってくる。
「何でもする!助けてくれ。ギャングの所にだけは!!」
「馬鹿言っちゃいけないよ。二束三文じゃないか」
「ギャ、ギャングじゃないなら・・・」
「丁度良かった。人を探してたんだよ。頑張って働きな。その元気がありゃ2年経たずに手元に金も残るよ」
大家の手配で直ぐに駆け付けて来た口入屋は大家に部屋の片づけ費用を直ぐに支払ってくれたのだが、ロミオスは父親の事業も片手間に手伝っていただけで遊び惚けていたのですっかり失念していた。
この時点で口入屋に借金の債権が移っただけだ。
そしてこんな方法で人材を確保する口入屋はそのままでは人材派遣は出来ないのでマネーロンダリングの如く次々に違う口入屋にロミオスを回していく。
口入屋も商売なので100万ポルを大家に支払えば、次の口入屋には120万でロミオスを売る。そうやって4件の口入屋を介したロミオスは知らない間に500万という借金を背負う事になった。
だが、大家の言葉は嘘ではなかった。
紹介された仕事は沖合に停泊する商船から小舟に荷を下ろし海上をピストン輸送する仕事。
1往復の手取りが3万ポルで頑張れば1日に5往復は出来る。
問題は大型の商船は石炭を燃やして動力としているが、ピストン輸送する小舟は人力。
体の半分まで海水に浸かる船底で手の皮が剥けても櫓を漕がねばならず金になってもやろうとする者はいない。ヘロヘロになって船が止まれば荷下ろし。体を休める時間もなく儲かるとしても1日に1往復が限界だった。
2カ月ほどは櫓漕ぎの名簿にロミオスの名があったが、3か月目以降でロミオスの姿を実際に見た者はいなかったが王都のあちこちに貼り紙がされた。
ロミオスは仲間と喧嘩をして、怪我を負わせ逃げてしまいお尋ね者となってしまったのだ。
ロミオスが「おかしいな?」と判ったのはジュエリットが帰って来なくなって11日目。
部屋に残る食材で食いつないでいたが施錠していた扉が外から開かれた。
「何処に行ってたんだ!心配したんだぞ!」
金もなくホースレース場に行けなくなったロミオスは非常に苛立った声を上げたのだが、扉の先にいたのはジュエリットではなく大家と、大家に頼まれた掃除人だった。
借主が退去をする際に多少は掃除をしてくれているのだが、床などは張り替えねばならないし時々、次の人に使って貰ったらとお節介で大きめの家具などを置いていく者もいる。
掃除もだがリフォームも兼ねた掃除人と大家は部屋の惨状に目を丸くした。
「あんた!誰だい!」
大家にしてみればこの部屋の借主はジュエリットであって目の前の男ではない。
単身者用の部屋なので基本的に誰かとルームシェアする時は家賃の取りっぱぐれがないように届け出が必要だ。
1、2か月の短期ならそれも見逃してくれるだけ。
しかし、部屋は片付いているどころかゴミだらけ。
飛び回るコバエを手で追い払いながら、部屋に入って来た男にロミオスは問答無用で押さえつけられて不法占拠で捕縛されてしまった。
部屋を見回した大家に掃除人はゴミの撤去費用が上乗せになる事を告げた。
「あんた、払ってもらうよ」
「そんな!どうして俺が払わなくちゃいけないんだよ!」
「勝手に住んでるからさ。良かったねぇ家賃迄踏み倒すのなら男娼になってもらう所だったけど、風通しが良くなるのはこの部屋だけにしといてやるよ」
ロミオスは全身の穴と言う穴がキュっと引き締まったが、どんなに叩いたところで垢と埃しかロミオスからは出ない。片付ける費用は家賃の10倍以上。
そんな金をロミオスが持っているはずがなかった。
「あんた、年は幾つだい?」
「に、22だ…」
「22?!嘘吐くんじゃないよ」
大家がそう言うのも無理はない。子爵子息だった頃は美丈夫としても名を馳せたが落ちぶれてたった2、3カ月。ロミオスはただの小汚いおっさんにしか見えなかった。
特に運動もしていなかったロミオスは食べる、寝る、ホースレース場に行くと繰り返していて不摂生からブクブクと太り、デブではないものの腹は弛んでベルトの上に乗っかっているし、髪はぼさぼさ。無精髭も生えて以前の姿は見る影もない。
キャーと手を叩いて喜んだ令嬢の代わりに今では体の周りを飛ぶコバエと銀映えがピタリと止まって手をこすり合わせていた。
「どうでもいいけど、払うものは払ってもらうからね」
「俺にどうしろっていうんだよ!」
「へぇ…元気だけは良いようだね」
実際には舐めないが、頭の先からつま先までじろじろと目線を這わせた大家は「元気ならアレに使える?」と怖い事を呟く。
ジュエリットの住まう地区は治安が宜しくない。
ただ、もう少し先の貧民窟よりはマシな程度だが、ギャング同士の抗争も絶えない地区。
ロミオスの体からは冷や汗と脂汗が流れ、ドキドキと高まる心拍数に体臭がより酷く香ってくる。
「何でもする!助けてくれ。ギャングの所にだけは!!」
「馬鹿言っちゃいけないよ。二束三文じゃないか」
「ギャ、ギャングじゃないなら・・・」
「丁度良かった。人を探してたんだよ。頑張って働きな。その元気がありゃ2年経たずに手元に金も残るよ」
大家の手配で直ぐに駆け付けて来た口入屋は大家に部屋の片づけ費用を直ぐに支払ってくれたのだが、ロミオスは父親の事業も片手間に手伝っていただけで遊び惚けていたのですっかり失念していた。
この時点で口入屋に借金の債権が移っただけだ。
そしてこんな方法で人材を確保する口入屋はそのままでは人材派遣は出来ないのでマネーロンダリングの如く次々に違う口入屋にロミオスを回していく。
口入屋も商売なので100万ポルを大家に支払えば、次の口入屋には120万でロミオスを売る。そうやって4件の口入屋を介したロミオスは知らない間に500万という借金を背負う事になった。
だが、大家の言葉は嘘ではなかった。
紹介された仕事は沖合に停泊する商船から小舟に荷を下ろし海上をピストン輸送する仕事。
1往復の手取りが3万ポルで頑張れば1日に5往復は出来る。
問題は大型の商船は石炭を燃やして動力としているが、ピストン輸送する小舟は人力。
体の半分まで海水に浸かる船底で手の皮が剥けても櫓を漕がねばならず金になってもやろうとする者はいない。ヘロヘロになって船が止まれば荷下ろし。体を休める時間もなく儲かるとしても1日に1往復が限界だった。
2カ月ほどは櫓漕ぎの名簿にロミオスの名があったが、3か月目以降でロミオスの姿を実際に見た者はいなかったが王都のあちこちに貼り紙がされた。
ロミオスは仲間と喧嘩をして、怪我を負わせ逃げてしまいお尋ね者となってしまったのだ。
879
あなたにおすすめの小説
婚約者の命令により魔法で醜くなっていた私は、婚約破棄を言い渡されたので魔法を解きました
天宮有
恋愛
「貴様のような醜い者とは婚約を破棄する!」
婚約者バハムスにそんなことを言われて、侯爵令嬢の私ルーミエは唖然としていた。
婚約が決まった際に、バハムスは「お前の見た目は弱々しい。なんとかしろ」と私に言っていた。
私は独自に作成した魔法により太ることで解決したのに、その後バハムスは婚約破棄を言い渡してくる。
もう太る魔法を使い続ける必要はないと考えた私は――魔法を解くことにしていた。
私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。
それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。
婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。
その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。
これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。
あなたを愛する心は珠の中
れもんぴーる
恋愛
侯爵令嬢のアリエルは仲の良い婚約者セドリックと、両親と幸せに暮らしていたが、父の事故死をきっかけに次々と不幸に見舞われる。
母は行方不明、侯爵家は叔父が継承し、セドリックまで留学生と仲良くし、学院の中でも四面楚歌。
アリエルの味方は侍従兼護衛のクロウだけになってしまった。
傷ついた心を癒すために、神秘の国ドラゴナ神国に行くが、そこでアリエルはシャルルという王族に出会い、衝撃の事実を知る。
ドラゴナ神国王家の一族と判明したアリエルだったが、ある事件がきっかけでアリエルのセドリックを想う気持ちは、珠の中に封じ込められた。
記憶を失ったアリエルに縋りつくセドリックだが、アリエルは婚約解消を望む。
アリエルを襲った様々な不幸は偶然なのか?アリエルを大切に思うシャルルとクロウが動き出す。
アリエルは珠に封じられた恋心を忘れたまま新しい恋に向かうのか。それとも恋心を取り戻すのか。
*なろう様、カクヨム様にも投稿を予定しております
【完結済】婚約破棄から始まる物語~真実の愛と言う茶番で、私の至福のティータイムを邪魔しないでくださいな
をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
恋愛
約束の時間に遅れ、さらには腕に女性を貼り付けて登場したアレックス殿下。
彼は悪びれることすらなく、ドヤ顔でこう仰いました。
「レティシア。君との婚約は破棄させてもらう」
婚約者の義務としての定例のお茶会。まずは遅れたことに謝罪するのが筋なのでは?
1時間も待たせたあげく、開口一番それですか? しかも腕に他の女を張り付けて?
うーん……おバカさんなのかしら?
婚約破棄の正当な理由はあるのですか?
1話完結です。
定番の婚約破棄から始まるザマァを書いてみました。
【完結】病弱な幼馴染が大事だと婚約破棄されましたが、彼女は他の方と結婚するみたいですよ
冬月光輝
恋愛
婚約者である伯爵家の嫡男のマルサスには病弱な幼馴染がいる。
親同士が決めた結婚に最初から乗り気ではなかった彼は突然、私に土下座した。
「すまない。健康で強い君よりも俺は病弱なエリナの側に居たい。頼むから婚約を破棄してくれ」
あまりの勢いに押された私は婚約破棄を受け入れる。
ショックで暫く放心していた私だが父から新たな縁談を持ちかけられて、立ち直ろうと一歩を踏み出した。
「エリナのやつが、他の男と婚約していた!」
そんな中、幼馴染が既に婚約していることを知ったとマルサスが泣きついてくる。
さらに彼は私に復縁を迫ってくるも、私は既に第三王子と婚約していて……。
【完】私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした
迦陵 れん
恋愛
「俺は君を愛さない。この結婚は政略結婚という名の契約結婚だ」
結婚式後の初夜のベッドで、私の夫となった彼は、開口一番そう告げた。
彼は元々の婚約者であった私の姉、アンジェラを誰よりも愛していたのに、私の姉はそうではなかった……。
見た目、性格、頭脳、運動神経とすべてが完璧なヘマタイト公爵令息に、グラディスは一目惚れをする。
けれど彼は大好きな姉の婚約者であり、容姿からなにから全て姉に敵わないグラディスは、瞬時に恋心を封印した。
筈だったのに、姉がいなくなったせいで彼の新しい婚約者になってしまい──。
人生イージーモードで生きてきた公爵令息が、初めての挫折を経験し、動く人形のようになってしまう。
彼のことが大好きな主人公は、冷たくされても彼一筋で思い続ける。
たとえ彼に好かれなくてもいい。
私は彼が好きだから!
大好きな人と幸せになるべく、メイドと二人三脚で頑張る健気令嬢のお話です。
ざまあされるような悪人は出ないので、ざまあはないです。
と思ったら、微ざまぁありになりました(汗)
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる