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第21話 ケルマデックは抱き枕
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寝台はとても大きい。何故かと言えばケルマデックのダブルサイズと客間にあったダブルサイズを合わせているので中間に微妙な窪みはあるのだが、気にしなければ寝るのにも問題はない。
ケルマデックを心行くまで堪能したマリアナは我に返る。
「ごっごめんなさい!!」
「いいんだよ。気にしないでくれ。ちょっと…服を直してくるよ」
「服?!寝間着ではありませんでしたの?」
「そうと言えばそうなんだが…少し待っててくれ」
すこし内股になりながらケルマデックが私室に戻ったあと、寝台にダイブしたマリアナは手足をバタバタさせながら「触ってしまった!フワフワだった!」右にコロコロ、左にコロコロと転がり嬉しさを爆発させた。
思えば父親の髪も、兄の髪も触った事なんかあっただろうか。
兄の場合は「セットが崩れる」と言いそうだが、父親は「いいよ」と簡単に触らせてくれそうな気もする。
しかし、今日は到着をした初日。
寝台のシーツはとてもいい香りがして、マリアナはうとうととケルマデックを待つつもりだったのだが、疲れが出たこともあって寝入ってしまった。
「すまない。遅くなった…って、あれ?寝てる?」
ゴロゴロと転がっていたものだからマリアナは寝台の端っこで落ちるかギリギリの位置。気持ちよさそうに眠っているが、その姿はとても乙女とはかけ離れたもの。
「うーん・・うにゃ…」
寝返りを打つが不思議なもので落ちない方に体が反転。俯いた姿勢から仰向けになったのだが両手を広げ、ついでに足も広げて世に言う大の字。おまけに寝返りをした事でパジャマから臍まで見えている。
「ははっ。寝てる姿も寝顔も可愛いな。だけど…さてどうするかな」
田舎の明け方はとても寒い。暑苦しい真夏の夜でさえ明け方になると意外と冷え込むのだ。ケルマデックは広く開いている方の寝台の掛布を捲ると、マリアナを横抱きに抱きかかえてそっと寝かした。
「床で寝てもいいんだが…朝、叱られそうだな」
さっきまでマリアナが寝ていた部分に横になると足元がほんのり温かい。マリアナの体温の残りに足元もポカポカ。
天井を見上げて、隣に眠るマリアナの寝顔を見る。
――なんか…凄く幸せなんだがいいんだろうか――
そう思うと髪を撫でられていた時、顔にマリアナの胸が当たっていた事を思い出し、ボっと顔が熱くなる。手で顔を覆うと、こちらもマリアナの香りが残っているようでさらに幸せな気分になった。
ごろりと体を反転させて腕を枕にマリアナの方を見るとマリアナもコロンとケルマデックの方に寝返りを打った。
「ホント…好きになると何しても可愛いな。肩が出てるぞ。奥さん」
そっと掛布をマリアナの肩にかけて、ケルマデックも眠りに落ちた。
★~★
トラフ領の朝は早い。午前4時になると使用人達が料理などの下ごしらえを始める。そんな中、目覚まし代わりの一番鶏が鳴かなくてもケルマデックは目が覚めるのだが、心地よい温もりに目を覚ますとピクリとも動けなくなった。
午前4時から5時は一番気温が下がるからか、ケルマデックはマリアナの抱き枕となっていたのである。両腕は上半身を抱え、足もケルマデックの足の間にしっかりと回り込んでホールド。
「薪割りをしなきゃいけないんだけど…起こしちゃうかな」
こんな朝早くに起こす事も可哀想だと思ったが、ケルマデックが寝台を抜け出すことでマリアナが寒さを感じるのではないかと思うと起き上がる事も出来ない。
結局そのままで午前8時までケルマデックはマリアナに付き合った。
「申し訳ございませんっ!!」
「いいんだよ。朝は寒いからね」
「でもっ!」
ダブルベッドを2つ並べた寝台だったが、夜にマリアナを寝かせた方は綺麗なもの。ころころと寝返りを打ち結局ケルマデックの陣地で爆睡してしまったのである。
平身低頭なマリアナは寝台の上で正座をして「とんでもない失態です」と頭を上げない。
「いいんだよ。朝は触らなくてもいいのか?」
「朝?触るって…」
顔を上げたマリアナにケルマデックは自分の髪をツンツンと指差した。
「っっっ!!!」
横向きに寝ていたからか、片方だけがぺたんとなっているが、もう片方がピンと跳ねている。
――これはこれでレア?!――
「触っていいよ」
「じゃ、じゃぁ…お言葉に甘えて」
寝台に向き合って座った2人。すこし頭を下げたケルマデックの髪をマリアナは「わぁ♡」「うふっ」まるで仔犬を撫でているかのようにっ楽し気な声を上げた。
「昨夜、話すべきだったんだが…」
俯いたケルマデックの声にマリアナは髪を撫でる手を止めた。
――まさか!?――
髪をワシャワシャと撫ですぎて実は怒っている?しかしそれならどうして今触らせてくれるのだ?!マリアナは続き言葉にドキドキと不安になった。
「なにか事情があったのかい?」
「事情ですか?」
「そう。この婚約というか…実は何か理由があるんじゃないかと思ったんだ」
「なぜそのように思われるのです?」
ケルマデックは昨夜、誤爆をした後で一旦着替えるために私室に戻った。
着替えを済ませると執務机の引き出しを引いた。
そこから1枚の書類を取り出し、薄暗い月明りだけが頼りの部屋で書類を眺めた。
マリアナが持ってきた書類には署名を済ませているので婚約はこれで書面上は整った。カムチャからもこの婚約がカムチャの独断専行である事も報告を受けた。
だが、疑問がわいた。
本来なら婚約を結ぶ前に解決しておくべきなのだが、ケルマデックがサインをすれば良いように書類はすでに整っていてトレンチ侯爵家は認めている。
その理由が知りたかった。
ケルマデックを心行くまで堪能したマリアナは我に返る。
「ごっごめんなさい!!」
「いいんだよ。気にしないでくれ。ちょっと…服を直してくるよ」
「服?!寝間着ではありませんでしたの?」
「そうと言えばそうなんだが…少し待っててくれ」
すこし内股になりながらケルマデックが私室に戻ったあと、寝台にダイブしたマリアナは手足をバタバタさせながら「触ってしまった!フワフワだった!」右にコロコロ、左にコロコロと転がり嬉しさを爆発させた。
思えば父親の髪も、兄の髪も触った事なんかあっただろうか。
兄の場合は「セットが崩れる」と言いそうだが、父親は「いいよ」と簡単に触らせてくれそうな気もする。
しかし、今日は到着をした初日。
寝台のシーツはとてもいい香りがして、マリアナはうとうととケルマデックを待つつもりだったのだが、疲れが出たこともあって寝入ってしまった。
「すまない。遅くなった…って、あれ?寝てる?」
ゴロゴロと転がっていたものだからマリアナは寝台の端っこで落ちるかギリギリの位置。気持ちよさそうに眠っているが、その姿はとても乙女とはかけ離れたもの。
「うーん・・うにゃ…」
寝返りを打つが不思議なもので落ちない方に体が反転。俯いた姿勢から仰向けになったのだが両手を広げ、ついでに足も広げて世に言う大の字。おまけに寝返りをした事でパジャマから臍まで見えている。
「ははっ。寝てる姿も寝顔も可愛いな。だけど…さてどうするかな」
田舎の明け方はとても寒い。暑苦しい真夏の夜でさえ明け方になると意外と冷え込むのだ。ケルマデックは広く開いている方の寝台の掛布を捲ると、マリアナを横抱きに抱きかかえてそっと寝かした。
「床で寝てもいいんだが…朝、叱られそうだな」
さっきまでマリアナが寝ていた部分に横になると足元がほんのり温かい。マリアナの体温の残りに足元もポカポカ。
天井を見上げて、隣に眠るマリアナの寝顔を見る。
――なんか…凄く幸せなんだがいいんだろうか――
そう思うと髪を撫でられていた時、顔にマリアナの胸が当たっていた事を思い出し、ボっと顔が熱くなる。手で顔を覆うと、こちらもマリアナの香りが残っているようでさらに幸せな気分になった。
ごろりと体を反転させて腕を枕にマリアナの方を見るとマリアナもコロンとケルマデックの方に寝返りを打った。
「ホント…好きになると何しても可愛いな。肩が出てるぞ。奥さん」
そっと掛布をマリアナの肩にかけて、ケルマデックも眠りに落ちた。
★~★
トラフ領の朝は早い。午前4時になると使用人達が料理などの下ごしらえを始める。そんな中、目覚まし代わりの一番鶏が鳴かなくてもケルマデックは目が覚めるのだが、心地よい温もりに目を覚ますとピクリとも動けなくなった。
午前4時から5時は一番気温が下がるからか、ケルマデックはマリアナの抱き枕となっていたのである。両腕は上半身を抱え、足もケルマデックの足の間にしっかりと回り込んでホールド。
「薪割りをしなきゃいけないんだけど…起こしちゃうかな」
こんな朝早くに起こす事も可哀想だと思ったが、ケルマデックが寝台を抜け出すことでマリアナが寒さを感じるのではないかと思うと起き上がる事も出来ない。
結局そのままで午前8時までケルマデックはマリアナに付き合った。
「申し訳ございませんっ!!」
「いいんだよ。朝は寒いからね」
「でもっ!」
ダブルベッドを2つ並べた寝台だったが、夜にマリアナを寝かせた方は綺麗なもの。ころころと寝返りを打ち結局ケルマデックの陣地で爆睡してしまったのである。
平身低頭なマリアナは寝台の上で正座をして「とんでもない失態です」と頭を上げない。
「いいんだよ。朝は触らなくてもいいのか?」
「朝?触るって…」
顔を上げたマリアナにケルマデックは自分の髪をツンツンと指差した。
「っっっ!!!」
横向きに寝ていたからか、片方だけがぺたんとなっているが、もう片方がピンと跳ねている。
――これはこれでレア?!――
「触っていいよ」
「じゃ、じゃぁ…お言葉に甘えて」
寝台に向き合って座った2人。すこし頭を下げたケルマデックの髪をマリアナは「わぁ♡」「うふっ」まるで仔犬を撫でているかのようにっ楽し気な声を上げた。
「昨夜、話すべきだったんだが…」
俯いたケルマデックの声にマリアナは髪を撫でる手を止めた。
――まさか!?――
髪をワシャワシャと撫ですぎて実は怒っている?しかしそれならどうして今触らせてくれるのだ?!マリアナは続き言葉にドキドキと不安になった。
「なにか事情があったのかい?」
「事情ですか?」
「そう。この婚約というか…実は何か理由があるんじゃないかと思ったんだ」
「なぜそのように思われるのです?」
ケルマデックは昨夜、誤爆をした後で一旦着替えるために私室に戻った。
着替えを済ませると執務机の引き出しを引いた。
そこから1枚の書類を取り出し、薄暗い月明りだけが頼りの部屋で書類を眺めた。
マリアナが持ってきた書類には署名を済ませているので婚約はこれで書面上は整った。カムチャからもこの婚約がカムチャの独断専行である事も報告を受けた。
だが、疑問がわいた。
本来なら婚約を結ぶ前に解決しておくべきなのだが、ケルマデックがサインをすれば良いように書類はすでに整っていてトレンチ侯爵家は認めている。
その理由が知りたかった。
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