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第33話 あなたの愛は深すぎる
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無駄に鍛えた訳ではないケルマデックの筋肉は嘘を吐かない。
「ウォリャァ!!」掛け声とともに金属製の窓枠をバギッ!!建物から外すと「行くぞ!」領民に掛け声をかけて窓枠を軽々と乗り越えてケルマデックから順番に家屋内に突入した。
「ファギャッ!」聞いた事はないが着地に失敗したヒキガエルが潰れるような声がするのはあっという間。
泡を吹いた空き巣が担ぎ上げられて窓から出されてくるとマリアナとララはゆっくりと近づいてその顔を見た。
「え?ロミオス様?!」
<< 知ってる人? >>
この場でロミオスを知っているのはマリアナだけで領民もケルマデックも知るはずがない。
多少…いやかなり汚れているヨゴレなのだが、ロミオスで間違いないとマリアナは思った。
「コイツ、ヨゼフさんの服着てやがる」
「服まで盗みやがって。俺たちがシャツ1枚どんだけ大事にしてると思ってんだ!」
気絶しているロミオスを縛り上げながら領民は悪態を吐く。実際シャツ1枚新品で買える領民は1人もいない。赤子の産着ですら着るのは一時期だからと貸し借りをする。
そうしないと食べるものが買えないからである。
「マリアナっ。立ったりしちゃダメだろう。傷が悪化したらどうするんだ」
「大丈夫。片足でぴょんぴょん跳びながら帰る事も出来るわ。ほら、ウッサーの気持ちも判るかも?」
かつてケルマデックが拾って治療した子ウサギのウッサー。ヤギ専門にお産の手伝いをする領民が言った通り、この頃はヒョコヒョコと歩けるようにはなった。
「ウッサーとマリアナは違うだろう。兎に角歩いちゃダメだ。これは何を言っても許可しない」
「じゃ、デックさん。俺らコイツを収容所に連れて行くんで奥様を頼みましたよ」
ケルマデックの言葉を聞いた領民は「オ~メデタ・オメ~デタ・デタデタ」奇妙な歌を歌いながら「ララも来いよ」とララまで連れて行ってしまった。
「背中で良いか?」
「はい」
ケルマデックに背負われて2人はゆっくりと屋敷に戻った。
その途中…。
「どうやって倒したの?変な声が聞こえたんだけど」
「多分だが感触があったから…潰れたんだと思う」
「潰れた?酔っぱらっていたの?あの人」
「いや、シラフだったと思うけど頭のネジは飛んでたかもな。2つとも潰れたはずだ」
女性にはその痛みは解らないが想像を絶するとは聞いた事がある。これ以上は聞くまい。
そう思ったのだが、ケルマデックは気になっていたのだろう。
「あの男、知ってるのか?」
「あ…えぇっと…婚約破棄の相手?っていうのかな」
「そうか…なら内臓も全部逝っとくんだったな。一撃で仕留めて損した」
「怖い事言っちゃダメ‥‥気にしてたの?」
「いや、マリアナをちょっとでも困らせた奴は許せないだけだ。嫉妬するだけ勿体ない」
そうは言いつつも後ろからも歩くたびにピコピコ揺れるくせ毛が「実は嫉妬してる」と訴えているようだった。マリアナはケルマデックの肩に顎を乗せるようにしてそっと呟いた。
「愛してるのはケリーだけよ。今も、この先もずっと」
耳がポッと赤くなるとマリアナはそれが返事だと嬉しくなって更に続けた。
「私の愛は深いの。知ってる?世界で一番深い海、海溝って言うんだけどマリアナ海溝は世界一なの。その深みにケリーを引きずりこんじゃうんだから」
「ははっ。喜んで。潜水は領で一番得意なんだ。でもそこまで愛さなくていいよ」
「どうして?重い?」
「いいや?俺の方がずっと重くて深い愛だからマリアナはそこまで愛さなくていいんだ」
「フーン…でも底までは愛してもいいわよね?」
時折ずり落ちそうになるマリアナを「ヨイショ」と抱え直しながらケルマデックとマリアナは2人の世界を作りながら屋敷に戻ったのだった。
★~★
それから2日後。遂にトレンチ侯爵が到着した。
「仲良くしているようで何よりだ。これは…陛下に先に貰って来た」
スっと差し出したのはケルマデックとマリアナの結婚許可証。
これがあればどこでも好きな所で結婚式が出来る。
王印もある事から婚姻届けを出さなくても公式に認められた関係でもある。
「マリアナ。幸せかい?」
トレンチ侯爵はマリアナに問う。
「勿論!お父様に一番先に抱かれる孫は私の子供かも!」
「えっ?!」
トレンチ侯爵はマリアナとケルマデックを交互に見る。
慌てて「まだです!」「手は出していません。口だけです」と大きく手振りで潔白を訴えるケルマデックだったが、トレンチ侯爵の視線は山頂の解けない永久凍土より冷たかった。
が、言わねばならない。ケルマデックは覚悟を決めた。
「トレンチ侯。お嬢様は私が、生涯をかけて幸せにします」
「重いな…重い…」
「重いだけじゃなく深いんです。それを受け止めてくれるのはマリアナ嬢しかいませんから」
「くっ!小童が!!父親の前で堂々と言うな!」
「いえ、万が一気が変わったと言われても戻す気はないので」
2日滞在して「舅に会いたくないと言われたくないから」とトレンチ侯爵は領地に向けて出立した。
ロミオスは王都に引き返す従者の荷馬車の後部にロープで繋がれて歩いて王都に向かう。到着をすればお尋ね者でもあり憲兵に引き渡されるだろう。
痛いかどうかは本人じゃないと判らないが、内股でちょぼ歩きをしながら荷馬車に引かれて行った。
「さぁ!マリアナ!」
「ん?なぁに?」
「無事に結婚もした!今夜は…あはっ」
「あ、今夜はイチゴ番なの。ララとお泊りしてくるわ」
「い、イチゴ?!」
ケルマデックは知った。
――女性って恋人から妻になると激変するんだ――
それでもくせ毛を撫でる手の優しさは変わらない。
2人が本当のオメデタになる日は近いのだった。
Fin
読んで頂きありがとうございました<(_ _)>
「ウォリャァ!!」掛け声とともに金属製の窓枠をバギッ!!建物から外すと「行くぞ!」領民に掛け声をかけて窓枠を軽々と乗り越えてケルマデックから順番に家屋内に突入した。
「ファギャッ!」聞いた事はないが着地に失敗したヒキガエルが潰れるような声がするのはあっという間。
泡を吹いた空き巣が担ぎ上げられて窓から出されてくるとマリアナとララはゆっくりと近づいてその顔を見た。
「え?ロミオス様?!」
<< 知ってる人? >>
この場でロミオスを知っているのはマリアナだけで領民もケルマデックも知るはずがない。
多少…いやかなり汚れているヨゴレなのだが、ロミオスで間違いないとマリアナは思った。
「コイツ、ヨゼフさんの服着てやがる」
「服まで盗みやがって。俺たちがシャツ1枚どんだけ大事にしてると思ってんだ!」
気絶しているロミオスを縛り上げながら領民は悪態を吐く。実際シャツ1枚新品で買える領民は1人もいない。赤子の産着ですら着るのは一時期だからと貸し借りをする。
そうしないと食べるものが買えないからである。
「マリアナっ。立ったりしちゃダメだろう。傷が悪化したらどうするんだ」
「大丈夫。片足でぴょんぴょん跳びながら帰る事も出来るわ。ほら、ウッサーの気持ちも判るかも?」
かつてケルマデックが拾って治療した子ウサギのウッサー。ヤギ専門にお産の手伝いをする領民が言った通り、この頃はヒョコヒョコと歩けるようにはなった。
「ウッサーとマリアナは違うだろう。兎に角歩いちゃダメだ。これは何を言っても許可しない」
「じゃ、デックさん。俺らコイツを収容所に連れて行くんで奥様を頼みましたよ」
ケルマデックの言葉を聞いた領民は「オ~メデタ・オメ~デタ・デタデタ」奇妙な歌を歌いながら「ララも来いよ」とララまで連れて行ってしまった。
「背中で良いか?」
「はい」
ケルマデックに背負われて2人はゆっくりと屋敷に戻った。
その途中…。
「どうやって倒したの?変な声が聞こえたんだけど」
「多分だが感触があったから…潰れたんだと思う」
「潰れた?酔っぱらっていたの?あの人」
「いや、シラフだったと思うけど頭のネジは飛んでたかもな。2つとも潰れたはずだ」
女性にはその痛みは解らないが想像を絶するとは聞いた事がある。これ以上は聞くまい。
そう思ったのだが、ケルマデックは気になっていたのだろう。
「あの男、知ってるのか?」
「あ…えぇっと…婚約破棄の相手?っていうのかな」
「そうか…なら内臓も全部逝っとくんだったな。一撃で仕留めて損した」
「怖い事言っちゃダメ‥‥気にしてたの?」
「いや、マリアナをちょっとでも困らせた奴は許せないだけだ。嫉妬するだけ勿体ない」
そうは言いつつも後ろからも歩くたびにピコピコ揺れるくせ毛が「実は嫉妬してる」と訴えているようだった。マリアナはケルマデックの肩に顎を乗せるようにしてそっと呟いた。
「愛してるのはケリーだけよ。今も、この先もずっと」
耳がポッと赤くなるとマリアナはそれが返事だと嬉しくなって更に続けた。
「私の愛は深いの。知ってる?世界で一番深い海、海溝って言うんだけどマリアナ海溝は世界一なの。その深みにケリーを引きずりこんじゃうんだから」
「ははっ。喜んで。潜水は領で一番得意なんだ。でもそこまで愛さなくていいよ」
「どうして?重い?」
「いいや?俺の方がずっと重くて深い愛だからマリアナはそこまで愛さなくていいんだ」
「フーン…でも底までは愛してもいいわよね?」
時折ずり落ちそうになるマリアナを「ヨイショ」と抱え直しながらケルマデックとマリアナは2人の世界を作りながら屋敷に戻ったのだった。
★~★
それから2日後。遂にトレンチ侯爵が到着した。
「仲良くしているようで何よりだ。これは…陛下に先に貰って来た」
スっと差し出したのはケルマデックとマリアナの結婚許可証。
これがあればどこでも好きな所で結婚式が出来る。
王印もある事から婚姻届けを出さなくても公式に認められた関係でもある。
「マリアナ。幸せかい?」
トレンチ侯爵はマリアナに問う。
「勿論!お父様に一番先に抱かれる孫は私の子供かも!」
「えっ?!」
トレンチ侯爵はマリアナとケルマデックを交互に見る。
慌てて「まだです!」「手は出していません。口だけです」と大きく手振りで潔白を訴えるケルマデックだったが、トレンチ侯爵の視線は山頂の解けない永久凍土より冷たかった。
が、言わねばならない。ケルマデックは覚悟を決めた。
「トレンチ侯。お嬢様は私が、生涯をかけて幸せにします」
「重いな…重い…」
「重いだけじゃなく深いんです。それを受け止めてくれるのはマリアナ嬢しかいませんから」
「くっ!小童が!!父親の前で堂々と言うな!」
「いえ、万が一気が変わったと言われても戻す気はないので」
2日滞在して「舅に会いたくないと言われたくないから」とトレンチ侯爵は領地に向けて出立した。
ロミオスは王都に引き返す従者の荷馬車の後部にロープで繋がれて歩いて王都に向かう。到着をすればお尋ね者でもあり憲兵に引き渡されるだろう。
痛いかどうかは本人じゃないと判らないが、内股でちょぼ歩きをしながら荷馬車に引かれて行った。
「さぁ!マリアナ!」
「ん?なぁに?」
「無事に結婚もした!今夜は…あはっ」
「あ、今夜はイチゴ番なの。ララとお泊りしてくるわ」
「い、イチゴ?!」
ケルマデックは知った。
――女性って恋人から妻になると激変するんだ――
それでもくせ毛を撫でる手の優しさは変わらない。
2人が本当のオメデタになる日は近いのだった。
Fin
読んで頂きありがとうございました<(_ _)>
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(45件)
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真実の愛(笑)に浮かれた貴族達はロミカスの落ちぶれっぷりと主人公夫妻の仲睦まじさと発展する領地の噂に目を覚ましたのだろうか。
コメントありがとうございます。<(_ _)>
真実の愛で結ばれるロミオスとジュエリット・・・かと思いきや貴族達には「相手選びは慎重に」って教訓になったでしょうかね(笑)
ロミオスはクズの基本をしっかりと押さえたクズ(どんなよ!?)
ジュエリットの事は好きと言えば好きなんですけども、周囲の事は全く見えていないですし、婿入りの予定でしたので不貞腐れ・・・てもいなかったかと思いますが学ぼうともしない。
最後はジュエリットの貯めてたお金にも手を出し、拝借して、バレないように戻しと繰り返し戻した額がトータルして最初にあった金額を超えたら「自分の金」だと錯覚(笑)
ギャンブル中毒と一緒で「勝った金(戻した)の総額」しか考えず「負けた金(拝借した)の総額」ってのは何処かに行っちゃってます(笑)
この手は・・・リアルでももう治らないですからね。
脳内の考え方が固まっているので貧乏のどん底に堕ちても這い上がれるキッカケを尽く潰してしまうのです。
ロミオスがマリアナとケルマデックのその後を知ったら地団太踏んで悔しがるでしょうけども、「結婚するバスだったんだから半分寄越せ」とか言い出すかも??
イカれてる奴に常識は通用しないので(笑)
ラストまでお付き合いいただきありがとうございました。(*^-^*)
ウフウフ( *´艸`)❤️
侯爵夫人の優雅な180日
読んでこ~ε=(ノ・∀・)ツ
コメントありがとうございます。<(_ _)>
(ΦωΦ)フフフ…読んで頂けますか。
ようこそここへギャラクシーな世界(笑)
って!!これこれ!夜中の1時を過ぎているではありませんか!
夜更かしは美容の大敵で御座いますよ(*^-^*)
ツルプヤなアナタを独り占めしたいワシはどうしたらいいんだろ(;^_^A
そちらでも笑って頂けると嬉しいです(*^-^*)
★~★欄を拝借★~★
今回も44件と沢山のコメントを頂きありがとうございました<(_ _)>
遂に100話目も投稿が終わり、これからは222話目のニャニャーンに向けて頑張りたいと思います。
読んで頂きありがとうございました\(^_^)/サンクス
3日間の濃厚連載、お疲れ様でした✨
マリアナとケルマデックの由来はやっぱり海溝なんですね~🌊 確かに名前からして深過ぎる…🚢 トラフは地震の時に毎回登場するアレですよね😔
小学生の頃の地図帳に載ってたマリアナ海溝とか小笠原海溝等々、色々眺めて記憶したものです☺️ (何故か中学受験で役立ちました) 海溝と海淵の違いとかも気になって調べたりしたものの、辞書や子供向けの図鑑では情報不足でちょっと調べるのにも一苦労…といった感じでした😢 (今はスマホで簡単に検索🔍️)
2人が出逢って互いに一目惚れ🌸💕状態になってからの激甘なじゃれ合い(髪わしゃわしゃ攻撃vs巨乳顔面アタック?)が面白いというか微笑ましいというか、何とも可愛いというか…おかげさまで、終盤まで前半のクズップル(ロミジュリ)のことなんてすっかり頭から消え去ってしまってました(笑) 捕縛されたものの量刑不明だし、クズのくせにしぶとく生き永らえそうな気が…😱
(それこそ、ちょいと日本海溝辺りに沈めとかないと)
今回も要所要所て腹筋の訓練が出来るほど笑いました。ありがとうございます😆
また次の新作を楽しみにお待ちしております😃
コメントありがとうございます。<(_ _)>
そうなのですよ(*^-^*)マリアナは侯爵家の家名もトレンチで海溝なのでマリアナ海溝なのですよ~(笑)
ケルマデックもサウスサンドもプエールトリコもカムチャツカも海溝の名前で御座いました(*^-^*)
小学校の時の海溝を覚える授業…まさにね…海溝と海淵の違いってなんや!っと悩みました。海溝の中でさらに深い部分…「千代田区(海溝)の1丁目(海淵)」と教えてくれたら面倒な「海淵の淵」って字も書くのに(笑)
ですが、あの時もNO.1はマリアナ海溝で、2番目以降は…碌に覚えられなかった(笑)
これがね~仕事となって給料が発生すると何故か覚えちゃう不思議。ワシは銭に弱いのか?!
ロミオスはまさかまさかの保釈になる予定で御座いまよ(*^-^*)
それが一番怖いので捕縛される訳には行かず逃げ回っておりました。お尋ね者になったのも暴行と窃盗。その後盗みを繰り返したので罪は重くなっていますけども、保釈金を積まれて自由になるかと思いきや、復讐されちゃうのですよ。喧嘩する相手は考えないといけなかった(笑)
自分のためにではなく、相手の為に何かできないかなと思い合う2人。
マリアナの深~い愛で育ったイチゴが甘くなる頃にはオメデタだと思います(*^-^*)
楽しんで頂けて良かったです(*^-^*)
ラストまでお付き合いいただきありがとうございました。<(_ _)>