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第32話   空き巣を閉じ込めろ

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どんなに捜索をしても空き巣は見つからない。

「もう一度空き家を調べよう」
「でも空き家ですよ?何もないし、調べた時も何もなかったでしょう?」
「調べた後に住み着いている可能性もある。金品がありそうなところだけを物色しているし、手慣れているとすればアジトにするところも目星をつけて潜伏しているんじゃないか?って所に捜索後に入り込んでいる事も考えられるだろう」

ケルマデックが急ぐのも訳があった。
2カ月前にトレンチ侯爵家から侯爵が遂にやって来るという知らせがあった。

数日のうちに到着すると思われるのは先発隊の騎士が昨日の夕方にやって来て「早くて2日、途中で何かあれば3日で到着する」と知らせに来たのだ。

こちらの了解の返事を持って騎士は折り返して行ったが、侯爵が到着する前に空き巣を何とかしたい。

雨の日は家に家人がいるので入らないようだが、晴れている日留守になる家屋は毎日1、2件が被害にあう。何としても犯人を捕縛したかった。

そんな時だった。

ララが見回りをする領民の元に駆け込んできた。

「大変です!お嬢様が!お嬢様が!!」
「どうしたんだララっ!」
「空き巣っ!空き巣っ!!」

ララも混乱しているのもあって、懸命に走って来て必要な事だけを繰り返すだけ。

「取り敢えず、こっちだな?!」

うんうんと息を整えながら頷くララを領民の1人が背負い、ララは揺れる背中で話をした。

マリアナが野菜を家屋で育てるために利用している空き家は5軒ある。そのうちの1軒、一番大きくてメインとするはずだった家屋は空き巣と思われる人物に荒らされた。

他の4軒の家屋も点検をして鍵をもっと強固なものに付け替えるためにララと向かった。最初の2軒は何事もなく苗に水をやり、鍵を付け替えた。

3軒目に行った時、外から異変は感じ取る事が出来た。

「なんだよチクショー!ここもかよ!馬鹿にしてんのか!」

ガタン、ガシャンと大きな音が聞こえてくるのにマリアナとララはそっと窓から中の様子を伺った。

「空き巣っ!」
「しぃっ!声を出しちゃダメ。ララさんは見回りしてる人を探して知らせて」
「お嬢様はどうするんです?」
「入り口を塞ぐわ。この家の窓はガラスを割っても枠を外さないと外には出られないから」


まだ領地が切り売りされる前に先代トラフ伯爵に代官を任された者が住んでいた家は窓枠も金属製でそう簡単には外れないし、玄関の前には家屋の中にあった調度品やらが時期を見て片付けようと積まれたまま。
外開きの玄関扉を塞いでしまえば外には出られなくなる。

2人で閉じ込めた後に知らせに走る事も考えたが、切羽詰まった犯人は火事場の馬鹿力でも出して逃げられても困る。

「私は大丈夫。掃除用の箒も玄関前にあるし長槍の腕前は騎士団長のお墨付きなの」
「でもっ」
「はやく!アイツが暴れているうちなら走っても落ち葉を踏む音は聞こえないわ」
「ダメです。2人で玄関を塞いだ方が早いです」

頑として譲らないララにマリアナは2人で音を出来るだけ立てないように玄関前に積み上げた棚などを動かしていたのだが、これで良いだろうと思った時に、釘が飛び出た板をマリアナが踏んでしまった。


「あぅっ‥‥やっちゃった…」
「お嬢様、大丈夫ですか?!」
「大丈夫。でも…これじゃ走れないわ。ララさん。知らせに行って。私はそこの木の影に隠れてるから」
「ホントですよ?ちゃんと隠れててくださいねっ」


ララはマリアナが木の陰にしゃがみ込むのを確認して急いで見回りをしている者を探したのだった。


領民の見回り隊5人とララが到着した時、玄関は中から開けようとしているのか物凄い音がしていたが、木の影からマリアナが「ララさんっ!!」手を振っているのが見えてララは泣き出してしまった。

「よかったぁ。良かったぁ」
「おい!俺の背中に涙と涎と鼻水をつけるなよ!!」
「だってぇ。お嬢様が無事なんだもぉん」

背中から降ろして貰うとララは転がるようにマリアナに抱き着いた。

「心配だったんですよぅ。何かあったらどぉじよぉっでぇぇぇ」
「ごめんなさいね。でも、大丈夫だったでしょう?」
「うわぁぁぁん。お嬢様ぁ!」

窓ガラスも全て中から割られていて、逃げ場が無くなったロミオスは中にあった植物を植えていた箱を振り回し玄関の扉を壊そうとしていたのだが、風通しのよくなった窓から数人の男が見えた事に更に暴れだした。

外れない金属製の枠が付いた窓に手にしていた箱を投げつけ、衝撃で壊れた箱の板も拾い上げて投げつけた。


「空き巣を見つけたって?!」

狭い領にはあっという間に知らせが走る。ケルマデックは知らせを聞いて5キロの距離を全力疾走してやって来た。ケルマデックと一緒に見回りをしていた者達はまだ影も形も見当たらない。

「ケリー!」
「マリアナっ!!どうしたんだ。こんなところに危ないよ」
「旦那様。違うんですよ。奥様とララが奴を見つけて知らせてくれたんですよ」

領民の言葉にケルマデックは「まさかここも?」と昨日の空き家のようにマリアナが奮闘していた場所なのかと思うとマリアナを抱きしめてしまった。

「ありがとう。でも…本当に危険‥‥え?」

気が付いてしまった。かすかに香るのか鉄を含んだ血の匂いに。
知らせに走る時はなにも出来なかったララが靴を脱いだマリアナの足に白いハンカチを巻いていたが、そのハンカチは白いはずなのに赤い液体が付いている。

「あ。玄関をね、塞ごうとしてて」
「何をしてるんだ!大事な体なんだぞ!!」

<< えっ? >>

周囲の領民がバッとケルマデックとマリアナを見たが、ケルマデックは領民を背にしているので見えていないだろうが、領民たちは「大事な体発言」に間違いなく「オメデタ」だと思っている。

ちゃうちゃう!!とマリアナは手ぶりで示すが、「判っている。何も言うな」とばかりの生温かい視線が痛すぎる。

「兎に角、マリアナを傷つけたアイツだけは許さんっ!」
「違うの!これは!!」

空き巣は家屋の中に閉じ込められているのだから、直接的にマリアナを傷つけた訳ではないが、ケルマデックにはそんな事は関係ない。直接だろうが間接だろうがマリアナを傷つける結果となった空き巣を許す事はできなかったのだった。
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