上 下
31 / 33

第31話   お尋ね者と呼ばれて

しおりを挟む
櫓漕ぎの仕事から逃げ出したロミオスは数日は宿泊所の近くに潜んでいたが、殴ってけがをさせた相手が悪かった。

世の中全員が異性が好きとは限らない。
宿泊所で一番力を持っていた男の情夫をロミオスは殴ってしまった。

更に面倒な事にその力を持っていた男が口入屋のせがれだった。

一番のお気に入りを傷つけられた事に腹を立て、怒りは収まるどころか増すばかりで遂には稼ぎの金を誰かに盗られたという者の被害までロミオスは押し付けられる事になって「暴行、窃盗犯」としてお尋ね者になった。

「なんで俺が?!俺は人の金を盗んだ事なんか一度もないのに!」


ロミオスの中でジュエリッタの金は「盗んだ」のではなく「借りた」なので本気で盗んだことは一度もないと思い込んでいた。

そうまでしてお気に入りを傷つけられた男の執念は激しいものだった。
憲兵の力を使えば見つかるのも直ぐ。おそらく保釈金を積んでロミオスを監獄から引きずり出してなぶり殺しにするつもりなのだと直ぐに解った。

「逃げなきゃ」と思い、塒を転々としながらその場でスリや空き巣、寝込んだ酔っ払いから金を抜き取りなんとか食いつないできたが、何カ月も見つからないとなれば懸賞金が掛けられる。

ショボい罪でもありロミオスに懸けられた懸賞金は10万ポル。それでも平民には高額だったため王都には遂にいる事が出来なくなり、王都を出て周辺の領地を転々とし始めた。

生きるためにはもう盗みをするのも仕方なかった。

今も、空き巣に入り部屋の中を物色する。現金の類はなくあるのは小銭になりそうな貴金属だが、貴金属は買取店に持って行った時点で足がついてしまうのでロミオスにはゴミも同然。

キッチンにあったタマネギを生で齧り、涙目になりながらボヤいた。

「くっそぉ。シケてやがんな。金くらい置いとけってんだよ。俺に飢え死にしろってか!」


齧ったタマネギを床に投げつけると籠に入っていた人参を2本持って家を出た。

「さぁて。ここもそろそろお暇するか。山を越えたら何処の領だったかな」

街道を通れば領の境には関所があって直ぐに捕まってしまうので道なき道を進むしかない。ロミオスのこれから越えようとしている山。向こう側はトラフ領だがロミオスには領の名前は関係がない。

ちょっと留守中にお邪魔して現金があればそれでいいし、温めるだけの料理が残っていれば尚よし。

汚れた服に人参を擦りつけながら、ボリリと齧り林に入って行った。


★~★

「この頃、こんな領なのに物騒ですよねぇ」

棚でメロンの芽が出てそこそこの高さまで伸びたので、花のつぼみが付く前に支えとなる支柱を差し込んでロープと茎を紐で結ぶ作業をしながらララがマリアナに話しかける。

この頃、領内では空き巣の被害が多く寄せられるようになっていた。

貧乏な領なので現金を置いておこうにも置く現金がない。だから被害はもっぱら台所などに置いていた食料品や夕食にと作り置きした食事。2,3人は男性用の衣類が無くなったという事から空き巣は男性と思われていたが捜索をしても一向に見つからない。

「でもここは大丈夫ですよね~。取っていくにしてもまだ果物は先ですしね」
「そうね。でも悪戯されたら困るわよね」


そんな事を言いながらもトレンチ侯爵家から届いた石を敷き詰めた棚周りの箱も葉っぱが落ちていれば拾い上げる。

成長の度合いは早いような気もするという程度だが、順調。
作業を終えて、戸締りもしっかりしたのだ。


なのに…翌日、石を入れた箱の位置を動かそうとララとカムチャ、数人の領民を連れてやって来たマリアナは家の中の惨状に絶句してしまった。

「誰がこんな事を!」

家の周囲には壁に穴も開いておらず、イノシシやシカが激突し入り込んだのではない。いつもと違うのは施錠したはずの鍵が壊されていて、今朝は残骸が引っかけられていた。
動物ならそんな事はしないし、扉を閉めていくこともしない。

全ての棚がひっくり返されて、育っていた苗も踏みつけられて萎びていた。

「全部ですよ…酷い」
「犯人の痕跡みたいなのは…足跡だけですね」

散乱した土についた足跡が、何もないことに余程腹が立ったのか暴れ回った事を示していた。いい加減領民も少なく空き家の上、周囲に人が住んでいる家はない。

ケルマデックもここ数日は空き巣被害のあった家を回って盗まれたものを補填したり、見回り強化のために作業もいつもの7割で終えて領内を手分けして見回っている。

知らせを受け、息を切らせて走って来た。

「大丈夫か!マリアナっ」
「ケリー。どうしたの?お仕事は?」
「仕事どころじゃない。マリアナが大変だと聞いて!!無事でよかった」
「私は何ともないの。ただ…」


マリアナの背後には空き巣と言うよりもただ、ただ暴れ回った痕跡のある部屋が広がる。ケルマデックもマリアナが空き家でララや領民と何かをしているのは気が付いていたが、無残な苗をみて「これは?」と問うた。


「黙っててごめんなさい。何かみんなの助けになればと思って…。家の中ならほら!収穫時期もずらせるかな?とか雨の被害を受ける事もないかな?とか…色々考えて」

「マリアナっ!君にこんな苦労をさせて!俺はなんて情けないんだ!」

「違うの!ケリーは立派よ。私がやってみたいと思っただけ。それで皆の助けになれば…ケリーともっと一緒に居られるかなって…そんな気持ちだったから神様が罰を与えたのかも。欲張り過ぎって」


踏みつけられた苗を拾い上げたケルマデックは肩を落として散らばった土をララと箒で集めるマリアナを見た。

――マリアナの笑顔を奪いやがって!!――


ケルマデックにはもうただの空き巣ではない。
王家転覆の重罪人並に空き巣に対し強い恨みを抱いたのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生料理人の異世界探求記(旧 転生料理人の異世界グルメ旅)

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,421pt お気に入り:565

奪い取るより奪った後のほうが大変だけど、大丈夫なのかしら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:376pt お気に入り:6,037

(完結)婚約解消は当然でした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,117pt お気に入り:2,559

錬金術師始めました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:312pt お気に入り:1

婚約破棄されたけど前世のおかげで無事復讐できそうです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:923pt お気に入り:31

【完結】婚約破棄で私は自由になる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:440pt お気に入り:190

処理中です...