呪われ侯爵のお嫁様★嫁いだら溺愛が始まるなんて聞いてない★

cyaru

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第32話(S)  昼食のお誘い

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路地に入り、ケイトリンは涙を袖に吸わせた。

忘れていた感情は「羞恥」だけではなくもうあの頃には戻れない「後悔」もあった。

涙をぬぐい、息を1つ吐き出し路地の向こう側にある通りで店を構える青果店に向かった。
その後ろを足音を忍ばせたクロースがつけてきているとは気づかずに。


「おじさん、今日もあるかしら?」

「あ~ごめんっ!今日はこれだけしかないんだ」

店主の指さした先、キャベツやレタスの外側になっている葉を売る際に毟って放り込む木箱には3、4枚の葉っぱしかなかった。

――どうしよう。これじゃ全然足りないわ――

買い出しと言いながら義母から渡されるのは銅貨2枚。

キャベツ1個は銅貨4枚で、パン屋で焼かれたパンを買うならコッペパンが銅貨1枚。
到底夕食を買えるような手持ちではなく、ケイトリンは毎日この銅貨2枚を貯めて廃棄される野菜や魚を貰ってきて調理をし、銅貨が貯まった頃に小麦を買っていた。

卵はとても買えるような品ではないし、ミルクだってそう。
いつも水と僅かな調味料で作るパンは焼き立てじゃないと固くて食べられたものじゃない。

だとしてもラモハラ家はそれしか食べる物がないので、文句と言うスパイスをケイトリンに吐きながら義両親たちも食べてくれていた。

「店主、これと、これ。そっちのセロリに…このズッキーニもくれ」

「毎度!!」

青果店の店主が揉み手をしながらケイトリンの隣の男性から野菜を受け取る。
ハッとして隣を見るとケイトリンの隣にはクロースがいた。


「ケイト姉ちゃん。肉はどう?ミルクも必要?」

「サン君…どうして…」

「買い物だよ。多分食べきれないからケイト姉ちゃん、シェアしよう」


ケイトリンの抱えた籠は新鮮な野菜で直ぐにいっぱいになった。

「こんなことしてもらえないわ」

「だとしたら困ったな…僕、調理出来ないんだ」

「出来ないならどうしてこんなに買うの!」

「うーん…なんとなく?」


クロースは幼い頃の顔を思わせる表情でケイトリンに向かって微笑んだ。

「これで時間、あるよね?少しで良いんだ。話、出来ない?」

確かに毎日数店舗を回り、頼み込んでいるのだから少し自由な時間は出来た。
食材を押し付けられるように貰ってしまったが、有難いことに変わりはない。

ケイトリンは商店街の近くにある公園のベンチに座った。「ちょっと待ってて」と言うクロースはパン屋に入り次に肉屋で店主と話をしていて何かを抱えて持って走ってきた。

「ケイト姉ちゃん。はい」

差し出されたのはチーズを練り込んで焼いたパンに切れ目が入っていた。

「持って。焼き立てだから熱いんだ。エプロンで掴んでくれていいから」

そう言われて慌てて立ち上がり、エプロンを広げて焼き立てのチーズパンを受け取った。座ると熱いほどではないが焼き立てのいい香りが鼻孔に、太ももに温もりを感じる。

「切れ目に…この肉玉潰しを挟んで。ケチャップついてるから気を付けて」

「え?えぇ…」

パンの端をもって切れ目を広げるとミートボールを平らに潰しパティにしたのをケチャップで味付けをした総菜をクロースは紙袋から指で抓んで並べていく。

「あ、肉屋の親父。4個って言ったのに5個入れてる。ケイト姉ちゃん3つな」

ケイトリンはクスっと笑った。
クロースが小さな嘘を吐いているのはすぐわかる。きっと5個頼んだのだ。ケイトリンが1つ多くなるように。

昔もそうだった。
オヤツで食べた傷んだリンゴ。重みで潰れ腐ったところを取って食べられる部分を2人で分けて食べた後、中央にあるリンゴの種を丁寧にとって2人で植えた。

『僕はお世話が苦手だからケイト姉ちゃんが種1個多めっ』

思い出に浸っているとまたクロースは立ち上がって「ちょっと待ってて」と走り出してしまった。

肉の挟まったパンを持って待っていると今度は果物を扱う店舗にいき、そこで無理にジュースにしてもらったのだろう。

ガラスのコップに入った搾りたてのオレンジジュースを両手に1つづつ持っていた。

「食べようか。僕さ、昼食がまだだったんだけど、ケイト姉ちゃんは?」

「私は‥‥」

「そっか、まだだったか。丁度だな。肉が熱いうちに食べよう。パン屋の店主がね、このチーズパンはチーズを小さくして練り込んでるからほら!ここ!固形の所が溶けてチーズの糸引きも楽しめるっていうんだ」


肉にチーズにパン。そしてオレンジジュース。
ケイトリンは何年振りかに半分も食べないうちに満腹になった。

それだけ胃も小さくなっているのだろう。

食べきれないパンを手にケイトリンが黙っているとクロースが話しかけて来た。

「昼食に付き合ってくれてありがとう」

「え、えぇ…私こそありがとう」

「どういたしまして。で?明日も来る?この時間?」

「そうね…毎日だいたいこの時間よ」

「奇遇だな。僕も旦那様に頼まれて書類を届けに来るのがほぼこの時間なんだ。明日も昼食一緒に食べてよ」


話をするんじゃなかったのか?ケイトリンはそう思ったが幼い日と一緒。
口の横にケチャップを付けたままのクロースの笑顔を見て、指先でそっとケチャップを拭うと返事を返した。

「そうね。時間が合えば‥だけど」

「やった!約束だよ?」

「えぇ」


翌日もクロースは待っていたかのようにケイトリンに声を掛け、ベンチで並んで座り昼食を食べるようになった。

ケイトリンは荒んだ生活に少しだけ訪れた憩いの時間。
辛い生活の中の1つのルーティンである買い出しの時間を待ち侘びるようになっていった。
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