呪われ侯爵のお嫁様★嫁いだら溺愛が始まるなんて聞いてない★

cyaru

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第33話(S)  まともな事を言うようで

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ラモハラ家の食事が突然よくなれば怪しまれてしまう。

ラモハラ家の収入の8割以上は先代の懐に入るので、領地への作付けなどに必要な費用もラモハラ伯爵は「支払いをお願いします」と先代に頼まねばならない。

なら放っておけばいいと思うのは早計。

誰にと遺言などで意思が不明なまま義祖父が亡くなると、義祖父名義の遺産は全て国のものになる。
ラモハラ伯爵も守銭奴のような男だが、その遺伝子は間違いなく義祖父からきたもの。

義祖父は早々に分配を明確にすれば捨て置かれるのが解っているので、のらりくらりと引き延ばし介護をさせている。その子供たちはたった一言でいいので「譲る」としてくれればいいので足繁く訪れる。

爵位だけ残されては堪ったものじゃないと都合よくケイトリンは使われていた。


自由に使える金も少ないが食べねば死んでしまう。
銅貨2枚で買えるはずのない食材を使っていれば義母のことだ。銅貨を減らしそれで小麦を買ってこいと言われかねない。

最初はここまで少なくなかった。
銅貨50枚で銀貨1枚になる。そこまで持たせてはくれていなかったが銅貨は15~20枚が毎日手渡されていた。

枚数が減ったのはいろんな店から「おまけだよ」と入れてくれるサービス品が原因だった。

10個買えば1個おまけしてくれるパン。
5個買えば1個おまけしてくれるトマト。

義母は「おまけを多く貰えばいい」と手渡す銅貨の枚数を減らし、ついには2枚になった。

銅貨2枚で大人4人分の食材を揃えるなんて到底無理な話。
しかもその4人にケイトリンは入っていない。

ケイトリンはクロースに買ってもらった野菜を小出しにして提供した。

しかし、バレない筈がない。
傷んで捨てる筈の野菜と新鮮な野菜は味も食感も違う。

噛む力が弱くなってきた義両親の分は煮込むのでバレなかったが、最初に気が付いたのはアンジーだった。

すっかり夜の帳もおりて家人の夕食で使った食器を洗い、明日の朝食の下ごしらえをしつつ夜中に起きて「腹が減った」と言う義祖父用のスープを作っていた時だった。

ケイトリンの背中に声が掛かった。

「ねぇ。あんた。伯爵家の家名に泥を塗る気?」

茹でた芋を裏ごしする手を止めて振り返るとアンジーがいた。

「泥…ですか?」

「そう。ここ2、3週間だけど…どこで盗んできてるの?」

「盗むだなんて!そんなことしません」

「だったら…そこにどうして野菜を隠してあるの?」


アンジーはケイトリンが隠すように置いてある野菜を指さした。
今までなら歯ごたえもなく、皮を剥くときからフニャフニャしていた細い人参も今はどっしりと大きく萎びてもいない。

明らかに変わった食材。まさか厨房に来るとは計算外。
奇妙な矜持を持つ家人だから厨房など使用人が使う部屋に来ることもなかったのに。

ケイトリンはこの場をどうやって逃れようか。
それだけを考えた。


「何してるんだ。ここはお前の来るところじゃないだろう」

助け船になるのか。アンジーの背後から聞こえたのはコーネリアスの声だった。
手にはワイングラスがあるので、部屋でワインを飲もうとグラスを取りにやってきたのだろう。

この2人は最近喧嘩が絶えない。
アンジーは離れで住まうことが約束の1つなのだが、コーネリアスが離れに行く日がめっきり減って離れからはいつもお互いを罵り、怒鳴りあう声が聞こえてくる。

義祖父の清拭は昼間にするので天気の良い日は窓を開け、風を通すのだがその風に乗って喧嘩をする声も聞こえてくるのだ。

公爵家や侯爵家なら離れは本宅からは見えないところに建てるのだろうが、ラモハラ家の離れは本宅から歩数にして20歩以内。

ケイトリンが嫁いで来た時には夜中でも昼間でも盛りのついた獣の声が聞こえていた。
そういうのもあって、義祖父がなかなか領地や現金資産などを子供たちに分配する手続きを取らなかったのだ。

「他人の交尾する声など耳障りでしかない。窓を締めろ」

鼻を抓みたくなる老人特有の香りで満たされた部屋の空気の入れ替えを何度邪魔された事だろう。


――パートナーなら仲良くすればいいのに――

ケイトリンはそう思う自分に驚いた。
この2人が言い合いをするのは最近の事じゃない。ケイトリンが嫁いで8年になるが4、5年前にはもう喧嘩をしていた。激しさを増したのがここ1、2年であるだけ。

「なによ。最近ご無沙汰じゃない。だから来てあげた、だぁけぇ」

「本宅には入るな。そういう約束だ。守れないならラモハラ家から出て行ってもらう」

「なんですって?私に出て行けというの?こんなに尽くしたのに?」

「尽くした?バカ言え。お前は銭を食いつぶす寄生虫だ。ゴミだ。クズだ。どうしてお前の所に行かなくなったか…可哀想だから言わなかったんだが、教えてやるよ」

「なんだって言うのよ!」

「皴だらけで化粧でも誤魔化せない。他の女を想像しなきゃ気持ち良くもなれない。飽きたんだよ。もうババアの出番はないってことさ。ただ、これまで楽しませてくれた恩もある。だから面倒見てやった。それだけさ」


言い合いをするのなら他でやって欲しい。
ギャーギャーと騒ぐ2人の声に住み込みの使用人はいないからまだいいものの、義両親の「五月蝿い!静かにしな!」怒鳴り声も聞こえてくる。

そんな2人を目の前にしてケイトリンはゾッとした。

かの日、父が言った通りになったのだ。
コーネリアスは年を重ねたアンジーの事を蔑ろにする日が来る。
だから我慢しろと。

もう考えることもなかった、色んな選択肢のある中で「考えるだけ無駄」と思った気持ちがケイトリンの心に沸き上がる。

――どうしよう。逃げた方がいいのかな――

だが、その答えは直ぐにケイトリンの心から消えた。

――逃げるって、どこに逃げればいいの…私にそんな場所なんてない――

そう思うと、いつも言い合いをしていた2人だ。言い争う事に疲れてそれぞれの居場所に戻って行く。そしていつもと同じ繰り返しの生活が始まる。

ケイトリンは沸き上がってきた気持ちをまた押し込めた。


「いい加減にしな!五月蝿くて寝れやしないよッ!」

義母が怒鳴り込んできたことでアンジーは「五月蝿いのはアンタだ。ババア」捨てセリフを残し離れに戻って行った。

「静かにしとくれよ。全く…」

ぶつぶつと悪態をつきながら義母も部屋に戻って行く。

やっと静かになったとケイトリンはホッとしたが、同時に全身を毛虫が這ったかと思う悪寒に襲われた。

その場にはもう1人まだ残っていたのだ。
その視線に気が付き、ケイトリンは足がすくんだ。
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