呪われ侯爵のお嫁様★嫁いだら溺愛が始まるなんて聞いてない★

cyaru

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第49話  騒ぎの現況

ブレッドマン侯爵家に向かって走る馬車が速度を落とした。

「どうしたんだ?」

ジンジャーは御者の背にある小窓を開けて御者に問う。

「それが…公園の入り口で事故ですかねぇ。何かあったようです。人が集まっていて…」

「お待ちください」


ルドルフが真面目な顔をしてジンジャーとホリーに動かないようにと手で制すると馬車の天井をずらし、座面に足を乗せて天窓を開けて顔を出した。

そのままの姿勢で実況中継をしてくれる。

「何か言い争ってますね。女…女が2人と男性が1人」

「若いのか?」

「女はみた感じ…40代と20代かな。男は40代後半ですかね。年配の女が若い女の腕を掴んで辻馬車に乗せようとしてるかな。それを男が止めてる感じです」

「先には進めそうか?」

「それが‥ウチの馬車の前に商会の荷馬車が2台、向かいからくる馬車も面白がって見てるみたいなんで無理そうですね…あ~後ろにもどっかの家の馬車が付きました」

「引き返すことも無理か」

「ですね。待つしかないですかね。屋敷まであと少しなのになぁ。あ、あ、あれぇ?」


ルドルフが素っ頓狂な声をあげた。同時に馬車の横を誰かが走り抜けたようだ。

「どうしたんだ?」

「いや、今多分後ろの馬車だと思うんですけど、男が1人居りて揉めてる3人の所に走っていった…え?嘘だろ?」

「何があった?」

「旦那様、後から来た男が40くらいの女をいきなり殴りました。あれって‥‥」

「知ってる男か?」

「知ってるというか挨拶とかしたことはないんですがラモハラ伯爵家の息子?じゃないかと」

ルドルフの実況はまだ続く。
野次馬はどんどん集まってきて馬車が動くのもまだ先の事になりそうな気配。

「仕方ないわ。取り敢えず名前を聞いた人の名簿の下書きをしましょうか」

「そうだな。紙とペンを常備させていてよかった」

ホリーはルドルフと思い出せるだけ雇ってくれと言ってきた者の名前を口にする。それをジンジャーが書きとっていく。

「全部で23人でしたよね。荷運びしてくれる人が1人いや、息子さんいれたら2人でしたっけ?」

「そうね。私も全部で25人って覚えてたから…ジーク様、25人の名前あるかしら」

「ん~…21,22…あるな。名前も被ってな―――なんだぁ?」


ジンジャーが言葉を言い終わろうとしたとき、馬車の扉をドンドン!!何度も叩く音がした。

「出てきなさいよ!ゴラァ!!」

「やめろよ!侯爵家の馬車だぞ!」

「五月蝿い!離しなさいよ!そもそもで!こいつらがケイトリンを返さないからこうなってんでしょ!!」

馬車の扉を叩いているのはアンジー。
それをコーネリアスが必死に止めているようだった。

馬車についた家紋からブレッドマン侯爵家だとアンジーが気が付いたのだろう。


ホリーは今日、ケイトリンを連れてこなくて良かったと心底思った。

痩せた体はまだ細いままだが、クロースやほかの使用人と食事をするのも手伝って、昨日はバターロールを朝食で2個食べられたと嬉しそうに言っていた。

医師の診察でも極度の飢餓状態にあると言われた体。クロースとパンや肉を食べた時に実は後でかなりの腹痛と吐き気があったようで、消化不良も起こしていた。

病人のように薄いパン粥のようなものから摂取せねばならないのに医者にも見て貰っていないので知らずに無理をしたのだろう。

ブレッドマン侯爵家に来た日からは「説明を聞くのも仕事」と基本は療養でパン粥から初めて、ブルゾンの話をした頃にはミルクにパンを浸して食べられるようになり、最近はパンをそのまま食べられるようになった。

ただ生野菜などはまだで形が無くなるまで煮込んだスープや温野菜を少し食べている。

精神的にも不安定だったが、クロースが常に側にいる事と使用人たちと好きな針仕事をして、自分の意見もやっと言えるようになってきた。

クロースはあの日、「自分が死ぬとか脅したの!?」とホリーにこっぴどく叱られた。ただ、ケイトリンはクロースには気を許している部分もあるので今後はケイトリンファーストで何かと引き換えにするような取引をしない事とクロースにはくぎを刺して側に置いている。

だとしても、不意に暴言や暴力思い出す事があるようで出来るだけ刺激するようなワードは出さないように全員が気を配っているのだ。

いつかは向き合わねばならない問題でも、今はまだ時期尚早。
ケイトリンの心はまだボロボロでやっと瘡蓋が出来るかどうかなのだ。


馬車はまだ動き始めない。
無視をしても良かったのだが、馬車の周囲にいる野次馬が一斉にどよめいた。

何事かと思ったらこの停滞を招いた原因のもう片方。
チュラブリーが父親の制止を振り切り、アンジーに縋って来たのである。


「これは…出て行った方がいいのかな?」

ジンジャーは面倒くさそうに声を出した。

チュラブリーたちの諍いを収めるのは別として、少なくともジンジャーが下りて名乗れば集まった者たちは蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出し、馬車も走り出せる。

だが、ホリーはジンジャーに「行くな」と言い、腕を掴んだ。

「そんな事をして一番傷つくのはジーク様でしょう?」
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