50 / 55
第49話 騒ぎの現況
ブレッドマン侯爵家に向かって走る馬車が速度を落とした。
「どうしたんだ?」
ジンジャーは御者の背にある小窓を開けて御者に問う。
「それが…公園の入り口で事故ですかねぇ。何かあったようです。人が集まっていて…」
「お待ちください」
ルドルフが真面目な顔をしてジンジャーとホリーに動かないようにと手で制すると馬車の天井をずらし、座面に足を乗せて天窓を開けて顔を出した。
そのままの姿勢で実況中継をしてくれる。
「何か言い争ってますね。女…女が2人と男性が1人」
「若いのか?」
「女はみた感じ…40代と20代かな。男は40代後半ですかね。年配の女が若い女の腕を掴んで辻馬車に乗せようとしてるかな。それを男が止めてる感じです」
「先には進めそうか?」
「それが‥ウチの馬車の前に商会の荷馬車が2台、向かいからくる馬車も面白がって見てるみたいなんで無理そうですね…あ~後ろにもどっかの家の馬車が付きました」
「引き返すことも無理か」
「ですね。待つしかないですかね。屋敷まであと少しなのになぁ。あ、あ、あれぇ?」
ルドルフが素っ頓狂な声をあげた。同時に馬車の横を誰かが走り抜けたようだ。
「どうしたんだ?」
「いや、今多分後ろの馬車だと思うんですけど、男が1人居りて揉めてる3人の所に走っていった…え?嘘だろ?」
「何があった?」
「旦那様、後から来た男が40くらいの女をいきなり殴りました。あれって‥‥」
「知ってる男か?」
「知ってるというか挨拶とかしたことはないんですがラモハラ伯爵家の息子?じゃないかと」
ルドルフの実況はまだ続く。
野次馬はどんどん集まってきて馬車が動くのもまだ先の事になりそうな気配。
「仕方ないわ。取り敢えず名前を聞いた人の名簿の下書きをしましょうか」
「そうだな。紙とペンを常備させていてよかった」
ホリーはルドルフと思い出せるだけ雇ってくれと言ってきた者の名前を口にする。それをジンジャーが書きとっていく。
「全部で23人でしたよね。荷運びしてくれる人が1人いや、息子さんいれたら2人でしたっけ?」
「そうね。私も全部で25人って覚えてたから…ジーク様、25人の名前あるかしら」
「ん~…21,22…あるな。名前も被ってな―――なんだぁ?」
ジンジャーが言葉を言い終わろうとしたとき、馬車の扉をドンドン!!何度も叩く音がした。
「出てきなさいよ!ゴラァ!!」
「やめろよ!侯爵家の馬車だぞ!」
「五月蝿い!離しなさいよ!そもそもで!こいつらがケイトリンを返さないからこうなってんでしょ!!」
馬車の扉を叩いているのはアンジー。
それをコーネリアスが必死に止めているようだった。
馬車についた家紋からブレッドマン侯爵家だとアンジーが気が付いたのだろう。
ホリーは今日、ケイトリンを連れてこなくて良かったと心底思った。
痩せた体はまだ細いままだが、クロースやほかの使用人と食事をするのも手伝って、昨日はバターロールを朝食で2個食べられたと嬉しそうに言っていた。
医師の診察でも極度の飢餓状態にあると言われた体。クロースとパンや肉を食べた時に実は後でかなりの腹痛と吐き気があったようで、消化不良も起こしていた。
病人のように薄いパン粥のようなものから摂取せねばならないのに医者にも見て貰っていないので知らずに無理をしたのだろう。
ブレッドマン侯爵家に来た日からは「説明を聞くのも仕事」と基本は療養でパン粥から初めて、ブルゾンの話をした頃にはミルクにパンを浸して食べられるようになり、最近はパンをそのまま食べられるようになった。
ただ生野菜などはまだで形が無くなるまで煮込んだスープや温野菜を少し食べている。
精神的にも不安定だったが、クロースが常に側にいる事と使用人たちと好きな針仕事をして、自分の意見もやっと言えるようになってきた。
クロースはあの日、「自分が死ぬとか脅したの!?」とホリーにこっぴどく叱られた。ただ、ケイトリンはクロースには気を許している部分もあるので今後はケイトリンファーストで何かと引き換えにするような取引をしない事とクロースにはくぎを刺して側に置いている。
だとしても、不意に暴言や暴力思い出す事があるようで出来るだけ刺激するようなワードは出さないように全員が気を配っているのだ。
いつかは向き合わねばならない問題でも、今はまだ時期尚早。
ケイトリンの心はまだボロボロでやっと瘡蓋が出来るかどうかなのだ。
馬車はまだ動き始めない。
無視をしても良かったのだが、馬車の周囲にいる野次馬が一斉にどよめいた。
何事かと思ったらこの停滞を招いた原因のもう片方。
チュラブリーが父親の制止を振り切り、アンジーに縋って来たのである。
「これは…出て行った方がいいのかな?」
ジンジャーは面倒くさそうに声を出した。
チュラブリーたちの諍いを収めるのは別として、少なくともジンジャーが下りて名乗れば集まった者たちは蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出し、馬車も走り出せる。
だが、ホリーはジンジャーに「行くな」と言い、腕を掴んだ。
「そんな事をして一番傷つくのはジーク様でしょう?」
「どうしたんだ?」
ジンジャーは御者の背にある小窓を開けて御者に問う。
「それが…公園の入り口で事故ですかねぇ。何かあったようです。人が集まっていて…」
「お待ちください」
ルドルフが真面目な顔をしてジンジャーとホリーに動かないようにと手で制すると馬車の天井をずらし、座面に足を乗せて天窓を開けて顔を出した。
そのままの姿勢で実況中継をしてくれる。
「何か言い争ってますね。女…女が2人と男性が1人」
「若いのか?」
「女はみた感じ…40代と20代かな。男は40代後半ですかね。年配の女が若い女の腕を掴んで辻馬車に乗せようとしてるかな。それを男が止めてる感じです」
「先には進めそうか?」
「それが‥ウチの馬車の前に商会の荷馬車が2台、向かいからくる馬車も面白がって見てるみたいなんで無理そうですね…あ~後ろにもどっかの家の馬車が付きました」
「引き返すことも無理か」
「ですね。待つしかないですかね。屋敷まであと少しなのになぁ。あ、あ、あれぇ?」
ルドルフが素っ頓狂な声をあげた。同時に馬車の横を誰かが走り抜けたようだ。
「どうしたんだ?」
「いや、今多分後ろの馬車だと思うんですけど、男が1人居りて揉めてる3人の所に走っていった…え?嘘だろ?」
「何があった?」
「旦那様、後から来た男が40くらいの女をいきなり殴りました。あれって‥‥」
「知ってる男か?」
「知ってるというか挨拶とかしたことはないんですがラモハラ伯爵家の息子?じゃないかと」
ルドルフの実況はまだ続く。
野次馬はどんどん集まってきて馬車が動くのもまだ先の事になりそうな気配。
「仕方ないわ。取り敢えず名前を聞いた人の名簿の下書きをしましょうか」
「そうだな。紙とペンを常備させていてよかった」
ホリーはルドルフと思い出せるだけ雇ってくれと言ってきた者の名前を口にする。それをジンジャーが書きとっていく。
「全部で23人でしたよね。荷運びしてくれる人が1人いや、息子さんいれたら2人でしたっけ?」
「そうね。私も全部で25人って覚えてたから…ジーク様、25人の名前あるかしら」
「ん~…21,22…あるな。名前も被ってな―――なんだぁ?」
ジンジャーが言葉を言い終わろうとしたとき、馬車の扉をドンドン!!何度も叩く音がした。
「出てきなさいよ!ゴラァ!!」
「やめろよ!侯爵家の馬車だぞ!」
「五月蝿い!離しなさいよ!そもそもで!こいつらがケイトリンを返さないからこうなってんでしょ!!」
馬車の扉を叩いているのはアンジー。
それをコーネリアスが必死に止めているようだった。
馬車についた家紋からブレッドマン侯爵家だとアンジーが気が付いたのだろう。
ホリーは今日、ケイトリンを連れてこなくて良かったと心底思った。
痩せた体はまだ細いままだが、クロースやほかの使用人と食事をするのも手伝って、昨日はバターロールを朝食で2個食べられたと嬉しそうに言っていた。
医師の診察でも極度の飢餓状態にあると言われた体。クロースとパンや肉を食べた時に実は後でかなりの腹痛と吐き気があったようで、消化不良も起こしていた。
病人のように薄いパン粥のようなものから摂取せねばならないのに医者にも見て貰っていないので知らずに無理をしたのだろう。
ブレッドマン侯爵家に来た日からは「説明を聞くのも仕事」と基本は療養でパン粥から初めて、ブルゾンの話をした頃にはミルクにパンを浸して食べられるようになり、最近はパンをそのまま食べられるようになった。
ただ生野菜などはまだで形が無くなるまで煮込んだスープや温野菜を少し食べている。
精神的にも不安定だったが、クロースが常に側にいる事と使用人たちと好きな針仕事をして、自分の意見もやっと言えるようになってきた。
クロースはあの日、「自分が死ぬとか脅したの!?」とホリーにこっぴどく叱られた。ただ、ケイトリンはクロースには気を許している部分もあるので今後はケイトリンファーストで何かと引き換えにするような取引をしない事とクロースにはくぎを刺して側に置いている。
だとしても、不意に暴言や暴力思い出す事があるようで出来るだけ刺激するようなワードは出さないように全員が気を配っているのだ。
いつかは向き合わねばならない問題でも、今はまだ時期尚早。
ケイトリンの心はまだボロボロでやっと瘡蓋が出来るかどうかなのだ。
馬車はまだ動き始めない。
無視をしても良かったのだが、馬車の周囲にいる野次馬が一斉にどよめいた。
何事かと思ったらこの停滞を招いた原因のもう片方。
チュラブリーが父親の制止を振り切り、アンジーに縋って来たのである。
「これは…出て行った方がいいのかな?」
ジンジャーは面倒くさそうに声を出した。
チュラブリーたちの諍いを収めるのは別として、少なくともジンジャーが下りて名乗れば集まった者たちは蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出し、馬車も走り出せる。
だが、ホリーはジンジャーに「行くな」と言い、腕を掴んだ。
「そんな事をして一番傷つくのはジーク様でしょう?」
あなたにおすすめの小説
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
想定外の異世界トリップ。希望先とは違いますが…
宵森みなと
恋愛
異世界へと導かれた美咲は、運命に翻弄されながらも、力強く自分の道を歩き始める。
いつか、異世界にと想像していた世界とはジャンル違いで、美咲にとっては苦手なファンタジー系。
しかも、女性が少なく、結婚相手は5人以上と恋愛初心者にはハードな世界。
だが、偶然のようでいて、どこか必然のような出会いから、ともに過ごす日々のなかで芽生える絆と、ゆっくりと積み重ねられていく感情。
不器用に愛し、愛する人に理解されず、傷ついた時、女神の神殿で見つけた、もう一つの居場所。
差し出された優しさと、新たな想いに触れながら、
彼女は“自分のための人生”を選び初める。
これは、一人の女性が異世界で出逢い、傷つき、そして強くなって“本当の愛”を重ねていく物語です。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
小さくなった夫が可愛すぎて困ります
piyo
恋愛
夫が、ある日突然、幼児の姿になってしまった。
部下の開発中の魔法薬を浴びてしまい、そのとばっちりで若返ってしまったらしい。
いつも仏頂面な夫が、なんだかとっても可愛い――。
契約結婚で、一生愛とは無縁の生活を送ると思っていたノエルだったが、姿が変わってしまった夫を、つい猫可愛がりしてしまう。
「おい、撫でまわすな!」
「良いじゃありませんか。減るもんじゃないし」
これまで放置されていた妻と、不器用に愛を示す夫。
そんな二人が、じれじれ、じわじわとお互いの距離を詰めていく、甘くて切ない夫婦再生の物語
※本編完結済(全26話+後日談1話)、小話追加中
※一章ほのぼの、二章シリアスの二部構成です。
※他サイトにも投稿
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。