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第01話 落とし胤の王女
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オリビアは事情を抱えた王女だった。
その事情とは先代国王の落とし胤であること。
2年前に面倒を見ていた女性が亡くなったが、亡くなる寸前に国王の元に隣国フェルマーゼ王国の大使を通じて連絡が入った。
気の弱かった先王は従姉の公爵令嬢を王妃に迎えたが、熾烈な性格の王妃の顔色をいつも伺っている王だった。
民衆のために尽くしてきたが、王妃が先に天に召されると物忘れをするようになった。
最初は「よくあること」「誰でも経験のある事」その程度の物忘れだったが、気がつけば自分を自分として認識しない時間が出来てしまっていた。
病に伏したとして現国王に譲位をし、人目に触れない宮で療養と称し過ごしていたけれど晩節を汚すとはこの事か。
理性が失われた先王は妻とした王妃に抑圧されてきた心が解き放たれたかのように見境なく傍にいる女性使用人に手を出すようになった。
年齢も60を超えていたのでまさか子が出来るとは誰も思っていなかったが、1人の侍女が妊娠してしまった。
とても公には出来ない事実。
現国王は隣国フェルマーゼの第2王子にして大公に嫁いだ妹を通じ、女官を付けてオリビアを国外で育てる事にした。
秘匿していたのに何処から漏れたのか。
面倒を見ていた女性が病に倒れるとオリビアの周囲がきな臭くなった。
その身を保護し、オリビアとの間に子をもうけ我こそはと次の王位を狙う派閥が動き始めたため国王は自身の子として汚名を被りオリビアを城に迎え入れた。
事実上の続柄の兄姉は親ほどの年齢で、オリビアと年齢的に合うのは本当の兄姉の子供たちだが、ぽっと出に等しいオリビアには王族の挨拶など初体験。
「こんにちは。私、オリビア、よろしくね」今までの気安い挨拶が通じる訳もなく。
それまでの常識が全く通じない王宮。
オリビアは他の王子や王女に約束もなしに執務中に突撃したりであっという間に出入り禁止になってしまった。
使用人だけに世話をさせるわけにもいかず、国王は高位貴族に世話係をせよと申し付けた。
誰もが思ったものだ。
「自分でしろ」「自分でやれ」と。
しかし面と向かって国王にそんな事が言えるはずもない。
オリビア王女の世話役を買って出る貴族は1家もなかった。
当然である。
オリビア王女は特別な育ち方をしている。市井で育ったようなものだが市井を闊歩する女性たちとは違う躾けられ方で度合いで言えば貴族令嬢のそれとも違う。
中途半端な上に、それまでの教育が間違いでもないため否定する事も出来ず、かといって肯定も出来ず。
貴族の子女は幼いころから文字通り叩きこまれるものだが、ほとんどの貴族子女が体で痛みを知り習得してきたマナーなども厳しく教育をされる事を経験していないので「なりません」と強く言われると泣き出してしまう。
国王は「環境の変化も考慮してやれ」と周囲に丸投げ。
なのに成果は求められる。
学問についてもオリビア王女の習得度合いは低く、高位貴族の子女につける講師と同レベルでは理解も出来ない。貴族たちが手を挙げないのも当然の事だった。
困り果てたところにゼルバ公爵家のライエンが手を挙げた。
当主のゼルバ公爵は「当家では無理」と明言をしている中でライエンは「次期公爵家当主として」とオリビア王女の世話係に名乗り出たのだった。
「大丈夫なのか?」
決まってしまった以上、多少は公爵家からも金は出さねばならないゼルバ公爵は「面倒事をわざわざ引っ張り込んで」と迷惑そうな顔をしてライエンに問うた。
「問題ありません。クリスタもいますから」
「な?!お前、エクルドール侯爵家も巻き込むつもりか」
「いいえ?侯爵家は関係ありません。クリスタに手伝って貰うだけです」
「そのクリスタ嬢は了解したのか?!」
「いいえ?でも私の婚約者なので。私の決めたことに従うのは当然でしょう?」
ゼルバ公爵は驚いた。確かにクリスタはライエンの婚約者だがまだ結婚はしていない。
役目を引き受けるにあたって、クリスタの了解もなくクリスタにも手伝わせる事を前提にしていた事に眩暈を覚えた。
これではエクルドール侯爵家との間に確執を産んでしまうと国王に辞退を申し入れたが、他に手をあげる者がいないのだから「代わりがいれば」と交代なら辞退を認めるとけんもほろろ。
ライエンがオリビア王女の世話役となるのは決定となってしまったのだった。
その事情とは先代国王の落とし胤であること。
2年前に面倒を見ていた女性が亡くなったが、亡くなる寸前に国王の元に隣国フェルマーゼ王国の大使を通じて連絡が入った。
気の弱かった先王は従姉の公爵令嬢を王妃に迎えたが、熾烈な性格の王妃の顔色をいつも伺っている王だった。
民衆のために尽くしてきたが、王妃が先に天に召されると物忘れをするようになった。
最初は「よくあること」「誰でも経験のある事」その程度の物忘れだったが、気がつけば自分を自分として認識しない時間が出来てしまっていた。
病に伏したとして現国王に譲位をし、人目に触れない宮で療養と称し過ごしていたけれど晩節を汚すとはこの事か。
理性が失われた先王は妻とした王妃に抑圧されてきた心が解き放たれたかのように見境なく傍にいる女性使用人に手を出すようになった。
年齢も60を超えていたのでまさか子が出来るとは誰も思っていなかったが、1人の侍女が妊娠してしまった。
とても公には出来ない事実。
現国王は隣国フェルマーゼの第2王子にして大公に嫁いだ妹を通じ、女官を付けてオリビアを国外で育てる事にした。
秘匿していたのに何処から漏れたのか。
面倒を見ていた女性が病に倒れるとオリビアの周囲がきな臭くなった。
その身を保護し、オリビアとの間に子をもうけ我こそはと次の王位を狙う派閥が動き始めたため国王は自身の子として汚名を被りオリビアを城に迎え入れた。
事実上の続柄の兄姉は親ほどの年齢で、オリビアと年齢的に合うのは本当の兄姉の子供たちだが、ぽっと出に等しいオリビアには王族の挨拶など初体験。
「こんにちは。私、オリビア、よろしくね」今までの気安い挨拶が通じる訳もなく。
それまでの常識が全く通じない王宮。
オリビアは他の王子や王女に約束もなしに執務中に突撃したりであっという間に出入り禁止になってしまった。
使用人だけに世話をさせるわけにもいかず、国王は高位貴族に世話係をせよと申し付けた。
誰もが思ったものだ。
「自分でしろ」「自分でやれ」と。
しかし面と向かって国王にそんな事が言えるはずもない。
オリビア王女の世話役を買って出る貴族は1家もなかった。
当然である。
オリビア王女は特別な育ち方をしている。市井で育ったようなものだが市井を闊歩する女性たちとは違う躾けられ方で度合いで言えば貴族令嬢のそれとも違う。
中途半端な上に、それまでの教育が間違いでもないため否定する事も出来ず、かといって肯定も出来ず。
貴族の子女は幼いころから文字通り叩きこまれるものだが、ほとんどの貴族子女が体で痛みを知り習得してきたマナーなども厳しく教育をされる事を経験していないので「なりません」と強く言われると泣き出してしまう。
国王は「環境の変化も考慮してやれ」と周囲に丸投げ。
なのに成果は求められる。
学問についてもオリビア王女の習得度合いは低く、高位貴族の子女につける講師と同レベルでは理解も出来ない。貴族たちが手を挙げないのも当然の事だった。
困り果てたところにゼルバ公爵家のライエンが手を挙げた。
当主のゼルバ公爵は「当家では無理」と明言をしている中でライエンは「次期公爵家当主として」とオリビア王女の世話係に名乗り出たのだった。
「大丈夫なのか?」
決まってしまった以上、多少は公爵家からも金は出さねばならないゼルバ公爵は「面倒事をわざわざ引っ張り込んで」と迷惑そうな顔をしてライエンに問うた。
「問題ありません。クリスタもいますから」
「な?!お前、エクルドール侯爵家も巻き込むつもりか」
「いいえ?侯爵家は関係ありません。クリスタに手伝って貰うだけです」
「そのクリスタ嬢は了解したのか?!」
「いいえ?でも私の婚約者なので。私の決めたことに従うのは当然でしょう?」
ゼルバ公爵は驚いた。確かにクリスタはライエンの婚約者だがまだ結婚はしていない。
役目を引き受けるにあたって、クリスタの了解もなくクリスタにも手伝わせる事を前提にしていた事に眩暈を覚えた。
これではエクルドール侯爵家との間に確執を産んでしまうと国王に辞退を申し入れたが、他に手をあげる者がいないのだから「代わりがいれば」と交代なら辞退を認めるとけんもほろろ。
ライエンがオリビア王女の世話役となるのは決定となってしまったのだった。
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