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第07話 エクルドール侯爵の真意
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エクルドール侯爵が国王ではなく王妃に先触れを出したのには理由がある。
国王は父の先王がした事とは言え、異母妹でもあるオリビアの事は遠い地で不便もある生活をさせてしまったと負い目を感じており、何かとオリビアに都合よくしてやろうとするが、中途半端。
世話役の件もマリンシー家との婚約も言い出しただけで任せっぱなし。
責任を取るのが嫌なので、委任していると言い逃ればかりだ。
だからこそ王妃は「オリビアを受け入れようと思っている」と相談をされた時に反対をした。
どうせ誰かに世話をさせ、頃合いを見て貴族に嫁がせて何もなかったかのようにしようとしているとしか思えなかったからである。
『先王の子であることは事実でしょうが、貴方の子でもないのに』
『しかし事を公にする事は出来ないのだ』
『だから養子に迎えると?バカバカしい。我は反対です』
王妃の懸念は2つあった。
1つは王族として育っていない娘をどう扱うか。
この点についてはオリビアの年齢が17歳という事もあって、早々に国内貴族のどこかの家に臣籍降嫁させることである程度は解決する。
しかし、残念ながら受け入れてくれる高位貴族の子息に年齢が見合うものがおらず、伯爵家以下の家になるので離縁を禁じる事を含んだ金を用意せねばならない。
下手をすると隣国に嫁いだ第3王女の持参金よりも多くなる可能性がある。
もう1つはオリビアの素質だ。
ある程度は教育されているだろうが、王族に求められるモノより遥かに下であることは容易に想像できる。
そんな娘が王女として一時であっても名を連ねる事に他の王子や王女が納得をするかどうか。
王位継承権については既に第1王子が立太子をしているので横やりが入ることはないだろうが、それでも引っ掻き回される事は避けたい。
どこかのお伽噺の世界ではないが、珍獣はどうしても目を引くし、決まりごとに縛られない生き方は王族であれば誰しも1度は望んでしまいがち。自身を律してオリビアと同系列に並ぶことを嫌がってくれればいいが感化されてしまうと面倒になりかねない。
王妃は可哀想だとは思うものの、どうして生まれてすぐに始末をしなかったのかと国王を責めた。
『今更だ』
『いいえ。あの時も申しました。隣国に嫁いだエミリー様を巻き込みフェルマーゼ王国に恥部を握らせたとも言えるのですよ?』
国王もまた先王と同じでここぞ!という時にハッキリと意思表示を出来ない人間で「まぁまぁ」と周囲を宥め、誰もがシコリを抱えるが小さなシコリだからと収めようとするタイプ。
対して先代の王妃も、現王妃も切り捨てる時には切り捨てる。王家に嫁ぐのだからと教育をされてきたのだがら笑えない話だ。
しかしオリビアの件に関してはフェルマーゼ王国と勝手に話を付けてしまっていた。
今もなお、王妃はその件には納得をしておらず、国王に対しハッキリと物申せる唯一の人間だった。
★~★
「王妃殿下がオリビア王女と血縁ではないからですか?」
王族は血を大事にする。
クリスタから見て国王と王妃のオリビアに対する処遇は温度差があるのは気がついていた。だからと言ってここで王妃を担ぎ上げても問題の解決にはならないのではないか。
そう思うのにエクルドール侯爵は「これで大丈夫」とも言いたげな顔をした。
「それだけじゃない。私以上にクリスタを守るには王妃殿下を頼るしかない」
「守って頂かなくても結構。今後の私には高い塀がこの身を守ってくれましてよ?」
「まさか!?」
クリスタはメイドが淹れてくれた茶を一口飲むとエクルドール侯爵に微笑んだ。
ゼルバ公爵家は筆頭公爵家でもある。婚約が白紙となって婚約の事実が無くなっても人の記憶から抹消されるわけではないので、今後の縁は絶望的でもある。
家の負担になるのなら修道院に行こうとしている。それも戒律が厳しい事で有名な北の修道院に。そんなところに入ってしまえば命が尽きた時も家には連絡の1つも来ない。
高い塀で囲まれた修道院は出入の商会の荷馬車が日々の食料や消耗品を運ぶので修道院に入った者が塀の外に出てくることはないのだ。
「修道院など考えるな」
「それでは家の負担になります。お父様だって何時までも当主ではないのですよ」
後継ぎの兄の負担にもなる気はない。
クリスタの目には強い決意が見えたが、エクルドール侯爵は「修道院とはな。やっぱりまだ子供だ」とクリスタの頭にポンポンと手を置いた。
「何をなさるのです?それで喜ぶ年齢はとうに過ぎました」
「いやいや。幾つになろうと何処に行こうとクリスタは私の可愛い娘だよ」
エクルドール侯爵と目が合ったクリスタは、先ほどの言葉を繋げば修道院よりも安全なところに自分を置こうとしている父の真意を感じた。
「何か策があると言うのですか?」
「勿論。だから王妃殿下を頼るんだ」
「解りました。修道院は一旦忘れて、お父様の言葉に従いますわ」
国王は父の先王がした事とは言え、異母妹でもあるオリビアの事は遠い地で不便もある生活をさせてしまったと負い目を感じており、何かとオリビアに都合よくしてやろうとするが、中途半端。
世話役の件もマリンシー家との婚約も言い出しただけで任せっぱなし。
責任を取るのが嫌なので、委任していると言い逃ればかりだ。
だからこそ王妃は「オリビアを受け入れようと思っている」と相談をされた時に反対をした。
どうせ誰かに世話をさせ、頃合いを見て貴族に嫁がせて何もなかったかのようにしようとしているとしか思えなかったからである。
『先王の子であることは事実でしょうが、貴方の子でもないのに』
『しかし事を公にする事は出来ないのだ』
『だから養子に迎えると?バカバカしい。我は反対です』
王妃の懸念は2つあった。
1つは王族として育っていない娘をどう扱うか。
この点についてはオリビアの年齢が17歳という事もあって、早々に国内貴族のどこかの家に臣籍降嫁させることである程度は解決する。
しかし、残念ながら受け入れてくれる高位貴族の子息に年齢が見合うものがおらず、伯爵家以下の家になるので離縁を禁じる事を含んだ金を用意せねばならない。
下手をすると隣国に嫁いだ第3王女の持参金よりも多くなる可能性がある。
もう1つはオリビアの素質だ。
ある程度は教育されているだろうが、王族に求められるモノより遥かに下であることは容易に想像できる。
そんな娘が王女として一時であっても名を連ねる事に他の王子や王女が納得をするかどうか。
王位継承権については既に第1王子が立太子をしているので横やりが入ることはないだろうが、それでも引っ掻き回される事は避けたい。
どこかのお伽噺の世界ではないが、珍獣はどうしても目を引くし、決まりごとに縛られない生き方は王族であれば誰しも1度は望んでしまいがち。自身を律してオリビアと同系列に並ぶことを嫌がってくれればいいが感化されてしまうと面倒になりかねない。
王妃は可哀想だとは思うものの、どうして生まれてすぐに始末をしなかったのかと国王を責めた。
『今更だ』
『いいえ。あの時も申しました。隣国に嫁いだエミリー様を巻き込みフェルマーゼ王国に恥部を握らせたとも言えるのですよ?』
国王もまた先王と同じでここぞ!という時にハッキリと意思表示を出来ない人間で「まぁまぁ」と周囲を宥め、誰もがシコリを抱えるが小さなシコリだからと収めようとするタイプ。
対して先代の王妃も、現王妃も切り捨てる時には切り捨てる。王家に嫁ぐのだからと教育をされてきたのだがら笑えない話だ。
しかしオリビアの件に関してはフェルマーゼ王国と勝手に話を付けてしまっていた。
今もなお、王妃はその件には納得をしておらず、国王に対しハッキリと物申せる唯一の人間だった。
★~★
「王妃殿下がオリビア王女と血縁ではないからですか?」
王族は血を大事にする。
クリスタから見て国王と王妃のオリビアに対する処遇は温度差があるのは気がついていた。だからと言ってここで王妃を担ぎ上げても問題の解決にはならないのではないか。
そう思うのにエクルドール侯爵は「これで大丈夫」とも言いたげな顔をした。
「それだけじゃない。私以上にクリスタを守るには王妃殿下を頼るしかない」
「守って頂かなくても結構。今後の私には高い塀がこの身を守ってくれましてよ?」
「まさか!?」
クリスタはメイドが淹れてくれた茶を一口飲むとエクルドール侯爵に微笑んだ。
ゼルバ公爵家は筆頭公爵家でもある。婚約が白紙となって婚約の事実が無くなっても人の記憶から抹消されるわけではないので、今後の縁は絶望的でもある。
家の負担になるのなら修道院に行こうとしている。それも戒律が厳しい事で有名な北の修道院に。そんなところに入ってしまえば命が尽きた時も家には連絡の1つも来ない。
高い塀で囲まれた修道院は出入の商会の荷馬車が日々の食料や消耗品を運ぶので修道院に入った者が塀の外に出てくることはないのだ。
「修道院など考えるな」
「それでは家の負担になります。お父様だって何時までも当主ではないのですよ」
後継ぎの兄の負担にもなる気はない。
クリスタの目には強い決意が見えたが、エクルドール侯爵は「修道院とはな。やっぱりまだ子供だ」とクリスタの頭にポンポンと手を置いた。
「何をなさるのです?それで喜ぶ年齢はとうに過ぎました」
「いやいや。幾つになろうと何処に行こうとクリスタは私の可愛い娘だよ」
エクルドール侯爵と目が合ったクリスタは、先ほどの言葉を繋げば修道院よりも安全なところに自分を置こうとしている父の真意を感じた。
「何か策があると言うのですか?」
「勿論。だから王妃殿下を頼るんだ」
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