貴方の望んだ愛は本物ですか

cyaru

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第40話  覚えられてなかった

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ウォルスはトラボ隊に護衛される幌馬車に追い付くと、先頭まで躍り出てゼウス号を横づけた。

「トラボ隊、止まれ!止まれ!」
「兄貴、どうしたんです?隊長と話してたんじゃないんですか?」
「あぁしてた。幌馬車の客を確認しろ」
「客ですか?」

トラボの部下は御者と顔を見合わせ「おーい!松明持ってきてくれ」明かりが必要だと松明を翳す兵士を呼んだ。

幌馬車の中は静かで後方の幕をあげると手前に女性、男は奥にいた。

「な、なんなの?いきなり!!」
「貴様、名は?」
「名、名前?」

答えて良いのか、答えるのなら何と言えばよいのか。女性は幌馬車の奥にいる男性を見た。その行為がこの2人は他人ではない事を示していた。

ウォルスはゼウス号に跨ったまま幌馬車の後ろに回り込む。

「男はライエン、女は…オリビアか」
「はぁっ?呼び捨てにされる覚えはないんだけど?」
「ならオリビアで間違いないな?」
「そうよ。アンタ誰よ」
「これで2度目になるが、顔も覚えて貰っていなかったとはな」
「は?2度目?田舎者に知り合いはいないけど?」

ウォルスはオリビアから視線を外すと「男を引っ張り出せ」部下に命じた。

「やめなさいよ!乗ってこないで!降りなさいってば!!」

乗り込んでくる兵士をオリビアは制止しようとしたが力で叶うはずもなく、黙して語らぬライエンが下ろされると体を伸ばし、「やめなさいよ!」兵士に手を伸ばしたが届かずそのまま地面に落下した。

地面に両膝を付かされたライエンは馬から降りたウォルスを見て「ぺっ」唾を吐いた。

「うがっ」

同時にライエンは顎を蹴り上げられ、後方に滑って行った。

「ルベルス領に何の用だ」
「何の用?さぁ?」

幌馬車の中にいたライエンもオリビアも破落戸の兵士たちがどうなかったかを知らない。トラボ隊が来た時、本当は兵士たちが野営をしていた場所が最後の休憩所で一晩過ごすはずだったが「賊が出た」と言われ夜通し走ってルベルス領の街に行くとだけ知らされたのである。

客を不安にさせないためには護衛も付いているし安心だろうという御者の配慮、そして静かに仕留めたジョン隊とルタ隊。味方になるかどうかは別として兵士たちは既に街に到着しているとライエンとオリビアは思っていた。

だからこそ、空惚けるライエンの援護をしようとオリビアが盛大に自爆をした。

「こんなところに居ていいの?今頃クリスタは大勢の男に姦されてお悦びの真っ最中よ」
「バッ!!バカ!」
「どんな気分?エクルドール侯爵になんて言い訳しようか考えたら?凌辱された貴族令嬢なんて娼館も引き取ってくれや―――アガッ、ギヤァァ!!」

オリビアが熱い痛みを感じると同時に目の前に耳がポトリと落ちた。

「なるほどな。クリスタが目当てか。ゲスが」
「何とでも言え。その女が言うように大勢の男に抱かれた女だ。行く末が憐れだな。アーハッハ」
「言いたい事はそれだけか。王女を娶った男にしては小物だったな」
「なんだと?」

ライエンはのたうち回るオリビアを見て食ってかかりそうになったが「ハッ」小さく笑った。

「そんな女。生まれが王女であっても中身がスカスカだ。本当なら俺の高貴な血の入った子供を産ませ、クリスタを後添えに迎える予定だったんだ」

「ライッ…なんなの…それぇぇーっ!」

片耳を押さえたオリビアはライエンに飛び掛かると肩を掴み、揺すりながら「後添えって何!」叫んだ。

「後添えは後添えだ。お前に近づいたのはお前の血が必要だったんだ。私はどう足掻いても玉座は手に入らない。ならば我が子をと望むのは当然だろう。お前はその為の捨て石なんだよ」

「嘘っ。嘘よ。ライは私の事を愛してくれてるでしょう?だから襤褸屋で抱いてくれたしっ」

「だから何だよ。お前こそクリスタの後に抱いて貰って喜びでも教えて貰えばどうだ?」

「そんな…ライ、嘘でしょう?ライはそんな事言わないはずっ」

「鬱陶しいんだよ!さっきから汚い血とツバ、飛ばすな!」

「嘘よ!好きっていった!ライは私の事好きっていった!」

オリビアはライエンに縋りついたが、下腹部を蹴り飛ばされて距離が出来た。
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