41 / 44
第40話 覚えられてなかった
しおりを挟む
ウォルスはトラボ隊に護衛される幌馬車に追い付くと、先頭まで躍り出てゼウス号を横づけた。
「トラボ隊、止まれ!止まれ!」
「兄貴、どうしたんです?隊長と話してたんじゃないんですか?」
「あぁしてた。幌馬車の客を確認しろ」
「客ですか?」
トラボの部下は御者と顔を見合わせ「おーい!松明持ってきてくれ」明かりが必要だと松明を翳す兵士を呼んだ。
幌馬車の中は静かで後方の幕をあげると手前に女性、男は奥にいた。
「な、なんなの?いきなり!!」
「貴様、名は?」
「名、名前?」
答えて良いのか、答えるのなら何と言えばよいのか。女性は幌馬車の奥にいる男性を見た。その行為がこの2人は他人ではない事を示していた。
ウォルスはゼウス号に跨ったまま幌馬車の後ろに回り込む。
「男はライエン、女は…オリビアか」
「はぁっ?呼び捨てにされる覚えはないんだけど?」
「ならオリビアで間違いないな?」
「そうよ。アンタ誰よ」
「これで2度目になるが、顔も覚えて貰っていなかったとはな」
「は?2度目?田舎者に知り合いはいないけど?」
ウォルスはオリビアから視線を外すと「男を引っ張り出せ」部下に命じた。
「やめなさいよ!乗ってこないで!降りなさいってば!!」
乗り込んでくる兵士をオリビアは制止しようとしたが力で叶うはずもなく、黙して語らぬライエンが下ろされると体を伸ばし、「やめなさいよ!」兵士に手を伸ばしたが届かずそのまま地面に落下した。
地面に両膝を付かされたライエンは馬から降りたウォルスを見て「ぺっ」唾を吐いた。
「うがっ」
同時にライエンは顎を蹴り上げられ、後方に滑って行った。
「ルベルス領に何の用だ」
「何の用?さぁ?」
幌馬車の中にいたライエンもオリビアも破落戸の兵士たちがどうなかったかを知らない。トラボ隊が来た時、本当は兵士たちが野営をしていた場所が最後の休憩所で一晩過ごすはずだったが「賊が出た」と言われ夜通し走ってルベルス領の街に行くとだけ知らされたのである。
客を不安にさせないためには護衛も付いているし安心だろうという御者の配慮、そして静かに仕留めたジョン隊とルタ隊。味方になるかどうかは別として兵士たちは既に街に到着しているとライエンとオリビアは思っていた。
だからこそ、空惚けるライエンの援護をしようとオリビアが盛大に自爆をした。
「こんなところに居ていいの?今頃クリスタは大勢の男に姦されてお悦びの真っ最中よ」
「バッ!!バカ!」
「どんな気分?エクルドール侯爵になんて言い訳しようか考えたら?凌辱された貴族令嬢なんて娼館も引き取ってくれや―――アガッ、ギヤァァ!!」
オリビアが熱い痛みを感じると同時に目の前に耳がポトリと落ちた。
「なるほどな。クリスタが目当てか。ゲスが」
「何とでも言え。その女が言うように大勢の男に抱かれた女だ。行く末が憐れだな。アーハッハ」
「言いたい事はそれだけか。王女を娶った男にしては小物だったな」
「なんだと?」
ライエンはのたうち回るオリビアを見て食ってかかりそうになったが「ハッ」小さく笑った。
「そんな女。生まれが王女であっても中身がスカスカだ。本当なら俺の高貴な血の入った子供を産ませ、クリスタを後添えに迎える予定だったんだ」
「ライッ…なんなの…それぇぇーっ!」
片耳を押さえたオリビアはライエンに飛び掛かると肩を掴み、揺すりながら「後添えって何!」叫んだ。
「後添えは後添えだ。お前に近づいたのはお前の血が必要だったんだ。私はどう足掻いても玉座は手に入らない。ならば我が子をと望むのは当然だろう。お前はその為の捨て石なんだよ」
「嘘っ。嘘よ。ライは私の事を愛してくれてるでしょう?だから襤褸屋で抱いてくれたしっ」
「だから何だよ。お前こそクリスタの後に抱いて貰って喜びでも教えて貰えばどうだ?」
「そんな…ライ、嘘でしょう?ライはそんな事言わないはずっ」
「鬱陶しいんだよ!さっきから汚い血とツバ、飛ばすな!」
「嘘よ!好きっていった!ライは私の事好きっていった!」
オリビアはライエンに縋りついたが、下腹部を蹴り飛ばされて距離が出来た。
「トラボ隊、止まれ!止まれ!」
「兄貴、どうしたんです?隊長と話してたんじゃないんですか?」
「あぁしてた。幌馬車の客を確認しろ」
「客ですか?」
トラボの部下は御者と顔を見合わせ「おーい!松明持ってきてくれ」明かりが必要だと松明を翳す兵士を呼んだ。
幌馬車の中は静かで後方の幕をあげると手前に女性、男は奥にいた。
「な、なんなの?いきなり!!」
「貴様、名は?」
「名、名前?」
答えて良いのか、答えるのなら何と言えばよいのか。女性は幌馬車の奥にいる男性を見た。その行為がこの2人は他人ではない事を示していた。
ウォルスはゼウス号に跨ったまま幌馬車の後ろに回り込む。
「男はライエン、女は…オリビアか」
「はぁっ?呼び捨てにされる覚えはないんだけど?」
「ならオリビアで間違いないな?」
「そうよ。アンタ誰よ」
「これで2度目になるが、顔も覚えて貰っていなかったとはな」
「は?2度目?田舎者に知り合いはいないけど?」
ウォルスはオリビアから視線を外すと「男を引っ張り出せ」部下に命じた。
「やめなさいよ!乗ってこないで!降りなさいってば!!」
乗り込んでくる兵士をオリビアは制止しようとしたが力で叶うはずもなく、黙して語らぬライエンが下ろされると体を伸ばし、「やめなさいよ!」兵士に手を伸ばしたが届かずそのまま地面に落下した。
地面に両膝を付かされたライエンは馬から降りたウォルスを見て「ぺっ」唾を吐いた。
「うがっ」
同時にライエンは顎を蹴り上げられ、後方に滑って行った。
「ルベルス領に何の用だ」
「何の用?さぁ?」
幌馬車の中にいたライエンもオリビアも破落戸の兵士たちがどうなかったかを知らない。トラボ隊が来た時、本当は兵士たちが野営をしていた場所が最後の休憩所で一晩過ごすはずだったが「賊が出た」と言われ夜通し走ってルベルス領の街に行くとだけ知らされたのである。
客を不安にさせないためには護衛も付いているし安心だろうという御者の配慮、そして静かに仕留めたジョン隊とルタ隊。味方になるかどうかは別として兵士たちは既に街に到着しているとライエンとオリビアは思っていた。
だからこそ、空惚けるライエンの援護をしようとオリビアが盛大に自爆をした。
「こんなところに居ていいの?今頃クリスタは大勢の男に姦されてお悦びの真っ最中よ」
「バッ!!バカ!」
「どんな気分?エクルドール侯爵になんて言い訳しようか考えたら?凌辱された貴族令嬢なんて娼館も引き取ってくれや―――アガッ、ギヤァァ!!」
オリビアが熱い痛みを感じると同時に目の前に耳がポトリと落ちた。
「なるほどな。クリスタが目当てか。ゲスが」
「何とでも言え。その女が言うように大勢の男に抱かれた女だ。行く末が憐れだな。アーハッハ」
「言いたい事はそれだけか。王女を娶った男にしては小物だったな」
「なんだと?」
ライエンはのたうち回るオリビアを見て食ってかかりそうになったが「ハッ」小さく笑った。
「そんな女。生まれが王女であっても中身がスカスカだ。本当なら俺の高貴な血の入った子供を産ませ、クリスタを後添えに迎える予定だったんだ」
「ライッ…なんなの…それぇぇーっ!」
片耳を押さえたオリビアはライエンに飛び掛かると肩を掴み、揺すりながら「後添えって何!」叫んだ。
「後添えは後添えだ。お前に近づいたのはお前の血が必要だったんだ。私はどう足掻いても玉座は手に入らない。ならば我が子をと望むのは当然だろう。お前はその為の捨て石なんだよ」
「嘘っ。嘘よ。ライは私の事を愛してくれてるでしょう?だから襤褸屋で抱いてくれたしっ」
「だから何だよ。お前こそクリスタの後に抱いて貰って喜びでも教えて貰えばどうだ?」
「そんな…ライ、嘘でしょう?ライはそんな事言わないはずっ」
「鬱陶しいんだよ!さっきから汚い血とツバ、飛ばすな!」
「嘘よ!好きっていった!ライは私の事好きっていった!」
オリビアはライエンに縋りついたが、下腹部を蹴り飛ばされて距離が出来た。
957
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
王太子妃に興味はないのに
藤田菜
ファンタジー
眉目秀麗で芸術的才能もある第一王子に比べ、内気で冴えない第二王子に嫁いだアイリス。周囲にはその立場を憐れまれ、第一王子妃には冷たく当たられる。しかし誰に何と言われようとも、アイリスには関係ない。アイリスのすべきことはただ一つ、第二王子を支えることだけ。
その結果誰もが羨む王太子妃という立場になろうとも、彼女は何も変わらない。王太子妃に興味はないのだ。アイリスが興味があるものは、ただ一つだけ。
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
婚約破棄を、あなたの有責で
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢メーティリアは王太子ザッカルドの婚約者。
メーティリアはザッカルドに頼られることに慣れていたが、学園最後の一年、手助け無用の指示が国王陛下からなされた。
それに従い、メーティリアはザッカルドから確認されない限り、注意も助言もできないことになった。
しかも、問題のある令嬢エリーゼが隣国から転入し、ザッカルドはエリーゼに心惹かれていく。
そんなザッカルドに見切りをつけたメーティリアはザッカルド有責での婚約破棄を狙うことにした。
自分は初恋の人のそばで役に立ちたい。彼には妻子がいる。でも、もしかしたら……というお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる