あなたが教えてくれたもの

cyaru

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第35話  王子の務め

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店の外に抓みだされたロベルトは店の男性給仕に更に囲まれた。

「お支払いはして頂かないと困りますからね。それに困るんですよ。店の女の子に手なんかあげられると痕になっちゃうと困りますんでね」

そう言いながら体を確かめられ、指輪を買い取ってもらった金、200万は全て奪い取られた。

男性給仕曰く、「お通し代、女の子をつけたセット代、飲料代、そして慰謝料と治療費」なのだそうだ。


レティシアに金を貸すつもりはなかったが、支払いと言う名目なら諦めるしかない。

「言いたい放題言いやがって。何が本物の愛だ。僕とリアの純愛を知らないからあんなことが言えるんだ。長く良くしてやったのに恩をあだで返されるってこういう事か。くそっ!」


ロベルトの心境としてはどうして世の中の全てが自分とコーディリアを引き裂こうと動いているのか。何故温かく見守ってはくれないのか。そう思えてならない。

理不尽に切り裂かれた関係、世の不条理を考えると心の中がどす黒く染まりそうだったが、コーディリアを思い出すと気持ちが穏やかになる。

「僕は何も間違っていない。間違っているのは世の中だ。父上を含めた全てなんだ。リアだって僕の事を愛しているから婚約が無くなってしまった事にどう対処していいかわからず困惑しただけだ。なんでこんな簡単な事が皆解らないんだよ。どうして正しいことわりを受け入れようとしないんだ」


ぶつぶつと呟きながら帰る先は1つしかない。

「縁起でもない女に捕まったから出直しだ。本当にイライラさせる!」


繁華街では出入り禁止を食らったものが文句を言うのも日常茶飯事。悪態を吐きながら歩くロベルトを誰も振り返らなかった。



★~★

まだ22時前。結局城に戻ったロベルトは体が汚れている気がして使用人に命じ湯殿の用意をさせた。

レティシアに触れられた箇所はネットリとヘドロが付いているような気がして執拗に体を洗う。ごしごしと皮膚を布で擦ると痛みも感じる。

「きっとリアの心の痛みはこんなものじゃなかったはずだ」

ヒリリとする皮膚にコーディリアの受けた心の痛みを重ねてロベルトは更に体を清めた。


ロベルトが城に戻ってきたことは影から国王にも連絡が入っていた。

「一体アイツは何がしたかったんだ」

「サータン王国のユーミル様の元に向かうのが嫌なのかも知れませんわね。本当に困った子。王子の務めをなんと心得ているのかしら。再教育でもした方がよろしいのではなくて?」

「今更だ。あちらはもう6年も待ってくださっている。ロベルトが婿入りをすればサータン王国からは魔石が関税無しで輸入出来るんだ。ここに来て話をなかった事にすることは出来ぬ」

「それは判りますわ。でも魔法使いの魔力も減少の一方。いずれはサータン王国も魔石を取りつくしてしまうわ。そうなったら次はどうされるおつもりですの。霊廟まで荒らされるなんて私はごめんですわ」

「解っておるわ。ロベルトの再教育は場合によっては必要かも知れん。手配だけはしておいたほうがいいかも知れんな」

「我が子なのに、怖いお方ね」

「我が子と言えど散々に手を焼いたんだ。25にもなって親孝行の1つでもしてもらわないと帳尻も合わんだろうて」

「それもそうね。役立ってもらわないと困りますわ」


マージカル王国は魔法があるからこそ四方を他国に囲まれていても絶大な力を誇ってきた。魔法使いの数は横ばいでも1人1人が持って生まれる魔力の量は減少の一途を辿っている。

魔力は人の成長と同じで一定年齢までは増えていくが、極点と呼ばれる位置までくるとそこがピークであとは魔力が徐々に減っていく。

国王クラスになると膨大な魔力なので力が失われていくと威厳も失っていくことになる。それを補うのが魔石だが、国内の魔石はもう何年も前に掘りつくし地中からの産出はゼロ。国内産として出回っているのが魔獣の核だった。

その魔獣も近年は研究が進み、弱体化、無毒化になる個体数が増えて質の良い魔石は10個の内5個。半分になった。

サータン王国は国土のほとんどが瘴気で汚染されているため、大型で凶暴な魔獣は大陸の中でも一番多い。言い方を変えれば魔石の宝庫とも言える。

6年前にコーディリアが負傷してくれた件については国王は「渡りに船」だった。
実弟の息子であるプロテウスをユーミル女王に差し出す事も検討されていたが、プロテウスは王位継承権も低い位置にあり、サータン王国からは「この程度で我慢しろと?」と難色を示されていた。

国王にしてみれば丁度のタイミングでレティシアがやらかしてしまっただけ。
懲役で済ませたのは所謂恩赦である。そうでなければ第3王子の婚約者を亡き者にしようと企んだとされてもおかしくないので極刑が妥当だったのだ。

コーディリアも事故と言い張るので軽い刑罰で済ませる事が出来たのは僥倖だった。
何を置いても「傷物」だという大義名分までくっついてきたのだから穏便に婚約を解消できる上に、傷物を欲しがるものなどいない。純潔を持ったままコーディリアは良質な治癒の加護も保持できる。

願ったり叶ったりだったのである。


国王は従者を呼んだ。

「ロベルトだが、今後は外出も控えるように徹底してくれ」

「畏まりました」

「いいか?金がなければどうにもならんのだ。路銀の足しになるようなものは全て取り上げろ」

「畏まりました」

しかし国王のこの決断により、ロベルトの抱える負の感情とフラストレーションを増幅させてしまう事まではこの時点では誰にも予測すら出来なかった。
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