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第42話 漏れ出す負の感情
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劇場は騎士により包囲をされてレティシアの逃げ場は何処にもない。
だが、魔力を使っても踏み込めない事情があった。
レティシアは堂々とゼウスの首根っこを掴んで首にナイフの刃を充てていた。
「動けは掻っ切るわよ。高位貴族なんか死に絶えてしまうがいいわ!」
子供を盾にして誰もが苛立ち、腹を立てるが魔力を充てられると同時にレティシアが凶行に及べばゼウスが危ない。
そしてもう1か所も修羅場になっていた。
「ダメだ。出血が止まらない。もっと強い治癒の加護を持つ者は居ないか!」
最初にレティシア入ったブースにいた侯爵家の母子が懸命の治療を受けているが大きな力が使える治癒の加護を持つ者は侯爵夫人の手当で魔力をほぼ使い切り、残りは見習いしか残っていない。
それくらい致命傷とも言える傷を負っていた。
見習いの彼らに出来るのは、師匠である治癒師が内部を治療した後に行う縫合くらい。
ただそれも傷跡を残さない縫合なので必要なことだった。
体内の出血を止めないと外側だけ縫合をしても意味が無い。
更に扉が開くと、オベロンが蹴りだされた。
オベロンも負傷していて背中が大きく斬りつけられていた。
「後ろから襲ったんだな。なんて汚いやつなんだ」
「犯罪者に綺麗な奴なんかいやしねぇよ」
駆けつけてきたネプトヌス公爵は侯爵家の母子の治療のためにコーディリアを呼ぶことを決め、屋敷に従者を走らせた。一刻を争う事態。プロテウスは愛馬にコーディリアを乗せ馬を駆けさせた。
「お兄様!」
「リア・・・私より先にあの子を」
血に染まった手で示したのは今にも命の灯が消えそうな侯爵子息。
ゼウスと年齢の違わない少年はもう顔色も白に近くなっていた。
コーディリアは少年の体に手を当て、外からは見えない傷を確実に治癒していく。
少年の手を握っていた見習い治癒師が「体温が戻ってきた」と声を出した。
「傷口の縫合を。次はお兄様ね」
まだブースの中に居るゼウスの事が心配でコーディリアの手が震える。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
オベロンの傷口に手を当て治癒を施しながらも、出かける時に「明日にすれば?」「今度にすれば?」と引き留めれば良かったと激しく後悔をしてしまう。
出がけには誰もこんなことになるとは思いもしなかったのだから、たらればだ。
オベロンの治癒が終わるとコーディリアは軽い眩暈を覚えた。
治癒は思いのほか魔力を使う行為。加護ではあるが発動させるには魔力も使う。
プロテウスは加護は無くても膨大な魔力があって形を変化させて攻撃にも防御にも使うが、コーディリアは加護は大きくても魔力は小さい。生活魔法に近い水魔法と土魔法が少し使える程度。
だからこそゼウスを拾った時、何日もかけてゼウスを治癒した。
更に予想以上に魔力が減っているのは王都に来る途中でプロテウスを治癒したので、魔力は完全に元の満タン状態には戻っていない。
領民の薬草でも事足りる擦り傷、切り傷を治癒するのとは訳が違った。
――こんなところで倒れる訳にはいかない。まだゼウスが中にいるわ――
気持ちを奮い立たせるのはゼウスへの思いだけ。
プロテウスは立っているのもよぅよぅのコーディリアを支えた。
バタバタと足音がして駆けつけてきたのはロベルトだった。
レティシアが凶行に及ぶ前にロベルトの元を訪れていたのは国王も報告を受けていた。
ロベルトは自身もだか、他人の負の感情を吸着する事が出来る。
治癒は終わったけれど、最初に負傷した侯爵家の母子が危篤、さらに人質がいると聞いた国王はロベルトに「行け」と命じた。
「なんで私が?!関係ないでしょう」
「関係が無かったら何もしないのか?お前の所にのこのこ来ていた女がした事だ。何か密約でも交わしたのではないのか!」
「密約?!する訳がない!とんだ言いがかりだ!金を貸してくれと言われて断った!他にも何か頼み事はあったようだが僕はそんなのを聞き入れる必要はないと判断したんだ!なんでレティがした事まで僕が尻拭いをしなきゃいけないんだよ!レティの母親を乳母につけた父上が責任を取ればいいだろうが!」
「そうだな。だからお前が行くんだ。負の感情を吸い取り薄まったところで突入させる。責任を取るからお前に行かせるんだ」
「他力本願かよ!サータン王国の事もどうせ自分だけが良い思いしたいからだろう?僕は行かない。必要がないからね」
「そうか。ウーラヌス伯爵の危機にもお前は動かぬと言うんだな?」
「え?ウーラヌス…リアに何かあるのか?」
「今、人質になっているのはゼウスという少年だそうだ。お前も知らぬ仲ではないだろう」
「あのガキか。でも関係ない。リアならまだしも‥コブがいなくなって僥倖だ。アハハ」
「お前と言う奴は…」
「何とでも。サータン王国の件を見直し、リアともう一度婚約ってのなら考えてもいいですけど」
太々しいロベルトに国王は「解った」と返した。
「上手くいけば婚約の件、考えてやろう」
そんな会話があり、ロベルトは光を見た。
プロテウスに支えられて具合の悪そうなコーディリアにゆっくり近寄ると耳元で囁いた。
「リアはやっぱり僕じゃないとだめだよね」
コーディリアはロベルトから漏れ出す負の感情を感じ、ゾッとした。
これまで婚約者である期間に意図せず浄化をしてきたが、その時とは比べ物にならないドロドロとした真っ黒い靄がロベルトを覆っていた。
扉を開け「レティ」と短く名を呼んだロベルトが何をしようとしているのか察知した。
「やめて!」
コーディリアは声の限りに叫んだ。
だが、魔力を使っても踏み込めない事情があった。
レティシアは堂々とゼウスの首根っこを掴んで首にナイフの刃を充てていた。
「動けは掻っ切るわよ。高位貴族なんか死に絶えてしまうがいいわ!」
子供を盾にして誰もが苛立ち、腹を立てるが魔力を充てられると同時にレティシアが凶行に及べばゼウスが危ない。
そしてもう1か所も修羅場になっていた。
「ダメだ。出血が止まらない。もっと強い治癒の加護を持つ者は居ないか!」
最初にレティシア入ったブースにいた侯爵家の母子が懸命の治療を受けているが大きな力が使える治癒の加護を持つ者は侯爵夫人の手当で魔力をほぼ使い切り、残りは見習いしか残っていない。
それくらい致命傷とも言える傷を負っていた。
見習いの彼らに出来るのは、師匠である治癒師が内部を治療した後に行う縫合くらい。
ただそれも傷跡を残さない縫合なので必要なことだった。
体内の出血を止めないと外側だけ縫合をしても意味が無い。
更に扉が開くと、オベロンが蹴りだされた。
オベロンも負傷していて背中が大きく斬りつけられていた。
「後ろから襲ったんだな。なんて汚いやつなんだ」
「犯罪者に綺麗な奴なんかいやしねぇよ」
駆けつけてきたネプトヌス公爵は侯爵家の母子の治療のためにコーディリアを呼ぶことを決め、屋敷に従者を走らせた。一刻を争う事態。プロテウスは愛馬にコーディリアを乗せ馬を駆けさせた。
「お兄様!」
「リア・・・私より先にあの子を」
血に染まった手で示したのは今にも命の灯が消えそうな侯爵子息。
ゼウスと年齢の違わない少年はもう顔色も白に近くなっていた。
コーディリアは少年の体に手を当て、外からは見えない傷を確実に治癒していく。
少年の手を握っていた見習い治癒師が「体温が戻ってきた」と声を出した。
「傷口の縫合を。次はお兄様ね」
まだブースの中に居るゼウスの事が心配でコーディリアの手が震える。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
オベロンの傷口に手を当て治癒を施しながらも、出かける時に「明日にすれば?」「今度にすれば?」と引き留めれば良かったと激しく後悔をしてしまう。
出がけには誰もこんなことになるとは思いもしなかったのだから、たらればだ。
オベロンの治癒が終わるとコーディリアは軽い眩暈を覚えた。
治癒は思いのほか魔力を使う行為。加護ではあるが発動させるには魔力も使う。
プロテウスは加護は無くても膨大な魔力があって形を変化させて攻撃にも防御にも使うが、コーディリアは加護は大きくても魔力は小さい。生活魔法に近い水魔法と土魔法が少し使える程度。
だからこそゼウスを拾った時、何日もかけてゼウスを治癒した。
更に予想以上に魔力が減っているのは王都に来る途中でプロテウスを治癒したので、魔力は完全に元の満タン状態には戻っていない。
領民の薬草でも事足りる擦り傷、切り傷を治癒するのとは訳が違った。
――こんなところで倒れる訳にはいかない。まだゼウスが中にいるわ――
気持ちを奮い立たせるのはゼウスへの思いだけ。
プロテウスは立っているのもよぅよぅのコーディリアを支えた。
バタバタと足音がして駆けつけてきたのはロベルトだった。
レティシアが凶行に及ぶ前にロベルトの元を訪れていたのは国王も報告を受けていた。
ロベルトは自身もだか、他人の負の感情を吸着する事が出来る。
治癒は終わったけれど、最初に負傷した侯爵家の母子が危篤、さらに人質がいると聞いた国王はロベルトに「行け」と命じた。
「なんで私が?!関係ないでしょう」
「関係が無かったら何もしないのか?お前の所にのこのこ来ていた女がした事だ。何か密約でも交わしたのではないのか!」
「密約?!する訳がない!とんだ言いがかりだ!金を貸してくれと言われて断った!他にも何か頼み事はあったようだが僕はそんなのを聞き入れる必要はないと判断したんだ!なんでレティがした事まで僕が尻拭いをしなきゃいけないんだよ!レティの母親を乳母につけた父上が責任を取ればいいだろうが!」
「そうだな。だからお前が行くんだ。負の感情を吸い取り薄まったところで突入させる。責任を取るからお前に行かせるんだ」
「他力本願かよ!サータン王国の事もどうせ自分だけが良い思いしたいからだろう?僕は行かない。必要がないからね」
「そうか。ウーラヌス伯爵の危機にもお前は動かぬと言うんだな?」
「え?ウーラヌス…リアに何かあるのか?」
「今、人質になっているのはゼウスという少年だそうだ。お前も知らぬ仲ではないだろう」
「あのガキか。でも関係ない。リアならまだしも‥コブがいなくなって僥倖だ。アハハ」
「お前と言う奴は…」
「何とでも。サータン王国の件を見直し、リアともう一度婚約ってのなら考えてもいいですけど」
太々しいロベルトに国王は「解った」と返した。
「上手くいけば婚約の件、考えてやろう」
そんな会話があり、ロベルトは光を見た。
プロテウスに支えられて具合の悪そうなコーディリアにゆっくり近寄ると耳元で囁いた。
「リアはやっぱり僕じゃないとだめだよね」
コーディリアはロベルトから漏れ出す負の感情を感じ、ゾッとした。
これまで婚約者である期間に意図せず浄化をしてきたが、その時とは比べ物にならないドロドロとした真っ黒い靄がロベルトを覆っていた。
扉を開け「レティ」と短く名を呼んだロベルトが何をしようとしているのか察知した。
「やめて!」
コーディリアは声の限りに叫んだ。
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