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第06話 2人が選んだ道
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案内をされたのは王宮の中で国賓が利用する客間。
ブランジネ侯爵家の当主の部屋や夫人の部屋、サロンもかなり広かったけれど倍以上はある。
「この部屋だけで1年は何もせずに過ごせそうね」
窓の外を見れば年中なにかしらの花が咲いているのは見えるし、湯殿もクローゼットも書庫まで付いている。
アイリーンに残されている時間は僅かしかない。
ドウェインの不貞を知り、アイリーンはドウェインが外泊をするたびに心にヒビが入り、愛していた気持ちが削られていった。
どんなに美しいガラスのグラスでもヒビが入ってしまえばもう元には戻らない。木彫りの人形だって削って行けばもう元の形は残らない。
気のせいだ。
勘違いだ。
何度自分の心を誤魔化した事か。
ドウェインが帰ってきて屋敷で朝を迎えるのは外せない夜会のある日だけだった。
目が覚めれば「おはよう」と朝からアイリーンの事を気遣ってくれるけれど、午後のお茶の時間が過ぎると「用事がある」と出かけてしまう。
何処に出掛けるのか。ドウェインに問うたことはなかったけれど情報だけは入って来る。
お節介な囀り娘が夜会でアイリーンが1人になると寄ってきて新しい情報を提供してくれるのだ。
気遣う言葉を掛けながら、彼女たちの目は「平民に夫を寝取られてどんな気分?」と蔑んだ目。未婚だった頃、ドウェインに何度もアタックをしたけれど、全く相手にされないままいきなりアイリーン婚約したのだから、こんなことで憂さ晴らしをせねばいられないのだ。
「平民女と高級宿の中でも一番いい部屋から夜通し小鳥が啼く声が聞こえたそうですわ」
「あら?そのネックレス。先日外商がブランジネ侯がお買い上げになったと言ってたのと違いますわね」
「今が見頃のツツジ庭園でお見掛けしましてよ?夫婦の中がおよろしくて羨ましいわ」
婚約期間も含めて5年。宿に泊まったことはないし、ここ半年は贈られた宝飾品にネックレスはない。どこかに夫婦で出かけたことも無い。
「貴女ではない誰かと」と他人から告げられる屈辱。
アイリーンはドウェイン本人から聞いたわけでもないので聞き流していた。その場で声を荒げるのは侯爵夫人としては失格だし、悲しい事に夫が外に女を囲っている事はステイタスでもある。
アイリーンとしては「どうなの?」と思っても、貴族ならば夫の女遊びくらい笑って許すのが当たり前で騒ぐ方がどうかしていると言われてしまう。
ドウェインの不貞を知り、外泊の日が増えるたびにアイリーンの心は「やっぱり変わらない愛なんかなかった」と昔に返ってしまった。
夫婦なら会話をすればいい。アイリーンにも仲良い貴族の夫人はアイリーンを気遣い屋敷に来るたびに助言してくれたがアイリーンは会話の必要性に疑問を感じた。
もう愛は消えた。
愛してもいないのに愛人の事を問い質してどうなるのだろうと。
ドウェインが愛人と別れても、事実は消えない。
不貞関係を解消しても無かった事にならないのだからアイリーンはドウェインに不貞を知らなかった頃と同じ気持ちを持つことは出来ない。
人に言えない関係なら婚姻を解いて愛人から妻にしてやればいいだけ。
堂々と太陽の下を2人で歩ける。
略奪と後ろ指を指されようが、嘲笑されようが2人が選んだ道だ。
謝って欲しくもないし、勝った気でいて欲しくもなかった。
ブランジネ侯爵家の当主の部屋や夫人の部屋、サロンもかなり広かったけれど倍以上はある。
「この部屋だけで1年は何もせずに過ごせそうね」
窓の外を見れば年中なにかしらの花が咲いているのは見えるし、湯殿もクローゼットも書庫まで付いている。
アイリーンに残されている時間は僅かしかない。
ドウェインの不貞を知り、アイリーンはドウェインが外泊をするたびに心にヒビが入り、愛していた気持ちが削られていった。
どんなに美しいガラスのグラスでもヒビが入ってしまえばもう元には戻らない。木彫りの人形だって削って行けばもう元の形は残らない。
気のせいだ。
勘違いだ。
何度自分の心を誤魔化した事か。
ドウェインが帰ってきて屋敷で朝を迎えるのは外せない夜会のある日だけだった。
目が覚めれば「おはよう」と朝からアイリーンの事を気遣ってくれるけれど、午後のお茶の時間が過ぎると「用事がある」と出かけてしまう。
何処に出掛けるのか。ドウェインに問うたことはなかったけれど情報だけは入って来る。
お節介な囀り娘が夜会でアイリーンが1人になると寄ってきて新しい情報を提供してくれるのだ。
気遣う言葉を掛けながら、彼女たちの目は「平民に夫を寝取られてどんな気分?」と蔑んだ目。未婚だった頃、ドウェインに何度もアタックをしたけれど、全く相手にされないままいきなりアイリーン婚約したのだから、こんなことで憂さ晴らしをせねばいられないのだ。
「平民女と高級宿の中でも一番いい部屋から夜通し小鳥が啼く声が聞こえたそうですわ」
「あら?そのネックレス。先日外商がブランジネ侯がお買い上げになったと言ってたのと違いますわね」
「今が見頃のツツジ庭園でお見掛けしましてよ?夫婦の中がおよろしくて羨ましいわ」
婚約期間も含めて5年。宿に泊まったことはないし、ここ半年は贈られた宝飾品にネックレスはない。どこかに夫婦で出かけたことも無い。
「貴女ではない誰かと」と他人から告げられる屈辱。
アイリーンはドウェイン本人から聞いたわけでもないので聞き流していた。その場で声を荒げるのは侯爵夫人としては失格だし、悲しい事に夫が外に女を囲っている事はステイタスでもある。
アイリーンとしては「どうなの?」と思っても、貴族ならば夫の女遊びくらい笑って許すのが当たり前で騒ぐ方がどうかしていると言われてしまう。
ドウェインの不貞を知り、外泊の日が増えるたびにアイリーンの心は「やっぱり変わらない愛なんかなかった」と昔に返ってしまった。
夫婦なら会話をすればいい。アイリーンにも仲良い貴族の夫人はアイリーンを気遣い屋敷に来るたびに助言してくれたがアイリーンは会話の必要性に疑問を感じた。
もう愛は消えた。
愛してもいないのに愛人の事を問い質してどうなるのだろうと。
ドウェインが愛人と別れても、事実は消えない。
不貞関係を解消しても無かった事にならないのだからアイリーンはドウェインに不貞を知らなかった頃と同じ気持ちを持つことは出来ない。
人に言えない関係なら婚姻を解いて愛人から妻にしてやればいいだけ。
堂々と太陽の下を2人で歩ける。
略奪と後ろ指を指されようが、嘲笑されようが2人が選んだ道だ。
謝って欲しくもないし、勝った気でいて欲しくもなかった。
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