あなたの愛は気泡より軽い

cyaru

文字の大きさ
6 / 52

第06話  2人が選んだ道

しおりを挟む
案内をされたのは王宮の中で国賓が利用する客間。
ブランジネ侯爵家の当主の部屋や夫人の部屋、サロンもかなり広かったけれど倍以上はある。

「この部屋だけで1年は何もせずに過ごせそうね」

窓の外を見れば年中なにかしらの花が咲いているのは見えるし、湯殿もクローゼットも書庫まで付いている。

アイリーンに残されている時間は僅かしかない。


ドウェインの不貞を知り、アイリーンはドウェインが外泊をするたびに心にヒビが入り、愛していた気持ちが削られていった。

どんなに美しいガラスのグラスでもヒビが入ってしまえばもう元には戻らない。木彫りの人形だって削って行けばもう元の形は残らない。


気のせいだ。
勘違いだ。

何度自分の心を誤魔化した事か。

ドウェインが帰ってきて屋敷で朝を迎えるのは外せない夜会のある日だけだった。
目が覚めれば「おはよう」と朝からアイリーンの事を気遣ってくれるけれど、午後のお茶の時間が過ぎると「用事がある」と出かけてしまう。

何処に出掛けるのか。ドウェインに問うたことはなかったけれど情報だけは入って来る。
お節介な囀り娘が夜会でアイリーンが1人になると寄ってきて新しい情報を提供してくれるのだ。

気遣う言葉を掛けながら、彼女たちの目は「平民に夫を寝取られてどんな気分?」と蔑んだ目。未婚だった頃、ドウェインに何度もアタックをしたけれど、全く相手にされないままいきなりアイリーン婚約したのだから、こんなことで憂さ晴らしをせねばいられないのだ。

「平民女と高級宿の中でも一番いい部屋から夜通し小鳥が啼く声が聞こえたそうですわ」
「あら?そのネックレス。先日外商がブランジネ侯がお買い上げになったと言ってたのと違いますわね」
「今が見頃のツツジ庭園でお見掛けしましてよ?夫婦の中がおよろしくて羨ましいわ」


婚約期間も含めて5年。宿に泊まったことはないし、ここ半年は贈られた宝飾品にネックレスはない。どこかに夫婦で出かけたことも無い。

「貴女ではない誰かと」と他人から告げられる屈辱。
アイリーンはドウェイン本人から聞いたわけでもないので聞き流していた。その場で声を荒げるのは侯爵夫人としては失格だし、悲しい事に夫が外に女を囲っている事はステイタスでもある。

アイリーンとしては「どうなの?」と思っても、貴族ならば夫の女遊びくらい笑って許すのが当たり前で騒ぐ方がどうかしていると言われてしまう。

ドウェインの不貞を知り、外泊の日が増えるたびにアイリーンの心は「やっぱり変わらない愛なんかなかった」と昔に返ってしまった。


夫婦なら会話をすればいい。アイリーンにも仲良い貴族の夫人はアイリーンを気遣い屋敷に来るたびに助言してくれたがアイリーンは会話の必要性に疑問を感じた。

もう愛は消えた。
愛してもいないのに愛人の事を問い質してどうなるのだろうと。


ドウェインが愛人と別れても、事実は消えない。

不貞関係を解消しても無かった事にならないのだからアイリーンはドウェインに不貞を知らなかった頃と同じ気持ちを持つことは出来ない。

人に言えない関係なら婚姻を解いて愛人から妻にしてやればいいだけ。
堂々と太陽の下を2人で歩ける。

略奪と後ろ指を指されようが、嘲笑されようが2人が選んだ道だ。

謝って欲しくもないし、勝った気でいて欲しくもなかった。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

愛を乞うても

豆狸
恋愛
愛を乞うても、どんなに乞うても、私は愛されることはありませんでした。 父にも母にも婚約者にも、そして生まれて初めて恋した人にも。 だから、私は──

私があなたを好きだったころ

豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」 ※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

王子様への置き手紙

あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜

腐ったバナナ
恋愛
愛する婚約者アラン王子に裏切られ、非業の死を遂げた公爵令嬢エステル。 「二度と誰も愛さない」と誓った瞬間、【死に戻り】を果たし、愛の感情を失った冷徹な復讐者として覚醒する。 エステルの標的は、自分を裏切った元婚約者と仲間たち。彼女は未来の知識を武器に、王国の影の支配者ノア宰相と接触。「私の知性を利用し、絶対的な庇護を」と、大胆な契約結婚を持ちかける。

処理中です...