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第05話 2つの願い
王家が内々に進めていた話にアイリーンが手を挙げた時、他家は金銭を望んだがアイリーンが提示した条件は2つだった。
1つはアイリーンが生まれた時からの記録を抹消すること。
1つはシルフィーを男爵家でもいいので貴族の家に養女にすること。
国王にしてみれば赤子の手をひねるよりも簡単な願いだった。
前者の願いは、結婚と離縁を繰り返しているベルル伯爵家でドウェインと結婚する時に縁切りの手続きは終わっているし、アイリーンの母は間男と放り出された数か月後には娼館に売り飛ばされ、翌年客と身受けすると言った、する訳ないの話が縺れて刃傷沙汰になり命を落としている。
後者は金さえ出せば受け入れる家は履いて捨てるほどにある。
「願いが聞き届けられるのでしたら、他に何も思う事は御座いません」
「思う事がないとは…こう言っては何だが世間では寝取られたとも言えるのに謝罪させようとも思わないのか?君にはドウェインを1発、2発殴ったところで問題もないんだぞ」
淡々としたアイリーンに王太子は堪らずここまでの決心を復讐も無しに行えるとも思えず問うてしまった。
「まぁ。殿下」
表情の無かったアイリーンは薄く笑った。
「一度は愛した夫。その夫の末永い幸せを願って身を引く事にしたのです。謝罪だなんて。考えたことも御座いません」
王太子は「嘘だな」と思ったが、嘘と決めつける根拠がある訳ではない。
アイリーンの実家の実情も知らぬわけでもない事から男と女など所詮その程度と割り切っていると考える方しっくりくる。
――だが、さっきの笑みはなんなんだ?――
答えが出ない王太子だったが、国王は用意させていたアイリーンの望む書類を従者に持ってこさせるとアイリーンに確認をさせた。
ベルル伯爵家には過去に遡ってもアイリーンの出生の記録は無くなっていた。
勿論出生していない事になっているのでドウェインとの婚姻も事実が無くなっている。
「婚姻については先代のブランジネ侯にも話は通してある。ただ奥方の世話で頭がいっぱいのようだったからどこまで理解したかは与り知らぬ。書面で確認は取ってきたがな」
次に国王が示した書類はドウェインの婚姻歴はまだない書類だったが、2枚目を捲ると3週間後にシルフィーと結婚となる日付も入った書類、あとはドウェインの署名で完成する届けがあった。
シルフィーの身分は廃家目前の子爵家が新生活をするための金と引き換えにシルフィーを受け入れた書面が渡された。
「もう子爵令嬢なのですね」
「あぁ。但し来月で廃家になるからつかの間の子爵令嬢だがな」
「丁度廃家になる前にブランジネ侯爵家に嫁ぐ…間に合ってよかったですわ」
「1カ月も家を空けたんだ。こちらとしても根回しは簡単だった」
「権力とは恐ろしいものですわね。なかった事もあった事になってしまうなんて」
先ほどの笑みとはまた違う、悪戯っ子のような笑みを浮かべたアイリーンに王太子ルーカスは笑みの裏側を読もうとしたが、読めず諦めて笑みを返した。
「満足です。あとは私が約束を守るだけで御座います」
全てを納得したアイリーンは国王と王太子に深く礼をし、次の出発時間までを過ごす部屋に戻って行った。
1つはアイリーンが生まれた時からの記録を抹消すること。
1つはシルフィーを男爵家でもいいので貴族の家に養女にすること。
国王にしてみれば赤子の手をひねるよりも簡単な願いだった。
前者の願いは、結婚と離縁を繰り返しているベルル伯爵家でドウェインと結婚する時に縁切りの手続きは終わっているし、アイリーンの母は間男と放り出された数か月後には娼館に売り飛ばされ、翌年客と身受けすると言った、する訳ないの話が縺れて刃傷沙汰になり命を落としている。
後者は金さえ出せば受け入れる家は履いて捨てるほどにある。
「願いが聞き届けられるのでしたら、他に何も思う事は御座いません」
「思う事がないとは…こう言っては何だが世間では寝取られたとも言えるのに謝罪させようとも思わないのか?君にはドウェインを1発、2発殴ったところで問題もないんだぞ」
淡々としたアイリーンに王太子は堪らずここまでの決心を復讐も無しに行えるとも思えず問うてしまった。
「まぁ。殿下」
表情の無かったアイリーンは薄く笑った。
「一度は愛した夫。その夫の末永い幸せを願って身を引く事にしたのです。謝罪だなんて。考えたことも御座いません」
王太子は「嘘だな」と思ったが、嘘と決めつける根拠がある訳ではない。
アイリーンの実家の実情も知らぬわけでもない事から男と女など所詮その程度と割り切っていると考える方しっくりくる。
――だが、さっきの笑みはなんなんだ?――
答えが出ない王太子だったが、国王は用意させていたアイリーンの望む書類を従者に持ってこさせるとアイリーンに確認をさせた。
ベルル伯爵家には過去に遡ってもアイリーンの出生の記録は無くなっていた。
勿論出生していない事になっているのでドウェインとの婚姻も事実が無くなっている。
「婚姻については先代のブランジネ侯にも話は通してある。ただ奥方の世話で頭がいっぱいのようだったからどこまで理解したかは与り知らぬ。書面で確認は取ってきたがな」
次に国王が示した書類はドウェインの婚姻歴はまだない書類だったが、2枚目を捲ると3週間後にシルフィーと結婚となる日付も入った書類、あとはドウェインの署名で完成する届けがあった。
シルフィーの身分は廃家目前の子爵家が新生活をするための金と引き換えにシルフィーを受け入れた書面が渡された。
「もう子爵令嬢なのですね」
「あぁ。但し来月で廃家になるからつかの間の子爵令嬢だがな」
「丁度廃家になる前にブランジネ侯爵家に嫁ぐ…間に合ってよかったですわ」
「1カ月も家を空けたんだ。こちらとしても根回しは簡単だった」
「権力とは恐ろしいものですわね。なかった事もあった事になってしまうなんて」
先ほどの笑みとはまた違う、悪戯っ子のような笑みを浮かべたアイリーンに王太子ルーカスは笑みの裏側を読もうとしたが、読めず諦めて笑みを返した。
「満足です。あとは私が約束を守るだけで御座います」
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