あなたの愛は気泡より軽い

cyaru

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第13話  苦肉の策

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救助して3日、さらにメレディスとレックスの手伝いをするようになって3日。
明日には出航なので、最後の雑用を行っていた。

「アイちゃん。これ頼むわ」
「はい」
「アイちゃん。ス・マ・イ・ル♡」

頬に指をプニっと刺して首を傾け、アイリーンに笑顔を要求するメレディスにアイリーンは能面のように表情を変えずもう一度「はい」と答えて洗ったばかりの洗濯物を受け取った。

「メレディス、少し放っておいてやれよ」
「うーん。でもなぁ」

会話はするがアイリーンは心を開くわけでもなく、打ち解けた訳でもない。

突然笑い出したあとは一切の表情が消えたアイリーン。
メレディスは海で沈みかけていた原因を途中で言葉を遮って言わせなかったが、生きようという気持ちのないアイリーンが気になって仕方がなかった。

寝ている間に自死をするかもと最初の3日、メレディスは眠れなかったのだ。
言われた事はするし、言葉が通じない訳でもない。

島にいる間に汚れ物を洗ったり、水を貯め置く水瓶も洗う。
動くのはメレディスの勘が働いた時なので、それまでに雑用は全て済ませておくのだ。

足手纏いになる訳でもないが意見を言う訳でもない。
生気のないアイリーンにメレディスが構うのでレックスは呆れてしまっている。

「生粋のお嬢様って訳でもなさそうだが、育ちが良いのは間違いなさそうだな」
「そうだな。やり方は古いが洗濯も出来るし掃除も出来るしな」


育ちは歩き方や食事もだし、姿勢にも表れるし片言よりは少し通じあえる会話。
どこかいい所金持ちの娘なんだろうなとメレディスとレックスはアイリーンを見て感じた。

おや?と思ったのは洗濯や掃除が出来る事だ。簡単な事はメレディスたちの国の裕福な家の女性もするけれどアイリーンのような仕草をする女性の家には一般的な家事を行うお手伝いさんがいるのが普通だった。


「海の向こうの国の人間ってのは間違いなさそうだな」
「メレディス、どうするんだ?だとしたら厄介だぞ?」
「その時は俺の嫁さんって事にするさ」
「ま、いいけど。だったらちゃんと口裏合わせてくれって頼んでおけよ?」
「あぁ」


メレディスとレックスの母国は懸賞金稼ぎは登録をしておけば捕縛されることはないけれど、海上警備隊に停船を求められた時、乗船している者は身分を証明しろと言われてしまう。

人身売買をする悪い海賊もいるので売り渡すのか、買ったのかを疑われてしまうのだ。
その時に「妻」「姉妹」など言い訳をすれば港まで曳航されて確かめられたりする。

姉や妹などの場合、メレディスとレックスの国は身分などないので全ての人間は出生すれば登録する事を義務とされている。ただこの法律は制定されてまだ5年なので役所も天手古舞。

技術は進んでも1人1人を登録するのは手書きの文字で書類にしていくので役人の仕事量にも限界がある。そこへ天に召された、生まれたと届け出も出て来るのでその度に登録済みならまたファイルを引っ張り出して追加登録せねばならなくなる。

人口は5千万人。5年で登録が終わったのは2千万人に足りていないのでもし停船を命じられてアイリーンの事を問われた時は妻とするのが一番手っ取り早かった。

懸賞金稼ぎをするのにメレディスもレックスも届をせねばならないので家族も登録は既に終わっていて姉だ、妹だと言えば直ぐに嘘はバレるし、レックスは結婚していて重婚になってしまう。重婚は犯罪なのだ。

メレディスは国民登録を終えているので妻として届を出せば帳面に記載をされるのは後日でも、証明書は発行してもらえるので海上警備隊に提出すればいい。

あくまでも停船を求められた時のため。
女性にとって結婚は大きなイベントでもある。届を出せば翌日に離縁しても良いのだ。


アイリーンの目が覚めた時の事を思い出した。
メレディスはアイリーンに「国に帰るなら送り届ける」と言ったがアイリーンは首を横に振った。

『帰る場所などありません。私はあの国ではいない人間なのです』

メレディスを見るわけでもなく、アイリーンは真っすぐに前を向いてハッキリとそう言った。

何か帰りたくない理由があるのかも知れないと思いつつ、自死を選んであの場にいたのならそれ以上聞くべきはないと思ったのだった。

「ちょっと話してくるわ」
「ちゃんと理由を言えよ?メレディスは決めつけて押し切る所があるからな」

メレディスはレックスに背を向け、軽く手を「OK」とあげるとアイリーンのいる物干し場に歩いて行った。
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