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第23話 会いたくて
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王宮に出向いたドウェインだったが、王太子と面会が出来たのは時間にして3分も無かった。しかも移動中なので歩きながら。大事な話が出来る場でもなかった。
「殿下、どういうことですか」
「何がだ」
「私の結婚です。何故アイリーンが妻なのにあんな女がまた妻になっているんですか」
「どんな女かなど私の知る所ではない。籍の件、お前が頼んだ事そのままを頼まれてやっただけだ」
「だったら!違います。正してください!」
「二度も同じことが出来るか。あのレベルの平民を受け入れる貴族なんて滅多にいないぞ?幾らかかったと思っているんだ」
そうではない。ドウェインは訴えた。
ドウェインが頼んだのはアイリーンをベルル伯爵家から切り離す事だ。
シルフィーを子爵家に養女に迎えさせる話ではない。
籍の件と一括りにされてしまえばどちらも籍に関する事なので間違いではないが、違うんだと食い下がった。
「妃が夜会に招待状を送ったそうだが、返事がまだのようだ。夫婦そろって参加してくれることを楽しみにしているぞ」
「殿下!!待ってください!殿下!」
「お引き取りください。この先はお通し出来兼ねます」
会合の場となっている部屋の中に入って行った王太子をそれ以上追いかける事は出来ず、その後も予定がびっちりと詰まっているし、移動の時間も本来の執務の報告があるのでドウェインに取る時間はないと追い返されてしまった。
ホスタルを始めとしてアイリーンの事を知っている人間は侯爵家にはシルフィーだけ。それでは話にならない。アイリーンのいたことを証明し、今が無茶苦茶なのだとひっくり返さねばならない。
その前にアイリーンを見つけねばならない。
「アイリーン。何処に行ったんだ…会いたい。抱きしめたい…泣いてるんじゃないだろうか…あぁ‥アイリーン絶対に見つけてやるからな。今、少しだけ待っていてくれ。こうなった原因を作ったやつを生きたまま切り刻んでやるッ」
王宮からの帰り、馬車から窓の外を眺めていて、教会の十字が目に入った。
「そうだ。母上ならアイリーンの事を知っているはずだ」
ベルル家に婚約を申し入れアイリーンを囲う屋敷を用立ててくれたのは母だった。父は母が「こうします」と言えば異論は唱えない。父にとって母は絶対の唯一無二で母が黒を白と言えば父には白なのだ。
母親が40を過ぎていたので、ドウェインに弟妹はいない理由。
実は父親が子供であろうと愛する妻を独り占めする時間がある事を許さなかったのだ。
ドウェインは母親と2人だけで過ごした時間の記憶はない。いつも母親の至近距離に父がいたのだ。
ただ、そんな事情を知らない祖父母が後継ぎのスペアはいた方が良いと第2子懐妊の知らせが全くないので、若い女性をけしかけた事があった。本当に消されてしまったが。以後父親は狂人扱い。
アイリーンに会うまでは父の狂いっぷりが判らなかったが、今は解る。
蛙の子は蛙でドウェインもアイリーンに対しては狂人になれる。
父親と違うのは、アイリーンに本当の自分の全て、獣の部分を受け止めさせるのは酷だと穢れをシルフィーに向けた事だ。
揺れる馬車でドウェインは自分の手のひらを見つめた。
この手でアイリーンを腫れ上がり、皮が剥けても打ち据え、息の根が止まる寸前まで細く白い首を絞めあげる事なんて出来なかった。
「ぐぅぅっ…アイリーン‥愛してるんだ。愛してるんだよ。私にはアイリーンだけなんだ。もう二度とアイリーン以外の女なんか抱かない。薄汚い欲望も飲み込んで堪える。約束するよ。だから、だから…会いたい‥会いたいよ」
母親はアイリーンと仲が良かった。
父親も会いに来るのが女性であれば少し目を離す事もあって、女同士で行った会話も「こんなことを話してくださいました」と語ってくれたことがあった。
誰も教えてくれなくても母親なら何か知っているのではないか。
一縷の望みをかけてドウェインは両親の住まう郊外の屋敷に馬車を向かわせた。
★~★
非常に空気が悪い。
両親を目の前にしているが、父親にとってドウェインは息子なのだが「オス」としか見て貰えない。70を目の前にした母親なのに全てのオスが狙っているとしか父には見えないのだ。
そして時折母親にはご機嫌伺いで尋ねた事があったが、シルフィーと付き合い出してからは久しぶりの対面。今までになく母親の口調は冷たく感じた。
「何用です」
「あの…母上。アイリーンを知りませんか?こちらに来ていませんか?」
「アイリーン‥‥」
「ここにいるのですか?!」
ドウェインは身を乗り出した。
「殿下、どういうことですか」
「何がだ」
「私の結婚です。何故アイリーンが妻なのにあんな女がまた妻になっているんですか」
「どんな女かなど私の知る所ではない。籍の件、お前が頼んだ事そのままを頼まれてやっただけだ」
「だったら!違います。正してください!」
「二度も同じことが出来るか。あのレベルの平民を受け入れる貴族なんて滅多にいないぞ?幾らかかったと思っているんだ」
そうではない。ドウェインは訴えた。
ドウェインが頼んだのはアイリーンをベルル伯爵家から切り離す事だ。
シルフィーを子爵家に養女に迎えさせる話ではない。
籍の件と一括りにされてしまえばどちらも籍に関する事なので間違いではないが、違うんだと食い下がった。
「妃が夜会に招待状を送ったそうだが、返事がまだのようだ。夫婦そろって参加してくれることを楽しみにしているぞ」
「殿下!!待ってください!殿下!」
「お引き取りください。この先はお通し出来兼ねます」
会合の場となっている部屋の中に入って行った王太子をそれ以上追いかける事は出来ず、その後も予定がびっちりと詰まっているし、移動の時間も本来の執務の報告があるのでドウェインに取る時間はないと追い返されてしまった。
ホスタルを始めとしてアイリーンの事を知っている人間は侯爵家にはシルフィーだけ。それでは話にならない。アイリーンのいたことを証明し、今が無茶苦茶なのだとひっくり返さねばならない。
その前にアイリーンを見つけねばならない。
「アイリーン。何処に行ったんだ…会いたい。抱きしめたい…泣いてるんじゃないだろうか…あぁ‥アイリーン絶対に見つけてやるからな。今、少しだけ待っていてくれ。こうなった原因を作ったやつを生きたまま切り刻んでやるッ」
王宮からの帰り、馬車から窓の外を眺めていて、教会の十字が目に入った。
「そうだ。母上ならアイリーンの事を知っているはずだ」
ベルル家に婚約を申し入れアイリーンを囲う屋敷を用立ててくれたのは母だった。父は母が「こうします」と言えば異論は唱えない。父にとって母は絶対の唯一無二で母が黒を白と言えば父には白なのだ。
母親が40を過ぎていたので、ドウェインに弟妹はいない理由。
実は父親が子供であろうと愛する妻を独り占めする時間がある事を許さなかったのだ。
ドウェインは母親と2人だけで過ごした時間の記憶はない。いつも母親の至近距離に父がいたのだ。
ただ、そんな事情を知らない祖父母が後継ぎのスペアはいた方が良いと第2子懐妊の知らせが全くないので、若い女性をけしかけた事があった。本当に消されてしまったが。以後父親は狂人扱い。
アイリーンに会うまでは父の狂いっぷりが判らなかったが、今は解る。
蛙の子は蛙でドウェインもアイリーンに対しては狂人になれる。
父親と違うのは、アイリーンに本当の自分の全て、獣の部分を受け止めさせるのは酷だと穢れをシルフィーに向けた事だ。
揺れる馬車でドウェインは自分の手のひらを見つめた。
この手でアイリーンを腫れ上がり、皮が剥けても打ち据え、息の根が止まる寸前まで細く白い首を絞めあげる事なんて出来なかった。
「ぐぅぅっ…アイリーン‥愛してるんだ。愛してるんだよ。私にはアイリーンだけなんだ。もう二度とアイリーン以外の女なんか抱かない。薄汚い欲望も飲み込んで堪える。約束するよ。だから、だから…会いたい‥会いたいよ」
母親はアイリーンと仲が良かった。
父親も会いに来るのが女性であれば少し目を離す事もあって、女同士で行った会話も「こんなことを話してくださいました」と語ってくれたことがあった。
誰も教えてくれなくても母親なら何か知っているのではないか。
一縷の望みをかけてドウェインは両親の住まう郊外の屋敷に馬車を向かわせた。
★~★
非常に空気が悪い。
両親を目の前にしているが、父親にとってドウェインは息子なのだが「オス」としか見て貰えない。70を目の前にした母親なのに全てのオスが狙っているとしか父には見えないのだ。
そして時折母親にはご機嫌伺いで尋ねた事があったが、シルフィーと付き合い出してからは久しぶりの対面。今までになく母親の口調は冷たく感じた。
「何用です」
「あの…母上。アイリーンを知りませんか?こちらに来ていませんか?」
「アイリーン‥‥」
「ここにいるのですか?!」
ドウェインは身を乗り出した。
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