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第26話 銀行に口座開設
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「わぁ…すごく大きい!」
「でもあれは巡洋艦だからまだ小さい方だ。戦艦になると更に大きくなる」
「あれで小さいの?信じられないわ」
造船商会に勤めに出て数日後。メレディスとアイリーンは岬にやって来ていた。
幾つも簡易テントがあって、人が多いのは軍の演習があるので見物に来ている客が多いのである。
ドーン!!
空もひび割れるのではないか。そんな轟音が響くと大きな水柱が立ち上がった。
「おぉぉ~」見物客が声を揃えてどよめいた。
その帰り道、アイリーンはメレディスに問う。
「本当に侵略が始まるの?」
「そうだな。心配だよな」
「そうね…」
力の差など歴然としていた。ムーンストン大陸にある国は全てが軍事用の船を持っていて、レーノルト大陸にある国で言う騎士が持っているのは銃剣であったり移動可能な大砲。
あんな大きな水柱がたった1発の発射で立ち上がるのだから、騎乗した騎士が束になっても勝ち目などない。
時代で言えば200~300年違う。
アイリーンの身の回りにある品でも同じだ。
夜の明かりはランプではなく電気という細い線を伝ってやって来る物体が照明を点灯させる。ランプの明かりよりも数倍、数十倍明るい。
料理は一般の民家ではまだ竈だが、メレディスと住んでいる集合住宅はガスを使っているし水も井戸から汲み上げなくてもコックを捻れば水が出る。
8階まで井戸から水を組むのに往復?!とお手伝いさんに聞いて「井戸、そう言えば最近見ません。子供の頃には近寄るな危険!って言われましたけど」と、言われてしまった。
50代のお手伝いさんの子供の頃には既に使用する事も無くなっていたのだ。
馬車は車。乗り合いの辻馬車はバス。商人は荷馬車ではなく列車で荷を運ぶ。
軍事力だけでなく、何を取っても勝てる見込みはない。
せめて無血入城なら民衆の命くらいは助かるかも知れないが、単に穀物が収穫できる土地が欲しいだけではなくそこに住まう人々は無償で労働力を差し出さねばならなくなるだろう。
「救いにはならないかも知れないけど、領土とする国が違えば程度は変わるだろうな。この国なら…優秀な人材であれば登用するだろうけど、東の隣国なら有無を言わさず奴隷だ。厳しい身分制度があるからな」
せめて友人や侯爵家の使用人の皆が酷い事をされませんように。
アイリーンに出来るのは祈る事だけだった。
★~★
「はい。お給金だよ。あぁっと来年からは銀行経由になるからね」
「銀行?…あぁあの集金に来て下さる?」
「そう。大きな現金を動かすのは強盗にあったりする可能性があるからさ。もう国民登録は終わってるんだろう?今からでも銀行に口座を作っておけばいいよ」
「そうします」
アイリーンも経理の仕事をしていれば銀行も口座も意味が理解できた。
口座は自分のお金を預かってくれる財布のようなもの。預けておくだけで年に2回、少しだが利息というお礼が貰える。
銀行に預けておけば財布を落としても落とした分だけ諦めればいい。
現金支給の給料だと、給料日に強盗やスリに遭遇する人がかなりの人数出ていたし、前日や当日は企業に多額の現金が銀行から運ばれてくるので輸送車を狙っての強盗事件も起きていた。
口座の開設用紙も今月分から全ての従業員に給料袋と一緒に手渡している。銀行への振り込みを希望する者は順次切り替えていく予定である。
いつものように迎えに来てくれたメレディスと帰り道にアイリーンはまだ営業時間だったので銀行に立ち寄ってもらった。
「口座の開設ですね。ありがとうございます」
すんなりと開設できるかと思ったのだが、まだ個人で開設するには1つハードルを超えねばならなかった。
「申し訳ございません。保証人となる方の御署名をお願いいたします」
「保証人?」
「はい。通常は必要ないのですがお亡くなりになった際に残高は遺産となりますので相続の対象になるのです。口座の開設者様はもうお亡くなりになっていて出金や口座の閉鎖手続きが出来ませんのでその時に保証人様にお願いしております。皆さん…配偶者の方やお子様にされていますが…」
銀行の窓口で女子行員はチラっとメレディスを見た。
公的には結婚をしているのでメレディスでも問題はない。
「どうしましょう。メレディス」
「そうだな…これ、一旦持ち帰ってもいいですか?」
「それは構いませんが…」
一旦口座を作るのは中止し、アイリーンとメレディスは銀行を出たのだった。
「でもあれは巡洋艦だからまだ小さい方だ。戦艦になると更に大きくなる」
「あれで小さいの?信じられないわ」
造船商会に勤めに出て数日後。メレディスとアイリーンは岬にやって来ていた。
幾つも簡易テントがあって、人が多いのは軍の演習があるので見物に来ている客が多いのである。
ドーン!!
空もひび割れるのではないか。そんな轟音が響くと大きな水柱が立ち上がった。
「おぉぉ~」見物客が声を揃えてどよめいた。
その帰り道、アイリーンはメレディスに問う。
「本当に侵略が始まるの?」
「そうだな。心配だよな」
「そうね…」
力の差など歴然としていた。ムーンストン大陸にある国は全てが軍事用の船を持っていて、レーノルト大陸にある国で言う騎士が持っているのは銃剣であったり移動可能な大砲。
あんな大きな水柱がたった1発の発射で立ち上がるのだから、騎乗した騎士が束になっても勝ち目などない。
時代で言えば200~300年違う。
アイリーンの身の回りにある品でも同じだ。
夜の明かりはランプではなく電気という細い線を伝ってやって来る物体が照明を点灯させる。ランプの明かりよりも数倍、数十倍明るい。
料理は一般の民家ではまだ竈だが、メレディスと住んでいる集合住宅はガスを使っているし水も井戸から汲み上げなくてもコックを捻れば水が出る。
8階まで井戸から水を組むのに往復?!とお手伝いさんに聞いて「井戸、そう言えば最近見ません。子供の頃には近寄るな危険!って言われましたけど」と、言われてしまった。
50代のお手伝いさんの子供の頃には既に使用する事も無くなっていたのだ。
馬車は車。乗り合いの辻馬車はバス。商人は荷馬車ではなく列車で荷を運ぶ。
軍事力だけでなく、何を取っても勝てる見込みはない。
せめて無血入城なら民衆の命くらいは助かるかも知れないが、単に穀物が収穫できる土地が欲しいだけではなくそこに住まう人々は無償で労働力を差し出さねばならなくなるだろう。
「救いにはならないかも知れないけど、領土とする国が違えば程度は変わるだろうな。この国なら…優秀な人材であれば登用するだろうけど、東の隣国なら有無を言わさず奴隷だ。厳しい身分制度があるからな」
せめて友人や侯爵家の使用人の皆が酷い事をされませんように。
アイリーンに出来るのは祈る事だけだった。
★~★
「はい。お給金だよ。あぁっと来年からは銀行経由になるからね」
「銀行?…あぁあの集金に来て下さる?」
「そう。大きな現金を動かすのは強盗にあったりする可能性があるからさ。もう国民登録は終わってるんだろう?今からでも銀行に口座を作っておけばいいよ」
「そうします」
アイリーンも経理の仕事をしていれば銀行も口座も意味が理解できた。
口座は自分のお金を預かってくれる財布のようなもの。預けておくだけで年に2回、少しだが利息というお礼が貰える。
銀行に預けておけば財布を落としても落とした分だけ諦めればいい。
現金支給の給料だと、給料日に強盗やスリに遭遇する人がかなりの人数出ていたし、前日や当日は企業に多額の現金が銀行から運ばれてくるので輸送車を狙っての強盗事件も起きていた。
口座の開設用紙も今月分から全ての従業員に給料袋と一緒に手渡している。銀行への振り込みを希望する者は順次切り替えていく予定である。
いつものように迎えに来てくれたメレディスと帰り道にアイリーンはまだ営業時間だったので銀行に立ち寄ってもらった。
「口座の開設ですね。ありがとうございます」
すんなりと開設できるかと思ったのだが、まだ個人で開設するには1つハードルを超えねばならなかった。
「申し訳ございません。保証人となる方の御署名をお願いいたします」
「保証人?」
「はい。通常は必要ないのですがお亡くなりになった際に残高は遺産となりますので相続の対象になるのです。口座の開設者様はもうお亡くなりになっていて出金や口座の閉鎖手続きが出来ませんのでその時に保証人様にお願いしております。皆さん…配偶者の方やお子様にされていますが…」
銀行の窓口で女子行員はチラっとメレディスを見た。
公的には結婚をしているのでメレディスでも問題はない。
「どうしましょう。メレディス」
「そうだな…これ、一旦持ち帰ってもいいですか?」
「それは構いませんが…」
一旦口座を作るのは中止し、アイリーンとメレディスは銀行を出たのだった。
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