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第31話 所詮雇われ人
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ドウェインは急ぎ品を買い取った商会に誰が買ったのかを問い合わせをしたが、教えては貰えなかった。
破損や汚損があったようなので絵画なら枠だったり、花瓶や壺なら輸送時に覆う際のケースを新しいものに入れ替えてから引き渡したい、などそれらしい理由を考えてみたけれどけんもほろろだ。
「無理ですよ。ノークレーム・ノーリターン。品を買い取る時も、買い取った品を売る時もそう言う約束なんです」
商人は全てを理解した上で現状渡し。あとで割れていた、欠けていた、汚れていると文句を言ってくる二度目お断りの客は幾らでもいる。
この商人の買取形式は国内で一般的に行われている形態。
商人が買い取るのではなく仲介をするのだ。古物商の許可を持っている人は少ないので売りたい人と買いたい人をマッチングする。
一旦は商人が預かるけれど、商人に「こんな品はないか」「入荷したら教えてくれ」と先に注文のあった品は当然押さえていく。その他に「あの客はこういうのが好きそうだ」と嗜好を把握しているので連絡をして買うかどうかを問う。そうする事で売れない品を置いておく場所の確保も必要がない。
保管場所の確保という経費が不要なので他の商会よりも安く品が提供できるし、少し割高で買い取りも出来るのだ。
貴族の家から出される品は100%買いたいと言い出す者がいるので売れ残りがない。
何より名のある画家や陶芸家、家具はケースだけ新品にされたら偽物感倍増だし、古くて黴臭いケースや埃を被った額はセットになっているから価値がある。
ドウェインの申し出は有難迷惑でしかなかった。
「参ったな。探すしかないか」
「では捜索出来そうな人間を手配いたします」
「幾らくらいになりそうだろうか」
「未知数ですね。諸外国に向けては毎日商人も荷馬車を出しておりますし出国していないとは言い切れません」
シルフィーが品を買い取ってくれと商人を呼んでからかなりの日数が経っている。
アイリーンの捜索に気を取られていて気が付かなかったが部屋のカレンダーは月が替わっていた。
「はぁー。杯や他の物は仕方がない。だが宝鏡だけは何としても取り戻さないと」
「手を尽くしましょう。今、出来る事はそれだけです」
一礼をして捜索の手配をするために部屋から出て行こうとしたホスタルをドウェインは呼び止めた。
「ホスタル、お前、アイリーンを探してくれと頼んだ時は何もしてくれなかったのに…。宝鏡なら直ぐに動くんだな。それもそうか…所詮お前は雇われ人だからな。クビになれば責任を問われることはないのに、見つかりやすいと踏んだか。点数稼ぎもご苦労な事だ。まぁいい。無事に戻ってくれば特別に賞与も考えてやるよ」
投げやりな言葉がホスタルの矜持を逆撫でしたとは考えてもいないドウェインにホスタルは足を止め、ドウェインに体を向けた。
こうなった原因を作った主。
アイリーンを裏切った主。
先々代の代で執事見習いとして侯爵家に仕え、家令補佐となって先代の代からは家令として出来る限りの事をしてきたつもりだ。
――所詮雇われ人か――
間違いではないけれど、仕事に誇りを持ってきたホスタルは長い時間をかけて築き上げてきた矜持を泥の付いた靴で思い切り踏み、捩じられた。そんな気がした。
「旦那様、家令と言う立場にいる以上、主が間違いを犯せば王族に付く側近と同じく命を賭しても間違いを正そうとは思っております。しかしながら私の主は真に愛する方への思いが強すぎるお方。どれほどに強いかは先代様を見て知っております。明らかに無駄だと解る事に命を投げ打っても仕方がありません」
――もう一度奥様に会えるのなら命を賭す使用人は他にもいますよ。どこかにある宝鏡如きに命など懸けられるはずがないでしょう――
言葉に出来ない思いを飲み込み、もう一度静かに礼をしてホスタルは部屋を出て行った。
破損や汚損があったようなので絵画なら枠だったり、花瓶や壺なら輸送時に覆う際のケースを新しいものに入れ替えてから引き渡したい、などそれらしい理由を考えてみたけれどけんもほろろだ。
「無理ですよ。ノークレーム・ノーリターン。品を買い取る時も、買い取った品を売る時もそう言う約束なんです」
商人は全てを理解した上で現状渡し。あとで割れていた、欠けていた、汚れていると文句を言ってくる二度目お断りの客は幾らでもいる。
この商人の買取形式は国内で一般的に行われている形態。
商人が買い取るのではなく仲介をするのだ。古物商の許可を持っている人は少ないので売りたい人と買いたい人をマッチングする。
一旦は商人が預かるけれど、商人に「こんな品はないか」「入荷したら教えてくれ」と先に注文のあった品は当然押さえていく。その他に「あの客はこういうのが好きそうだ」と嗜好を把握しているので連絡をして買うかどうかを問う。そうする事で売れない品を置いておく場所の確保も必要がない。
保管場所の確保という経費が不要なので他の商会よりも安く品が提供できるし、少し割高で買い取りも出来るのだ。
貴族の家から出される品は100%買いたいと言い出す者がいるので売れ残りがない。
何より名のある画家や陶芸家、家具はケースだけ新品にされたら偽物感倍増だし、古くて黴臭いケースや埃を被った額はセットになっているから価値がある。
ドウェインの申し出は有難迷惑でしかなかった。
「参ったな。探すしかないか」
「では捜索出来そうな人間を手配いたします」
「幾らくらいになりそうだろうか」
「未知数ですね。諸外国に向けては毎日商人も荷馬車を出しておりますし出国していないとは言い切れません」
シルフィーが品を買い取ってくれと商人を呼んでからかなりの日数が経っている。
アイリーンの捜索に気を取られていて気が付かなかったが部屋のカレンダーは月が替わっていた。
「はぁー。杯や他の物は仕方がない。だが宝鏡だけは何としても取り戻さないと」
「手を尽くしましょう。今、出来る事はそれだけです」
一礼をして捜索の手配をするために部屋から出て行こうとしたホスタルをドウェインは呼び止めた。
「ホスタル、お前、アイリーンを探してくれと頼んだ時は何もしてくれなかったのに…。宝鏡なら直ぐに動くんだな。それもそうか…所詮お前は雇われ人だからな。クビになれば責任を問われることはないのに、見つかりやすいと踏んだか。点数稼ぎもご苦労な事だ。まぁいい。無事に戻ってくれば特別に賞与も考えてやるよ」
投げやりな言葉がホスタルの矜持を逆撫でしたとは考えてもいないドウェインにホスタルは足を止め、ドウェインに体を向けた。
こうなった原因を作った主。
アイリーンを裏切った主。
先々代の代で執事見習いとして侯爵家に仕え、家令補佐となって先代の代からは家令として出来る限りの事をしてきたつもりだ。
――所詮雇われ人か――
間違いではないけれど、仕事に誇りを持ってきたホスタルは長い時間をかけて築き上げてきた矜持を泥の付いた靴で思い切り踏み、捩じられた。そんな気がした。
「旦那様、家令と言う立場にいる以上、主が間違いを犯せば王族に付く側近と同じく命を賭しても間違いを正そうとは思っております。しかしながら私の主は真に愛する方への思いが強すぎるお方。どれほどに強いかは先代様を見て知っております。明らかに無駄だと解る事に命を投げ打っても仕方がありません」
――もう一度奥様に会えるのなら命を賭す使用人は他にもいますよ。どこかにある宝鏡如きに命など懸けられるはずがないでしょう――
言葉に出来ない思いを飲み込み、もう一度静かに礼をしてホスタルは部屋を出て行った。
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