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第38話 お誘い
前日まで屋敷に居座っていたドウェインとシルフィーだったが、屋敷の解体にやってきた職人たちに着の身着のままで追い出された。
「ねぇ、何処に行くの?」
「知るか!ついてくるな!」
「だって、1人じゃ生きていけないし、ドウェインだって私といた方が良いでしょう?」
「1人にしてくれよ!お前が来てから私はどれだけのものを失ったと思ってるんだ!本当にいい加減にしてくれ!」
「家とか無くなったけど私のせいじゃないわ!」
「お前のせいだ!お前と知り合って…家も身分も金も…何より大切なアイリーンまで!もう何も奪うものはない!顔を見せないでくれ!声も聴きたくないっ!」
突き放してもシルフィーはドウェインについて来た。
シルフィーも必死だ。ドウェインと付き合い始めてからシルフィーの生活はがらりと変わった。
それまでシルフィーに言い寄って来る男も居たし、ドウェインは知らないが付き合い始めて2カ月目くらいまではシルフィーには恋人と言える関係の男性が他に2人いた。
1人は鍛冶屋の息子でもう1人は靴職人の息子。
どちらの子供かは判らないけれど、子を身籠って流れた事もある。
ドウェインはシルフィーをお姫様にしてくれた。欲しいものは何でも買ってくれたし服も周囲の着ている服とは違うものになった。
「良い男と付き合うと生き方が変わるってほんとね」
それまでなんとも思わなかったのに急に周囲にいる人間が貧乏くさいし、ダサいし、汚く見えたのだ。ドウェインと比べてしまうと2人の恋人も色褪せて…いや、ただの乞食に見えた。
「汗水流して働くのがカッコいいなんて貧乏人の言う事よ。そうでも言わないとやってられないだけでしょ?貴方達と私は違う人間なの。一緒にしないで?」
そんな啖呵を切ったばかりにドウェインと1カ月過ごす直前にシルフィーには知り合いも居なくなった。
今更彼らのいる場所に戻れる訳もなく、ドウェインに捨てられてしまったら生きてはいけない。シルフィーは愛しているから一緒にいたいのではなく、生きるためにドウェインに捨てられるわけにはいかなかった。
屋敷を追い出されて行くあてもなく広場にある噴水の水で腹を満たしているとドウェインに声を掛けて来た男性がいた。
「ドウェイン?ドウェインか?」
「え?‥‥まさか…殿下?」
「あぁ、やっぱりドウェインだった。元気そうだな」
王太子は現在監視下に置かれ、指定をされた離宮で王太子妃と子供たちと軟禁となっていた。国王と王妃も監視下に置かれていてこちらは郊外の別邸に軟禁されている。
身分は無くなった社会だが、王族に付いては貴族たちよりも遅れて身分が剥奪される事になっているのは、王族を担ぎ上げてクーデターを起こす者がいる可能性を考えて、泳がされているとも言える。要は監視されているのである。
「私がいないと仕事が回らないなんて言ってた事が恥ずかしいよ。王族がいなくなっても社会はちゃんと回っている。街に出ると前より今の方が良いんじゃないかって…顔が広く知られてなくて良かったよ」
貴族には顔が知られていても平民には肖像画でしか知られていない。かなり盛られた肖像画だったので街を歩いても監視はされているが距離があるので王太子であることがバレる事はないと言う。
自嘲気味に笑う王太子だったが、住む場所がないのなら軟禁されている離宮に来ないかと誘ってくれた。
「使用人もいないから全てを自分達で行っているんだ。力仕事を手伝ってくれるなら寝る場所だけは提供できる。食べ物までは無理だがな」
裏がありそうだと思いつつも、今夜寝る場所もない。
衣食住の衣は着た切りスズメになるだろうか解決していたドウェインは住も解決するのならと前向きに考えて王太子の好意に甘える事にした。
「後ろは…奥方か」
「いえ。違――」
「初めましてぇ。えぇーっと…誰?」
ドウェインは怒りを堪えた。王太子の目の前でもあるしここは多くの人が集まる広場なので殴る事も出来ない。ドウェインの怒りを読んだのか王太子も引き攣った笑いを浮かべた。
「元気がいい奥方だね。行こうか」
それ以上声を掛けなかったのは「元気がいい=マナーがなってない」だからである。
シルフィーにウンザリしながらもドウェインは王太子について離宮に向かった。
場所に喜んだのはシルフィーだけ。
本来なら呼ばれるのも厳選されてきた離宮なのだから本当にお姫様気分になり、部屋の調度品を指さして歓声をあげる。ドウェインは怒りもだが王太子妃、その子供たちの呆れて冷えた視線を浴びる羞恥に小さくなった。
「実は…ここに呼んだのは頼みごとがあるからなんだ」
「頼み事?何でしょうか」
「見ての通り使用人も居なければ従者もいない。私はこの状況でムーンストン大陸に行き、属国…いや植民地であることを認める調印式に2か月後、出向かねばならないんだ。今もないに等しい王族の身分が残されているのはそのためだ」
「調印式ですか」
「共もいないとなれば…見栄えも悪いし、ハハハ。最後の矜持のようなものだがな」
ドウェインは考えるまでもなく王太子に「お供いたします」と即答した。
新天地であれば過去の自分が侯爵で何もかも失った男だと知る人間はいない。国力差があるのはドウェインにも解るが、侯爵としての経験と知識で成り上がれるのではないかと夢を見たからである。
同時に王太子は言葉にはしなかったが頼めるのがもうドウェインしかいない事、即答で受けてくれたことに運命かなと感じた。
ムーンストン大陸に行くのは軍艦の1隻に乗船させてもらえるが、途中でアイリーンを生贄に捧げた海域を通る。花でも手向けなければと考えたのだった。
「ねぇ、何処に行くの?」
「知るか!ついてくるな!」
「だって、1人じゃ生きていけないし、ドウェインだって私といた方が良いでしょう?」
「1人にしてくれよ!お前が来てから私はどれだけのものを失ったと思ってるんだ!本当にいい加減にしてくれ!」
「家とか無くなったけど私のせいじゃないわ!」
「お前のせいだ!お前と知り合って…家も身分も金も…何より大切なアイリーンまで!もう何も奪うものはない!顔を見せないでくれ!声も聴きたくないっ!」
突き放してもシルフィーはドウェインについて来た。
シルフィーも必死だ。ドウェインと付き合い始めてからシルフィーの生活はがらりと変わった。
それまでシルフィーに言い寄って来る男も居たし、ドウェインは知らないが付き合い始めて2カ月目くらいまではシルフィーには恋人と言える関係の男性が他に2人いた。
1人は鍛冶屋の息子でもう1人は靴職人の息子。
どちらの子供かは判らないけれど、子を身籠って流れた事もある。
ドウェインはシルフィーをお姫様にしてくれた。欲しいものは何でも買ってくれたし服も周囲の着ている服とは違うものになった。
「良い男と付き合うと生き方が変わるってほんとね」
それまでなんとも思わなかったのに急に周囲にいる人間が貧乏くさいし、ダサいし、汚く見えたのだ。ドウェインと比べてしまうと2人の恋人も色褪せて…いや、ただの乞食に見えた。
「汗水流して働くのがカッコいいなんて貧乏人の言う事よ。そうでも言わないとやってられないだけでしょ?貴方達と私は違う人間なの。一緒にしないで?」
そんな啖呵を切ったばかりにドウェインと1カ月過ごす直前にシルフィーには知り合いも居なくなった。
今更彼らのいる場所に戻れる訳もなく、ドウェインに捨てられてしまったら生きてはいけない。シルフィーは愛しているから一緒にいたいのではなく、生きるためにドウェインに捨てられるわけにはいかなかった。
屋敷を追い出されて行くあてもなく広場にある噴水の水で腹を満たしているとドウェインに声を掛けて来た男性がいた。
「ドウェイン?ドウェインか?」
「え?‥‥まさか…殿下?」
「あぁ、やっぱりドウェインだった。元気そうだな」
王太子は現在監視下に置かれ、指定をされた離宮で王太子妃と子供たちと軟禁となっていた。国王と王妃も監視下に置かれていてこちらは郊外の別邸に軟禁されている。
身分は無くなった社会だが、王族に付いては貴族たちよりも遅れて身分が剥奪される事になっているのは、王族を担ぎ上げてクーデターを起こす者がいる可能性を考えて、泳がされているとも言える。要は監視されているのである。
「私がいないと仕事が回らないなんて言ってた事が恥ずかしいよ。王族がいなくなっても社会はちゃんと回っている。街に出ると前より今の方が良いんじゃないかって…顔が広く知られてなくて良かったよ」
貴族には顔が知られていても平民には肖像画でしか知られていない。かなり盛られた肖像画だったので街を歩いても監視はされているが距離があるので王太子であることがバレる事はないと言う。
自嘲気味に笑う王太子だったが、住む場所がないのなら軟禁されている離宮に来ないかと誘ってくれた。
「使用人もいないから全てを自分達で行っているんだ。力仕事を手伝ってくれるなら寝る場所だけは提供できる。食べ物までは無理だがな」
裏がありそうだと思いつつも、今夜寝る場所もない。
衣食住の衣は着た切りスズメになるだろうか解決していたドウェインは住も解決するのならと前向きに考えて王太子の好意に甘える事にした。
「後ろは…奥方か」
「いえ。違――」
「初めましてぇ。えぇーっと…誰?」
ドウェインは怒りを堪えた。王太子の目の前でもあるしここは多くの人が集まる広場なので殴る事も出来ない。ドウェインの怒りを読んだのか王太子も引き攣った笑いを浮かべた。
「元気がいい奥方だね。行こうか」
それ以上声を掛けなかったのは「元気がいい=マナーがなってない」だからである。
シルフィーにウンザリしながらもドウェインは王太子について離宮に向かった。
場所に喜んだのはシルフィーだけ。
本来なら呼ばれるのも厳選されてきた離宮なのだから本当にお姫様気分になり、部屋の調度品を指さして歓声をあげる。ドウェインは怒りもだが王太子妃、その子供たちの呆れて冷えた視線を浴びる羞恥に小さくなった。
「実は…ここに呼んだのは頼みごとがあるからなんだ」
「頼み事?何でしょうか」
「見ての通り使用人も居なければ従者もいない。私はこの状況でムーンストン大陸に行き、属国…いや植民地であることを認める調印式に2か月後、出向かねばならないんだ。今もないに等しい王族の身分が残されているのはそのためだ」
「調印式ですか」
「共もいないとなれば…見栄えも悪いし、ハハハ。最後の矜持のようなものだがな」
ドウェインは考えるまでもなく王太子に「お供いたします」と即答した。
新天地であれば過去の自分が侯爵で何もかも失った男だと知る人間はいない。国力差があるのはドウェインにも解るが、侯爵としての経験と知識で成り上がれるのではないかと夢を見たからである。
同時に王太子は言葉にはしなかったが頼めるのがもうドウェインしかいない事、即答で受けてくれたことに運命かなと感じた。
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