あなたの愛は気泡より軽い

cyaru

文字の大きさ
38 / 52

第38話  お誘い

前日まで屋敷に居座っていたドウェインとシルフィーだったが、屋敷の解体にやってきた職人たちに着の身着のままで追い出された。

「ねぇ、何処に行くの?」
「知るか!ついてくるな!」
「だって、1人じゃ生きていけないし、ドウェインだって私といた方が良いでしょう?」
「1人にしてくれよ!お前が来てから私はどれだけのものを失ったと思ってるんだ!本当にいい加減にしてくれ!」
「家とか無くなったけど私のせいじゃないわ!」
「お前のせいだ!お前と知り合って…家も身分も金も…何より大切なアイリーンまで!もう何も奪うものはない!顔を見せないでくれ!声も聴きたくないっ!」

突き放してもシルフィーはドウェインについて来た。
シルフィーも必死だ。ドウェインと付き合い始めてからシルフィーの生活はがらりと変わった。

それまでシルフィーに言い寄って来る男も居たし、ドウェインは知らないが付き合い始めて2カ月目くらいまではシルフィーには恋人と言える関係の男性が他に2人いた。

1人は鍛冶屋の息子でもう1人は靴職人の息子。
どちらの子供かは判らないけれど、子を身籠って流れた事もある。

ドウェインはシルフィーをお姫様にしてくれた。欲しいものは何でも買ってくれたし服も周囲の着ている服とは違うものになった。

「良い男と付き合うと生き方が変わるってほんとね」

それまでなんとも思わなかったのに急に周囲にいる人間が貧乏くさいし、ダサいし、汚く見えたのだ。ドウェインと比べてしまうと2人の恋人も色褪せて…いや、ただの乞食に見えた。

「汗水流して働くのがカッコいいなんて貧乏人の言う事よ。そうでも言わないとやってられないだけでしょ?貴方達と私は違う人間なの。一緒にしないで?」

そんな啖呵を切ったばかりにドウェインと1カ月過ごす直前にシルフィーには知り合いも居なくなった。

今更彼らのいる場所に戻れる訳もなく、ドウェインに捨てられてしまったら生きてはいけない。シルフィーは愛しているから一緒にいたいのではなく、生きるためにドウェインに捨てられるわけにはいかなかった。


屋敷を追い出されて行くあてもなく広場にある噴水の水で腹を満たしているとドウェインに声を掛けて来た男性がいた。

「ドウェイン?ドウェインか?」
「え?‥‥まさか…殿下?」
「あぁ、やっぱりドウェインだった。元気そうだな」

王太子は現在監視下に置かれ、指定をされた離宮で王太子妃と子供たちと軟禁となっていた。国王と王妃も監視下に置かれていてこちらは郊外の別邸に軟禁されている。

身分は無くなった社会だが、王族に付いては貴族たちよりも遅れて身分が剥奪される事になっているのは、王族を担ぎ上げてクーデターを起こす者がいる可能性を考えて、泳がされているとも言える。要は監視されているのである。

「私がいないと仕事が回らないなんて言ってた事が恥ずかしいよ。王族がいなくなっても社会はちゃんと回っている。街に出ると前より今の方が良いんじゃないかって…顔が広く知られてなくて良かったよ」


貴族には顔が知られていても平民には肖像画でしか知られていない。かなり盛られた肖像画だったので街を歩いても監視はされているが距離があるので王太子であることがバレる事はないと言う。

自嘲気味に笑う王太子だったが、住む場所がないのなら軟禁されている離宮に来ないかと誘ってくれた。

「使用人もいないから全てを自分達で行っているんだ。力仕事を手伝ってくれるなら寝る場所だけは提供できる。食べ物までは無理だがな」

裏がありそうだと思いつつも、今夜寝る場所もない。
衣食住の衣は着た切りスズメになるだろうか解決していたドウェインは住も解決するのならと前向きに考えて王太子の好意に甘える事にした。

「後ろは…奥方か」
「いえ。違――」
「初めましてぇ。えぇーっと…誰?」

ドウェインは怒りを堪えた。王太子の目の前でもあるしここは多くの人が集まる広場なので殴る事も出来ない。ドウェインの怒りを読んだのか王太子も引き攣った笑いを浮かべた。

「元気がいい奥方だね。行こうか」

それ以上声を掛けなかったのは「元気がいい=マナーがなってない」だからである。
シルフィーにウンザリしながらもドウェインは王太子について離宮に向かった。

場所に喜んだのはシルフィーだけ。
本来なら呼ばれるのも厳選されてきた離宮なのだから本当にお姫様気分になり、部屋の調度品を指さして歓声をあげる。ドウェインは怒りもだが王太子妃、その子供たちの呆れて冷えた視線を浴びる羞恥に小さくなった。

「実は…ここに呼んだのは頼みごとがあるからなんだ」
「頼み事?何でしょうか」
「見ての通り使用人も居なければ従者もいない。私はこの状況でムーンストン大陸に行き、属国…いや植民地であることを認める調印式に2か月後、出向かねばならないんだ。今もないに等しい王族の身分が残されているのはそのためだ」
「調印式ですか」
「共もいないとなれば…見栄えも悪いし、ハハハ。最後の矜持のようなものだがな」


ドウェインは考えるまでもなく王太子に「お供いたします」と即答した。
新天地であれば過去の自分が侯爵で何もかも失った男だと知る人間はいない。国力差があるのはドウェインにも解るが、侯爵としての経験と知識で成り上がれるのではないかと夢を見たからである。

同時に王太子は言葉にはしなかったが頼めるのがもうドウェインしかいない事、即答で受けてくれたことに運命かなと感じた。

ムーンストン大陸に行くのは軍艦の1隻に乗船させてもらえるが、途中でアイリーンを生贄に捧げた海域を通る。花でも手向けなければと考えたのだった。
感想 37

あなたにおすすめの小説

妃が微笑んだまま去った日、夫はまだ気づいていなかった

柴田はつみ
恋愛
「セラフィーヌ、君は少し、細かすぎる」 三秒、黙る それから妃は微笑んで、こう言った。 「そうですね。私の目が曇っていたようです」 翌朝から、読書室に妃の姿はなかった。 夫への礼は完璧。公務も完璧。微笑みも完璧。 ただ妻の顔だけが、どこにもなかった。

初恋の公爵様

柴田はつみ
恋愛
嫌いになろうとしたのに、十年分の愛に敵わなかった。 幼い頃から密かに慕っていた人が、政略結婚の相手だった。 エルウィン伯爵家の一人娘・セラフィーナには、幼少期から婚約者がいる。次期公爵・ルシアン・ヴァレンクール。無口だけれど自分の言葉だけには耳を傾けてくれる彼のことを、セラはずっと好きだった。 でも十年前の舞踏会の夜を境に、彼は別人になった。 理由もわからないまま氷のような態度をとり続けるルシアン。追い打ちをかけるように届く噂。「ヴァレンクール子息にまた新しいお相手が」 こんな結婚、幸せになれるはずがない。

あなたへの愛を捨てた日

柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。 しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。 レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。 「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」 エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。

王太子殿下との思い出は、泡雪のように消えていく

木風
恋愛
王太子殿下の生誕を祝う夜会。 侯爵令嬢にとって、それは一生に一度の夢。 震える手で差し出された御手を取り、ほんの数分だけ踊った奇跡。 二度目に誘われたとき、心は淡い期待に揺れる。 けれど、その瞳は一度も自分を映さなかった。 殿下の視線の先にいるのは誰よりも美しい、公爵令嬢。 「ご一緒いただき感謝します。この後も楽しんで」 優しくも残酷なその言葉に、胸の奥で夢が泡雪のように消えていくのを感じた。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」「エブリスタ」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎泡雪 / 木風 雪乃

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

真実の愛の言い分

豆狸
恋愛
「仕方がないだろう。私とリューゲは真実の愛なのだ。幼いころから想い合って来た。そこに割り込んできたのは君だろう!」 私と殿下の結婚式を半年後に控えた時期におっしゃることではありませんわね。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。