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第46話 白だった
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時間は少し戻る。
目の前に現れた人影にシルフィーはやっと誰かが助けに来てくれたのだと残る力を全て声にして唸った。
バシッ!!
「!?」
シルフィーはお揃器と同時に痛みを感じた。体が知る痛みには似ていたけれど少し違う。
プレイ用の鞭ではなく、本物の鞭の痛みだと理解をしたのは目の前にきた人間の顔を見て、その手に握られている鞭を見た時だった。
――王太子妃?!なんでここに?――
シルフィーの疑問は声になる事もないので答えてくれる者もいない。
王太子妃に問えたとして答えてくれる訳もない。
「耳が腐るような声は聴きたくないの。猿轡はそのままにしておいてあげるわ」
「うぅぅーっ!うぅー!」
バシッバシッとシルフィーの体を打つ音と打つ直前に鞭が空気を切る音だけが聞こえる。
鞭の風を切る音が止まると数人の影が近寄り、手がシルフィーの体に触れた。
「ングゥーッ!!ヌゴーッ!!」
針で突き刺す痛みが襲ってくる。
薬なのか少し液体が塗り込まれていくが、傷口に容赦ない痛みが木に縛り付けられて僅かしか体を動かせないシルフィーの動きの限界を確かめるように何度も重ね塗りされていく。
最初は痛みと冷たさを感じる薬だったが、段々と燃えるように皮膚が熱を持ってきた。
人間が離れていくとまた鞭が空気を切り、シルフィーを打った。
打たれる度に発していた声ももう出なくなると「縄を解いてあげて」無情な声がした。
「卑しい女。私のアイリーンから全てを奪った元凶ッ!大人しくしておけば一思いに首を撥ねてやったものを」
――私のアイリーン?どういうこと?――
ドウェインほどの力はないけれどシルフィーの横顔に王太子妃の靴底が充てられて、反対側の顔は落ち葉と土に埋もれていく。
「人の皮を被った獣ね。靴が汚れるわ」
言葉が切れると体を起こされ、麻袋に詰め込まれたシルフィーは数分肩に担がれていたが、乱暴に木の板と思われる固さの床に放り投げられた。
揺れ始めたので荷馬車に載せられたのだろうが、何処に向かっているのか解らない。
言い知れない恐怖でシルフィーはガタガタと震えていたが、どこかで休憩を取る時だけ揺れが止まるも食事は無し。水を飲まされる時だけ袋の紐が解かれ、麻袋の中で飲まされる。やっと麻袋から顔を出せた時に見えたのは金持ちの屋敷だった。
扉すら真っ白に塗られていて不気味な屋敷はとても静かだった。
麻袋からは出されたけれど手足を縛られ、玄関に置き去りにされたシルフィーは人の気配もしないし、音もない事に恐怖を感じた。
「なによ…これ」
ゾワッと更に恐怖が襲ってくると扉が開いた。
「随分と汚れているわね。まぁいいわ」
声は女で、ゆっくりとシルフィーに近寄ってきた。
伸ばした手も人の肌なのに真っ白。
「いやぁっ!!」
体を捩じって手を拒否したシルフィーに女は話しかけた。
「ねぇ?アナタ。永遠の美しさ、欲しくない?」
「永遠の?そんな夢みたいなもの!あるわけないでしょ!」
「それがあるの♡ついでに…男たちの視線も独り占めよ」
「ハンッ。そんなものがあるなら是非ともお願いしたいわね」
「じゃぁ、やってみる?」
「い、痛いのは嫌よ?ここに来る前だって鞭で打たれたんだから!見てよこの傷っ!」
女は蚯蚓腫れになったシルフィーの腕にそっと手を置いた。
「大丈夫。白くて滑らかな肌になるわ」
「ホントに?でもその前に何か食べさせて?お腹ペコペコなのよ」
「食事がしたいの?折角ここに来るまで食事は抜いたのに?」
――は?何言ってんの?――
平民にも天然系の女の子はいたけれど、話しがイマイチ噛み合わない系だと思いやり過ごそうとしたが、女がパンパンと手を打つと、トレーにスープボウルを乗せた別の女がやってきた。
――ここで?玄関よ?家の中に普通入れるものじゃないの?――
シルフィーの疑問など疑問でもないのだろう。
「どうぞ。零すといけないから手伝ってあげる」
「は?1人で飲めるわよ。スプーンはどこ?」
「そんなの必要ないわ」
シルフィーは数人に体を押さえつけられると頬を押され、口の中にボゥルの液体を飲まされた。
「ゴフッ…何‥これ」
「石膏よ?アナタは私の芸術品になるの。失敗したらまた壊さなきゃいけなくなるわ。手間をかけさせないで?」
ふと見れば庭の隅には黒い石膏像が幾つも転がっていた。鳥が急降下してくると石膏像から蠅がわっと飛び立ち石膏像の色が白であることが目に入る。
ハッとシルフィーは女を見た。
ニマリと笑った女の歯は白かった。
目の前に現れた人影にシルフィーはやっと誰かが助けに来てくれたのだと残る力を全て声にして唸った。
バシッ!!
「!?」
シルフィーはお揃器と同時に痛みを感じた。体が知る痛みには似ていたけれど少し違う。
プレイ用の鞭ではなく、本物の鞭の痛みだと理解をしたのは目の前にきた人間の顔を見て、その手に握られている鞭を見た時だった。
――王太子妃?!なんでここに?――
シルフィーの疑問は声になる事もないので答えてくれる者もいない。
王太子妃に問えたとして答えてくれる訳もない。
「耳が腐るような声は聴きたくないの。猿轡はそのままにしておいてあげるわ」
「うぅぅーっ!うぅー!」
バシッバシッとシルフィーの体を打つ音と打つ直前に鞭が空気を切る音だけが聞こえる。
鞭の風を切る音が止まると数人の影が近寄り、手がシルフィーの体に触れた。
「ングゥーッ!!ヌゴーッ!!」
針で突き刺す痛みが襲ってくる。
薬なのか少し液体が塗り込まれていくが、傷口に容赦ない痛みが木に縛り付けられて僅かしか体を動かせないシルフィーの動きの限界を確かめるように何度も重ね塗りされていく。
最初は痛みと冷たさを感じる薬だったが、段々と燃えるように皮膚が熱を持ってきた。
人間が離れていくとまた鞭が空気を切り、シルフィーを打った。
打たれる度に発していた声ももう出なくなると「縄を解いてあげて」無情な声がした。
「卑しい女。私のアイリーンから全てを奪った元凶ッ!大人しくしておけば一思いに首を撥ねてやったものを」
――私のアイリーン?どういうこと?――
ドウェインほどの力はないけれどシルフィーの横顔に王太子妃の靴底が充てられて、反対側の顔は落ち葉と土に埋もれていく。
「人の皮を被った獣ね。靴が汚れるわ」
言葉が切れると体を起こされ、麻袋に詰め込まれたシルフィーは数分肩に担がれていたが、乱暴に木の板と思われる固さの床に放り投げられた。
揺れ始めたので荷馬車に載せられたのだろうが、何処に向かっているのか解らない。
言い知れない恐怖でシルフィーはガタガタと震えていたが、どこかで休憩を取る時だけ揺れが止まるも食事は無し。水を飲まされる時だけ袋の紐が解かれ、麻袋の中で飲まされる。やっと麻袋から顔を出せた時に見えたのは金持ちの屋敷だった。
扉すら真っ白に塗られていて不気味な屋敷はとても静かだった。
麻袋からは出されたけれど手足を縛られ、玄関に置き去りにされたシルフィーは人の気配もしないし、音もない事に恐怖を感じた。
「なによ…これ」
ゾワッと更に恐怖が襲ってくると扉が開いた。
「随分と汚れているわね。まぁいいわ」
声は女で、ゆっくりとシルフィーに近寄ってきた。
伸ばした手も人の肌なのに真っ白。
「いやぁっ!!」
体を捩じって手を拒否したシルフィーに女は話しかけた。
「ねぇ?アナタ。永遠の美しさ、欲しくない?」
「永遠の?そんな夢みたいなもの!あるわけないでしょ!」
「それがあるの♡ついでに…男たちの視線も独り占めよ」
「ハンッ。そんなものがあるなら是非ともお願いしたいわね」
「じゃぁ、やってみる?」
「い、痛いのは嫌よ?ここに来る前だって鞭で打たれたんだから!見てよこの傷っ!」
女は蚯蚓腫れになったシルフィーの腕にそっと手を置いた。
「大丈夫。白くて滑らかな肌になるわ」
「ホントに?でもその前に何か食べさせて?お腹ペコペコなのよ」
「食事がしたいの?折角ここに来るまで食事は抜いたのに?」
――は?何言ってんの?――
平民にも天然系の女の子はいたけれど、話しがイマイチ噛み合わない系だと思いやり過ごそうとしたが、女がパンパンと手を打つと、トレーにスープボウルを乗せた別の女がやってきた。
――ここで?玄関よ?家の中に普通入れるものじゃないの?――
シルフィーの疑問など疑問でもないのだろう。
「どうぞ。零すといけないから手伝ってあげる」
「は?1人で飲めるわよ。スプーンはどこ?」
「そんなの必要ないわ」
シルフィーは数人に体を押さえつけられると頬を押され、口の中にボゥルの液体を飲まされた。
「ゴフッ…何‥これ」
「石膏よ?アナタは私の芸術品になるの。失敗したらまた壊さなきゃいけなくなるわ。手間をかけさせないで?」
ふと見れば庭の隅には黒い石膏像が幾つも転がっていた。鳥が急降下してくると石膏像から蠅がわっと飛び立ち石膏像の色が白であることが目に入る。
ハッとシルフィーは女を見た。
ニマリと笑った女の歯は白かった。
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