純白の王子妃だった君へ

cyaru

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粛清

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今回の王都への期間は1か月ほど取れそうだとセドリックは逸る気持ちを抑え込む。
威厳のある表情でなければ兵たちの士気にも関わるのである。

あと一息でおそらく隣国は落ちるところまで持ってきた。
隣国の王の病状も芳しくないと諜報からの報告も受けている。次に王座につくのは愚息の代名詞とも言える王子である。
どの国も内情は一枚岩ではない。既に隣国では愚息の王子を排し、数代前の王弟の家系から王を立てるべきという声で分裂をし始めている。
辺境に残してきた兵は5万。這う這うの体で撤退していった隣国が建て直しをするにはしばらくの時間がかかるだろう。

今度こそエンジェリーナに贈り物を渡そうと片時も離すことのなかった小箱を眺める。

☆~☆~☆~☆

セドリックは王子宮に裏口から戻った。
2年にも及ぶ中、徹底的に調べろと命じた結果を目の前の愛人たちに突きつけるためである。
愛人たちの両親も呼びつけてある。

愛人の両親たちは娘が何故王子宮に出入りをしていたのかは知っている。
この国では婚姻に際し処女性が強く求められるのは王族のみである。公爵家の令嬢であっても婚姻時に経験済みである事は婚約解消、結婚拒否の理由にはならない。
むしろ、王子のお手がついているのは箔になろうかという価値観である。

愛人4人のうち3人については契約通りの金品を渡したが、王子宮に使用人として従事し王子妃に対し褒められた行動でない事が確認された点についてはかなりの減額をした。
娘を睨みつけるが、それでも数年は遊んで暮らせるだけの金品が入るのである。
3人の愛人は両親と金品とともに王子宮を去っていった。

残る1人の愛人。ケルベス伯爵家のアマンダとその両親は残された。
愛人4人のうち一番爵位が高いのはケルベス伯爵家である。伯爵夫妻は愛人という契約は知っていたがあわよくばと野心を持っていた。
そのためにアマンダを兎に角王子に侍らせ、一番多くの使用人を王子宮に送り込んだ。
その使用人も次々に連行されてくる。全員が後ろ手に縛られまるで罪人のような扱いに伯爵夫妻は震えた。
とりわけ愛人であったアマンダの顔色は殊更悪くなっている。

「で、殿下…なぜ使用人たちにこのような真似をなさるのです」

数段上にある壇上にある椅子に足を組んで腰掛けたセドリックに表情はない。

「伯爵一家。そしてその使用人たちに特別な料理を是非賞味してもらおうと思ってな」

ケルベス伯爵は送り込んだシェフの顔を見るが、下を向き涎を流して伯爵のほうを向きもしない。
そんな中、運ばれてくる料理はそれぞれの目の前に置かれる。
床に直置きをされた料理からは鼻がもげそうな臭いがするか、盛り付けに使用されている皿を見てケルベス伯爵は絶句をする。

「殿下!これは何の余興なのです。この臭い。それにこの皿は鉛の皿ではありませんか!」

フっと鼻で笑ったセドリックは自身の執事に手振りで指示を出す。

「ケルベス伯爵。そちらの従者ですが見覚えは当然御座いますよね。貴方の従兄弟のご子息。妃殿下の公務に当たっての執事をしていた者です」

そう言ってケルベス伯爵の前にエンジェリーナが書いた手紙と鉛の皿をコトリと置く。
ギロっと甥を睨みつけるがセドリックがその様子を見て言葉をかける。

「その手紙は我が妃がしたためたものだ。鉛製の食器を使った食事を提供した使用人、そしてそれを我に伝えてくれといった妃の小さき願いを握り潰した。
直ぐに告白をすれば妃の願い通り口頭注意で済ませようと我は動いたぞ?なんせ我が妃の願いなのだからな。だが我にその手紙と皿が届いたのは1年も経ってからだ。失せ物を探すのは苦労したぞ?」

「そっ、それは…私は存じませんッ。そやつらが勝手にした事ですッ」

「勝手でも明後日でも我はどうでもいい。冷めるぞ?特製のスープだ。先ずは味わえ」
「えっ?‥‥ですがこれは!」
「遠慮をするな。お前の家からの使用人たちが我が妃に出した食事。それに見合う物を是非返したいという我の気持ちは迷惑だったか。傷んではいかんと新鮮な物を使っている。安心しろ」
「め、迷惑などと飛んでもございません。ですがこれは!」
「どうした?一人では食えんか?仕方ない。手伝ってやれ。一滴一粒残すことなく味わえ」

衛兵たちに押さえられ、こじ開けられた口の中に流し込まれる料理。
吐き出さないように口と鼻を押さえられ、苦しさから飲み込み、即座に嘔吐する伯爵一家と使用人。

「旨いだろう?朝まで使用人たちの腹の中にあったのだ。新鮮さは格別であろう」

目の前で嘔吐しのた打ち回る者たちを、薄ら笑いでセドリックは静かに待つ。
息も絶え絶えになった伯爵はこれで終わりではないのだと絶望を感じる。だが伯爵は知らなかった。娘のアマンダが王子の子を身籠ったという嘘を王子妃に告げた事を。
そして気を病んだ王子妃が床に伏せってしまった事を。
何より、目の前の第三王子はその王子妃を蔑ろにしているのではなく、狂信的に愛している事を。

「アマンダ。そなた我の子を身籠ったそうだな」

突然名前を呼ばれたアマンダは嘔吐でグチャグチャになった顔をあげる事も出来ない。

「どうした?そなたが我が妃の元に行きそう告げた事を我が知らんとでも思ったか?」
「も、申し訳ございませんっ」
「そなたを抱いた事はないとは言わない。2年も前には何度も抱いた。それは認めよう。そういう契約であったからな」
「はい‥‥ですが、そのっ…」
「で?腹の子は何処だ?」
「何処…と申しますと?」
「見せてみよ。懐妊が判るのはおよそ3カ月経ってからだ。そなたが妃に伝え今日までに約2か月。もう腹も少しは膨らみもあるであろう?おぉ、違ったな2年以上も前の種なのだ。かなり大きな腹になっているであろう?」

顔を床に擦りつけながらアマンダは震えながら伏せる。しかしセドリックはナイフを伯爵夫妻の前に放り投げた。

「で、殿下…これは…」
「ケルベス伯爵。そなたの娘はとうに産み月も過ぎて大変苦しいようだ。我が妃の元に来たときは辛い、辛いとこぼしてたと聞く。早く娘を楽にしてやれ。そなたも孫が抱きたいであろう?」

「む、娘の…アマンダの腹を裂けと…?」
「我も、我の子だと言うのであれば是非に会いたい。我の頼みは聞けぬと?」

「殿下っ!セドリック様!お許しくださいませッ!妃殿下には嘘だと!謝罪を致しますっ!何卒お慈悲を!お慈悲をくださいませ!!」

懇願するアマンダに氷のような微笑を投げるセドリックはケルベス伯爵を向くとアゴを振る。

「殿下、申し訳ございません。娘は必ずや処分致します。何卒この場はお許しくださいませ」
「ケルベス伯爵。許す?何を言っているのだ。我は我の子を見てみたいだけだ」
「お許しくださいませッ。こ、この通り娘も妃殿下に謝罪をすると!夫も娘の腹を割く事など到底出来ませんっ!」

大きく聞こえるようなため息を一つ吐き出したセドリックは執事に声をかける。

「子を産むのは時間がかかると聞く。ケルベス伯爵の血族を呼び寄せろ。伯爵自身で取り上げるまで順番にかわいがってやれ」

「殿下、伯爵夫妻の両親はもう亡くなっておりますが」

「兄弟姉妹、その子らもおるであろう。伯爵が取り上げるのだ。一族が手助けをせず誰がするのだ。なぁ?ケルベス伯爵」

部屋を後にするセドリック。静まりかえる室内。
ケルベス伯爵は一番忘れていてはいけない事を思い出した。

【非道さにおいて第三王子の隣に立てるものはいない】という事を。
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