入れ替わ離婚

cyaru

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序 章  落ちる時に悔やんだのはシイの実

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命の危険が迫った時、刹那の時間に人は色んなことを考えると聞く。
今まさに、オフィーリアはその状況下にあった。

「あぁ、もう最悪。こんな事ならとっととシイの実食べれば良かったぁ。くぅぅ!!」

高さとしては地面まで9mいや、10m。

「降りよう」と思って飛び降りるのと、突き飛ばされた先にあったバルコニーの手摺の支柱が腐っていて、凭れた瞬間にミシっと嫌な音を立てて階下に崩れ去り、一緒に落下をしてしまった時は態勢も異なるし、何より落下の仕方が違うので無傷である確率はかなり低い。

オマケに現在バランスを崩し、最後の足搔きである踏ん張りもここまで。足がバルコニーの床から離れる直前だ。頼みの綱にもならない手は先日護衛のカイゼルによって使いものにならない。

つまり落下の僅かな間で背から落ちる体を反転し、手を突いて衝撃を緩和する事は出来ないという事だ。

――参ったわね。こんな事なら肘ブリッジの姿勢でゲジゲジダッシュでも習得しとくんだったわ――

ゲジゲジダッシュ。
それは足の多い虫がカサカサと壁すら物ともせずに逃げる素早い動きである。
仰向けの態勢で腕を逆さにして肘で動く‥‥でも落下をすれば意味がないか。オフィーリアはもう考えたところで仕方がないと諦めた。

視線の先には手を伸ばしもせず、義妹のティリアを抱きしめるオフィーリアの護衛騎士カイゼルが見える。今更カイゼルに「護衛の意味は?」と問うたところで意味がない。

カイゼルが護衛騎士となったのは、護衛の対象が誰であれティリアのため。

ティリアにとって害となるなら敵。
ティリアにとって憂いとなるなら敵。

護衛は護衛対象を守るべく敵と見做せば排除するのが仕事だ。
そう、それは主に命じられた役目からかけ離れていたとしてもカイゼルにとっては果たすべき役割なのだ。

この後、地面に体は叩きつけられて、運が良ければ神の御許に。運が悪ければ命が尽きるまで全身の痛みに耐える日々が始まるだろう。

――もう、どうでもいいわ――

出来れば頭から落ちれば少しは楽だろうか。
そんな事を思いながら最期の空中遊泳を楽しむように、いや、心の奥底でティリアを抱きしめるカイゼルの姿を見たくないとオフィーリアは瞼を閉じた。


「殿下!危ないッ!」

声と同時にオフィーリアは激しい衝撃を感じた。
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