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第19話 耐えがたい痛み
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「すまない。この痛みはなんだ」
雨の中捨てられた子犬のような顔で寝台で丸くなりながらもオフィーリアを見るフェリクスは現在頭の中は男なのに生理痛に苦しんでいる。
「もう死ぬ…こんな耐えがたい痛みと不快感なんて生まれて初めてだ」
「経験がある方がびっくりだわよ」
「君はこんな痛みを耐えてきたのか」
「領地ではね。ここに来てからは経験ないわ」
「なんだかズルいな…」
「そう?食生活が劇的に改善されたからこそよ?以前は栄養失調寸前だったもの」
そう言われてしまうとフェリクスは言い返せなかった。
「女性は大変だな。食生活が良くなければ栄養が足りず、良くなればこんな痛みだなんて」
「大丈夫よ。4、5日で楽になるわ」
「慣れるという事か」
「違うわよ。月のものが毎日だったら大変よ?人に寄るけど私は辛いのが4、5日でその後3,4日でノーマルになったから」
「そんなに長いのか!1か月のうち3分の1じゃないか」
温かい薬湯を差し出されたフェリクスはようよう体を起こし、一口飲んだ。
じんわりと胃の中に広がっていく温かさ。これで痛みが少しは軽減出来ればと祈るような気持ちだが不快感は続く。
「大人しく寝てて。私は出かけるから」
「ど、何処に行くんだ?」
「街よ。怪しい占い師とかいるじゃない。ヒントがあるかも知れないわ」
一緒に行きたいが、この痛みだけはどうにもならない。
フェリクスは成果を知らせてくれと頼むのが精一杯だった。
☆~☆
フェリクスの宮から追い出されたカイゼルは契約の期間があと2カ月残っていた事からマーフェス公爵家の雑用係として住み込みで働くことを許可された。
その2か月も今日で終わる。
荷物を纏めるカイゼルにマーフェス公爵家の使用人たちが通りかかれば声を掛けていく。
「寂しくなるなぁ。カイゼルが薪割りをしてくれるから俺の腰もかなり良くなったよ」
「お力になれたのなら何よりです」
オフィーリアが王都に来る4か月前に雇われ、オフィーリアと共にフェリクスの宮で半年。本当ならあと2カ月オフィーリアの護衛として過ごし、あの地下室で暮らすオフィーリアにティリアとの違いを更に思い知らせてやろうと考えていたが、叶わぬ思いとなった。
それでも成果としてオフィーリアの指を負傷させ、その前には虫を潰したり、自分の足を洗った水をオフィーリアに浴びせたりと屈辱を味合わせてはきた。
全てはティリアのため。
ティリアの幸せを奪う女に、ティリアへの純粋な恩を自分の物としようとしたオフィーリアへの復讐でもあった。
薪を割りながら、切株に置いた薪にオフィーリアの手足や首、顔を重ねて思い切り斧を振り下ろす。
綺麗に割れるよりも、割り損ねたほうが苦しみを与えられるとカイゼルはわざと狙いを中心から外し不格好に割れる薪にオフィーリアを思い浮かべた。
実際には出来ない事だが、そうでもしないと気が収まらなかった。
トランクを手にいよいよ出立。心に思うのは今もティリアだった。
――少しは恩が返せたかな――
あわよくばの気持ちが無かったと言えば噓になる。
最初の4カ月間、ティリアの護衛として付いた時は天にも昇る気持ちだった。命に代えてもティリアを守ると夜な夜ないつ襲撃があってもいいように剣を磨いたりもした。
その剣も護衛対象がオフィーリアとなってからは鞘から抜いておらず久しぶりに抜くと錆びついていた。まじまじと剣を見るも、護衛が延長されてもティリアには別に専属の護衛騎士が5人もいる。その枠が空くことはほぼない。
下働きの使用人も募集はしておらず、無駄に給金を払うだけになるマーフェス公爵家に申し訳なくて期日にはミトス子爵家に戻る事にした。
――もう剣を握る事もない。錆びついても問題ない――
鞘に納めると錆びた剣がガシャガシャと錆を擦りながら鞘に収まった。
「最後に一目。ティリア様のお姿を目に焼き付けて行こう」
庭の一画にティリアの部屋がよく見える場所がある。カイゼルのお気に入りの場所だった。
青々とした植え込みを抜けてティリアの部屋が見える場所に行ったカイゼルは目を疑った。
「何をしてるんだ?!」
窓が開け放たれ、時折吹き込む風でカーテンの揺れる向こうにある寝台で3人の護衛騎士とティリアがまぐわう姿があった。
あられもない恰好でカイゼルの恩人でもあり、女神であるティリアが護衛騎士から欲望を顔や胸に注がれ、時に跨って腰を振り嬌声をあげていた。
「嘘だろ…」
もしかすると護衛騎士に無理やり?そう思ったカイゼルは駆け出し窓の傍までやって来たが聞こえる声に足が動かなくなった。
「ティリア様。カイゼルの奴。今日で終わりですよ?最後に引導渡すつもりで本当の事を教えてやれば絶望の表情が見られたのに」
「いいわよ。近くに来たら田舎臭くて鼻が曲がっちゃうもの」
「でも、信じてましたよねぇ。怪我をした時に介抱したのがティリア様だって」
「アハハ。田舎者は純粋だったわ。助けたのはお義姉様なのに私だと信じ込んでお義姉様が大事にしてるババアの最後の形見を燃やして灰にしちゃったんだから。折角見えるようになった目なのに田舎者の目って何を映してるのかしら」
部屋の中にいる4人の笑いのネタになったカイゼルは事実を知った。
――恩人はオフィーリア様だったなんて――
よろよろと後ろずさったカイゼルは息を吸うでもなく吐くでもなく。ハァハァと息遣いが荒くなった。同時にカイゼルの心臓は締め付けられた。
――俺は恩人になんてことをしてしまったんだ――
カイゼルはその場から走り去った。
雨の中捨てられた子犬のような顔で寝台で丸くなりながらもオフィーリアを見るフェリクスは現在頭の中は男なのに生理痛に苦しんでいる。
「もう死ぬ…こんな耐えがたい痛みと不快感なんて生まれて初めてだ」
「経験がある方がびっくりだわよ」
「君はこんな痛みを耐えてきたのか」
「領地ではね。ここに来てからは経験ないわ」
「なんだかズルいな…」
「そう?食生活が劇的に改善されたからこそよ?以前は栄養失調寸前だったもの」
そう言われてしまうとフェリクスは言い返せなかった。
「女性は大変だな。食生活が良くなければ栄養が足りず、良くなればこんな痛みだなんて」
「大丈夫よ。4、5日で楽になるわ」
「慣れるという事か」
「違うわよ。月のものが毎日だったら大変よ?人に寄るけど私は辛いのが4、5日でその後3,4日でノーマルになったから」
「そんなに長いのか!1か月のうち3分の1じゃないか」
温かい薬湯を差し出されたフェリクスはようよう体を起こし、一口飲んだ。
じんわりと胃の中に広がっていく温かさ。これで痛みが少しは軽減出来ればと祈るような気持ちだが不快感は続く。
「大人しく寝てて。私は出かけるから」
「ど、何処に行くんだ?」
「街よ。怪しい占い師とかいるじゃない。ヒントがあるかも知れないわ」
一緒に行きたいが、この痛みだけはどうにもならない。
フェリクスは成果を知らせてくれと頼むのが精一杯だった。
☆~☆
フェリクスの宮から追い出されたカイゼルは契約の期間があと2カ月残っていた事からマーフェス公爵家の雑用係として住み込みで働くことを許可された。
その2か月も今日で終わる。
荷物を纏めるカイゼルにマーフェス公爵家の使用人たちが通りかかれば声を掛けていく。
「寂しくなるなぁ。カイゼルが薪割りをしてくれるから俺の腰もかなり良くなったよ」
「お力になれたのなら何よりです」
オフィーリアが王都に来る4か月前に雇われ、オフィーリアと共にフェリクスの宮で半年。本当ならあと2カ月オフィーリアの護衛として過ごし、あの地下室で暮らすオフィーリアにティリアとの違いを更に思い知らせてやろうと考えていたが、叶わぬ思いとなった。
それでも成果としてオフィーリアの指を負傷させ、その前には虫を潰したり、自分の足を洗った水をオフィーリアに浴びせたりと屈辱を味合わせてはきた。
全てはティリアのため。
ティリアの幸せを奪う女に、ティリアへの純粋な恩を自分の物としようとしたオフィーリアへの復讐でもあった。
薪を割りながら、切株に置いた薪にオフィーリアの手足や首、顔を重ねて思い切り斧を振り下ろす。
綺麗に割れるよりも、割り損ねたほうが苦しみを与えられるとカイゼルはわざと狙いを中心から外し不格好に割れる薪にオフィーリアを思い浮かべた。
実際には出来ない事だが、そうでもしないと気が収まらなかった。
トランクを手にいよいよ出立。心に思うのは今もティリアだった。
――少しは恩が返せたかな――
あわよくばの気持ちが無かったと言えば噓になる。
最初の4カ月間、ティリアの護衛として付いた時は天にも昇る気持ちだった。命に代えてもティリアを守ると夜な夜ないつ襲撃があってもいいように剣を磨いたりもした。
その剣も護衛対象がオフィーリアとなってからは鞘から抜いておらず久しぶりに抜くと錆びついていた。まじまじと剣を見るも、護衛が延長されてもティリアには別に専属の護衛騎士が5人もいる。その枠が空くことはほぼない。
下働きの使用人も募集はしておらず、無駄に給金を払うだけになるマーフェス公爵家に申し訳なくて期日にはミトス子爵家に戻る事にした。
――もう剣を握る事もない。錆びついても問題ない――
鞘に納めると錆びた剣がガシャガシャと錆を擦りながら鞘に収まった。
「最後に一目。ティリア様のお姿を目に焼き付けて行こう」
庭の一画にティリアの部屋がよく見える場所がある。カイゼルのお気に入りの場所だった。
青々とした植え込みを抜けてティリアの部屋が見える場所に行ったカイゼルは目を疑った。
「何をしてるんだ?!」
窓が開け放たれ、時折吹き込む風でカーテンの揺れる向こうにある寝台で3人の護衛騎士とティリアがまぐわう姿があった。
あられもない恰好でカイゼルの恩人でもあり、女神であるティリアが護衛騎士から欲望を顔や胸に注がれ、時に跨って腰を振り嬌声をあげていた。
「嘘だろ…」
もしかすると護衛騎士に無理やり?そう思ったカイゼルは駆け出し窓の傍までやって来たが聞こえる声に足が動かなくなった。
「ティリア様。カイゼルの奴。今日で終わりですよ?最後に引導渡すつもりで本当の事を教えてやれば絶望の表情が見られたのに」
「いいわよ。近くに来たら田舎臭くて鼻が曲がっちゃうもの」
「でも、信じてましたよねぇ。怪我をした時に介抱したのがティリア様だって」
「アハハ。田舎者は純粋だったわ。助けたのはお義姉様なのに私だと信じ込んでお義姉様が大事にしてるババアの最後の形見を燃やして灰にしちゃったんだから。折角見えるようになった目なのに田舎者の目って何を映してるのかしら」
部屋の中にいる4人の笑いのネタになったカイゼルは事実を知った。
――恩人はオフィーリア様だったなんて――
よろよろと後ろずさったカイゼルは息を吸うでもなく吐くでもなく。ハァハァと息遣いが荒くなった。同時にカイゼルの心臓は締め付けられた。
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カイゼルはその場から走り去った。
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