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第05話 まさかのクレーム
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昨日嫁いできて昼間は父親のアシェル男爵が手配した使用人に花嫁衣裳を着せられたりしたが、彼らの仕事は衣装を脱がし、シルフィを夫婦の寝室に放り込むまで。
自分の役目が終わればさっさと帰ってしまったので、ロイスに「妻の座に」と言われキレた後、夫人の部屋に戻った時は誰もいなかった。
他の部屋からは夜中まで人の声がしていたが、片付けが終われば帰っていく。
午前3時過ぎにはすっかり静かになった。
夫婦の寝室を出た後、ロイスが誰かと話をしているのも気が付いた。何を話しているのかはっきりとは聞こえなくても相手が女性であることは判る。
――なんだ。女を引っ張りこんでたんだ。最低ね――
恋人がいてもおかしくはないが、よりによって今夜?
シルフィがロイスの常識を疑ったのは言うまでもない。
シルフィは父のアシェル男爵が使用人すらつけてくれない事は承知していた。
男爵家なのだから生活実態は平民と変わらない。父は自分の都合で物事を決めるので、披露宴は「爵位があるから」とそれなりに人も呼んで金をかけたが、その後の生活は「お前は家を出る身」と何もしてくれないのだ。
――ま、少しのお金を握らせてくれたのだけは意外だったけど――
披露宴をした金が少し余ったと、アシェル男爵は残りをシルフィに渡してくれた。
勿論「釘」も刺す事を忘れないのは流石だ。
『手切れ金だ。これからは用がある時はこちらから連絡する。お前から連絡をする必要はない』
父親が外に女を囲っている事も知っていたし、年の離れた異母妹、異母弟がいる事も知っていたシルフィ。「新しい家族」を迎えるのに「古い家族」は要らないのだろうなと父親から金を受け取った。
そして父からは連絡するが、シルフィからは連絡するな。
その言葉の意味もシルフィは悟った。
ロイスは何を思ってこの結婚の話を受けたのか。
否応なしに決定だと告げられたのかと思っていたが「妻の座」と思っているのならアシェル男爵に伯爵家が好き勝手される事も承知しての事なのだろうと感じた。
そんなシルフィも朝起きて驚いた。
「なんで、誰もいないの?」
男爵家なら使用人を雇っている家の方が少ないので、家族以外に誰もいない事は珍しくもないが工房が敷地内にあったアシェル男爵家はいつも人の気配があった。
亡くなった母は工房で働く職人のために井戸や薪は自由に使っていいとしていたので、工房用に井戸から水を汲む時には「ついでだから」と屋敷の水瓶にも水を入れてくれていたし、さらに「ついで」と言って竈に火を入れてくれたりもした。
流石に奥に入った暖炉までは火を入れてくれる事はなかったけれど随分助かったものだ。
だから伯爵家には人数はその家によって違うだろうが数人は使用人がいるだろうと思ったのに1人もいない事に驚いた。
いつもの習慣とは身に付いているらしく、疲れの残る体を寝台から起こしたのは朝の5時。シルフィは暖炉に火を入れ、竈にも火を入れた。
ロイスの部屋にも火を入れたのは「ついで」である。
あとで使用人が来るのかも知れないが、簡単なものなら自分でも作ることも出来る。
そもそもで料理担当の使用人なら朝の5時には来て仕込みをせねば朝食に間に合わない。
「今日は休みでも貰ってるのかも」
そう思って昨夜の残りの食材で簡単な朝食を作っていたが、朝の6時半を過ぎても誰も来ない。
これはおかしいと思い、食事室に行けば昨夜使った食器が洗って拭かれてはいるがテーブルに重ねて置かれたまま。
せっせと片付けて、やっと9時。
遅い朝食になったと1人で食べて、食べ終わった時に人の気配を感じやっと使用人が来たのかと振り返ればロイス。
「私に問うより貴方がご存じなのでは?」と問えば、微妙な間を置いた後ぽつりとロイスが答えた。
「使用人はこれから雇うんだが…金がなくて」
「は?つまり使用人は待っても来ない、そう仰るのね?」
「その通りだ」
シルフィは思った。
――妻の座とか言っておいてこの為体――
呆れていると、ロイスの腹の虫が盛大に雄叫びをあげた。
「すまない…。何か残っているだろうか?」
「・・・・」
図々しいにもほどがあるだろうと思ったが、シルフィは「お座りになってお待ちください」と声をかけ、厨房に戻るとロイスの朝食をトレーに盛り付け、目の前に持ってきた。
「え?あの…」
「何か?」
「なんでワンプレート?これじゃパンに卵も――」
――まさかのクレーム?――
イラっとしてしまうのは悪い事だろうか。
シルフィは配膳したばかりの皿を引こうとした。
「ならお下げします。ご自分で好きなようにお作りになれば?」
「頂くよ…これしかないんだろう?」
黙って大人しく食べればよろし!そう思い、シルフィは使用人が来ないのならやることが山積み。腹を立てて取り合っても仕方ないと食事室を後にしたのだった。
自分の役目が終わればさっさと帰ってしまったので、ロイスに「妻の座に」と言われキレた後、夫人の部屋に戻った時は誰もいなかった。
他の部屋からは夜中まで人の声がしていたが、片付けが終われば帰っていく。
午前3時過ぎにはすっかり静かになった。
夫婦の寝室を出た後、ロイスが誰かと話をしているのも気が付いた。何を話しているのかはっきりとは聞こえなくても相手が女性であることは判る。
――なんだ。女を引っ張りこんでたんだ。最低ね――
恋人がいてもおかしくはないが、よりによって今夜?
シルフィがロイスの常識を疑ったのは言うまでもない。
シルフィは父のアシェル男爵が使用人すらつけてくれない事は承知していた。
男爵家なのだから生活実態は平民と変わらない。父は自分の都合で物事を決めるので、披露宴は「爵位があるから」とそれなりに人も呼んで金をかけたが、その後の生活は「お前は家を出る身」と何もしてくれないのだ。
――ま、少しのお金を握らせてくれたのだけは意外だったけど――
披露宴をした金が少し余ったと、アシェル男爵は残りをシルフィに渡してくれた。
勿論「釘」も刺す事を忘れないのは流石だ。
『手切れ金だ。これからは用がある時はこちらから連絡する。お前から連絡をする必要はない』
父親が外に女を囲っている事も知っていたし、年の離れた異母妹、異母弟がいる事も知っていたシルフィ。「新しい家族」を迎えるのに「古い家族」は要らないのだろうなと父親から金を受け取った。
そして父からは連絡するが、シルフィからは連絡するな。
その言葉の意味もシルフィは悟った。
ロイスは何を思ってこの結婚の話を受けたのか。
否応なしに決定だと告げられたのかと思っていたが「妻の座」と思っているのならアシェル男爵に伯爵家が好き勝手される事も承知しての事なのだろうと感じた。
そんなシルフィも朝起きて驚いた。
「なんで、誰もいないの?」
男爵家なら使用人を雇っている家の方が少ないので、家族以外に誰もいない事は珍しくもないが工房が敷地内にあったアシェル男爵家はいつも人の気配があった。
亡くなった母は工房で働く職人のために井戸や薪は自由に使っていいとしていたので、工房用に井戸から水を汲む時には「ついでだから」と屋敷の水瓶にも水を入れてくれていたし、さらに「ついで」と言って竈に火を入れてくれたりもした。
流石に奥に入った暖炉までは火を入れてくれる事はなかったけれど随分助かったものだ。
だから伯爵家には人数はその家によって違うだろうが数人は使用人がいるだろうと思ったのに1人もいない事に驚いた。
いつもの習慣とは身に付いているらしく、疲れの残る体を寝台から起こしたのは朝の5時。シルフィは暖炉に火を入れ、竈にも火を入れた。
ロイスの部屋にも火を入れたのは「ついで」である。
あとで使用人が来るのかも知れないが、簡単なものなら自分でも作ることも出来る。
そもそもで料理担当の使用人なら朝の5時には来て仕込みをせねば朝食に間に合わない。
「今日は休みでも貰ってるのかも」
そう思って昨夜の残りの食材で簡単な朝食を作っていたが、朝の6時半を過ぎても誰も来ない。
これはおかしいと思い、食事室に行けば昨夜使った食器が洗って拭かれてはいるがテーブルに重ねて置かれたまま。
せっせと片付けて、やっと9時。
遅い朝食になったと1人で食べて、食べ終わった時に人の気配を感じやっと使用人が来たのかと振り返ればロイス。
「私に問うより貴方がご存じなのでは?」と問えば、微妙な間を置いた後ぽつりとロイスが答えた。
「使用人はこれから雇うんだが…金がなくて」
「は?つまり使用人は待っても来ない、そう仰るのね?」
「その通りだ」
シルフィは思った。
――妻の座とか言っておいてこの為体――
呆れていると、ロイスの腹の虫が盛大に雄叫びをあげた。
「すまない…。何か残っているだろうか?」
「・・・・」
図々しいにもほどがあるだろうと思ったが、シルフィは「お座りになってお待ちください」と声をかけ、厨房に戻るとロイスの朝食をトレーに盛り付け、目の前に持ってきた。
「え?あの…」
「何か?」
「なんでワンプレート?これじゃパンに卵も――」
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イラっとしてしまうのは悪い事だろうか。
シルフィは配膳したばかりの皿を引こうとした。
「ならお下げします。ご自分で好きなようにお作りになれば?」
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