この結婚、満足すればゴールインです。

cyaru

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第06話  降ってこないのはお金くらい

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「うわぁ。もうちょっとマシな片付け方もあるでしょうに」

やってきたのは昨夜、お披露目の夜会の会場となったサロンの隣室。
本来なら招いた人の休憩所であったり、衣装が着崩れしてしまった時に直したりする部屋なのだが、見事に色んなものが押し込まれていた。

適当な広さの会場は外部で借りようと思えば借りることは出来るが、出費を抑えたいアシェル男爵なら「ここでいい」とラーリ伯爵家のサロンを使う事にしたのだろう。

乱雑に置かれた調度品に運んだであろう使用人の手の跡がある。
長く掃除をされておらず、積もった埃が運ぶときに手の触れた部分だけ取り除かれた状態。

大きめのソファもあったので使えるかな?と思って背もたれに触れてみれば…。

ぬめっ。

「え?なんで湿気てるだけじゃなくてヌルっとするの?」

荷物を「よいしょ、よいしょ」と退かしながら窓に近づき、カーテンを開けようとすると‥。

ガゴッ!バササー。

「なんでカーテンレールが外れた上に、カーテンまで破れるのよ!」

これも長く手入れをされていないようで、カーテンレールもネットリ。
布であるカーテンだってバサッと落ちた事で奇妙な香りが埃と一緒に舞い上がる。

「これ…ヤニだわ。タバコのヤニ。全然掃除してないんだわ」

カーテンがレールごと外れたおかげで陽の光が入った部屋。
壁紙が黄色っぽいのだが、サロンなどからここに家具を運び入れる時に動かしたと思われる調度品の定位置は真っ白。

つまり、壁に色を付けているのもヤニだった。

「これは…他の部屋も見てみないと」

シルフィは幾つもある部屋を見て回った。途中で食事室の前を通ったがロイスは大人しく食事をしていて、手伝ってくれる気は全くなさそう。

「他人をアテにしちゃダメって事よね」

工房だったらやっている工程を見て「湯を持ってこようか?」「ウェスは何枚くらいあればいい?」などついでに気を利かせてくれる職人ばかりだったけれど、何をしているか理解できない父は口だけ出して帰っていく。

役に立たなそうな人はいないに越したことはない。
アテにして余計な仕事を増やされても敵わない。

2、3年夫婦関係が破綻しているとなれば離縁を申し立てることは出来るが、それまでシルフィは市井に部屋を借りるだけの金はない。

父から手切れ金は渡されていても、部屋を借りれば手持ちはゼロ。
仕事を探すにも食べ物を買うにも金がなくなるのだ。

手に職はあるけれど、紹介状がないシルフィは雇用契約を結んだ期間に売り上げを盗んだりしないようにと保証金を支払って雇ってもらうしかない。

契約期間勤めれば離職時に保証金は戻してもらえるが、その期間は契約で変わる。
保証金を使い込む雇い主もいるので、のらりくらりと契約更新されて使い倒される事だってあるのだ。紹介状があるとないとでは雲泥の差がある。

住む家がない者を雇ってくれる商会も工房もなく、家か仕事かの選択に迫られる。

なら、離縁までの期間はこの家があるのだから仕事を探せばいいのだ。
なんなら空いている部屋でそれまでの経験と技術を使って品物を作り売り出せば離縁する頃には固定客も付いている可能性も無きにしも非ず。

その為にはまず、掃除をして家の中を片付けなくてはならなかった。

竈にはまだ火が残っていたので、鍋で湯を沸かしシルフィは重曹を探した。


「あった!良かったぁ。昨日の残り。絶対あると思ったのよね」

膨らし粉としても使われる重曹。
それを桶の湯の中に投入し、洗剤を作らねば!!


「熱いうちが勝負!さぁ落とすわよ!」

ネットリ、ビッシリとタバコのヤニが染みついた部屋は後回し。
汚れの程度が軽い部屋を掃除するのだが、選んだのはかつて使用人が使っていたと思われる部屋だった。

窓を開けてカーテンを取り払い、大きな桶の中に湯を適温にした中に重曹を混ぜてそこにカーテンを入れる。これでしばらくは浸け置き。

「臭いが取れるといいんだけど…この黒カビは後で擦らなきゃ」

浸け置きしているカーテンを見ているだけでは時間が勿体ない。
シルフィは熱湯の入った桶と重曹の入った瓶を抱えて目的の部屋を掃除し始めた。

廊下に桶を置くと箒で先ずは天井を掃く。
天井にも蜘蛛の巣は張っているし、埃だらけ。

「上から降るのは雨や雪だけじゃないわ。埃もふるのね。降ってこないのはお金くらいよ」

箒で掃き掃除をするだけなのに直ぐに塵取りが埃で満載。
食べ物も持ち込んで食べたのかパン屑も出て来るし、パン屑を狙っての害虫が残したお土産も多い。

やっと掃き掃除が終わる頃には熱湯だった湯も50度近くにまで温度が下がっているので、重曹を投入し、混ぜるものがないので箒の柄でグルグルと掻きまわしていると人の気配を感じた。
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