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第12話 ロイスの初体験
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サクッサクッ。野菜を切り、バケットにも切り込みを入れるとシルフィは手早く野菜サンドを作っていく。
珍しいものを見るかのようにロイスの目は見開いて輝いていた。
「素晴らしいな。ハムがないが、この形は見たことがあるよ」
「大きなお世話です。見てるだけじゃなくて隣に来てやってみればどうですの?」
「いいのか?!」
「勿論です。覚えておけば使用人さんを雇っても来られない時に自分で何とでも出来ますからね」
「それもそうだな。よし、やってみるよ」
「じゃぁ、手を洗ってきてください。ムクロジの実がここの棚の引き出しにあるので。よく泡立ててくださいね」
「ムクロジ?泡立てるってどの道具を使えばいいんだ?」
――YOU!HANDッ!――
貧乏だけれど、見栄だけで生きて来たラーリ伯爵を見て育ってきたロイスは手を洗う時ですら使用人がやってくれていた。
温かい湯の桶で使用人が泡立てた泡を容器から取り出すと指と指の間まで洗ってくれていたのだ。
シルフィは取り敢えず作業を中断し、ロイスを井戸に連れて行った。
「はい。この桶をこの穴の中に放り込みます!」
「いいのか?」
「えぇ。勿論」
言われるがままにロイスは紐のついた桶を井戸の中に放り込んだ。
「はい。このロープを下に!!引っ張ります」
「これを?引くのか?下に?」
「えぇ。滑車が上にありますよね。さっき放り込んだ桶に付いていたロープは握っているロープではない方の先に付いていますので引き上げるんです」
「だったら向こう側のロープを上に引っ張り上げるんじゃないのか?」
「ごちゃごちゃ言わずに言われた通りにやるっ!」
「は。はぃ」
ロイスはシルフィの言う通りにロープを下に引く。すると水の入った桶が上がってきたではないか。
「うわっ!!うわっ!見てくれ!下に引いているのに桶が!水の入った桶が上がってきたっ!?」
――この人大丈夫かな――
シルフィがそう思ってしまうのも仕方がない。
ロイスは自分が汲み上げた井戸の水を見ている方がドン引きするくらいに「水っ!水だ!」と喜びを全身で表現しているのだ。
そして桶の中に手を入れて「冷たいっ!冷たいぞ?!なんでだ?」と大騒ぎ。
「お湯の方がいいなら竈の鍋で沸かせばいいんですが、沸騰した湯に手を突っ込みそうなので今日はその水で手を洗ってください」
「これで…どうやって?」
「自分の右手と左手!ごしごし擦り合わせるっ!指と指も絡めてっ!」
「イエス!マムッ!」
「手のひらと手のひら。間にムクロジの実を入れてごしごしっ!」
「イ、イェス、マムッ!」
井戸の水はハッキリ言って凍る寸前の温度。
ロイスは「あの…手が痛いんですが」と泣きそうな顔になってくる。
「通常は夜明け前とかにこの作業を使用人はするんです。お日様が貴方の味方!洗いなさい」
手を洗い終わったロイスを厨房に連れて行き、シルフィは水瓶から水を汲んで手を洗う。
「おや?」と不思議そうな顔をしていたロイスだが…。
「男女で洗い方も水の場所も違うんだな」
斜め上の理解をしていた。
――まぁいいでしょう――
この男には世の中の苦労を知って貰ってから話をした方が早いとシルフィは考えた。
シルフィが青果店で買ってきた野菜も葉っぱに穴が空いていているのを不思議そうに見るロイス。
「虫が食べたんですよ」
「虫っ?!こんなものを食べるのか?」
「野菜や果物は虫や鳥が7割。人間が3割食べるんです。それでも多い方ですよ」
「そうなのか。知らなかったよ。でも虫って危険じゃないか?」
「ちゃんと野菜も洗いますし、この後軽く湯通しもします。虫も食べない野菜の方がもっと危険です」
「君は何でも知ってるんだな」
――貴方が知らなさ過ぎるだけです――
湯通しするための湯にサッと野菜を通すと、しんなりするのもロイスには楽しいらしい。
出来上がった野菜サンド。
シルフィは「どうぞ」とその場でロイスに食べろと言った。
「立ったままで?」
「一番おいしいのは作り立てです。そして…頑張ったのでもう1つ良い事を教えて差し上げます」
「なんだ?」
「作り立てより美味しいのは ”つまみ食い” デッス!」
「なるほど。では夕食はつまみ食いで作ることにしよう!」
――なくなるけどね?――
自分で作り、自分で食べる。
空腹は食事をする上で極上のソースになる。
ロイスは「美味しい。美味しい」泣きながらお手製野菜サンドを頬張った。
珍しいものを見るかのようにロイスの目は見開いて輝いていた。
「素晴らしいな。ハムがないが、この形は見たことがあるよ」
「大きなお世話です。見てるだけじゃなくて隣に来てやってみればどうですの?」
「いいのか?!」
「勿論です。覚えておけば使用人さんを雇っても来られない時に自分で何とでも出来ますからね」
「それもそうだな。よし、やってみるよ」
「じゃぁ、手を洗ってきてください。ムクロジの実がここの棚の引き出しにあるので。よく泡立ててくださいね」
「ムクロジ?泡立てるってどの道具を使えばいいんだ?」
――YOU!HANDッ!――
貧乏だけれど、見栄だけで生きて来たラーリ伯爵を見て育ってきたロイスは手を洗う時ですら使用人がやってくれていた。
温かい湯の桶で使用人が泡立てた泡を容器から取り出すと指と指の間まで洗ってくれていたのだ。
シルフィは取り敢えず作業を中断し、ロイスを井戸に連れて行った。
「はい。この桶をこの穴の中に放り込みます!」
「いいのか?」
「えぇ。勿論」
言われるがままにロイスは紐のついた桶を井戸の中に放り込んだ。
「はい。このロープを下に!!引っ張ります」
「これを?引くのか?下に?」
「えぇ。滑車が上にありますよね。さっき放り込んだ桶に付いていたロープは握っているロープではない方の先に付いていますので引き上げるんです」
「だったら向こう側のロープを上に引っ張り上げるんじゃないのか?」
「ごちゃごちゃ言わずに言われた通りにやるっ!」
「は。はぃ」
ロイスはシルフィの言う通りにロープを下に引く。すると水の入った桶が上がってきたではないか。
「うわっ!!うわっ!見てくれ!下に引いているのに桶が!水の入った桶が上がってきたっ!?」
――この人大丈夫かな――
シルフィがそう思ってしまうのも仕方がない。
ロイスは自分が汲み上げた井戸の水を見ている方がドン引きするくらいに「水っ!水だ!」と喜びを全身で表現しているのだ。
そして桶の中に手を入れて「冷たいっ!冷たいぞ?!なんでだ?」と大騒ぎ。
「お湯の方がいいなら竈の鍋で沸かせばいいんですが、沸騰した湯に手を突っ込みそうなので今日はその水で手を洗ってください」
「これで…どうやって?」
「自分の右手と左手!ごしごし擦り合わせるっ!指と指も絡めてっ!」
「イエス!マムッ!」
「手のひらと手のひら。間にムクロジの実を入れてごしごしっ!」
「イ、イェス、マムッ!」
井戸の水はハッキリ言って凍る寸前の温度。
ロイスは「あの…手が痛いんですが」と泣きそうな顔になってくる。
「通常は夜明け前とかにこの作業を使用人はするんです。お日様が貴方の味方!洗いなさい」
手を洗い終わったロイスを厨房に連れて行き、シルフィは水瓶から水を汲んで手を洗う。
「おや?」と不思議そうな顔をしていたロイスだが…。
「男女で洗い方も水の場所も違うんだな」
斜め上の理解をしていた。
――まぁいいでしょう――
この男には世の中の苦労を知って貰ってから話をした方が早いとシルフィは考えた。
シルフィが青果店で買ってきた野菜も葉っぱに穴が空いていているのを不思議そうに見るロイス。
「虫が食べたんですよ」
「虫っ?!こんなものを食べるのか?」
「野菜や果物は虫や鳥が7割。人間が3割食べるんです。それでも多い方ですよ」
「そうなのか。知らなかったよ。でも虫って危険じゃないか?」
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「君は何でも知ってるんだな」
――貴方が知らなさ過ぎるだけです――
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「一番おいしいのは作り立てです。そして…頑張ったのでもう1つ良い事を教えて差し上げます」
「なんだ?」
「作り立てより美味しいのは ”つまみ食い” デッス!」
「なるほど。では夕食はつまみ食いで作ることにしよう!」
――なくなるけどね?――
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空腹は食事をする上で極上のソースになる。
ロイスは「美味しい。美味しい」泣きながらお手製野菜サンドを頬張った。
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