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第13話 お膳立てを恥じ入る
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お腹が満たされれば元のロイスに戻るかと思ったが、ロイスはぬぐい切れない涙を袖にも吸わせながらシルフィに「ありがとう」と何度も言った。
「こんなに美味しいと感じた料理を食べた事がないよ」
「自分で作ったからですよ。初めて作ったというのもあるでしょうね。ただこれが毎日となると面倒にもなっちゃいますし、自分は食べないのに他人の分となると仕事じゃないとやってられませんよ?」
「他人の分…それは…昨日の事だな」
「そうですね。ま、厨房にあった野菜を勝手に――」
「それは僕…私の失言だ。撤回させてほしい。実に傲慢だった。本当に申し訳ない」
「解って頂ければいいんです。それにさっきの野菜は私の自腹ですから御相子です」
「そうじゃなく…私の言葉で気を悪くしたと思うし、舌の根も乾かぬうちにと思うだろうが屋敷にあるものは君の好きにしてくれていい。それから…使用人なんだが」
「長くなりそうなのでサロンに行きましょうか。そこのワゴンを引いてくださる?」
「ワゴン?あぁ、これか。何をするんだ」
「お茶を淹れるんです。お茶を飲みながらの話でもいいんでしょう?」
「勿論。お茶は淹れた事があるぞ」
「でも、ポットや茶器、茶葉がどこにあるかまでご存じないでしょう?」
「うっ…痛いところを突くな」
――解っていたら珈琲探すだけで厨房を惨状にしないですからね――
ロイスは真正の出来ない子ではなく、茶器やポットを仕舞っている場所も茶葉を種類ごとに保管している棚も教えれば理解をする。
ただ「洗って戻す」「使った後は蓋をする」という概念がない。
全てが上げ膳下げ膳だったのだから仕方がない。
「1回でこんなに茶葉は使わないと思うんだが」
「だから1回分はこの蓋、目盛りがありますよね。それだけ取り出してワゴンのこちらの容器に入れたら蓋をして保管するんですよ」
「そうだったのか。私は何もかも誰かがお膳立てをしてくれたことを自分の手柄のように喜んでいたんだな」
「そうなりますね。でもご安心を。この茶葉。あと4、5回で無くなりますからお茶を飲むこともありません」
「え?じゃぁ茶を飲むにはどうしたらいいんだ?」
「いままで消耗品などもですが食材は誰が管理をしていたんです?」
「シェフだったり侍女頭かな…私は執事が纏めた書類を時々父上の代わりに決済していただけだ」
「なら早めに使用人を雇えば飲めますね」
「そうなんだが…そうなんだよな‥。サロンに行こうか」
肩を落としたロイスはワゴンを押してシルフィと共にサロンに向かった。
ロイスは茶を飲まないと人生の終わり、そんな顔をしているがシルフィは水が飲めれば万事OK。悩むことなど何もない。
しかしロイスが哀れだなとも思う。
誰ががいないと日々の食事もままならない上に、着替えすら出来ない。
その証拠にロイスは昨日来ていた服と同じ服を今も着ている。脱ぎ方も知らなければ清潔な服の着方も知らないのだ。
悪いのだがシルフィはロイスの世話をそこまでしてやろうとは思えない。寝た切りなのであればシルフィ以外に世話をするものがいないのだから頼まれずともやるが、ロイスは自分で動けるのだから手を貸す必要がない。
――そう言えば、私はお母様に教えてもらったんだったわ――
シルフィの母は少しだけ魔法が使えた。
幼子のあるあるで、気に入った服じゃないと嫌だ!と駄々を捏ねるシルフィに母は急いで洗濯をして魔法で乾かしてくれたものだ。
そっと自分の手を見た。
――頑張ったけど魔法は使えなかったのよね――
シルフィの母は僅かな火魔法とちょっぴりの風魔法が使えた。
なので絞った洗濯物の周囲の空気を温めて風を起こし、乾燥させていた。
その力を応用して水を温めたり、薬草などを乾燥させたり。アシェル男爵家のヒット商品である「アッタケーナ」も母の火魔法をクズ魔石を利用して作ったのだ。
ふとロイスを見て思う。
父は落ち込んだ売り上げをまた上げるためにラーリ伯爵家の名前を使おうとしている。
ロイスはその事を知ってこの結婚話を受けたのか。
知っているのなら父と共倒れして頂ければいいだけだが、知らないのであれば教えた時にどう考えるのだろうかと。
「こんなに美味しいと感じた料理を食べた事がないよ」
「自分で作ったからですよ。初めて作ったというのもあるでしょうね。ただこれが毎日となると面倒にもなっちゃいますし、自分は食べないのに他人の分となると仕事じゃないとやってられませんよ?」
「他人の分…それは…昨日の事だな」
「そうですね。ま、厨房にあった野菜を勝手に――」
「それは僕…私の失言だ。撤回させてほしい。実に傲慢だった。本当に申し訳ない」
「解って頂ければいいんです。それにさっきの野菜は私の自腹ですから御相子です」
「そうじゃなく…私の言葉で気を悪くしたと思うし、舌の根も乾かぬうちにと思うだろうが屋敷にあるものは君の好きにしてくれていい。それから…使用人なんだが」
「長くなりそうなのでサロンに行きましょうか。そこのワゴンを引いてくださる?」
「ワゴン?あぁ、これか。何をするんだ」
「お茶を淹れるんです。お茶を飲みながらの話でもいいんでしょう?」
「勿論。お茶は淹れた事があるぞ」
「でも、ポットや茶器、茶葉がどこにあるかまでご存じないでしょう?」
「うっ…痛いところを突くな」
――解っていたら珈琲探すだけで厨房を惨状にしないですからね――
ロイスは真正の出来ない子ではなく、茶器やポットを仕舞っている場所も茶葉を種類ごとに保管している棚も教えれば理解をする。
ただ「洗って戻す」「使った後は蓋をする」という概念がない。
全てが上げ膳下げ膳だったのだから仕方がない。
「1回でこんなに茶葉は使わないと思うんだが」
「だから1回分はこの蓋、目盛りがありますよね。それだけ取り出してワゴンのこちらの容器に入れたら蓋をして保管するんですよ」
「そうだったのか。私は何もかも誰かがお膳立てをしてくれたことを自分の手柄のように喜んでいたんだな」
「そうなりますね。でもご安心を。この茶葉。あと4、5回で無くなりますからお茶を飲むこともありません」
「え?じゃぁ茶を飲むにはどうしたらいいんだ?」
「いままで消耗品などもですが食材は誰が管理をしていたんです?」
「シェフだったり侍女頭かな…私は執事が纏めた書類を時々父上の代わりに決済していただけだ」
「なら早めに使用人を雇えば飲めますね」
「そうなんだが…そうなんだよな‥。サロンに行こうか」
肩を落としたロイスはワゴンを押してシルフィと共にサロンに向かった。
ロイスは茶を飲まないと人生の終わり、そんな顔をしているがシルフィは水が飲めれば万事OK。悩むことなど何もない。
しかしロイスが哀れだなとも思う。
誰ががいないと日々の食事もままならない上に、着替えすら出来ない。
その証拠にロイスは昨日来ていた服と同じ服を今も着ている。脱ぎ方も知らなければ清潔な服の着方も知らないのだ。
悪いのだがシルフィはロイスの世話をそこまでしてやろうとは思えない。寝た切りなのであればシルフィ以外に世話をするものがいないのだから頼まれずともやるが、ロイスは自分で動けるのだから手を貸す必要がない。
――そう言えば、私はお母様に教えてもらったんだったわ――
シルフィの母は少しだけ魔法が使えた。
幼子のあるあるで、気に入った服じゃないと嫌だ!と駄々を捏ねるシルフィに母は急いで洗濯をして魔法で乾かしてくれたものだ。
そっと自分の手を見た。
――頑張ったけど魔法は使えなかったのよね――
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