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第14話 初手、闇の中
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サロンに入り、シルフィがソファに腰かけた途端、ロイスは頭を下げた。
「言ってない事があるんだ」
「なんでしょう?」
「実は、父が‥いや、言い訳だな。今このラーリ伯爵家にあるのは土地と建物、そして僕たちだけだ。資産らしい資産は事業ごと父が持って行ったんだ。使用人も全員‥。だから使用人を雇わないといけないんだけど雇う金もないんだ」
「それで?」
「それでって…簡単に言うが大変な事なんだぞ?」
「はぁ?」
シルフィには何が大変なのかぼんやりとしか解らない。
自分が出来る事をすればいいのだから、清い関係での離縁が認められるまでおおよそで最短2年。家の掃除やらは任せてくれる、仕事は任せろ!と言ってくれるならそれでいいのだ。
少ない予算でなんとかやりくりするのは平民ならどの家庭だってしている事だし、夫婦で倹しく暮らすなら3、4か月分くらいの食費は父から貰った手切れ金でなんとかなる。
1か月ほどで屋敷の中も手を入れる部分、手を抜いていい部分も判るだろうから、シルフィも働き出ればいいのだ。侯爵家以上になると夫人が市井の商会で経理をしている、なんてことは先ずないが伯爵家の夫人が実は内職してますなんてよくある話。
アシェル男爵家の営業でそんな家はシルフィも腐るほど見て来た。
その間にロイスには国から小さな事業でも請け負ってもらえれば伯爵家を「ラーリ伯爵家ここにあり!」とまでは届かなくても、こつこつと誠実な対応をする事でグレイスを迎え入れられるだけの生活は出来るようになるだろう。
父に家名を妙なところで勝手に使われなければ!だが。
しかし、シルフィが考えている以上に事態は深刻だった。
何故なら…。
「私は、父上に言われた事しかした事がないから、事業にどうやって参入するか、どんな事業を自分で興せばいいのか…。全然判らないんだ」
「え?ちょ、ちょっと待ってください?執務はしてたんですよね?」
「手伝いでね。計算に間違いがないか。誤字がないかを確認する作業だったけど」
「それを執務って言う人、本当にいるんだぁ」
心の中に留めておこうと思った言葉がつい、口から音になって漏れてしまった。
ハッとして口を手で覆ったが後の祭り。
ロイスは情けない顔をして「そうだよな」と自分で自分に乾いた笑いを送った。
「もしかして何ですけども使用人の募集の仕方も?」
「うん。金がないのもあるけど、どうやって募集すればいいかもわからないし、執事1つを取ってもどんなことをこちらが望んでいいのかも判らないんだ。シェフはまぁ料理かなと思うけど、さっき厨房で食材をシェフがと言ったけど、メニューを決めていたのがシェフかどうか。自信もないんだ。と言う事は必要な食材はシェフが頼んでいたんだろうかと」
――うん。これは不味いわ――
大店で二代目は店を潰すと言うが、原因は遊び惚ける二代目の散財だけが理由ではない。遊び惚けている二代目でも番頭がしっかりと手綱を握っていれば店は潰れないからである。
主はどうせ判らないんだからと雇われている側も散財に便乗するから潰れるのだ。
何も解っていないロイスが人を募集し、集まった人が適材なのかは判らない。
ラーリ伯爵が全てを持って行ったと言う事は、ツテすらロイスにはないと言う事。
――八方塞っていうより、初手、闇の中って感じ?――
これではますますアシェル男爵の思う壺だ。結婚してまだ2日目なので何も言ってこないが10日、2週間と経てば間違いなく「困りごとはありませんか?」とやってくるだろう。
しかも「娘が何も言わないので」とか「娘可愛さの親馬鹿です」とか思ってもない事を付け加えて。
「君の家の工房のように皆が一丸となってくれるには、程遠いな」
ぽつりとつぶやいたロイスにシルフィは閃いた。
――そうか!工房よ――
シルフィはぐぐっとロイスに顔を近づけた。
「ロイス様」
「な、なんだっ?!近い!近いよ!」
至近距離に来たシルフィの甘い香りとほんのりとさっき食べる時に軽く火で炙ったパンの香りが鼻孔を擽る。
耳まで真っ赤になったロイスにシルフィは更に距離を詰めた。
「言ってない事があるんだ」
「なんでしょう?」
「実は、父が‥いや、言い訳だな。今このラーリ伯爵家にあるのは土地と建物、そして僕たちだけだ。資産らしい資産は事業ごと父が持って行ったんだ。使用人も全員‥。だから使用人を雇わないといけないんだけど雇う金もないんだ」
「それで?」
「それでって…簡単に言うが大変な事なんだぞ?」
「はぁ?」
シルフィには何が大変なのかぼんやりとしか解らない。
自分が出来る事をすればいいのだから、清い関係での離縁が認められるまでおおよそで最短2年。家の掃除やらは任せてくれる、仕事は任せろ!と言ってくれるならそれでいいのだ。
少ない予算でなんとかやりくりするのは平民ならどの家庭だってしている事だし、夫婦で倹しく暮らすなら3、4か月分くらいの食費は父から貰った手切れ金でなんとかなる。
1か月ほどで屋敷の中も手を入れる部分、手を抜いていい部分も判るだろうから、シルフィも働き出ればいいのだ。侯爵家以上になると夫人が市井の商会で経理をしている、なんてことは先ずないが伯爵家の夫人が実は内職してますなんてよくある話。
アシェル男爵家の営業でそんな家はシルフィも腐るほど見て来た。
その間にロイスには国から小さな事業でも請け負ってもらえれば伯爵家を「ラーリ伯爵家ここにあり!」とまでは届かなくても、こつこつと誠実な対応をする事でグレイスを迎え入れられるだけの生活は出来るようになるだろう。
父に家名を妙なところで勝手に使われなければ!だが。
しかし、シルフィが考えている以上に事態は深刻だった。
何故なら…。
「私は、父上に言われた事しかした事がないから、事業にどうやって参入するか、どんな事業を自分で興せばいいのか…。全然判らないんだ」
「え?ちょ、ちょっと待ってください?執務はしてたんですよね?」
「手伝いでね。計算に間違いがないか。誤字がないかを確認する作業だったけど」
「それを執務って言う人、本当にいるんだぁ」
心の中に留めておこうと思った言葉がつい、口から音になって漏れてしまった。
ハッとして口を手で覆ったが後の祭り。
ロイスは情けない顔をして「そうだよな」と自分で自分に乾いた笑いを送った。
「もしかして何ですけども使用人の募集の仕方も?」
「うん。金がないのもあるけど、どうやって募集すればいいかもわからないし、執事1つを取ってもどんなことをこちらが望んでいいのかも判らないんだ。シェフはまぁ料理かなと思うけど、さっき厨房で食材をシェフがと言ったけど、メニューを決めていたのがシェフかどうか。自信もないんだ。と言う事は必要な食材はシェフが頼んでいたんだろうかと」
――うん。これは不味いわ――
大店で二代目は店を潰すと言うが、原因は遊び惚ける二代目の散財だけが理由ではない。遊び惚けている二代目でも番頭がしっかりと手綱を握っていれば店は潰れないからである。
主はどうせ判らないんだからと雇われている側も散財に便乗するから潰れるのだ。
何も解っていないロイスが人を募集し、集まった人が適材なのかは判らない。
ラーリ伯爵が全てを持って行ったと言う事は、ツテすらロイスにはないと言う事。
――八方塞っていうより、初手、闇の中って感じ?――
これではますますアシェル男爵の思う壺だ。結婚してまだ2日目なので何も言ってこないが10日、2週間と経てば間違いなく「困りごとはありませんか?」とやってくるだろう。
しかも「娘が何も言わないので」とか「娘可愛さの親馬鹿です」とか思ってもない事を付け加えて。
「君の家の工房のように皆が一丸となってくれるには、程遠いな」
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――そうか!工房よ――
シルフィはぐぐっとロイスに顔を近づけた。
「ロイス様」
「な、なんだっ?!近い!近いよ!」
至近距離に来たシルフィの甘い香りとほんのりとさっき食べる時に軽く火で炙ったパンの香りが鼻孔を擽る。
耳まで真っ赤になったロイスにシルフィは更に距離を詰めた。
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