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第18話 人生初の横抱き
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時間は少し戻り、シルフィが教会に出かけて行くとロイスは頼まれたシフト表を作り始めた。
職人は7人と言っていたので1週間単位なら1人が休めばいいのだが4勤1休なので表を作って割り当てていく。夜勤などはなく、昼間の勤務だけ。
父親の手伝いで執事が作成をした3交代のシフト表は見たことがあったし、その日に必要と思われる人数の確保も確認をしたりとしていたので、頼まれていたシフト表作りは順調に進んでいた。
「そうか。休みがあると‥そうだよな。モチベーションも上がるかも知れないな」
ついでなので、人員が増えた時や急に休まねばならなくなった時の振り替えにも対応できるシフト表を作っていた時だった。
「えへ♡期待に応えて来ちゃいましたーっ」
突然扉が開いた音と同時に声がした。
シルフィにが戻るにしては早すぎると思いながら顔をあげるとグレイスが小さく手を振って笑っていた。
――マジか。来ない事を期待してたよ――
お洒落用小物である空っぽの籠をソファーテーブルに置くと手の指を後ろで組んで、ロイスの隣にやってきた。
「何してるの?」
「なんでもないよ。どうしたんだ?何か用事があったのか?」
「用事?あったわよ?ロイスが私に会いたがってるから来てあげたって用事。で?これなに?塗りつぶすの?手伝ってあげよっか?」
――なんで来てあげた??頼んでないが――
「いや、いいよ。用事がないのなら屋敷に2人きりって言うのは不味いから帰ってくれるかな?」
「どぉして?折角来てあげたのに。ねぇ、やりたい、やりたぁい!!やってあげるからぁ」
――やってあげるって、なんで上からなんだ?――
ハッキリ言って邪魔である。
升目を作り休日になる部分に斜線を入れて、緊急の対応で代休を振り替えることが可能な休みを塗りつぶしていたのに「ペン貸して。上手いんだから」とグレイスが顔を覗き込んでくる。
「これは遊びで作っているんじゃないんだ。僕が作らないと解らなくなるから」
ロイスは自分の性格が恨めしい。
こんな時、もっと強く言えればいいのだが女性相手に強い言葉で大きな声だと怯えさせてしまうのでは?とか、泣きだしたらどうしようとか、怒らせてしまったら不味いかなとやはりやんわりとした言い方になってしまう。
「つまんなぁい。じゃぁ、お茶飲みたいっ。いっぱい、いーっぱい歩いてきたから喉乾いちゃった」
「お茶?飲んだら帰るんだよ」
「どうして追い払うの?私ってこの世に存在しちゃいけない?」
――そこまでは言ってない――
返答に困る聞き方はやめてほしいが、考えてみればグレイスは両極端な聞き方をする事がある。
ここで「邪魔だ」と言えば「死んだ方がいいのか」「いっそ殺して」と暫く機嫌が直らない。数年付き合えば扱いも慣れてはいたけれど、完全に気持ちも冷えてしまった今は宥めていた過去が恨めしい。
友人たちが「グレイスは止めとけ」と言ったのも「グレイスと付き合うならお前とは距離を置く」と言ったのも、グレイスのメンヘラ気質が原因でもある。
――どうして別れ話をあの時、すんなり了解してくれたのかな?――
ロイスはふと思った。
だが、ちらりと視界の端に見えるグレイス。今、その事を蒸し返すと「邪魔かどうか」の回答と合わさって余計に面倒くさい事になること間違いない。
ロイスは取り敢えずは茶を淹れて、雰囲気を和まそうとした。
「じゃぁ、お茶を淹れるからさ。待っててよ」
「そんなので機嫌を取ろうったってそうはいかないんだからッ」
「機嫌を取るんじゃないよ。喉、乾いてるんだろう?」
「乾いてるけどっ!(ふんっ)」
頬を膨らませ、唇も尖らせてプイっと顔を背けるグレイスだが、ロイスはその仕草を可愛いとは思わない。
付き合っている時も「アヒル口」が可愛いと誰も彼もが唇をアヒルのようにしていたが、陳腐なだけで可愛いとは思えなかったが、それを指摘すると可愛いと信じ込んでいるグレイスは‥‥扱いが面倒なのだ。
だから指摘はしなかったがグレイスから「可愛い?」と何度も聞かれた。
きっと今も、いじけて顔を背ける仕草が可愛いと思っての行動。指摘する以前に気が付かなった事にして流すのが一番だ。
グレイスの機嫌を取りながら、シルフィに教えてもらった通りに湯を沸かし、茶器にポット、茶葉を用意する。
残り少ない茶葉を見て「これをグレイスに使うのか」と思うと悲しくなる。
ようやくグレイスが帰ってくれたのは6時間後。
どっと疲れが押し寄せたロイスだったが、夕食のために食事室に行くとワンプレートではなく今日はスープまで用意をされていた。
――なんて豪華なんだ!――
食事の後、「はい。これはロイス様の分」と差し出されたのは栗。
なんとデザートまであった。
但し、皮は自分で剝くというセルフなデザート。
シルフィを真似てマロンクリップを使って皮を剥き、渋皮を丁寧に剥がしながらロイスはシルフィに問うた。
「なぁ。別れる時はすんなり受け入れたのにしつこくやってくるっていう心境ってどうなんだろう」
ジト目になったシルフィの答え。
「ぐわぁ!綺麗に剝けてたのに最後で割れたァ!」
答えになってない答えが返ってきたが、食事室を出て自分の部屋に向かう途中、ロイスは叫んだ。
「うわぁぁ!!」
廊下に男性がいたからである。
そして、「どうした。どうした」とわらわら人が集まってくる。
ロイスとシルフィしかいないと思っていた屋敷。
ロイスは老若男女問わず20人ほどに囲まれ、腰を抜かした。
シルフィがスカウトしてきた職人とその家族と教えてくれたのは、腰が抜けて歩けなくなったロイスを横抱きにして寝台まで運んでくれた自称ナイスガイのクスレテッドだった。
――人生初の横抱き。する方じゃなくされる方とは――
ちょっとだけ自尊心が傷ついたロイスだった。
職人は7人と言っていたので1週間単位なら1人が休めばいいのだが4勤1休なので表を作って割り当てていく。夜勤などはなく、昼間の勤務だけ。
父親の手伝いで執事が作成をした3交代のシフト表は見たことがあったし、その日に必要と思われる人数の確保も確認をしたりとしていたので、頼まれていたシフト表作りは順調に進んでいた。
「そうか。休みがあると‥そうだよな。モチベーションも上がるかも知れないな」
ついでなので、人員が増えた時や急に休まねばならなくなった時の振り替えにも対応できるシフト表を作っていた時だった。
「えへ♡期待に応えて来ちゃいましたーっ」
突然扉が開いた音と同時に声がした。
シルフィにが戻るにしては早すぎると思いながら顔をあげるとグレイスが小さく手を振って笑っていた。
――マジか。来ない事を期待してたよ――
お洒落用小物である空っぽの籠をソファーテーブルに置くと手の指を後ろで組んで、ロイスの隣にやってきた。
「何してるの?」
「なんでもないよ。どうしたんだ?何か用事があったのか?」
「用事?あったわよ?ロイスが私に会いたがってるから来てあげたって用事。で?これなに?塗りつぶすの?手伝ってあげよっか?」
――なんで来てあげた??頼んでないが――
「いや、いいよ。用事がないのなら屋敷に2人きりって言うのは不味いから帰ってくれるかな?」
「どぉして?折角来てあげたのに。ねぇ、やりたい、やりたぁい!!やってあげるからぁ」
――やってあげるって、なんで上からなんだ?――
ハッキリ言って邪魔である。
升目を作り休日になる部分に斜線を入れて、緊急の対応で代休を振り替えることが可能な休みを塗りつぶしていたのに「ペン貸して。上手いんだから」とグレイスが顔を覗き込んでくる。
「これは遊びで作っているんじゃないんだ。僕が作らないと解らなくなるから」
ロイスは自分の性格が恨めしい。
こんな時、もっと強く言えればいいのだが女性相手に強い言葉で大きな声だと怯えさせてしまうのでは?とか、泣きだしたらどうしようとか、怒らせてしまったら不味いかなとやはりやんわりとした言い方になってしまう。
「つまんなぁい。じゃぁ、お茶飲みたいっ。いっぱい、いーっぱい歩いてきたから喉乾いちゃった」
「お茶?飲んだら帰るんだよ」
「どうして追い払うの?私ってこの世に存在しちゃいけない?」
――そこまでは言ってない――
返答に困る聞き方はやめてほしいが、考えてみればグレイスは両極端な聞き方をする事がある。
ここで「邪魔だ」と言えば「死んだ方がいいのか」「いっそ殺して」と暫く機嫌が直らない。数年付き合えば扱いも慣れてはいたけれど、完全に気持ちも冷えてしまった今は宥めていた過去が恨めしい。
友人たちが「グレイスは止めとけ」と言ったのも「グレイスと付き合うならお前とは距離を置く」と言ったのも、グレイスのメンヘラ気質が原因でもある。
――どうして別れ話をあの時、すんなり了解してくれたのかな?――
ロイスはふと思った。
だが、ちらりと視界の端に見えるグレイス。今、その事を蒸し返すと「邪魔かどうか」の回答と合わさって余計に面倒くさい事になること間違いない。
ロイスは取り敢えずは茶を淹れて、雰囲気を和まそうとした。
「じゃぁ、お茶を淹れるからさ。待っててよ」
「そんなので機嫌を取ろうったってそうはいかないんだからッ」
「機嫌を取るんじゃないよ。喉、乾いてるんだろう?」
「乾いてるけどっ!(ふんっ)」
頬を膨らませ、唇も尖らせてプイっと顔を背けるグレイスだが、ロイスはその仕草を可愛いとは思わない。
付き合っている時も「アヒル口」が可愛いと誰も彼もが唇をアヒルのようにしていたが、陳腐なだけで可愛いとは思えなかったが、それを指摘すると可愛いと信じ込んでいるグレイスは‥‥扱いが面倒なのだ。
だから指摘はしなかったがグレイスから「可愛い?」と何度も聞かれた。
きっと今も、いじけて顔を背ける仕草が可愛いと思っての行動。指摘する以前に気が付かなった事にして流すのが一番だ。
グレイスの機嫌を取りながら、シルフィに教えてもらった通りに湯を沸かし、茶器にポット、茶葉を用意する。
残り少ない茶葉を見て「これをグレイスに使うのか」と思うと悲しくなる。
ようやくグレイスが帰ってくれたのは6時間後。
どっと疲れが押し寄せたロイスだったが、夕食のために食事室に行くとワンプレートではなく今日はスープまで用意をされていた。
――なんて豪華なんだ!――
食事の後、「はい。これはロイス様の分」と差し出されたのは栗。
なんとデザートまであった。
但し、皮は自分で剝くというセルフなデザート。
シルフィを真似てマロンクリップを使って皮を剥き、渋皮を丁寧に剥がしながらロイスはシルフィに問うた。
「なぁ。別れる時はすんなり受け入れたのにしつこくやってくるっていう心境ってどうなんだろう」
ジト目になったシルフィの答え。
「ぐわぁ!綺麗に剝けてたのに最後で割れたァ!」
答えになってない答えが返ってきたが、食事室を出て自分の部屋に向かう途中、ロイスは叫んだ。
「うわぁぁ!!」
廊下に男性がいたからである。
そして、「どうした。どうした」とわらわら人が集まってくる。
ロイスとシルフィしかいないと思っていた屋敷。
ロイスは老若男女問わず20人ほどに囲まれ、腰を抜かした。
シルフィがスカウトしてきた職人とその家族と教えてくれたのは、腰が抜けて歩けなくなったロイスを横抱きにして寝台まで運んでくれた自称ナイスガイのクスレテッドだった。
――人生初の横抱き。する方じゃなくされる方とは――
ちょっとだけ自尊心が傷ついたロイスだった。
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