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第27話 粘着メンヘラ
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屋敷に戻ってきたロイスとシルフィだったが、玄関前で帰りを待っていたのは職人だけではなかった。
「ロイスぅ!お帰りなさぁい。寒かったでしょう?一緒にお茶、飲んであげるっ」
ロイスに駆け寄って飛びついてきたのはグレイスだった。
==いったいどんな神経してんだ?この女==
一昨日は服を持って逃げ帰ったのに、たった1日を間に挟んだだけでやってくる精神力。
シルフィと一緒に、つまり隣に妻がいるのに常軌を逸脱した言動。
グレイスの何もかもがロイスの過去を黒歴史に変えていく。
付き合った事だけでなく、知り合った事すら消し去りたい過去たがグレイスはロイスの気持ちなどお構いなしに腕を引き、「中に入ろうよぉ」と甘えて来る。
==不味い、吐きそうだ==
このままグレイスに吐瀉物を浴びせてしまえば来ることも無くなるだろうか。
そんな事まで思ってしまう。
シルフィはグレイスの事など眼中にないのか、いや、ロイスすら眼中にない様で職人たちとさっさと中に入っていってしまった。
「寒い?温めてあげる」
グレイスはロイスの手袋を剥ぎ取るように奪うとロイスの指を「ちゅっ」咥えた。
生暖かいだけでなく、ヌメッとした感触にロイスは手を引き、グレイスの手も振り払った。
「やめてくれ。それに来るなと言ったはずだ」
「もぉ。ロイスったら怒りんぼさん。拗ねると眉間に皴ができちゃうぞっ♡」
振り払ってもグレイスはロイスの腕に手を絡めて来る。
その手は悪魔の触手のようにロイスの皮膚を突き破ってくるかのような気持ち悪さ。
ギチギチとグレイスの指を剥がした。
「本当にいい加減にしてくれよ。何度も言うが君とは別れたんだ」
「そうよ。でも私たちは運命なの。私の心を満たすのはロイス!貴方しかいないの」
「僕の心を乱暴に!削ぎ落していくのは君だがな!」
「大丈夫。削ぎ落した心もちゃぁんと私が愛の力で復元してあげるから」
「やめろ!気持ち悪いんだよ!付き合っていたことも忘れたい!今、僕は君と言う存在を記憶の全てから消し去ってしまいたいくらいだ!」
「そんな‥私に死ねと言うの?存在を消せ‥そう言うのね?私は消えてしまった方がいい人間だ、ロイスはそう言うのね?」
「そうじゃない!なんで気持ちと言う見えないものから、現実の生死にまで話を結びつける?そう言うところも嫌なんだよ!」
「解った…私、死ぬ。死んでほしいのよね?それがロイスの願いならそうするしかないわ。だって、愛しているんだもの」
その日はそれだけ言うと帰っていったグレイス。
ロイスは後味の悪い思いに、部屋に戻ると本当に吐いてしまった。
翌日、その翌日もグレイスは来なかったし、姿を見なくなって1か月。
やっと諦めてくれたかと思ったのだが…。
「あの、ロイスさん、客が来てるんスけど」
夫人たちが対応を嫌がったので仕方なく職人で唯一の独身、休日のコイーケルがロイスに客が来たことを知らせに来た。
「客?私に?」
「えぇ、まぁ。客って言うか…」
口籠るコイーケルにロイスは「まさか」と思いながらも聞いてみた。
「誰だろう」
「あの女性、って言えば解りますかね?この手合いはうっかり名前を呼ぶだけで纏わりつかれるんで」
「ハァーーーーーーーッ」
ロイスは特大の長い溜息を吐いた。
「一応ね、ビグールさんから放っておけって言われたんで、放っておいたんですけど3時間玄関でずーっと待ってるんで」
「3時間?!」
「もっと早くに伝えた方が良かったですかね?」
「いや、そこまで待たされて待つ方がどうかしてる。解った。行くよ。どうせ僕が行くまで何時間でも粘るだろうし」
重い腰と気持ちを奮い立たせて部屋から出ると丁度シルフィが向かいからやってきた。
「ロイスさん」
==天使の囁き♡戦場に向かう僕には癒しだよ==
「なんだろう」
「3週間後に繊維協会の主催する夜会が御座いますので、ご出席をお願いします」
「3週間後?解った。馬車の手配もしておくよ」
「馬車はトイプドール商会の会頭さんが手配済みです。ロイス様はご出席を。お部屋に参加者名簿を置いておきますのでご一読をお願いします」
「解った。えっと…あのシルフィ」
「では私は工房に行きますので。大事なお客様を長くお待たせするものではありませんわ」
「早くいけ」とシルフィはロイスに玄関を手で示す。
今日もシルフィの防壁は高くて分厚かった。
玄関に行くとグレイスはぱぁっと笑顔になりロイスに抱き着いてきた。
「本当にいい加減にしてくれ」と言おうとしたが先にグレイスがロイスに話しかけた。
「あのねぇ、ロイスの言う通りにしたの。でもね?この1か月、何度も頑張ったけど失敗しちゃったの。上手に出来なかった事に怒ってるからなかなか出てきてくれなかったのよね?」
そっと袖を捲ったグレイスの腕を見てロイスは戦慄を覚えた。
本当に自分の体を傷つけたのかは包帯に隠れて見えない。
そんなロイスにグレイスが「くすっ」と笑って言った。
「3週間後、夜会なんでしょう?聞こえちゃったぁ♡楽しみね」
グレイスの笑顔にロイスはゾッとした。
「ロイスぅ!お帰りなさぁい。寒かったでしょう?一緒にお茶、飲んであげるっ」
ロイスに駆け寄って飛びついてきたのはグレイスだった。
==いったいどんな神経してんだ?この女==
一昨日は服を持って逃げ帰ったのに、たった1日を間に挟んだだけでやってくる精神力。
シルフィと一緒に、つまり隣に妻がいるのに常軌を逸脱した言動。
グレイスの何もかもがロイスの過去を黒歴史に変えていく。
付き合った事だけでなく、知り合った事すら消し去りたい過去たがグレイスはロイスの気持ちなどお構いなしに腕を引き、「中に入ろうよぉ」と甘えて来る。
==不味い、吐きそうだ==
このままグレイスに吐瀉物を浴びせてしまえば来ることも無くなるだろうか。
そんな事まで思ってしまう。
シルフィはグレイスの事など眼中にないのか、いや、ロイスすら眼中にない様で職人たちとさっさと中に入っていってしまった。
「寒い?温めてあげる」
グレイスはロイスの手袋を剥ぎ取るように奪うとロイスの指を「ちゅっ」咥えた。
生暖かいだけでなく、ヌメッとした感触にロイスは手を引き、グレイスの手も振り払った。
「やめてくれ。それに来るなと言ったはずだ」
「もぉ。ロイスったら怒りんぼさん。拗ねると眉間に皴ができちゃうぞっ♡」
振り払ってもグレイスはロイスの腕に手を絡めて来る。
その手は悪魔の触手のようにロイスの皮膚を突き破ってくるかのような気持ち悪さ。
ギチギチとグレイスの指を剥がした。
「本当にいい加減にしてくれよ。何度も言うが君とは別れたんだ」
「そうよ。でも私たちは運命なの。私の心を満たすのはロイス!貴方しかいないの」
「僕の心を乱暴に!削ぎ落していくのは君だがな!」
「大丈夫。削ぎ落した心もちゃぁんと私が愛の力で復元してあげるから」
「やめろ!気持ち悪いんだよ!付き合っていたことも忘れたい!今、僕は君と言う存在を記憶の全てから消し去ってしまいたいくらいだ!」
「そんな‥私に死ねと言うの?存在を消せ‥そう言うのね?私は消えてしまった方がいい人間だ、ロイスはそう言うのね?」
「そうじゃない!なんで気持ちと言う見えないものから、現実の生死にまで話を結びつける?そう言うところも嫌なんだよ!」
「解った…私、死ぬ。死んでほしいのよね?それがロイスの願いならそうするしかないわ。だって、愛しているんだもの」
その日はそれだけ言うと帰っていったグレイス。
ロイスは後味の悪い思いに、部屋に戻ると本当に吐いてしまった。
翌日、その翌日もグレイスは来なかったし、姿を見なくなって1か月。
やっと諦めてくれたかと思ったのだが…。
「あの、ロイスさん、客が来てるんスけど」
夫人たちが対応を嫌がったので仕方なく職人で唯一の独身、休日のコイーケルがロイスに客が来たことを知らせに来た。
「客?私に?」
「えぇ、まぁ。客って言うか…」
口籠るコイーケルにロイスは「まさか」と思いながらも聞いてみた。
「誰だろう」
「あの女性、って言えば解りますかね?この手合いはうっかり名前を呼ぶだけで纏わりつかれるんで」
「ハァーーーーーーーッ」
ロイスは特大の長い溜息を吐いた。
「一応ね、ビグールさんから放っておけって言われたんで、放っておいたんですけど3時間玄関でずーっと待ってるんで」
「3時間?!」
「もっと早くに伝えた方が良かったですかね?」
「いや、そこまで待たされて待つ方がどうかしてる。解った。行くよ。どうせ僕が行くまで何時間でも粘るだろうし」
重い腰と気持ちを奮い立たせて部屋から出ると丁度シルフィが向かいからやってきた。
「ロイスさん」
==天使の囁き♡戦場に向かう僕には癒しだよ==
「なんだろう」
「3週間後に繊維協会の主催する夜会が御座いますので、ご出席をお願いします」
「3週間後?解った。馬車の手配もしておくよ」
「馬車はトイプドール商会の会頭さんが手配済みです。ロイス様はご出席を。お部屋に参加者名簿を置いておきますのでご一読をお願いします」
「解った。えっと…あのシルフィ」
「では私は工房に行きますので。大事なお客様を長くお待たせするものではありませんわ」
「早くいけ」とシルフィはロイスに玄関を手で示す。
今日もシルフィの防壁は高くて分厚かった。
玄関に行くとグレイスはぱぁっと笑顔になりロイスに抱き着いてきた。
「本当にいい加減にしてくれ」と言おうとしたが先にグレイスがロイスに話しかけた。
「あのねぇ、ロイスの言う通りにしたの。でもね?この1か月、何度も頑張ったけど失敗しちゃったの。上手に出来なかった事に怒ってるからなかなか出てきてくれなかったのよね?」
そっと袖を捲ったグレイスの腕を見てロイスは戦慄を覚えた。
本当に自分の体を傷つけたのかは包帯に隠れて見えない。
そんなロイスにグレイスが「くすっ」と笑って言った。
「3週間後、夜会なんでしょう?聞こえちゃったぁ♡楽しみね」
グレイスの笑顔にロイスはゾッとした。
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