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cyaru

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第11話  王都に向かう男が1人

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「待てよ!話を聞けよ!リゼにとっても悪い話じゃないだろう!」

背中にアンセルの声を受けながらリーゼロッテは廊下を走った。
途中マルコとすれ違った時に「お姉さん?」小さく呼ばれた気がしたけれどリーゼロッテは今の自分が誰に対してであってもとんでもない事を口走りそうで部屋に駆けて行った。

「謝罪もないなんて!それどころか愛人になれですって?!どこまで私をバカにしてるの!」

部屋に駆けこんで枕に八つ当たりをし、バフバフと寝具に枕を叩きつける。
差し込んでくる陽の光に埃が無数に舞うがリーゼロッテはそれでも枕に八つ当たりを繰り返した。

頭の中では解っていた。
ベルカム家にウッサム伯爵家は先に納めていた持参金を慰謝料と名を変えさせて受け取らせていたし、ウッサム伯爵家に渡した支度金は一切抜かれないままに帰ってきた。

「もう終わってた!終わってたのよ!」

記憶の中にある大好きだったアンセルはもう何処にもいない。
解っていたけれど、もしかすればとあり得ない考えに希望を見出してしまった。

愛人になれと言ったアンセルにリーゼロッテの残っていた慕う気持ちも吹き飛んでしまった。
不思議と涙が出ない。泣きそうな気持ちはあるけれどリーゼロッテの目から涙があふれることはなかった。



★~★

一方その頃、オッペル男爵家のデルモントは王都の周囲を囲む大きな城壁が見える位置まで長い道のりを馬を引き、歩いていた。いつもなら馬は連れずに道なき道を獣のように駆け抜け、大地を敷布に、夜空を掛布に、そして木の幹を枕にして最短距離を進むのだが今回は大きな荷物があったため、馬の背に乗せてゆっくりと歩いていた。

「あと少しだからな。王都にある販売所に付いたら旨い飼い葉もたっぷり食わせてやるからな」

「ブルルっ!」

「そうか、そうか。すまんなぁ。いつもは農機具を引くだけなのにこんな重い荷物を背負わせちまってなぁ」

オッペル男爵家に乗馬をするような馬はいない。
領地で5頭飼っている馬は全て年老いた馬で殺処分をするくらいならと貰い受け、農耕馬として時期になると農具を引いて田を耕したりしている。

主な産業は繊維業。領地で一番多いのは羊。その次は猪に鹿。人間の数よりもヤギの数が多い。
人間の数の次に少ないのが犬と馬である。

今回は羊毛をいつもとは違う洗浄方法で洗い、糸をり、織るのではなく編むことで伸縮性を持たせた布地を製作してみた。数種類あるのは草木染をしたもので淡い色合いで販売可能な商会を見つけることが出来れば領民の収入になる。

半年前に執事を向かわせたのだが「当主が来ずに執事とは当家を見下しているのか」と話すらさせてもらえない家が多いと聞いてデルモントは国への決算報告に合わせて出立したのだ。


「王都は寒いなぁ。古傷がしくしくするぜ」

「ブル?ブブゥ」

「そうなんだよ。寒さがなぁ。堪えるんだ」

馬に話しかけながら歩いて残りの道のりを進むデルモントは王都で販売所にいるソフィーが見合い話を取り付けた事を知らない。


男爵家は以前からそれなりに儲かってはいたし、暮らすのに豪遊は別として何の不自由もなかったが10代の時、家を継ぐのは既定路線で面白くない。

親の決めた道を歩くのが嫌で反発し、国境添いの傭兵に志願し12歳で見習いとなって20歳を過ぎる頃まで騎士として働いていた。

除隊をした理由は負傷である。
敵軍の奇襲を受けた部隊は113人いたがデルモントの他に5人を残して全滅した。

敗走する中、上官を庇い矢が右肩に刺さったデルモントは利き腕が上がらなくなってしまった。

利き腕がなくても左があると足掻いては見たものの、負傷兵として除隊を余儀なくされた。その時の上官とは今も手紙のやり取りをしている。

今では左手を添えなければ自由に動かす事も出来ないただの飾りになってしまった。その事に上官も責任を感じているだろう。

五体満足でない者は冷遇されやすい国。
御多分に漏れずデルモントは後ろ指を指され、嘲笑されてきた。

だからだろうか。すっかり人嫌いになってしまい当主となって3年で最近は領民からの支持も得られるようにはなったが、デルモントが基本的に信用している人間は極僅か。

騎士をしていた頃はそれなりにモテたが、除隊後はサッパリで男爵家当主と言えど「嫁に」なんて言われたら目も当てられないと女性からも敬遠をされ、女性に対しても嫌悪感を抱くようになってしまった。

結婚はもう諦めているので養子を貰おうと取引先には声を掛けるが、右腕が不自由なデルモントの元に養子にやればトバッチリがありそうだと何処もお断りをしてくる。

教会に世話になっている孤児を引き取ろうとしたのだが、介護要員と思われてしまい申請は尽く却下。

「世の中、世知辛いよな~」

「ブッルゥ」

「そっか。お前もそう思うか」

ぶるっと1つ身震いをしてデルモントはそびえ立つ城壁に歩みを進めた。
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