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第14話 お見合い
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翌日。遂にオッペル男爵家のデルモントとの見合いの日がやってきた。
修道士が「また来ている」とアンセルの来訪を教えてくれたためベルカム子爵夫妻とリーゼロッテはソフィーの用意した馬車に乗り込むと修道士とやりあうアンセルを横目に教会を出発した。
「すみませんね。旦那様がいつ王都に到着するか判らなかったので良いお席を予約も出来ず、販売所の応接室となってしまいました」
「良いんですよ。気にされないでください」
ベルカム子爵夫妻もリーゼロッテがあまり乗り気ではない事を悟り、一緒に領地に連れて行くつもりで腹を括っていた。
こじんまりと間口の狭い販売所だったがウナギの寝床と呼ばれる奥に長い建物で「こちらです」と案内をされて「どこまで行くの?」と思えるほど家屋の廊下を歩いた。
布地をソフィーと一緒に持って来てくれた男性が扉を開けて待っている姿を見て「ここなんだな」と案内をされるがままに部屋に入ると1人の男性が待っていた。
「ようこそ。狭い場所ですがどうぞおかけください」
左手でソファを示す男性にリーゼロッテは「左利きなのかな」と物珍しさを覚えた。
乗合馬車もだが、日常生活の至る所では右利き専用に手すりなどが設けられているので左利きは強制的に右利き若しくは両利きにするために矯正するのだ。
しかし、右手はと言うと、申し訳ないがぶら下がっているだけで何ら役目を果たしていなかった。
その理由は自己紹介のついでにデルモントから語られた。
「オッペル男爵家の当主をしておりますデルモントと申します。お見知りおきを」
「私はベルカム子爵家で当主をしておりますフィルスと申します。妻はサナリー。娘はリーゼロッテと申します。婚約のお話を頂き大変光栄に感じております」
「実は、このような席で言う事でもないのですが見ての通り私は右の手が飾りなのです。騎士をしている時の負傷が原因なのですが、こんな体故にお嬢様に迷惑になってはいけないと思いまして、この話…こちらのソフィーから言い出した事だと承知しておりますが見送って頂けますよう」
デルモントは取り繕う事も隠す事もせず、そして変に期待を持たせることもないように正直にこの縁談を見送って欲しいとベルカム子爵に申し出た。
今なら慰謝料など金銭の問題も発生をしないし、両家が見合いをしている事を知っている者は身内だけ。醜聞になることもないとデルモントは言う。
そんなデルモントにベルカム子爵は「なんと正直な人なのだろうか」と素直に感動をした。
だからこそ、家の経営が思わしくなく領地に行く旨をデルモントに伝えた。
「領地に?」
「えぇ。ですので今日の事が他に漏れることもないでしょう。社交ももう必要のない家なのです。ただ…領地はまだ辺鄙な田舎でしてね。頭の固い年寄りも多くそこに娘を連れて行くことを躊躇しておりました」
「躊躇と申しますと?何の問題もないように見受けられますが?」
18歳で婚約者がいないのは子爵家という爵位からすればおかしなことではない。一人娘なので婿養子に来てくれる子息がいなかったというのもあるだろうし、低位貴族は家督を継がない者なら相手を自分で探すので30を過ぎても独り身である者は多いのだ。
ふとデルモントは「娘だから家督を譲らないつもりなのか、それとも経営が思わしくないから?」と疑問を感じた。
だから社交も必要ないと聞きようによっては世捨て人のような事を言うのだろうかと。
「娘は結婚まで秒読みだった縁談が壊れたのです。田舎は未だに男尊女卑が王都よりもきついですからね。娘に瑕疵があったと後ろ指を指されることが解っていて領地で過ごさせるのもと思い、オッペル男爵さえよければ縁談を纏めてと思いましたが‥残念です」
デルモントはリーゼロッテを見た。
目が合うが、直ぐに伏目になり通い合った視線が途切れた。
「そうでしたか。でしたら…婚約の件はさておき我が領地に避暑‥いやこの時期なら避寒にでもいらっしゃいますか?狭い領地ですが羊だけは多いので。羊飼いに先導されて群れなす羊は圧巻ですよ。ハハハ」
「お言葉に甘えたいところですが――」
「いえいえ。冗談や社交辞令ではありません。口さがない連中にあれやこれやと好き勝手に話のタネにされる辛さや苦しみは理解していますので。我が領地なら…私と言う前例がいますので耳障りな声も少ないかと」
――ソフィーのお節介に感染したかな――
デルモントはそう思った。
人は嫌いだし、女性には自分の口から発したくないような差別的、侮蔑的な言葉を投げられた事もあり、どちらかと言えばもう人として距離を置きたい生き物だと思っていたが、それでもまだ20歳にもならない女の子が謂れのない誹謗中傷に晒されるのが解っていて知らぬ存ぜぬを貫けるほど心臓は強くない。
自身がそれでヤサグレてしまった経験があるからこそ、渦中の人となる辛さはこの中にいる誰よりも知っていた。
騎士の経験があると、騎士は綺麗ごとだけでは生き抜けないのでそれなりに口汚い言葉にも免疫はある。それでもデルモントは苦しかった。年若い女の子となれば猶更だ。
「オッペル男爵さえよければ、そうですね…2,3年ほど御厄介になる事が出来れば。勿論その間の生活費などは支払いも致します」
「不要ですよ。領地は田舎ですが、女性用の衣類なども扱っている店もありますし女性の使用人も屋敷にはいます。ご息女が領地を気に入って頂けたならそのまま住んで頂いて構いません。領民が増えるのはこちらとしても願ったり叶ったりです」
デルモントの申し出にベルカム子爵はリーゼロッテに「どうする?」と問う。
リーゼロッテは少し悩んだ。
王都に居たいわけではない。両親と領地に行こうと思っていたが考えてみればアンセルと結婚が秒読みだった事は次期当主でもあったのだから領民の知る所だ。
自分が領地に行く事で両親も肩身の狭い思いをする、そこまでは考えていなかった。
――いいのかな――
ちらりとデルモントを見ると一瞬ピクリと瞼が跳ねた気がしたが直ぐに優し気な笑みで1つ頷いてくれた。
「私、オッペル男爵様の領地で暫く御厄介になろうと思います」
リーゼロッテの言葉に部屋の外、廊下から「やった!!」大歓声と拍手が起こってしまったのは何故だろうか。
修道士が「また来ている」とアンセルの来訪を教えてくれたためベルカム子爵夫妻とリーゼロッテはソフィーの用意した馬車に乗り込むと修道士とやりあうアンセルを横目に教会を出発した。
「すみませんね。旦那様がいつ王都に到着するか判らなかったので良いお席を予約も出来ず、販売所の応接室となってしまいました」
「良いんですよ。気にされないでください」
ベルカム子爵夫妻もリーゼロッテがあまり乗り気ではない事を悟り、一緒に領地に連れて行くつもりで腹を括っていた。
こじんまりと間口の狭い販売所だったがウナギの寝床と呼ばれる奥に長い建物で「こちらです」と案内をされて「どこまで行くの?」と思えるほど家屋の廊下を歩いた。
布地をソフィーと一緒に持って来てくれた男性が扉を開けて待っている姿を見て「ここなんだな」と案内をされるがままに部屋に入ると1人の男性が待っていた。
「ようこそ。狭い場所ですがどうぞおかけください」
左手でソファを示す男性にリーゼロッテは「左利きなのかな」と物珍しさを覚えた。
乗合馬車もだが、日常生活の至る所では右利き専用に手すりなどが設けられているので左利きは強制的に右利き若しくは両利きにするために矯正するのだ。
しかし、右手はと言うと、申し訳ないがぶら下がっているだけで何ら役目を果たしていなかった。
その理由は自己紹介のついでにデルモントから語られた。
「オッペル男爵家の当主をしておりますデルモントと申します。お見知りおきを」
「私はベルカム子爵家で当主をしておりますフィルスと申します。妻はサナリー。娘はリーゼロッテと申します。婚約のお話を頂き大変光栄に感じております」
「実は、このような席で言う事でもないのですが見ての通り私は右の手が飾りなのです。騎士をしている時の負傷が原因なのですが、こんな体故にお嬢様に迷惑になってはいけないと思いまして、この話…こちらのソフィーから言い出した事だと承知しておりますが見送って頂けますよう」
デルモントは取り繕う事も隠す事もせず、そして変に期待を持たせることもないように正直にこの縁談を見送って欲しいとベルカム子爵に申し出た。
今なら慰謝料など金銭の問題も発生をしないし、両家が見合いをしている事を知っている者は身内だけ。醜聞になることもないとデルモントは言う。
そんなデルモントにベルカム子爵は「なんと正直な人なのだろうか」と素直に感動をした。
だからこそ、家の経営が思わしくなく領地に行く旨をデルモントに伝えた。
「領地に?」
「えぇ。ですので今日の事が他に漏れることもないでしょう。社交ももう必要のない家なのです。ただ…領地はまだ辺鄙な田舎でしてね。頭の固い年寄りも多くそこに娘を連れて行くことを躊躇しておりました」
「躊躇と申しますと?何の問題もないように見受けられますが?」
18歳で婚約者がいないのは子爵家という爵位からすればおかしなことではない。一人娘なので婿養子に来てくれる子息がいなかったというのもあるだろうし、低位貴族は家督を継がない者なら相手を自分で探すので30を過ぎても独り身である者は多いのだ。
ふとデルモントは「娘だから家督を譲らないつもりなのか、それとも経営が思わしくないから?」と疑問を感じた。
だから社交も必要ないと聞きようによっては世捨て人のような事を言うのだろうかと。
「娘は結婚まで秒読みだった縁談が壊れたのです。田舎は未だに男尊女卑が王都よりもきついですからね。娘に瑕疵があったと後ろ指を指されることが解っていて領地で過ごさせるのもと思い、オッペル男爵さえよければ縁談を纏めてと思いましたが‥残念です」
デルモントはリーゼロッテを見た。
目が合うが、直ぐに伏目になり通い合った視線が途切れた。
「そうでしたか。でしたら…婚約の件はさておき我が領地に避暑‥いやこの時期なら避寒にでもいらっしゃいますか?狭い領地ですが羊だけは多いので。羊飼いに先導されて群れなす羊は圧巻ですよ。ハハハ」
「お言葉に甘えたいところですが――」
「いえいえ。冗談や社交辞令ではありません。口さがない連中にあれやこれやと好き勝手に話のタネにされる辛さや苦しみは理解していますので。我が領地なら…私と言う前例がいますので耳障りな声も少ないかと」
――ソフィーのお節介に感染したかな――
デルモントはそう思った。
人は嫌いだし、女性には自分の口から発したくないような差別的、侮蔑的な言葉を投げられた事もあり、どちらかと言えばもう人として距離を置きたい生き物だと思っていたが、それでもまだ20歳にもならない女の子が謂れのない誹謗中傷に晒されるのが解っていて知らぬ存ぜぬを貫けるほど心臓は強くない。
自身がそれでヤサグレてしまった経験があるからこそ、渦中の人となる辛さはこの中にいる誰よりも知っていた。
騎士の経験があると、騎士は綺麗ごとだけでは生き抜けないのでそれなりに口汚い言葉にも免疫はある。それでもデルモントは苦しかった。年若い女の子となれば猶更だ。
「オッペル男爵さえよければ、そうですね…2,3年ほど御厄介になる事が出来れば。勿論その間の生活費などは支払いも致します」
「不要ですよ。領地は田舎ですが、女性用の衣類なども扱っている店もありますし女性の使用人も屋敷にはいます。ご息女が領地を気に入って頂けたならそのまま住んで頂いて構いません。領民が増えるのはこちらとしても願ったり叶ったりです」
デルモントの申し出にベルカム子爵はリーゼロッテに「どうする?」と問う。
リーゼロッテは少し悩んだ。
王都に居たいわけではない。両親と領地に行こうと思っていたが考えてみればアンセルと結婚が秒読みだった事は次期当主でもあったのだから領民の知る所だ。
自分が領地に行く事で両親も肩身の狭い思いをする、そこまでは考えていなかった。
――いいのかな――
ちらりとデルモントを見ると一瞬ピクリと瞼が跳ねた気がしたが直ぐに優し気な笑みで1つ頷いてくれた。
「私、オッペル男爵様の領地で暫く御厄介になろうと思います」
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