侯爵様、契約妻ではなくレンタル奥様です

cyaru

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第16話  学びには養成ギプスさえあれば

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カモク侯爵家での生活もそれなりに楽しいと思え始めたリサだが、そろそろ1か月になろうと言うのにレンダールとは食事をした事がない。

流石に1日3食全てを使用人たちと賄いで済ませるわけにはいかないと、レンダールの時間に合わせようと待ったり、スティルに声掛けをしてもらったりしたのだがレンダールは1度も来なかった。

今日の夕食も賄いを使用人の皆と大きなテーブルを囲んで仲良く食べる。
慣れて来ると皆友達であり家族。
話をする会話も気安いものになった。


「旦那様。意地になってるんじゃないかなぁ」

「意地に?別に意地を張るような事でもないと思うんだけど。あっ!もしかして私の食事マナーが気に入らないとかそう言う理由かな?」

「違うと思うよぉ。リサちゃんは十分に出来てるし。ほら、今もナイフの音がしないじゃん」

「そうかな?今日もダメ出しされたんだけどな」

「ダメ出し?それで?」

「うん。でも貴族の講師ってみんな結構スパルタだよね。ギュって抓るからこっちも痛いけど、向こうも指が痛いと思うんだぁ」

<< え? >>


何故か使用人たちの動きがピタリと止まった。
リサは今日の夕食がブラックバスのガーリックソテーなので肉厚に頬が緩む。料理長が前日の夜から捌いて水に晒し、小骨もしっかりとってくれているのでとても美味しい。

「沼のフナってどうしても泥臭くて苦手だったけど、やっぱ腕よね~」

暢気にパクりと口に入れるとガーリックの香ばしい香りが鼻孔を抜けていく。

「あれ?皆食べないの?」

右隣のラーズが「リサちゃん。抓られるの?」と問う。

「失敗すればね」と答えると左隣のストロが「どの講師に?」と問う。

「どの…って事はないけど?皆よ?だからスパルタだなぁって。どうせならこう…腕とかに養成ギプスとかつけて――え?え?どうしたの?」

わなわなと震えたラーズとストロ。

ガチャン!!「うわっ。どうしたのラーズ」
ガチャン!!「うぁっと!どしたのストロまで」

突然テーブルをバン!と叩いてラーズとストロが立ち上がるので、食器がガチャンと音を立てる。両隣を交互に見たリサは「うわっ!!何、何?」2人に両方の腕を掴まれて、袖を捲られてしまった。

「リサちゃん!これ何?!」

「何って…ここの黄色くなってるのは歴史の講師に抓られたところで、青いのは算術の講師。で、手じゃないけど足の甲に湿布してるのはダンス講師にネジネジされたやつで…ここの出来立てホヤホヤは今日のマナー講師。でもね、講師がコロコロ変わるから名前も覚えられなくって。アハハ」

「アハハじゃないよ!リサちゃん!どうして言わなかったの!!」

「え?人に言う事じゃないって言われたし…出来が悪いうちは皆こうだって」

<< そんな事ないから! >>


種目、科目は幾つかあったが閉鎖的な空間ではなくリサと講師の2人きりでもない事に使用人たちは安心してしまっていた。

使用人も同じ部屋にいるのだが講師達はリサに近寄って来ると何かしら仕掛けて来る。しかも周囲に見られないように自分やリサの体を盾にして。

そして耳元でそっというのだ。

痛みで覚えていくのが本物の貴族だと。
そして常に表情を変えない術を会得せねばならないのだと。

抓られるのは服で隠れている部分。ダンスの講師だけはパートナーを務めながらリサの足さばきが悪いからだと足を踏みつけていた。

リサは「そんなものかな?」「踊るの下手だし仕方ない」と思い込んでいた。



「今時、叩くとか抓るとかないから!」

「そうですよ。しかもリサちゃんは侯爵夫人なんですよ?絶対あり得ません」

「そうかな?」

「そうだよ!」

「許せない!潰す!」

「ラーズ、潰すって…どういう」

「ただ潰すだけじゃない。捻り潰す!」

「ス、ストロまで、どうしたの?!」


講師に講義を受け始めてまだ10日目。
そんな日数でべた褒めされる方がおかしいので「頑張ってますよ」「今はこんなものでしょう」と講義の終わりに報告していく講師にすっかり騙されてしまっていた。
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