16 / 47
第16話 学びには養成ギプスさえあれば
しおりを挟む
カモク侯爵家での生活もそれなりに楽しいと思え始めたリサだが、そろそろ1か月になろうと言うのにレンダールとは食事をした事がない。
流石に1日3食全てを使用人たちと賄いで済ませるわけにはいかないと、レンダールの時間に合わせようと待ったり、スティルに声掛けをしてもらったりしたのだがレンダールは1度も来なかった。
今日の夕食も賄いを使用人の皆と大きなテーブルを囲んで仲良く食べる。
慣れて来ると皆友達であり家族。
話をする会話も気安いものになった。
「旦那様。意地になってるんじゃないかなぁ」
「意地に?別に意地を張るような事でもないと思うんだけど。あっ!もしかして私の食事マナーが気に入らないとかそう言う理由かな?」
「違うと思うよぉ。リサちゃんは十分に出来てるし。ほら、今もナイフの音がしないじゃん」
「そうかな?今日もダメ出しされたんだけどな」
「ダメ出し?それで?」
「うん。でも貴族の講師ってみんな結構スパルタだよね。ギュって抓るからこっちも痛いけど、向こうも指が痛いと思うんだぁ」
<< え? >>
何故か使用人たちの動きがピタリと止まった。
リサは今日の夕食がブラックバスのガーリックソテーなので肉厚に頬が緩む。料理長が前日の夜から捌いて水に晒し、小骨もしっかりとってくれているのでとても美味しい。
「沼のフナってどうしても泥臭くて苦手だったけど、やっぱ腕よね~」
暢気にパクりと口に入れるとガーリックの香ばしい香りが鼻孔を抜けていく。
「あれ?皆食べないの?」
右隣のラーズが「リサちゃん。抓られるの?」と問う。
「失敗すればね」と答えると左隣のストロが「どの講師に?」と問う。
「どの…って事はないけど?皆よ?だからスパルタだなぁって。どうせならこう…腕とかに養成ギプスとかつけて――え?え?どうしたの?」
わなわなと震えたラーズとストロ。
ガチャン!!「うわっ。どうしたのラーズ」
ガチャン!!「うぁっと!どしたのストロまで」
突然テーブルをバン!と叩いてラーズとストロが立ち上がるので、食器がガチャンと音を立てる。両隣を交互に見たリサは「うわっ!!何、何?」2人に両方の腕を掴まれて、袖を捲られてしまった。
「リサちゃん!これ何?!」
「何って…ここの黄色くなってるのは歴史の講師に抓られたところで、青いのは算術の講師。で、手じゃないけど足の甲に湿布してるのはダンス講師にネジネジされたやつで…ここの出来立てホヤホヤは今日のマナー講師。でもね、講師がコロコロ変わるから名前も覚えられなくって。アハハ」
「アハハじゃないよ!リサちゃん!どうして言わなかったの!!」
「え?人に言う事じゃないって言われたし…出来が悪いうちは皆こうだって」
<< そんな事ないから! >>
種目、科目は幾つかあったが閉鎖的な空間ではなくリサと講師の2人きりでもない事に使用人たちは安心してしまっていた。
使用人も同じ部屋にいるのだが講師達はリサに近寄って来ると何かしら仕掛けて来る。しかも周囲に見られないように自分やリサの体を盾にして。
そして耳元でそっというのだ。
痛みで覚えていくのが本物の貴族だと。
そして常に表情を変えない術を会得せねばならないのだと。
抓られるのは服で隠れている部分。ダンスの講師だけはパートナーを務めながらリサの足さばきが悪いからだと足を踏みつけていた。
リサは「そんなものかな?」「踊るの下手だし仕方ない」と思い込んでいた。
「今時、叩くとか抓るとかないから!」
「そうですよ。しかもリサちゃんは侯爵夫人なんですよ?絶対あり得ません」
「そうかな?」
「そうだよ!」
「許せない!潰す!」
「ラーズ、潰すって…どういう」
「ただ潰すだけじゃない。捻り潰す!」
「ス、ストロまで、どうしたの?!」
講師に講義を受け始めてまだ10日目。
そんな日数でべた褒めされる方がおかしいので「頑張ってますよ」「今はこんなものでしょう」と講義の終わりに報告していく講師にすっかり騙されてしまっていた。
流石に1日3食全てを使用人たちと賄いで済ませるわけにはいかないと、レンダールの時間に合わせようと待ったり、スティルに声掛けをしてもらったりしたのだがレンダールは1度も来なかった。
今日の夕食も賄いを使用人の皆と大きなテーブルを囲んで仲良く食べる。
慣れて来ると皆友達であり家族。
話をする会話も気安いものになった。
「旦那様。意地になってるんじゃないかなぁ」
「意地に?別に意地を張るような事でもないと思うんだけど。あっ!もしかして私の食事マナーが気に入らないとかそう言う理由かな?」
「違うと思うよぉ。リサちゃんは十分に出来てるし。ほら、今もナイフの音がしないじゃん」
「そうかな?今日もダメ出しされたんだけどな」
「ダメ出し?それで?」
「うん。でも貴族の講師ってみんな結構スパルタだよね。ギュって抓るからこっちも痛いけど、向こうも指が痛いと思うんだぁ」
<< え? >>
何故か使用人たちの動きがピタリと止まった。
リサは今日の夕食がブラックバスのガーリックソテーなので肉厚に頬が緩む。料理長が前日の夜から捌いて水に晒し、小骨もしっかりとってくれているのでとても美味しい。
「沼のフナってどうしても泥臭くて苦手だったけど、やっぱ腕よね~」
暢気にパクりと口に入れるとガーリックの香ばしい香りが鼻孔を抜けていく。
「あれ?皆食べないの?」
右隣のラーズが「リサちゃん。抓られるの?」と問う。
「失敗すればね」と答えると左隣のストロが「どの講師に?」と問う。
「どの…って事はないけど?皆よ?だからスパルタだなぁって。どうせならこう…腕とかに養成ギプスとかつけて――え?え?どうしたの?」
わなわなと震えたラーズとストロ。
ガチャン!!「うわっ。どうしたのラーズ」
ガチャン!!「うぁっと!どしたのストロまで」
突然テーブルをバン!と叩いてラーズとストロが立ち上がるので、食器がガチャンと音を立てる。両隣を交互に見たリサは「うわっ!!何、何?」2人に両方の腕を掴まれて、袖を捲られてしまった。
「リサちゃん!これ何?!」
「何って…ここの黄色くなってるのは歴史の講師に抓られたところで、青いのは算術の講師。で、手じゃないけど足の甲に湿布してるのはダンス講師にネジネジされたやつで…ここの出来立てホヤホヤは今日のマナー講師。でもね、講師がコロコロ変わるから名前も覚えられなくって。アハハ」
「アハハじゃないよ!リサちゃん!どうして言わなかったの!!」
「え?人に言う事じゃないって言われたし…出来が悪いうちは皆こうだって」
<< そんな事ないから! >>
種目、科目は幾つかあったが閉鎖的な空間ではなくリサと講師の2人きりでもない事に使用人たちは安心してしまっていた。
使用人も同じ部屋にいるのだが講師達はリサに近寄って来ると何かしら仕掛けて来る。しかも周囲に見られないように自分やリサの体を盾にして。
そして耳元でそっというのだ。
痛みで覚えていくのが本物の貴族だと。
そして常に表情を変えない術を会得せねばならないのだと。
抓られるのは服で隠れている部分。ダンスの講師だけはパートナーを務めながらリサの足さばきが悪いからだと足を踏みつけていた。
リサは「そんなものかな?」「踊るの下手だし仕方ない」と思い込んでいた。
「今時、叩くとか抓るとかないから!」
「そうですよ。しかもリサちゃんは侯爵夫人なんですよ?絶対あり得ません」
「そうかな?」
「そうだよ!」
「許せない!潰す!」
「ラーズ、潰すって…どういう」
「ただ潰すだけじゃない。捻り潰す!」
「ス、ストロまで、どうしたの?!」
講師に講義を受け始めてまだ10日目。
そんな日数でべた褒めされる方がおかしいので「頑張ってますよ」「今はこんなものでしょう」と講義の終わりに報告していく講師にすっかり騙されてしまっていた。
681
あなたにおすすめの小説
おさななじみの次期公爵に「あなたを愛するつもりはない」と言われるままにしたら挙動不審です
ワイちゃん
恋愛
伯爵令嬢セリアは、侯爵に嫁いだ姉にマウントをとられる日々。会えなくなった幼馴染とのあたたかい日々を心に過ごしていた。ある日、婚活のための夜会に参加し、得意のピアノを披露すると、幼馴染と再会し、次の日には公爵の幼馴染に求婚されることに。しかし、幼馴染には「あなたを愛するつもりはない」と言われ、相手の提示するルーティーンをただただこなす日々が始まり……?
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
心配するな、俺の本命は別にいる——冷酷王太子と籠の花嫁
柴田はつみ
恋愛
王国の公爵令嬢セレーネは、家を守るために王太子レオニスとの政略結婚を命じられる。
婚約の儀の日、彼が告げた冷酷な一言——「心配するな。俺の好きな人は別にいる」。
その言葉はセレーネの心を深く傷つけ、王宮での新たな生活は噂と誤解に満ちていく。
好きな人が別にいるはずの彼が、なぜか自分にだけ独占欲を見せる。
嫉妬、疑念、陰謀が渦巻くなかで明らかになる「真実」。
契約から始まった婚約は、やがて運命を変える愛の物語へと変わっていく——。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
白い結婚のはずが、騎士様の独占欲が強すぎます! すれ違いから始まる溺愛逆転劇
鍛高譚
恋愛
婚約破棄された令嬢リオナは、家の体面を守るため、幼なじみであり王国騎士でもあるカイルと「白い結婚」をすることになった。
お互い干渉しない、心も体も自由な結婚生活――そのはずだった。
……少なくとも、リオナはそう信じていた。
ところが結婚後、カイルの様子がおかしい。
距離を取るどころか、妙に優しくて、時に甘くて、そしてなぜか他の男性が近づくと怒る。
「お前は俺の妻だ。離れようなんて、思うなよ」
どうしてそんな顔をするのか、どうしてそんなに真剣に見つめてくるのか。
“白い結婚”のはずなのに、リオナの胸は日に日にざわついていく。
すれ違い、誤解、嫉妬。
そして社交界で起きた陰謀事件をきっかけに、カイルはとうとう本心を隠せなくなる。
「……ずっと好きだった。諦めるつもりなんてない」
そんなはずじゃなかったのに。
曖昧にしていたのは、むしろリオナのほうだった。
白い結婚から始まる、幼なじみ騎士の不器用で激しい独占欲。
鈍感な令嬢リオナが少しずつ自分の気持ちに気づいていく、溺愛逆転ラブストーリー。
「ゆっくりでいい。お前の歩幅に合わせる」
「……はい。私も、カイルと歩きたいです」
二人は“白い結婚”の先に、本当の夫婦を選んでいく――。
-
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる