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第18話 門外不出の品は持ち出し厳禁!
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馬車の下に転がる物体。
人生の終わりを痛感するリサは ”まだ生きていますように” ”怪我は軽傷でありますように” と祈りながら御者に「馬車の下に人がいます!」と叫んだ。
人身事故を起こした事のない御者は「そんなばかな!?」と言いながら馬車の下を覗き込んでドテン。尻もちをついた。
「パパに叱られちゃうぅぅ」
「え?パパ?」
「うん。コレットね、お友達いないからパパのお友達と遊んでたの」
「お友達…パパの?」
「うん。ラブちゃん」
人形が友達。それはコレットと名乗る女の子の年齢ならあるあるなので問題視はしないが馬車の下にある人形は事故以外の問題を抱えているような気がした。
――ううん。ダメよ。男性が人形好きでもいいじゃない!――
勝手な偏見を押し付けてはいけない。
リサは「大丈夫だから」とコレットに声を掛け、腰を抜かした御者の代わりに馬車の下になったラブちゃんに手を伸ばした。
――うん。人間じゃない――
間違いなく人形だったが、ラブちゃんはただの人形ではない。
しかし、それをコレットに説明をするのは酷と言うもの。
それ以上に事故にあったかも?とコレットを迎えに来るママさん。若しくはラブちゃん真の所有者であるパパさんにラブちゃんの引き取りを告げる方がもっと酷だ。勿論リサが、だ。
まだ純粋な乙女であり、純潔保持者のリサだが回収の仕事をしていれば色々とあるものだ。
リサもまたコレットのようにラブちゃんの友人と思われる人形を見て「あ!お人形!」と自分が子役になれる ”お母さんごっこ(通称 ままごと)” が出来ると思ったが父に制止された経験がある。
内部に危険物質を含んでいる可能性があるので廃棄処分確定だったのだ。
年齢を重ねた今、リサにもその危険性は十分に理解できている。
コレットが理解をするにはまだ早い。
ラブちゃんを馬車の下から引っ張り出すと御者は「人じゃなかった」と安心しながらも複雑な心境だった。考えているのはリサと同じこと。
――両親に何と言って返却したらいいんだ?――
「パパがラブちゃんは、お外は行けないんだって言ってたの」
――だよね――
「黙って連れてきちゃったから叱られちゃう」
――パパが、ママにね――
そこに遂にコレットの、そしてラブちゃんの真の所有者であるパパがやってきた。
「コレット!!」
「パパぁ!」
リサと御者は全身の血が凍る。
そういう嗜好者がいるのは知っていても、目の当たりにした現実。
さて、どうやってラブちゃんを引き渡すか。
感動の再会をする親子だったが…。
「助けて頂きありがとうございます。母親が居ないもので…商売道具で遊んではいけないと言ってたんですが」
「商売道具?!」
「はい。その手の人形は高く売れるので」
コレットのパパは禁断の人形師@作る側だった。
命を生み出す行為を誘う人形に息吹を吹き込む…なんてややこしい仕事をしてくれているんだ!
「パパ。ごめんなさい。ラブちゃんダメになっちゃった」
「いいんだよ。でも工房の人形はもう持ち出してはダメだ。いいね?」
「じゃぁ、お人形買って。コレットお人形が欲しい」
「誕生日まで待てと言っただろう?」
「それ、去年も言った!生誕祭の時も言った!でもパパ、買ってくれなかったじゃない!」
シングルファーザーな親子。日々の生活をするのに精いっぱいでコレットに人形を買ってやる余裕もないのだろう。
――ハッ!あの人形!――
リサは馬車に載せてきたレンダールの母親がお詫びの品で贈ってくれたビスクドールを思い出し、馬車の中に飛び込むとビスクドールを手にして親子に駆け寄った。
「これを!これを差し上げます」
「わぁ。可愛いお人形さんだぁ♡」
コレットは喜んでビスクドールを抱きしめたのだが、コレットの父は御者のように腰を抜かしてしまった。
――どしたん?――
口をハクハク。ビスクドールを指さして何かを言いたげな父親。
何だろうと思い問うてみると…。
「そ、それ、名工アルモステの作ですよね?」
「へ?アダモステ?」
「違いますよ!人形師なら知らない者はいないアルモステです!1点5千万ルカは下らないと言われる彼の作った人形ですよ!」
――そう言われても困るなぁ――
人形の価値などリサにはさっぱりわからない。
「でも…ほら。コレットちゃん、喜んでるし」
「いやいやいや、人形遊びするような人形じゃないですから!」
だけどリサは思うのだ。1体何千万しようがゴミ置き場から拾ってこようが人形にとってきっと幸せなのは大事にしてくれること。高価だから大事にするのではなく友達として、家族として大事にされることだと。
要らないから引き取ってと二束三文で売り飛ばされる家具などを修理したり磨いて次のユーザーに繋ぐ。
また新天地で活躍してねと家具などリユース品を扱う事を生業としてきたリサは擬人化ではないけれど、モノも人と同じだと思ってきた。
それに貰い物だし、リサ自身ビスクドールは可愛いとかコレクションに欲しいとか思わない。
モノの価値を価格とする人も確かにいるし、それは認めるがリサにとってモノの価値は価格ではない。その人がどれだけ欲しているか、大事にしてくれるか。そこに価値があると考えていた。
この人形は価値を見出さないリサではなく大事にしてくれるコレットが持つべきだ。そう言ったがコレットの父親はとても貰えないし、かといって買い取れる金額でもないと固辞する。
リサは「ハッ!」目から鱗。
ポロリと鱗が落ちて目覚めた気がした。
――そうよ。私はこの身もレンタルな奥様。ならレンタルすればいいわ――
「じゃ、レンタルします。それならいいですよね」
「レンタル?この人形を?!」
「えぇ。お代は…今回レンタル第1号なのでお試しで。期間は3年。どうでしょう」
代金を貰ってしまうと逆当たり屋と思われてしまうかも?と考えたリサは人形を実質無料のレンタルする事にしたのだった。
人生の終わりを痛感するリサは ”まだ生きていますように” ”怪我は軽傷でありますように” と祈りながら御者に「馬車の下に人がいます!」と叫んだ。
人身事故を起こした事のない御者は「そんなばかな!?」と言いながら馬車の下を覗き込んでドテン。尻もちをついた。
「パパに叱られちゃうぅぅ」
「え?パパ?」
「うん。コレットね、お友達いないからパパのお友達と遊んでたの」
「お友達…パパの?」
「うん。ラブちゃん」
人形が友達。それはコレットと名乗る女の子の年齢ならあるあるなので問題視はしないが馬車の下にある人形は事故以外の問題を抱えているような気がした。
――ううん。ダメよ。男性が人形好きでもいいじゃない!――
勝手な偏見を押し付けてはいけない。
リサは「大丈夫だから」とコレットに声を掛け、腰を抜かした御者の代わりに馬車の下になったラブちゃんに手を伸ばした。
――うん。人間じゃない――
間違いなく人形だったが、ラブちゃんはただの人形ではない。
しかし、それをコレットに説明をするのは酷と言うもの。
それ以上に事故にあったかも?とコレットを迎えに来るママさん。若しくはラブちゃん真の所有者であるパパさんにラブちゃんの引き取りを告げる方がもっと酷だ。勿論リサが、だ。
まだ純粋な乙女であり、純潔保持者のリサだが回収の仕事をしていれば色々とあるものだ。
リサもまたコレットのようにラブちゃんの友人と思われる人形を見て「あ!お人形!」と自分が子役になれる ”お母さんごっこ(通称 ままごと)” が出来ると思ったが父に制止された経験がある。
内部に危険物質を含んでいる可能性があるので廃棄処分確定だったのだ。
年齢を重ねた今、リサにもその危険性は十分に理解できている。
コレットが理解をするにはまだ早い。
ラブちゃんを馬車の下から引っ張り出すと御者は「人じゃなかった」と安心しながらも複雑な心境だった。考えているのはリサと同じこと。
――両親に何と言って返却したらいいんだ?――
「パパがラブちゃんは、お外は行けないんだって言ってたの」
――だよね――
「黙って連れてきちゃったから叱られちゃう」
――パパが、ママにね――
そこに遂にコレットの、そしてラブちゃんの真の所有者であるパパがやってきた。
「コレット!!」
「パパぁ!」
リサと御者は全身の血が凍る。
そういう嗜好者がいるのは知っていても、目の当たりにした現実。
さて、どうやってラブちゃんを引き渡すか。
感動の再会をする親子だったが…。
「助けて頂きありがとうございます。母親が居ないもので…商売道具で遊んではいけないと言ってたんですが」
「商売道具?!」
「はい。その手の人形は高く売れるので」
コレットのパパは禁断の人形師@作る側だった。
命を生み出す行為を誘う人形に息吹を吹き込む…なんてややこしい仕事をしてくれているんだ!
「パパ。ごめんなさい。ラブちゃんダメになっちゃった」
「いいんだよ。でも工房の人形はもう持ち出してはダメだ。いいね?」
「じゃぁ、お人形買って。コレットお人形が欲しい」
「誕生日まで待てと言っただろう?」
「それ、去年も言った!生誕祭の時も言った!でもパパ、買ってくれなかったじゃない!」
シングルファーザーな親子。日々の生活をするのに精いっぱいでコレットに人形を買ってやる余裕もないのだろう。
――ハッ!あの人形!――
リサは馬車に載せてきたレンダールの母親がお詫びの品で贈ってくれたビスクドールを思い出し、馬車の中に飛び込むとビスクドールを手にして親子に駆け寄った。
「これを!これを差し上げます」
「わぁ。可愛いお人形さんだぁ♡」
コレットは喜んでビスクドールを抱きしめたのだが、コレットの父は御者のように腰を抜かしてしまった。
――どしたん?――
口をハクハク。ビスクドールを指さして何かを言いたげな父親。
何だろうと思い問うてみると…。
「そ、それ、名工アルモステの作ですよね?」
「へ?アダモステ?」
「違いますよ!人形師なら知らない者はいないアルモステです!1点5千万ルカは下らないと言われる彼の作った人形ですよ!」
――そう言われても困るなぁ――
人形の価値などリサにはさっぱりわからない。
「でも…ほら。コレットちゃん、喜んでるし」
「いやいやいや、人形遊びするような人形じゃないですから!」
だけどリサは思うのだ。1体何千万しようがゴミ置き場から拾ってこようが人形にとってきっと幸せなのは大事にしてくれること。高価だから大事にするのではなく友達として、家族として大事にされることだと。
要らないから引き取ってと二束三文で売り飛ばされる家具などを修理したり磨いて次のユーザーに繋ぐ。
また新天地で活躍してねと家具などリユース品を扱う事を生業としてきたリサは擬人化ではないけれど、モノも人と同じだと思ってきた。
それに貰い物だし、リサ自身ビスクドールは可愛いとかコレクションに欲しいとか思わない。
モノの価値を価格とする人も確かにいるし、それは認めるがリサにとってモノの価値は価格ではない。その人がどれだけ欲しているか、大事にしてくれるか。そこに価値があると考えていた。
この人形は価値を見出さないリサではなく大事にしてくれるコレットが持つべきだ。そう言ったがコレットの父親はとても貰えないし、かといって買い取れる金額でもないと固辞する。
リサは「ハッ!」目から鱗。
ポロリと鱗が落ちて目覚めた気がした。
――そうよ。私はこの身もレンタルな奥様。ならレンタルすればいいわ――
「じゃ、レンタルします。それならいいですよね」
「レンタル?この人形を?!」
「えぇ。お代は…今回レンタル第1号なのでお試しで。期間は3年。どうでしょう」
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