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△賢王となれ
『殿下、それはちょっと…今は身重ですし無理はさせたくないんです』
『判ってる。直ぐじゃないんだ。私にも準備があるから今すぐには動けない。でも…シュヴァイン辺境伯として私が立った時は…最初だけでいい。支えて欲しい』
そうだよな。王族だからと言ってもルフトベル殿下はまだ10歳。俺が10歳の時は何をしていた?川で泳いで虫を取って木に登って…。だが殿下は違う。母親と言っても世間一般で言う母親とは違う接し方で育ってきたんだ。
何と答えてよいか判らず言葉が続かない。
不意にノックの音が聞こえた。そう言えば殿下に温かい茶もまだだった事に気が付いた。
『殿下、遅くなりましたが茶を淹れましょう』
そう言って部屋への入室を許可すると入ってきたのはツリピオニーだった。
『やぁ、君がヴィルト先生の奥方様なんだね。初めましてルフトベル・ウィザー・カヌレです』
『ご挨拶が遅くなりました。ヴィルト・シュヴァインの妻、ツリピオニーで御座います。ルフトベル殿下に置かれましてはご清栄にお過ごし‥‥では御座いませんわね』
『おい、ツリピオニー…』
『いや、いいんだ。その通りだよ。奥方の噂はよく聞くけれど…個人としてヴィルト先生とのご結婚おめでとうございます。そしてご懐妊も。話があって押しかけましたが祝いたいという気持ちに嘘はありません』
『うふふ。殿下にお祝いの言葉を頂けるなんて。こちらも本心で嬉しいですわ』
ツリピオニーが部屋に入ってきて少し空気が和んだ気がした。
殿下に焼き菓子を勧めながら、変わった色の茶を淹れ、殿下に出したツリピオニー。
変だな?と思ったのは俺だけではなく目の前の殿下もだ。
『どうぞ。そのままの温度で先ずゆっくりお召し上がりください』
『う、うん…頂くよ』
俺も茶器を手に取って飲んでみる。熱くもなく冷たくもなくついでに味もない。
目の前の殿下をちらりと見ると俺と同じような反応だ。
『どうでした?』
『あ、いや‥‥うん…美味しかったよ』
『うふふ。殿下もヴィル様も誤魔化すのが下手ですわね。温度はぬるく、味はなかった。違いますか?』
殿下が俯いたが、言い当てられたようで真っ赤になっているのがわかる。
と、いう事は飲んだのは…【白湯】という事なんだろうか。
ツリピオニーはもう一度茶器に透明の湯なのか茶なのかを注いでいく。
そしてスプーン1杯の蜂蜜をそこに落とした。
『一口で結構ですわ。飲んでみてくださいませ』
キツネに抓まれたように殿下も俺も一口飲んだ。先程とは違って頬の奥がいたくなる甘さを感じた。だが目の前で入れたのは小さじの半分にも満たないだろう蜂蜜だけだ。元々の湯が甘かったのか?首を傾げた。
ツリピオニーは別の茶器を出し、また湯を注いだ。今度も小さじに半分ほど何かを入れた。
先ほどの蜂蜜と違って粘り気がない。湯の中に湯を入れたんだろうか。
『一口で結構ですわ。飲んでみてくださいませ』
ここまでくれば、ままよ!と飲んでみる。今度は酸味が口の中に広がった。
『最初にゆっくり飲んで頂いたのは、この辺境に湧き出る清水を沸騰し、冷ました白湯です。ただの清水を沸かして冷ましただけで何の味もついておりません。
次に飲んで頂いたのは、同じ白湯に蜂蜜をほんの少し入れたもの。最後に飲んで頂いたのは同じ白湯にレモンの搾り汁を少しだけ入れたもの。先に白湯をゆっくり飲んで頂いたのは口の中を潤し、体の中を温める為です。はちみつは体のむくみを取る働きがあると言われています。少し甘いので飲みやすいですよね。先に口の中を湿らせていますので無味だった時より味覚が強く感じたと思います。最後のレモンは疲労回復に効果があると言われています。その前に飲んだのが蜂蜜なので酸っぱさがより広がったでしょう?』
『奥方殿‥‥』
『殿下、3杯ともベースは白湯なのです。それに少し何かの効果があるものを入れると味に変化が生じます。そしてその味は飲む順番が違えば感じ方も変わります』
『そうだね。蜂蜜の次にレモンだったからより酸っぱく感じたけど、2杯目がレモンだったらここまで酸っぱくはなかったんじゃないかと思う』
『えぇ。殿下。惚気になりますが聞いてくださいます?』
『うん』
『わたくし今、お腹に赤ちゃんがいますの。ヴィル様のお子様です。ヴィル様の事はすごく好きなのですが何故か大好きなはずのヴィル様の赤ちゃんがお腹にいるだけで食べ物だけではなく、飲み物も食べたり飲んだり出来なくなりました。料理をする匂いだけで気分が悪くなるのです』
『大変な時に来てしまったね』
『いいえ。気分転換になって刺激的です。そんな毎日がここ1カ月半ほどだったのですが、同じ水なのに温度を変えたり、何を混ぜるかで飲める物もあるという事がわかったんです』
『同じ水なのに…ちょっとした違いで?』
『えぇ。最初はキュウリでした。シェフさんが食べやすいようにとカットしてくれると食べられないのに、ガブリと丸かじりするととても美味しいのです。同じキュウリなのに不思議でしょう?』
『そうか!奥方。判ったよ。そういう事だね』
『えぇ。そういう事です』
『ちょっと待ってくれ。全然わからない!』
なんだ?2人の間で話が完結してしまったけれど、俺は全然意味が分からない。
なんで殿下はドヤ顔をしてるんだ?
『ヴィルト先生。流石ヴィルト先生の奥方だ。つまりはベースになるのは私だ。そこに誰をどうやって取り込んで使うか、その順番、使い方次第でやりようが変わるって事なんだね』
『そうですわ。殿下。夫シュヴァインは殿下のお役に立つようお支えを致します。ですが夫には辺境を守るという役目があるのです。使う時期、使う順番によっては殿下にとって諸刃の剣となるのです。先ずは王都にお戻りになり、誰が味方かを見分け、ご自分につけるのです。年若いからと見下す者もいるでしょうし傀儡としようとする者もいるでしょう。ですが即位を考えられているのであれば何もかも誰かにオンブに抱っこでは誰も付いてきません。先ずは味方を探し取り込みなさいませ。そして知識をお付けくださいませ。百戦錬磨の奸臣に負けない知識を。そこに経験が加われば殿下は賢王となれましょう』
『あはは。奥方‥‥聞いてたんだね』
『いいえ?小耳に挟んだだけでございます』
『ありがとう。これからは白湯を毎日ゆっくり飲んで作戦を練る事にするよ!』
『是非、そうなさいませ』
ルフトベル殿下は3日滞在し、その滞在期間何故かツリピオニーから水利権行使の際は分割でもよろしくてよ?と吹き込まれていたが大丈夫だろうか。
賢い殿下だから大丈夫だろうとは思うが、まだ10歳だからな‥‥。
っと!気を抜いたら子供である事をいい事にどうしてツリピオニーにトントンして昼寝をさせてもらっているのだ?ここ最近俺は全然トントンもハムハムもしていないんだが。
ちょっと妬いてしまった俺にツリピオニーはキスをしてくれた。
殿下‥‥うっすら目!開いてるの俺は気が付いてますからね!!
『判ってる。直ぐじゃないんだ。私にも準備があるから今すぐには動けない。でも…シュヴァイン辺境伯として私が立った時は…最初だけでいい。支えて欲しい』
そうだよな。王族だからと言ってもルフトベル殿下はまだ10歳。俺が10歳の時は何をしていた?川で泳いで虫を取って木に登って…。だが殿下は違う。母親と言っても世間一般で言う母親とは違う接し方で育ってきたんだ。
何と答えてよいか判らず言葉が続かない。
不意にノックの音が聞こえた。そう言えば殿下に温かい茶もまだだった事に気が付いた。
『殿下、遅くなりましたが茶を淹れましょう』
そう言って部屋への入室を許可すると入ってきたのはツリピオニーだった。
『やぁ、君がヴィルト先生の奥方様なんだね。初めましてルフトベル・ウィザー・カヌレです』
『ご挨拶が遅くなりました。ヴィルト・シュヴァインの妻、ツリピオニーで御座います。ルフトベル殿下に置かれましてはご清栄にお過ごし‥‥では御座いませんわね』
『おい、ツリピオニー…』
『いや、いいんだ。その通りだよ。奥方の噂はよく聞くけれど…個人としてヴィルト先生とのご結婚おめでとうございます。そしてご懐妊も。話があって押しかけましたが祝いたいという気持ちに嘘はありません』
『うふふ。殿下にお祝いの言葉を頂けるなんて。こちらも本心で嬉しいですわ』
ツリピオニーが部屋に入ってきて少し空気が和んだ気がした。
殿下に焼き菓子を勧めながら、変わった色の茶を淹れ、殿下に出したツリピオニー。
変だな?と思ったのは俺だけではなく目の前の殿下もだ。
『どうぞ。そのままの温度で先ずゆっくりお召し上がりください』
『う、うん…頂くよ』
俺も茶器を手に取って飲んでみる。熱くもなく冷たくもなくついでに味もない。
目の前の殿下をちらりと見ると俺と同じような反応だ。
『どうでした?』
『あ、いや‥‥うん…美味しかったよ』
『うふふ。殿下もヴィル様も誤魔化すのが下手ですわね。温度はぬるく、味はなかった。違いますか?』
殿下が俯いたが、言い当てられたようで真っ赤になっているのがわかる。
と、いう事は飲んだのは…【白湯】という事なんだろうか。
ツリピオニーはもう一度茶器に透明の湯なのか茶なのかを注いでいく。
そしてスプーン1杯の蜂蜜をそこに落とした。
『一口で結構ですわ。飲んでみてくださいませ』
キツネに抓まれたように殿下も俺も一口飲んだ。先程とは違って頬の奥がいたくなる甘さを感じた。だが目の前で入れたのは小さじの半分にも満たないだろう蜂蜜だけだ。元々の湯が甘かったのか?首を傾げた。
ツリピオニーは別の茶器を出し、また湯を注いだ。今度も小さじに半分ほど何かを入れた。
先ほどの蜂蜜と違って粘り気がない。湯の中に湯を入れたんだろうか。
『一口で結構ですわ。飲んでみてくださいませ』
ここまでくれば、ままよ!と飲んでみる。今度は酸味が口の中に広がった。
『最初にゆっくり飲んで頂いたのは、この辺境に湧き出る清水を沸騰し、冷ました白湯です。ただの清水を沸かして冷ましただけで何の味もついておりません。
次に飲んで頂いたのは、同じ白湯に蜂蜜をほんの少し入れたもの。最後に飲んで頂いたのは同じ白湯にレモンの搾り汁を少しだけ入れたもの。先に白湯をゆっくり飲んで頂いたのは口の中を潤し、体の中を温める為です。はちみつは体のむくみを取る働きがあると言われています。少し甘いので飲みやすいですよね。先に口の中を湿らせていますので無味だった時より味覚が強く感じたと思います。最後のレモンは疲労回復に効果があると言われています。その前に飲んだのが蜂蜜なので酸っぱさがより広がったでしょう?』
『奥方殿‥‥』
『殿下、3杯ともベースは白湯なのです。それに少し何かの効果があるものを入れると味に変化が生じます。そしてその味は飲む順番が違えば感じ方も変わります』
『そうだね。蜂蜜の次にレモンだったからより酸っぱく感じたけど、2杯目がレモンだったらここまで酸っぱくはなかったんじゃないかと思う』
『えぇ。殿下。惚気になりますが聞いてくださいます?』
『うん』
『わたくし今、お腹に赤ちゃんがいますの。ヴィル様のお子様です。ヴィル様の事はすごく好きなのですが何故か大好きなはずのヴィル様の赤ちゃんがお腹にいるだけで食べ物だけではなく、飲み物も食べたり飲んだり出来なくなりました。料理をする匂いだけで気分が悪くなるのです』
『大変な時に来てしまったね』
『いいえ。気分転換になって刺激的です。そんな毎日がここ1カ月半ほどだったのですが、同じ水なのに温度を変えたり、何を混ぜるかで飲める物もあるという事がわかったんです』
『同じ水なのに…ちょっとした違いで?』
『えぇ。最初はキュウリでした。シェフさんが食べやすいようにとカットしてくれると食べられないのに、ガブリと丸かじりするととても美味しいのです。同じキュウリなのに不思議でしょう?』
『そうか!奥方。判ったよ。そういう事だね』
『えぇ。そういう事です』
『ちょっと待ってくれ。全然わからない!』
なんだ?2人の間で話が完結してしまったけれど、俺は全然意味が分からない。
なんで殿下はドヤ顔をしてるんだ?
『ヴィルト先生。流石ヴィルト先生の奥方だ。つまりはベースになるのは私だ。そこに誰をどうやって取り込んで使うか、その順番、使い方次第でやりようが変わるって事なんだね』
『そうですわ。殿下。夫シュヴァインは殿下のお役に立つようお支えを致します。ですが夫には辺境を守るという役目があるのです。使う時期、使う順番によっては殿下にとって諸刃の剣となるのです。先ずは王都にお戻りになり、誰が味方かを見分け、ご自分につけるのです。年若いからと見下す者もいるでしょうし傀儡としようとする者もいるでしょう。ですが即位を考えられているのであれば何もかも誰かにオンブに抱っこでは誰も付いてきません。先ずは味方を探し取り込みなさいませ。そして知識をお付けくださいませ。百戦錬磨の奸臣に負けない知識を。そこに経験が加われば殿下は賢王となれましょう』
『あはは。奥方‥‥聞いてたんだね』
『いいえ?小耳に挟んだだけでございます』
『ありがとう。これからは白湯を毎日ゆっくり飲んで作戦を練る事にするよ!』
『是非、そうなさいませ』
ルフトベル殿下は3日滞在し、その滞在期間何故かツリピオニーから水利権行使の際は分割でもよろしくてよ?と吹き込まれていたが大丈夫だろうか。
賢い殿下だから大丈夫だろうとは思うが、まだ10歳だからな‥‥。
っと!気を抜いたら子供である事をいい事にどうしてツリピオニーにトントンして昼寝をさせてもらっているのだ?ここ最近俺は全然トントンもハムハムもしていないんだが。
ちょっと妬いてしまった俺にツリピオニーはキスをしてくれた。
殿下‥‥うっすら目!開いてるの俺は気が付いてますからね!!
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