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第09話 成功したことが失敗
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水も滴る良い男…な訳がないでしょう!!
「貴様!どういうつもりだ!」
「どういうもこういうも!そっくりそのままその言葉、お返しするわ!」
私に掴みかかろうとオランド様が手を伸ばしてきましたが、その手が私に触れることはありませんでした。
オランド様は従者たちに羽交い絞めにされて動きを封じられていたからです。
そのまま「顔じゃない、ボディだ!ボディ!」ひ弱な拳を叩きこんでやろうと思いましたが、押さえつけられている人を殴るのと、力の弱い者を殴るのは同じく卑劣な行為だと弾け飛んだ理性が復活し、拳をグッと握っただけ。
その握った拳を開き、私は地面に叩きつけられたキクイモを拾ったのです。
――良かった。ちょっと潰れたけどコレくらいなら大丈夫――
「おい!落ちた物を拾うな!自分が何者であるかを弁えろ!」
修復されたかと思った理性はやっぱり弾け飛んでおりました。
キクイモで必要なのは根っこなので葉と茎で思いっきりしなりを付けて殴ってやろうかと思いましたが、キクイモは武器では御座いません。
「そっちこそ、何様?そこまで言うなら離縁すればいいじゃないの!」
「離縁?バカなことを言うな!出来るわけがない」
「出来るわよ。それともまだ自分の名前も書けないお子ちゃまだったのかしらねッ!」
「若当主様!おやめください!若奥様、申し訳ございませんっ」
従者たちに押さえつけられたまま引きずられるようにしてオランド様…いえ、今度と言う今度は「様」なんかもう不要!敬称を付けることを体が拒否するのです。
ギャーギャーと喚くオランドの野郎を従者さんたちが連れて行ってくれて静かになったけど、リカバリまで時間が欲しい。
私は言いようのない悔しさでつい泣いてしまったのです。
★~★
「若当主様、あれは若当主様が良くありません」
「は?私が悪いというのか?」
「はい。若奥様の言葉は間違っておりません。野菜とは水耕栽培は別として口に入る殆どは土がついております」
「お前までそんな事を。恥ずかしいから外では言うな。聞いたことは忘れておく」
従者は「これが主か」と恥ずかしかった。
貴族なら、特に王族や高位貴族なら興味を持って調べない限り知る必要もない事なのでオランドが知らないのも無理はない。
しかし、この生活が出来るのも収穫した野菜を口にすることもないのに毎日、雨の日も風の日も雪の日も、晴れて暑い日も育ててくれている、危険を顧みず山や海で漁や猟をする者がいるからこそ。
これは「解ってもらわねばならない」とブンディル侯爵に直訴することを決めた。
同時に2人の短い言い合いを目撃した者たちはオランドではなくアーシャの事を考えた。
「若奥様が別邸に行った理由が判った気がするよ」
「俺もだ」
従者たちは初夜に義務を果たさなかったアーシャの事を蔑んでしまっていた。それだけ初夜に事に及ぶか及ばないかは大きく使用人たちの今後の在り方に影響する事だった。
オランドが知らなくてもいい事を従者たちは知っている。
従者たちの当たり前を当然のように貶したオランド。何が変わったわけでもない。
今までもこれからもオランドは知らなくてもいい事なのだが、「知らないままでいいのか?」と思う気持ちもあるし、このままなら今までのように仕えることは出来ない。そんな気持ちが生まれてしまった。
従者からオランドの言動の報告を受けたブンディル侯爵も「それを知る事が必要か?」と小馬鹿にしたように笑い隣にいた執事に問うた。
ブンディル侯爵もまた野菜や肉、小麦など供給が足らないのは問題だが、どうやって育っているかなど知る必要があるのか?と考えていた。
若かりし頃に視察に行き、豊作だった事もあるし領主が来るのだと全てをお膳立てした場。ブンディル侯爵はそれを見る時間がもったいないと何度も思ったのだ。
汚れる作業や面倒な作業、そんなものをわざわざ見せなくてもと周囲が気遣いをした事が裏目に出た。
執事はガッカリした。
ブンディル侯爵は「知る必要がない」と教育をされて40年以上経っている。
執務はきちんとするし、収穫量なども豊作で値崩れしたり、不作で需要に追い付かなかったりとしたときに指示を出すがあくまでも書面の数字を見てのこと。
その手腕は認めざるを得ない。
書面上だけ見ての指示とは言っても失敗はしていない。
――成功が失敗なんだな――
本質を解ってくれていると思ったのにそうではなかった。
執事は覚悟を決めた。諫言をすることで職を失うかも知れないが、これまで上手く行っていたことに甘んじて来た自分の落ち度でもある。
「旦那様。領主の仕事は需要を満たす供給量を確保する事です。その為に作付け面積を増減させたり治水の手配をされます。それはとても大事なことで必要不可欠な事ですが、種を植えて収穫までどうしているのか、獣や魚を捕らえるためにどうやって罠を仕掛けたりするのか。そこには領民たちの経験からくる知恵、そして努力がある事を若当主様に知って頂く必要があると思うのです」
「知ってどうするんだ。知れば不作の年に何も手を打たなくても収穫量が増えるのか?」
「量の問題ではなく、若当主様には領民の日々を知って欲しいのだ、と申しあげております」
「ふむ。お前が言うからには何か思うところがあるんだろうが…それは今行っている執務の手を止めてでもオランドが知る価値があるのか?」
執事は即答した。
「あります」
「貴様!どういうつもりだ!」
「どういうもこういうも!そっくりそのままその言葉、お返しするわ!」
私に掴みかかろうとオランド様が手を伸ばしてきましたが、その手が私に触れることはありませんでした。
オランド様は従者たちに羽交い絞めにされて動きを封じられていたからです。
そのまま「顔じゃない、ボディだ!ボディ!」ひ弱な拳を叩きこんでやろうと思いましたが、押さえつけられている人を殴るのと、力の弱い者を殴るのは同じく卑劣な行為だと弾け飛んだ理性が復活し、拳をグッと握っただけ。
その握った拳を開き、私は地面に叩きつけられたキクイモを拾ったのです。
――良かった。ちょっと潰れたけどコレくらいなら大丈夫――
「おい!落ちた物を拾うな!自分が何者であるかを弁えろ!」
修復されたかと思った理性はやっぱり弾け飛んでおりました。
キクイモで必要なのは根っこなので葉と茎で思いっきりしなりを付けて殴ってやろうかと思いましたが、キクイモは武器では御座いません。
「そっちこそ、何様?そこまで言うなら離縁すればいいじゃないの!」
「離縁?バカなことを言うな!出来るわけがない」
「出来るわよ。それともまだ自分の名前も書けないお子ちゃまだったのかしらねッ!」
「若当主様!おやめください!若奥様、申し訳ございませんっ」
従者たちに押さえつけられたまま引きずられるようにしてオランド様…いえ、今度と言う今度は「様」なんかもう不要!敬称を付けることを体が拒否するのです。
ギャーギャーと喚くオランドの野郎を従者さんたちが連れて行ってくれて静かになったけど、リカバリまで時間が欲しい。
私は言いようのない悔しさでつい泣いてしまったのです。
★~★
「若当主様、あれは若当主様が良くありません」
「は?私が悪いというのか?」
「はい。若奥様の言葉は間違っておりません。野菜とは水耕栽培は別として口に入る殆どは土がついております」
「お前までそんな事を。恥ずかしいから外では言うな。聞いたことは忘れておく」
従者は「これが主か」と恥ずかしかった。
貴族なら、特に王族や高位貴族なら興味を持って調べない限り知る必要もない事なのでオランドが知らないのも無理はない。
しかし、この生活が出来るのも収穫した野菜を口にすることもないのに毎日、雨の日も風の日も雪の日も、晴れて暑い日も育ててくれている、危険を顧みず山や海で漁や猟をする者がいるからこそ。
これは「解ってもらわねばならない」とブンディル侯爵に直訴することを決めた。
同時に2人の短い言い合いを目撃した者たちはオランドではなくアーシャの事を考えた。
「若奥様が別邸に行った理由が判った気がするよ」
「俺もだ」
従者たちは初夜に義務を果たさなかったアーシャの事を蔑んでしまっていた。それだけ初夜に事に及ぶか及ばないかは大きく使用人たちの今後の在り方に影響する事だった。
オランドが知らなくてもいい事を従者たちは知っている。
従者たちの当たり前を当然のように貶したオランド。何が変わったわけでもない。
今までもこれからもオランドは知らなくてもいい事なのだが、「知らないままでいいのか?」と思う気持ちもあるし、このままなら今までのように仕えることは出来ない。そんな気持ちが生まれてしまった。
従者からオランドの言動の報告を受けたブンディル侯爵も「それを知る事が必要か?」と小馬鹿にしたように笑い隣にいた執事に問うた。
ブンディル侯爵もまた野菜や肉、小麦など供給が足らないのは問題だが、どうやって育っているかなど知る必要があるのか?と考えていた。
若かりし頃に視察に行き、豊作だった事もあるし領主が来るのだと全てをお膳立てした場。ブンディル侯爵はそれを見る時間がもったいないと何度も思ったのだ。
汚れる作業や面倒な作業、そんなものをわざわざ見せなくてもと周囲が気遣いをした事が裏目に出た。
執事はガッカリした。
ブンディル侯爵は「知る必要がない」と教育をされて40年以上経っている。
執務はきちんとするし、収穫量なども豊作で値崩れしたり、不作で需要に追い付かなかったりとしたときに指示を出すがあくまでも書面の数字を見てのこと。
その手腕は認めざるを得ない。
書面上だけ見ての指示とは言っても失敗はしていない。
――成功が失敗なんだな――
本質を解ってくれていると思ったのにそうではなかった。
執事は覚悟を決めた。諫言をすることで職を失うかも知れないが、これまで上手く行っていたことに甘んじて来た自分の落ち度でもある。
「旦那様。領主の仕事は需要を満たす供給量を確保する事です。その為に作付け面積を増減させたり治水の手配をされます。それはとても大事なことで必要不可欠な事ですが、種を植えて収穫までどうしているのか、獣や魚を捕らえるためにどうやって罠を仕掛けたりするのか。そこには領民たちの経験からくる知恵、そして努力がある事を若当主様に知って頂く必要があると思うのです」
「知ってどうするんだ。知れば不作の年に何も手を打たなくても収穫量が増えるのか?」
「量の問題ではなく、若当主様には領民の日々を知って欲しいのだ、と申しあげております」
「ふむ。お前が言うからには何か思うところがあるんだろうが…それは今行っている執務の手を止めてでもオランドが知る価値があるのか?」
執事は即答した。
「あります」
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