夫が離縁に応じてくれません

cyaru

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第08話  プチン…キレる

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流石は侯爵家。

国内に公爵家は4つ、侯爵家は5つ御座いますけれど侯爵家の中でなら資産力NO.2なだけあってブンディル侯爵家の庭は本当に食糧庫です。

前を向いたらクズ!
クズと言っても役立たずの父のようなクズではなくどこかの国では「葛」と専用の文字まであるのだというクズ。とろみがついてなんとなく量がマシマシになった気がする植物ですわ。

そして横を向けばキクイモ!まだこれは本格的な収穫時期ではありませんが秋になると掘り起こして根っこを食べるのです。小ぶりのジャガイモのような感じですが不思議なことに結構量を食べても太らない女性の味方ですわ。
良い感じに先走って育ったモノだけ引き抜きます。

香草の代わりにもなるシソもありますし、セージなどハーブも生えています。

「凄いわ…これだけで毎日の食事が楽しみで仕方ないわ!」

池も綺麗に手入れをされているので、池の周囲には蟒蛇草うわばみそうもあるしフキもあるし、ユキノシタまであるのです。

何とカタクリを見つけた時には飛び上がって喜んでしまいました。
片栗粉の原料なので「売ればお金になるかな?」とイケナイ考えまで頭をよぎってしまいました。

ちらりと池に目をやれば…「大きなフナね…ムニエルに出来そう」ぽつりと呟くと群れを成して泳いでいたフナとも鯉ともいえないムニエル予備軍が散って行きましたわ。


雨の日の事を考えると家の近くにあった方が便利なので庭師さんに借りた道具で根から土ごと掘り起こして植え替えを致します。

畝を作ってしまうと野草は何故か気に入らないようで枯れてしまうのです。
きっと住みやすい場所が手入れをされた畝ではないってことなのですね。

昼食と夕食、そして明日の朝食分の野草を取ってきて早速下準備。

本来の収穫時期から少し早いけれどキクイモはちゃんと膨らんでイモになっております。
これをクズ若しくはカタクリを混ぜてコネコネして竈で焼けばパン替わり。

「いいわぁ♡いいわぁ♡こっそり竈を使う必要もないって素敵っ」

鼻歌交じりにキクイモを洗い、他の野草も洗っているところを盗み見されているなんて思いもしませんでした。


ガサッ!!

――ハッ!蛇?このくらいの音って‥まさかアナコンダ?!――

いえいえ、アナコンダは生息できる気候ではありません。誰かがペットとして飼うのに持ち込んでいなければ…いなければ…いなければ。

背筋を嫌な汗が伝います。そうここはそれなりにお金持ちの侯爵家。


――飼ってたらどうしよう?!――

クマやイノシシに遭遇した時の逃げ方はココホレ教授に習いました。
太古の化石を発掘する場所は山奥などなので、クマやイノシシに遭遇することもあるのです。

――どうしよう。アナコンダからの逃げ方は教わってないわ――


オオアナコンダになると体長9m、体重は250kg。
破落戸に絡まれてダッシュで逃げる自信はあってもアナコンダに絡まれて逃げ出せる自信がないわ。

「何をしている」

――アナコンダが喋った?――

大昔、お母様がまだご存命中に観た子供用歌劇。
「クラーラが立った!」よりも大きな衝撃で御座います。

恐る恐る振り返ると声を掛けて来たのはアナコンダではなくオランド様でした。


「あ、あら…こんにちは」
「挨拶はいい。何をしているのかと聞いている」
「洗っています」


沈黙が流れますが、私、何か間違った事を言ったかしら。手元に視線をやれば桶に汲んだ水。手にした野草。洗い終わった野草と洗いを待つ野草。

――うん、大丈夫。間違ってないわ――


「そういうことを聞いているんじゃない」

――え?じゃぁ何を?――

「何をしているのかと聞いているんだ」

再度確認。桶、水、野草…うん。洗ってる。

「洗っています」

「だから!あ~イラつく。何故君がそんな事をしているのかと問うているんだ。そんな事と言うのは草を水に浸している!その行為だ」

「えぇ…浸しているは語弊がありますが洗っています」

「そういう事じゃないと言っているだろう!」

「あっ!!」

なんてことを!!オランド様はつかつかと歩み寄り、しゃがんで野草を洗っている私の手から野草を取り上げるとバシ!!地面に打ち付けたのです。

「何をするんですか!」

「それはこっちのセリフだ!君には侯爵家に嫁いだという自覚がないのか?使用人のような事をして恥ずかしいと思わないのか!」

「思いません!これは食材です。野菜です。食べ物を粗末に扱う貴方こそ!貴族を名乗る事を恥と思わないのですか!」

つい、夕食にしようと思っていた貴重なキクイモを投げられてしまい、私もカっとなってしまいました。

「食べ物?ハッ。バカバカしい。ただの草じゃないか。何処を食べると言うんだ。いいか?野菜と言うのはボウルに入っていてトングで必要な分量を取り分けるものだ。土がついた野菜など聞いたこともないし、食べるだと?バカも休み休み言え」

「食べ物です!ご存じないのは貴方です!ムニエルだってあの形で海や川、池で泳いでいる訳じゃありません。野菜だってボゥルに入る前、調理人が食べやすい大きさに千切っているんです。千切る前に洗う、洗う前にはこうやって土のついた野菜を収穫するんです!」

「アーッハッハッハ。聞いたか?伯爵家の野菜とは土がついているらしいぞ」

オランド様が後方にいた従者に大笑いをしながら話しかけます。
従者の方は渋い顔をされていますが、オランド様が何故そんな物言いをするのかもわからないでもありません。

貴族は出されたものを食すので、その食材が元々どんな形だったかまで考える必要はないのです。食材に野菜や肉、パンがきちんと食卓に出されるように指示をすればいいので、形を知らないことが当たり前とも言えます。

だけど、私はどうしても許せなかったのです。

「えぇ。伯爵家で私が食べていたものはこうやって土がついた野菜ばかりでした。お目汚しして申し訳ございません」

「解ればいい。父上が驚いていたから来てみれば…。屋敷に戻れ。抱いてやるよ。それが望みなんだろう?」

――あ、不味い――

私の中に残った僅かな理性が「プチン」音を立てて切れてしまいました。
例えるならその音は理性の絶対防衛線が破られる音。

バッシャ―!!

気が付いたら私、桶に入った野草を洗った後の泥水をオランド様に勢いよくぶっかけておりました。
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