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第07話 差し入れは基本的に不要
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「落ちないわね…このっ!このっ!!」
私が悪戦苦闘しているのは玄関前のタイル。
タイルと言ってもおそらくはこの石の構成からみて大理石と呼ばれる自然石。
「長く傘立てとか置いてたのかなぁ」
大理石に赤錆を見つけたので庭にある柑橘系の果実がまだ青かったけれど、もぎって皮で擦ってみるけれどなかなか落ちてくれないのです。
こういうのはそもそもで石の上に鉄製品を置かない!鉄則なのに。
柑橘系にはクエン酸が含まれるので軽度であればしつこく擦ると落ちるのです。しかしこれはなかなかに頑固!こうなると次に使うのは重曹なんだけど、重曹は買ってこないとここにはないのです。
「教授の所に行った時に少し分けてもらおうかな」
本当はあまり使いたくないのです。
重曹は汚れが良く落ちるのですが、研磨剤のようなものなので自然石を削る事になり向いてないのです。酸性の洗浄剤を使う業者もいるのですが、数日は良いのですが更に酷くなるのでお勧めできません。
そもそもで…大理石を雨風に晒す場所というのがダメなんですけどね。
こういう石は外装に使ったり、湯殿に使ったりすると見栄えは良いのですが石の使い方としては間違っているのです。石にも特性があるんです。
ふぅー。息を吐いて額を汗を腕で拭って立ち上がると…。
「わぁぁーーっ!」
「申し訳ございません。驚かせてしまいました」
「い、いえ。こちらこそ大きな声を出してしまい申し訳ございません。あの?その箱は?」
「旦那様から預かって参りました」
「荷物?まだ残してました?トランクだけだったと思うんですが」
「いえいえ。掃除道具の差し入れで御座います。こちらは昼食にどうぞ」
男性はブンディル侯爵の専属執事さん。手で抱えていた箱を覗き込むと掃除道具が沢山。
そして、肘のあたりで引っかけている籠の中には食材が入っておりました。
――ファ?!なんで布巾が雑巾扱いなの?――
感覚の違いは恐ろしいですわね。真っ白な布巾にするのも勿体ない布が何枚も入っています。
「あの…無理を言ってここを貸していただくのですから、食材は自分で何とかします。それから…これと、これ…。新品ですよね。雑巾は使い古して最後の役目になった布でいいです。新しい布を使った雑巾は使えません」
「ではこのモップだけでも」
「ありがとうございます。でもここにあったモップもまだ使えます。1人で2本も3本もモップは持てませんし1本あれば十分なので。折角持ってきて頂いたのに我儘ばかりで申し訳ないです」
ありがたいのです。ありがたいのですが、ここにはナイフもないし竈はこれから掃除しなきゃいけないので肉を持ってこられても今日、明日で肉料理が調理できるまでに持って行けるかも不明。
――それに肉は食べ慣れてないから昨日食べたのがまだ残ってる感じなのよね――
昨夜はお披露目会。ひな壇でにこにこしていたわけではなくお披露目会は食事会でもあるので「指、何本分?」とびっくりする厚さの肉が提供されたのですが、万年空腹みたいなものなので全部を食べきりまだ胃の中で消化しきれない感触もあるのです。
今朝の朝食だってパンは美味しそうだったんだけど胃もたれしちゃってたのよね。
結局執事さんからは、使い古しの雑巾5枚とブラシ2つだけを受け取り帰って頂いたのです。
――リンゴも貰っておけばよかったかな――
夜になって思ったのです。
「リンゴの皮…結構美味しいのよね」
★~★
「なんだって?ほとんど受け取らなかった?」
「はい、雑巾数枚とブラシだけであとは不要だと」
「食材もか?…どういうつもりだろうか。食事も与えていないと訴え出るつもりなんだろうか」
ブンディル侯爵からすれば自分で住めるように手を尽くさねばならない家に住む事、それだけでも令嬢の枠からはみ出しているのに、食材すら要らないと突き返してきたアーシャの考えが読めない。
「大きな声が廊下まで聞こえていますよ。父上、どうなさったんです」
ブンディル侯爵の声に顔を覗かせたのはオランド。
執事から事の顛末を聞いてオランドもにわかに信じることは出来なかった。
それよりも…。
「出て行った?なんで?」
「出て行ったと言っても庭にある離れです。ご実家に戻ったわけでも市井に家を借りた訳でもありません」
「当たり前だ!結婚したばかりでそんな事になったらとんだ醜聞じゃないか。父上、何故許可をしたんです?庭だと言っても別居じゃありませんか」
「そうは言ってもお前は昨夜初夜を済ませなかっただろう?使用人の中には彼女の世話はしなくていいと言ってる者だっているんだ」
「だったら我慢して抱くよ。抱けばいいんだろう?それで使用人たちも納得するなら抱くよ」
「オランド…そういう考えは良くない。イルサム家の事もある。暫くは様子を見よう」
ブンディル侯爵もお披露目会のイルサム家の所業には呆れてもいるが警戒をしている。調度品でなく事業に関する書類やブンディル侯爵家が開発中の特許申請前の技術であったりすれば大問題。
ブンディル侯爵はアーシャの予想の斜め上を行く行動に驚きつつも、そんな行動をとる理由を知りたかったのだった。
残念なことにブンディル侯爵が考えているほど壮大な事ではなく、アーシャは単に「生きるため」なのだが乖離が大きいが気が付くのは何時になるだろうか。
私が悪戦苦闘しているのは玄関前のタイル。
タイルと言ってもおそらくはこの石の構成からみて大理石と呼ばれる自然石。
「長く傘立てとか置いてたのかなぁ」
大理石に赤錆を見つけたので庭にある柑橘系の果実がまだ青かったけれど、もぎって皮で擦ってみるけれどなかなか落ちてくれないのです。
こういうのはそもそもで石の上に鉄製品を置かない!鉄則なのに。
柑橘系にはクエン酸が含まれるので軽度であればしつこく擦ると落ちるのです。しかしこれはなかなかに頑固!こうなると次に使うのは重曹なんだけど、重曹は買ってこないとここにはないのです。
「教授の所に行った時に少し分けてもらおうかな」
本当はあまり使いたくないのです。
重曹は汚れが良く落ちるのですが、研磨剤のようなものなので自然石を削る事になり向いてないのです。酸性の洗浄剤を使う業者もいるのですが、数日は良いのですが更に酷くなるのでお勧めできません。
そもそもで…大理石を雨風に晒す場所というのがダメなんですけどね。
こういう石は外装に使ったり、湯殿に使ったりすると見栄えは良いのですが石の使い方としては間違っているのです。石にも特性があるんです。
ふぅー。息を吐いて額を汗を腕で拭って立ち上がると…。
「わぁぁーーっ!」
「申し訳ございません。驚かせてしまいました」
「い、いえ。こちらこそ大きな声を出してしまい申し訳ございません。あの?その箱は?」
「旦那様から預かって参りました」
「荷物?まだ残してました?トランクだけだったと思うんですが」
「いえいえ。掃除道具の差し入れで御座います。こちらは昼食にどうぞ」
男性はブンディル侯爵の専属執事さん。手で抱えていた箱を覗き込むと掃除道具が沢山。
そして、肘のあたりで引っかけている籠の中には食材が入っておりました。
――ファ?!なんで布巾が雑巾扱いなの?――
感覚の違いは恐ろしいですわね。真っ白な布巾にするのも勿体ない布が何枚も入っています。
「あの…無理を言ってここを貸していただくのですから、食材は自分で何とかします。それから…これと、これ…。新品ですよね。雑巾は使い古して最後の役目になった布でいいです。新しい布を使った雑巾は使えません」
「ではこのモップだけでも」
「ありがとうございます。でもここにあったモップもまだ使えます。1人で2本も3本もモップは持てませんし1本あれば十分なので。折角持ってきて頂いたのに我儘ばかりで申し訳ないです」
ありがたいのです。ありがたいのですが、ここにはナイフもないし竈はこれから掃除しなきゃいけないので肉を持ってこられても今日、明日で肉料理が調理できるまでに持って行けるかも不明。
――それに肉は食べ慣れてないから昨日食べたのがまだ残ってる感じなのよね――
昨夜はお披露目会。ひな壇でにこにこしていたわけではなくお披露目会は食事会でもあるので「指、何本分?」とびっくりする厚さの肉が提供されたのですが、万年空腹みたいなものなので全部を食べきりまだ胃の中で消化しきれない感触もあるのです。
今朝の朝食だってパンは美味しそうだったんだけど胃もたれしちゃってたのよね。
結局執事さんからは、使い古しの雑巾5枚とブラシ2つだけを受け取り帰って頂いたのです。
――リンゴも貰っておけばよかったかな――
夜になって思ったのです。
「リンゴの皮…結構美味しいのよね」
★~★
「なんだって?ほとんど受け取らなかった?」
「はい、雑巾数枚とブラシだけであとは不要だと」
「食材もか?…どういうつもりだろうか。食事も与えていないと訴え出るつもりなんだろうか」
ブンディル侯爵からすれば自分で住めるように手を尽くさねばならない家に住む事、それだけでも令嬢の枠からはみ出しているのに、食材すら要らないと突き返してきたアーシャの考えが読めない。
「大きな声が廊下まで聞こえていますよ。父上、どうなさったんです」
ブンディル侯爵の声に顔を覗かせたのはオランド。
執事から事の顛末を聞いてオランドもにわかに信じることは出来なかった。
それよりも…。
「出て行った?なんで?」
「出て行ったと言っても庭にある離れです。ご実家に戻ったわけでも市井に家を借りた訳でもありません」
「当たり前だ!結婚したばかりでそんな事になったらとんだ醜聞じゃないか。父上、何故許可をしたんです?庭だと言っても別居じゃありませんか」
「そうは言ってもお前は昨夜初夜を済ませなかっただろう?使用人の中には彼女の世話はしなくていいと言ってる者だっているんだ」
「だったら我慢して抱くよ。抱けばいいんだろう?それで使用人たちも納得するなら抱くよ」
「オランド…そういう考えは良くない。イルサム家の事もある。暫くは様子を見よう」
ブンディル侯爵もお披露目会のイルサム家の所業には呆れてもいるが警戒をしている。調度品でなく事業に関する書類やブンディル侯爵家が開発中の特許申請前の技術であったりすれば大問題。
ブンディル侯爵はアーシャの予想の斜め上を行く行動に驚きつつも、そんな行動をとる理由を知りたかったのだった。
残念なことにブンディル侯爵が考えているほど壮大な事ではなく、アーシャは単に「生きるため」なのだが乖離が大きいが気が付くのは何時になるだろうか。
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