夫が離縁に応じてくれません

cyaru

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第14話  今なら先着1名に無料進呈

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庭師さんからの情報で花卉市場かきしじょうの経理を募集していると聞いた私は予定外の「連れ」が出来てしまいましたけれど出向くことに致しました。

「へぇ。こんな計算も出来るんだ?」
「はい、お任せください」

経理はイルサム家の経営で王宮に提出する書類は私が担当しておりましたし、この国の良いところは提出した日が期日内だと税率が2%OFF、その上チェックを受けてミスがなければ更に3%OFF。

たった2%、3%ですが大きいのです。
なのでチェックにチェックを重ねる癖が功を奏しました。

「早速明日から来てくれるかな」
「はい!よろしくお願いします」

お給金も考えていたよりも良いので、汚損、破損してしまった本は1か月1冊が限界かと思っていたけど2か月で3冊は弁償出来そうだし、万々歳。

オランドの野郎は弁償しなくていいと言ったけれど、どこで足を掬われるか判らないのが世の中。11冊分を先に弁償するとして、残業もすれば半年で終わりそうだし、そこから2年半働けば3年後には退職した時に失業手当が国から支給されるんだとか。

3年も経てば離縁も完了よね。
直ぐに次の仕事を見つけなくても失業手当で倹しくすればゆっくりと次の仕事を探せるというもの。


「あら?オランド様。どうでした?」
「どうって…」

フフフ。知っているのです。花卉市場花卉市場が募集をしているのは経理だけ。オランドの野郎は雇ってもらえないのよ。と思ったら!!

「私も明日から発注課に勤務が決まった。毎朝一緒に出勤出来るな」
「え…」
「気にするな。朝晩の送迎中に指一本、誰にも触れさせはしない」

――いえ、ハグイベントとか寄り道しようと思ってました――

悔しい事にそれなりのお金持ちなブンディル侯爵家の名前を使って無理やり枠を作ったオランドの野郎。そりゃ枠を作ったら採用になるよね。だって給料分以上の買い物を発注するんだもの。

――ズルい!ズルい!ほんとにズルい男!――


なんだか遣る瀬無い。採用は1人だけと思ったのに結局本当に一緒に働くことになっちゃうし、コネ枠入社だからオランドの野郎は課が違うのに特例とやらで私の隣のデスクだし。

「そんな目で見るな。私は何もしてない」

――そうでしょうよ。これが忖度ってやつよ――

大人の世界は色々と裏事情が絡むので面倒なのに、それ以上に面倒な男と四六時中一緒だなんて。あぁ遣る瀬無い。


面接が終わり明日から出勤。そう思い市場の入場門まで歩いていると私を呼ぶ声がするのです。

「アーシャ!アーシャじゃないか!」

――え?誰?――

荷馬車に空っぽになった木箱を沢山乗せて、手綱を引く男性が私を呼ぶのです。荷馬車の荷台にはお腹の大きな女性が1人。女性にも見覚えがありません。

目が合うと「アーシャ!」と呼ぶのですが声には聞き覚えがあるようなないような。ですが見た目が40代の男性。そんな年齢の男性で知っているとなれば父親くらいですが別人であることは判ります。

「知ってるやつか?」
「いいえ」

しかし男性は荷馬車を停めて、素早く御者席から降りるとこちらに向かって走ってくるのです。


「アーシャ。良かった。早速で悪いんだけどさ。侯爵家に嫁いだんだろ?金貸してくれよ。出産費用がなくてさ。貰った給料増やそうと思ってポーカーしたんだけど1発で無くなってさ」

――あ、これ、元婚約者だわ――

見た目は小汚いオヤジになっておりますが間違いありません。

そう、女遊びもしていましたけど、婚約中はポーカーではなくホースレースに夢中で御座いました。大穴しか狙わないのでいつもお金がなくて保証人になってくれとかイルサム家の資金を回してくれとか真正の馬鹿でしたわ。

「貴方ね、荷台の女性は奥さんでしょう?」
「まぁ、そんな感じ?で?出せよ。金。持ってんだろ?持ってるだけでいいしさ」

――なんで貸して!から出せ!になってるのよ――

「父親になるのならちゃんとしたら?貸せるお金なんかないわ」
「またまた~。じゃぁ貸さなくていいから。預けてくれよ」
「預けるお金もないわ。お金がないからここで働こうと思って来たんだもの」
「嘘だろ…侯爵家に嫁いだんだろ?もう別れたとか?そうだよな~貧相な体だもんな。次期侯爵もこんな体じゃ初回の味見でもういい―――うがっ!!」


あらら。元婚約者も体躯と減らず口だけは良かったんですが、オランドの野郎に胸倉を掴みあげられて足が浮いてるんですけど。

――見た目に寄らず腕力あるんだわ――

身長も元婚約者の方が少し高いかな?と思ったのですが足がプラプラしてつま先で地面を探しておりますが、トゥの形になっても10cmほど下にある地面には届かないでしょう。


「もう一度言ってみろと言いたいが、愛する妻の名前を許可もなく呼ぶ貴様の喉を潰してもいいか?」

――空耳かしら。愛する妻とか聞こえたけど――

「喉を潰す前に選ばせてやる。腰がいいか首がいいか選べ」
「な、何だよ…貴様…」
「両方がいいのか?」
「どうするってんだよッ」
「叩き折るんだ。どっちがいい?両方か?」

ですが、思いもよらないことが起こったのです。

「やめてください!私のせいで争うのはもうやめて!」

――え?ごめん。もう一度リピートしてくれる?――

元婚約者の足が宙に浮いたのは後から乱入してきた荷台にいた妊婦さん、貴女がまだ荷台にいた時なんだけど。

しかも元婚約者ではなくオランドの野郎の背中にピトっと頬を当てて「お願い」なんて言ってるんですけど。

もしかして、元婚約者は私に金の無心だけど、彼女はオランドの何か??
そんな事を思ってしまったのが表情に出てしまったのでしょうか。

「私に触れるな。貴様など知らん」
「嫌っ嘘よ。愛してるって言ってくれたじゃない!何よこの女!他人の男に手を出してんじゃないわよ」


――今なら先着1名に無料進呈――

しかしオランドが私を見て、激しく首を横に振っております。

「貴様、俺の女に!いいだろう。好きにするがいいさ。その代わり手切れ金寄越せよ!!」

あら。元婚約者からは有料進呈されてる。モテモテね。

こうなればオランドがどうにかするでしょうから私は先に待たせてある馬車で先に帰ろうと思い歩き始めたのですが、流石就職を忖度で行っただけあります。

あっという間に警備兵がやって来て元婚約者とレイチェルをどこかに連れて行くと息を切らせてオランドが走って参りました。


「誤解だ。何もしてない。あの女は初見だ。信じてくれ」

「解っております」

「本当に私はアーシャ。君だけなんだ。くそっ!こんなことなら首の1つや2つ落としておけばよかった」

――オランド。首は1人に1つですわ――

しかし、この手の事は重なるもの。
私が先に乗り込み、続いてオランドが馬車に乗り込もうとしたとき、今度はオランドを呼ぶ声がしたのです。

――御者さん、いいわ。出しちゃって――

本気で言おうと思いました。
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