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男運と結婚運は持ち合わせていなかった
ルビー侯爵家の令嬢オフィーリアは「畏まりました」と一言だけ言葉を発した。
半年前までオフィーリアはゾルティア王国第二王子ガルディスの婚約者だった。
10歳で結んだ婚約は王家から打診をされた政略的な意味をもつ婚約だった。
しかし8年経ち、王子妃教育も終わり学園の卒業パーティでガルディスは宣言した。
「オフィーリア!王子としてここに宣言をする。お前との婚約は破棄だ。私の妃に相応しいのは全てにおいて優れたシルヴィアだ!私はシルヴィアを婚約者とする」
この場で【婚約は国策である】と数名が第二王子ガルディスに申し出たが【王子としての宣言】を多くの貴族の今後当主になるであろう者が揃い、またその保護者である当主たちも参加する卒業パーティで言い出した以上、それは覆らなかった。
ルビー侯爵家はその家名の通りルビーを多く産出する鉱山を所有している。
宝飾品だけではなく生活や武器にも使える鉄鉱石の産出も国内でずば抜けており財力も相まって発言力が大きい貴族だった。パワーバランスを考え王太子ではなく第二王子の婚約者として王家はルビー侯爵家を取り込むつもりであったが、王子の宣言でそれは崩れた。
第二王子ガルディスが妃にと望んだシルヴィアの家は領地を持たない男爵家。
怒った侯爵家は王家から多額の慰謝料をもらう事で【円満な婚約解消】に話を挿げ替えた。
2カ月後、第二王子ガルディスは突然の病に倒れたと発表があり現在は療養中とされているが、貴族であればそれが間もなく【弔いの鐘】が鳴らされる前兆だと悟った。
同じ頃、シルヴィアの男爵家は憲兵団の強制調査が入り、麻薬密売、人身売買の容疑で一族郎党が捕縛をされ3日後自白があったとして5親等以内の親族まで全員が断頭台で処刑をされた。
罪状が本物であったかどうかなど関係がない。
王家にしてみれば侯爵家が隣国などと手を結ぶ前に【誠意】を示す必要があったのだ。
内容がどうであったかなど些細な事。オフィーリアは傷物令嬢となってしまった。
侯爵家と繋がりが出来ると思えばお釣りが来そうなものだが、渦中の令嬢を迎えようなどとする貴族はいない。侯爵がやっと探し出して来た家は、武功により爵位を授かり以降も功績を上げる事で伯爵となったサミュエル・ニモ・ルッセントだった。
軍人であるルッセント伯爵はその功績から発言力もあり軍を統率する。
元は騎士伯を父親が持っている1代爵だったが、息子の功績で言わば【成り上がった】伯爵だった。
占領した領地の一部を褒賞として貰い、そこに屋敷を構えていると言う。
王都からは1週間はかかるであろうその地にオフィーリアは嫁ぐことが決まった。
出立する前の日、王妃と王太子の婚約者エリザベッタが侯爵家に来訪をした。
エリザベッタと共にオフィーリアを娘として迎える予定だった王妃は終始涙が止まらずただ「すまない」「申し訳ない」と息子の愚行を詫びた。
王子妃教育を共に受け、言ってみれば戦友とも言えるエリザベッタは「何かあれば必ず力になる」とオフィーリアを抱きしめた。
2人からは大金貨を5袋、宝飾品を【餞別】だと無理やり押し付けられた。
金額にすれば途方もない餞別に固辞をしたが、どうしてもと最後はオフィーリアが折れた。
貴族の結婚には個人の意思などは関係がない。
しかし、伯爵夫人となる、夫は軍人となれば何かの役に立つかも知れないと縁談が決まり、伯爵領に到着するまでオフィーリアは時間を作っては医学書や農地改良の本を読み漁った。
伯爵がこの結婚を引き受けたのはおそらく【金】だろうと言うのはオフィーリアも気がついていた。王都でも伯爵領の付近に大雨が続き橋が幾つも流されたという話は聞こえていた。
橋は1カ所架けるだけでも莫大な費用が必要になる。武功による褒賞を何度も貰っていても追いつかないだろう事は想像に容易い。
長い馬車の旅を終え、やっと見えてきた伯爵の屋敷。
大勢の領民と使用人達が出迎えている。ひときわ大きく縦にも横にも場所を取っているのが伯爵だろう。
馬車の扉が伯爵の前で止まるとニュっと大きな手が差し出された。
エスコートをしてもらい馬車から降りる。
侯爵家からどれほどの持参金が出たのかは使用人達も知っているのだろう。
屋敷の3階から睨みつける女性以外は、笑顔で接してくれている。
「こちらの教会で結婚式を挙げるだけで良いと聞いたが?」
「はい。不要な出費をするよりも領民に回して頂きたく存じます」
「判った。あとで盛大にしてもらえなかったなどとは言わないでくれ」
こちらからしないでくれと頼んでいるのに言い出す筈がないだろう?と妙な念押しをしてくる伯爵サミュエルに聊か気分を悪くしながらも笑顔で【申しませんわ】と答える。
結婚式は翌日、出口には多くの領民が野に咲く花を持って祝福をしてくれた。
質素で盛大な結婚式となった。
そして披露宴もなく、普通の夕食を終えた2人は夫婦の寝室に向かう。
「隣の部屋が君の部屋になる」
「ありがとうございます」
「この寝室を使う事はないだろう」
「何故で御座います?」
「情けが欲しいだろうが、君と結婚をしなくてはならなくなったのは人生最大の屈辱だ。私には恋人もいる。君を抱くことはない」
オフィーリアの顔を真っ直ぐに見据えてサミュエルはハッキリと言った。
1度目のガルディスとの婚約は失敗だったが、この結婚も失敗だった。とことん自分は男運、結婚運はないのだとオフィーリアは目を閉じて軽く息を吐く。全ての不幸が全部吐き出せればいいのにと思いながら。
「判りました。閨がないのであれば子を授かる事はないでしょう。3年過ごせば白い結婚で離縁、いえ婚姻がなかった事になりますから、3年お互い辛抱を致しましょう」
「物分かりが良くて助かる」
「助かるついでに、その3年の間伯爵夫人として領地の仕事をする事をお許しください」
「何故そんな事を?」
「貴方は軍人です。領地について3年で道筋を作り、その後の災害にも強い地にしたいと思います。わたくし達の事情など領民は知らずに今日、精一杯の祝福をしてくれたのですから」
「判った。そんな事でもしていればキャスに手出しをする事もないだろう」
「ご心配なく。そちらには微塵も興味が御座いませんわ」
オフィーリアはサミュエルに微笑むと、体を反転させ夫人の部屋の扉に向かって歩いた。
「おい、添い寝ぐらいはしてやるぞ」
「結構です。添い寝が欲しい方は別にいらっしゃるでしょう?」
言い残し扉の奥に消えていくオフィーリア。サミュエルは一人、大きな寝台に横たわった。
女同士の争いは面倒だと聞く。これが最善なのだと思いつつも初夜の日に言い出すべきではなかったのかと自問自答を繰り返すうちに眠りに落ちていった。
半年前までオフィーリアはゾルティア王国第二王子ガルディスの婚約者だった。
10歳で結んだ婚約は王家から打診をされた政略的な意味をもつ婚約だった。
しかし8年経ち、王子妃教育も終わり学園の卒業パーティでガルディスは宣言した。
「オフィーリア!王子としてここに宣言をする。お前との婚約は破棄だ。私の妃に相応しいのは全てにおいて優れたシルヴィアだ!私はシルヴィアを婚約者とする」
この場で【婚約は国策である】と数名が第二王子ガルディスに申し出たが【王子としての宣言】を多くの貴族の今後当主になるであろう者が揃い、またその保護者である当主たちも参加する卒業パーティで言い出した以上、それは覆らなかった。
ルビー侯爵家はその家名の通りルビーを多く産出する鉱山を所有している。
宝飾品だけではなく生活や武器にも使える鉄鉱石の産出も国内でずば抜けており財力も相まって発言力が大きい貴族だった。パワーバランスを考え王太子ではなく第二王子の婚約者として王家はルビー侯爵家を取り込むつもりであったが、王子の宣言でそれは崩れた。
第二王子ガルディスが妃にと望んだシルヴィアの家は領地を持たない男爵家。
怒った侯爵家は王家から多額の慰謝料をもらう事で【円満な婚約解消】に話を挿げ替えた。
2カ月後、第二王子ガルディスは突然の病に倒れたと発表があり現在は療養中とされているが、貴族であればそれが間もなく【弔いの鐘】が鳴らされる前兆だと悟った。
同じ頃、シルヴィアの男爵家は憲兵団の強制調査が入り、麻薬密売、人身売買の容疑で一族郎党が捕縛をされ3日後自白があったとして5親等以内の親族まで全員が断頭台で処刑をされた。
罪状が本物であったかどうかなど関係がない。
王家にしてみれば侯爵家が隣国などと手を結ぶ前に【誠意】を示す必要があったのだ。
内容がどうであったかなど些細な事。オフィーリアは傷物令嬢となってしまった。
侯爵家と繋がりが出来ると思えばお釣りが来そうなものだが、渦中の令嬢を迎えようなどとする貴族はいない。侯爵がやっと探し出して来た家は、武功により爵位を授かり以降も功績を上げる事で伯爵となったサミュエル・ニモ・ルッセントだった。
軍人であるルッセント伯爵はその功績から発言力もあり軍を統率する。
元は騎士伯を父親が持っている1代爵だったが、息子の功績で言わば【成り上がった】伯爵だった。
占領した領地の一部を褒賞として貰い、そこに屋敷を構えていると言う。
王都からは1週間はかかるであろうその地にオフィーリアは嫁ぐことが決まった。
出立する前の日、王妃と王太子の婚約者エリザベッタが侯爵家に来訪をした。
エリザベッタと共にオフィーリアを娘として迎える予定だった王妃は終始涙が止まらずただ「すまない」「申し訳ない」と息子の愚行を詫びた。
王子妃教育を共に受け、言ってみれば戦友とも言えるエリザベッタは「何かあれば必ず力になる」とオフィーリアを抱きしめた。
2人からは大金貨を5袋、宝飾品を【餞別】だと無理やり押し付けられた。
金額にすれば途方もない餞別に固辞をしたが、どうしてもと最後はオフィーリアが折れた。
貴族の結婚には個人の意思などは関係がない。
しかし、伯爵夫人となる、夫は軍人となれば何かの役に立つかも知れないと縁談が決まり、伯爵領に到着するまでオフィーリアは時間を作っては医学書や農地改良の本を読み漁った。
伯爵がこの結婚を引き受けたのはおそらく【金】だろうと言うのはオフィーリアも気がついていた。王都でも伯爵領の付近に大雨が続き橋が幾つも流されたという話は聞こえていた。
橋は1カ所架けるだけでも莫大な費用が必要になる。武功による褒賞を何度も貰っていても追いつかないだろう事は想像に容易い。
長い馬車の旅を終え、やっと見えてきた伯爵の屋敷。
大勢の領民と使用人達が出迎えている。ひときわ大きく縦にも横にも場所を取っているのが伯爵だろう。
馬車の扉が伯爵の前で止まるとニュっと大きな手が差し出された。
エスコートをしてもらい馬車から降りる。
侯爵家からどれほどの持参金が出たのかは使用人達も知っているのだろう。
屋敷の3階から睨みつける女性以外は、笑顔で接してくれている。
「こちらの教会で結婚式を挙げるだけで良いと聞いたが?」
「はい。不要な出費をするよりも領民に回して頂きたく存じます」
「判った。あとで盛大にしてもらえなかったなどとは言わないでくれ」
こちらからしないでくれと頼んでいるのに言い出す筈がないだろう?と妙な念押しをしてくる伯爵サミュエルに聊か気分を悪くしながらも笑顔で【申しませんわ】と答える。
結婚式は翌日、出口には多くの領民が野に咲く花を持って祝福をしてくれた。
質素で盛大な結婚式となった。
そして披露宴もなく、普通の夕食を終えた2人は夫婦の寝室に向かう。
「隣の部屋が君の部屋になる」
「ありがとうございます」
「この寝室を使う事はないだろう」
「何故で御座います?」
「情けが欲しいだろうが、君と結婚をしなくてはならなくなったのは人生最大の屈辱だ。私には恋人もいる。君を抱くことはない」
オフィーリアの顔を真っ直ぐに見据えてサミュエルはハッキリと言った。
1度目のガルディスとの婚約は失敗だったが、この結婚も失敗だった。とことん自分は男運、結婚運はないのだとオフィーリアは目を閉じて軽く息を吐く。全ての不幸が全部吐き出せればいいのにと思いながら。
「判りました。閨がないのであれば子を授かる事はないでしょう。3年過ごせば白い結婚で離縁、いえ婚姻がなかった事になりますから、3年お互い辛抱を致しましょう」
「物分かりが良くて助かる」
「助かるついでに、その3年の間伯爵夫人として領地の仕事をする事をお許しください」
「何故そんな事を?」
「貴方は軍人です。領地について3年で道筋を作り、その後の災害にも強い地にしたいと思います。わたくし達の事情など領民は知らずに今日、精一杯の祝福をしてくれたのですから」
「判った。そんな事でもしていればキャスに手出しをする事もないだろう」
「ご心配なく。そちらには微塵も興味が御座いませんわ」
オフィーリアはサミュエルに微笑むと、体を反転させ夫人の部屋の扉に向かって歩いた。
「おい、添い寝ぐらいはしてやるぞ」
「結構です。添い寝が欲しい方は別にいらっしゃるでしょう?」
言い残し扉の奥に消えていくオフィーリア。サミュエルは一人、大きな寝台に横たわった。
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