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第01話 希望は婚約の解消
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「あ~。こんな婚約。無くならないかしら」
屋敷に戻る馬車にガタゴトと揺られてウェンディは愚痴る。
ボルトマン子爵家のウェンディは婚約者である第2王子クリストファーが大嫌いだった。
婚約そのものはクリストファーが2歳、ウェンディに至っては生後5日目だったため「王子妃になりたかっただけだろ!」と言われた事はないが、「クズだ」「のろまだ」「それでよく生きていられるな」と何度言われたか判らない。
今日だってそうだ。
今日は第1王子リーンハルト殿下が立太子をし、王太子となった祝いの夜会だった。王太子となる前に既に成婚の儀は済ませたため、王太子妃となったエレナ様との仲も良好で今日も眼福。
「王太子ご夫妻のお姿が見られなかったらバックレてるところだわ」
何故かと言えば、挨拶をする際にも「お前はまだ王族じゃない」と言って壇上に並ぶのをクリストファーが咎めた。それも入場の直前だ。
「呼ぶまで出てくるな」と言うものだから、従者も困って控室に下がっていれば誰も呼びに来ない。
このままでは夜会はお開きになってしまうと控室で焦っていれば側妃でありクリストファーの母親であるべラーナがやって来て「何してるの!」と火を噴くかのようなお怒り。
「貴女と言う人は!こんな日にも体調が悪いなどと!体調など気力でなんとかなさい!」
「妃殿下!違うのです。ここで待機をするようにとクリ――うあっ!!」
「お黙り!またクリスのせいにして!」
従者が理由を側妃に告げるも「お黙り!」と扇で思い切り叩かれ、その場に蹲る。
――こちらに精神力を要求する前に息子をなんとかしなさいよ!――
今回の夜会もまたウェンディの体調不良と言う事で欠席扱い。
度重なる夜会の欠席でウェンディの立場は無いに等しい。
ならば無理矢理でも出ればいいじゃないかと言った従者もいるが、行こうとした事はあるのだ。実際に出向いた事もある。しかし、その事がクリストファーの逆鱗に触れたようで関係した従者や侍女は全員解雇されてしまった。
ただの解雇ではなく懲戒解雇となった事でクビになった者達は生活に行き詰まる者だって出てしまった。なんせ紹介状もなく王宮の仕事を懲戒解雇なのだから雇ってくれるところなど何処にもなかった。
最初の10数人はボルトマン子爵家の薬草園で雇い入れたけれど限度がある。
それに薬草園の給料は王宮の仕事で貰える給料からすれば約半分。
結局「行くな」とクリストファーに言われたのに会場へ出向いたウェンディが彼らに怒りを向けられる事になってしまった。
状況はどんどん悪くなる。
ウェンディが出席しないのが恒例になってくると、クリストファーも王族で1人ダンスを踊らないわけにもいかず、高位貴族の令嬢達と踊る事になる。
見た目の麗しいかんばせをもつクリストファーは次代の王弟。
ここぞとばかり「我が娘を是非に」と言い出す家もあって、クリストファーとウェンディの婚約はそのうち無くなるのでは?と言われているが、首を縦に振らないのは国王。
しかしそんな事実を知らない者達はボルトマン子爵家をぞんざいに扱うようになり、家の経営も青色吐息。
気晴らしにと友人の家に茶会に行けば、友人の兄や弟と不貞をしていると噂をされてしまうのでうっかり友人に愚痴を聞いてもらうために出向く事も出来ない。
ならば女の姉妹しかいない家に・・・となればその家の使用人を誑かしていると言われる。
「どうすりゃいいのよ!!」
ウェンディはもう、それこそ顔を合わせる度にクリストファーに「婚約を無くしてくれ」と頼むのだが受け入れてはくれない。酷い噂が流れていると言えば「そのうち消える」「この程度の事で振り回されるな」と言われ、「それをどうにか出来ないなら妃の器ではない」とまで言われる。
――そう思うなら婚約やめようよ!!――
心の声をそのまま音にすれば機嫌を悪くしたクリストファーが早々に帰ってしまうので余計に不仲だと言われてしまうのだ。
よく判らないのはクリストファー。
噂は聞こえているだろうし、ボルトマン子爵家の置かれた状況も知っているのに国王に「婚約は継続する」と言っているのはクリストファーだと聞いた事もある。
「誰かと間違ってるんじゃないかしら」
馬車に揺られてウェンディは誰に言うともなくまた独り言ちた。
屋敷に戻る馬車にガタゴトと揺られてウェンディは愚痴る。
ボルトマン子爵家のウェンディは婚約者である第2王子クリストファーが大嫌いだった。
婚約そのものはクリストファーが2歳、ウェンディに至っては生後5日目だったため「王子妃になりたかっただけだろ!」と言われた事はないが、「クズだ」「のろまだ」「それでよく生きていられるな」と何度言われたか判らない。
今日だってそうだ。
今日は第1王子リーンハルト殿下が立太子をし、王太子となった祝いの夜会だった。王太子となる前に既に成婚の儀は済ませたため、王太子妃となったエレナ様との仲も良好で今日も眼福。
「王太子ご夫妻のお姿が見られなかったらバックレてるところだわ」
何故かと言えば、挨拶をする際にも「お前はまだ王族じゃない」と言って壇上に並ぶのをクリストファーが咎めた。それも入場の直前だ。
「呼ぶまで出てくるな」と言うものだから、従者も困って控室に下がっていれば誰も呼びに来ない。
このままでは夜会はお開きになってしまうと控室で焦っていれば側妃でありクリストファーの母親であるべラーナがやって来て「何してるの!」と火を噴くかのようなお怒り。
「貴女と言う人は!こんな日にも体調が悪いなどと!体調など気力でなんとかなさい!」
「妃殿下!違うのです。ここで待機をするようにとクリ――うあっ!!」
「お黙り!またクリスのせいにして!」
従者が理由を側妃に告げるも「お黙り!」と扇で思い切り叩かれ、その場に蹲る。
――こちらに精神力を要求する前に息子をなんとかしなさいよ!――
今回の夜会もまたウェンディの体調不良と言う事で欠席扱い。
度重なる夜会の欠席でウェンディの立場は無いに等しい。
ならば無理矢理でも出ればいいじゃないかと言った従者もいるが、行こうとした事はあるのだ。実際に出向いた事もある。しかし、その事がクリストファーの逆鱗に触れたようで関係した従者や侍女は全員解雇されてしまった。
ただの解雇ではなく懲戒解雇となった事でクビになった者達は生活に行き詰まる者だって出てしまった。なんせ紹介状もなく王宮の仕事を懲戒解雇なのだから雇ってくれるところなど何処にもなかった。
最初の10数人はボルトマン子爵家の薬草園で雇い入れたけれど限度がある。
それに薬草園の給料は王宮の仕事で貰える給料からすれば約半分。
結局「行くな」とクリストファーに言われたのに会場へ出向いたウェンディが彼らに怒りを向けられる事になってしまった。
状況はどんどん悪くなる。
ウェンディが出席しないのが恒例になってくると、クリストファーも王族で1人ダンスを踊らないわけにもいかず、高位貴族の令嬢達と踊る事になる。
見た目の麗しいかんばせをもつクリストファーは次代の王弟。
ここぞとばかり「我が娘を是非に」と言い出す家もあって、クリストファーとウェンディの婚約はそのうち無くなるのでは?と言われているが、首を縦に振らないのは国王。
しかしそんな事実を知らない者達はボルトマン子爵家をぞんざいに扱うようになり、家の経営も青色吐息。
気晴らしにと友人の家に茶会に行けば、友人の兄や弟と不貞をしていると噂をされてしまうのでうっかり友人に愚痴を聞いてもらうために出向く事も出来ない。
ならば女の姉妹しかいない家に・・・となればその家の使用人を誑かしていると言われる。
「どうすりゃいいのよ!!」
ウェンディはもう、それこそ顔を合わせる度にクリストファーに「婚約を無くしてくれ」と頼むのだが受け入れてはくれない。酷い噂が流れていると言えば「そのうち消える」「この程度の事で振り回されるな」と言われ、「それをどうにか出来ないなら妃の器ではない」とまで言われる。
――そう思うなら婚約やめようよ!!――
心の声をそのまま音にすれば機嫌を悪くしたクリストファーが早々に帰ってしまうので余計に不仲だと言われてしまうのだ。
よく判らないのはクリストファー。
噂は聞こえているだろうし、ボルトマン子爵家の置かれた状況も知っているのに国王に「婚約は継続する」と言っているのはクリストファーだと聞いた事もある。
「誰かと間違ってるんじゃないかしら」
馬車に揺られてウェンディは誰に言うともなくまた独り言ちた。
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