聖女じゃなくて残念でしたね

cyaru

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第02話  課せられた重荷

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王家と子爵家。かなり身分の差があるが、この婚約が結ばれたのは17年も前のこと。
ウェンディが現在17歳なので生まれてすぐの婚約だ。

当時クリストファーは2歳だったのでお互いが望んだ婚約でない事は確かでも、王族や貴族の結婚に個人の意思が関係ない事など当たり前。

「ウェンディを婚約者とする」と王家から通達が来た時、ボルトマン子爵夫妻は非常に困惑した。

ウェンディはボルトマン家の第1子であり、病弱だった夫人が命懸けで産んだ子。後にも先にもボルトマン子爵家には子供はウェンディだけだったので、第2王子の元に嫁ぐとなれば後を継ぐ者がいなくなる。

出産時も難産の上、逆子だったこともあってか出血が酷く死の淵を彷徨ったが、運よくボルトマン家のはす向かいにある教会に聖女が祈りを捧げに来ていたため、聖女の力も借りて母子ともに一命を取り留めた。
2人目の子供は望もうにももう望めないと産婆にも早々に告げられてしまっていた。

「身分不相応ですから」
「何を言うのだ。教会が聖女の素質有りと認めたのだぞ」
「ですが…恥ずかしながら持参金も用意出来ませんし、王子殿下の妃に相応しい教育を受けさせてやる事も出来ないのです。他にも素質を持った子は生まれるやも知れません。性急なご判断は…」
「馬鹿なことを申すな。そのようなものはこちらで用意する。持参金は聖女の力が発現すればそれでよい。お前が気にする事ではない。いいか?これは王命、私のめいだ!」


王命を出されてしまっては1貴族、1臣下に過ぎないボルトマン子爵はもう何も言えなかった。


聖女が祈りを捧げ始めてから生まれたからか、ウェンディには「聖女の素質」が付与されたとされて、教会も生後3日のウェンディに「聖女の素質あり」と認めてしまった。

大きな力を持つ聖女は数百年に1度現れるが、中、小程度の聖女は20,30年に1度生まれてくる。

今まで確認されている聖女はごく一般的、特別な力を持たない両親から生まれており物心ついた頃には家族や近所の住民の病を治したり、荒れ狂う野犬や暴れ馬を鎮めたりと他者から見ても顕著な力がある事が確認されていた。

ウェンディの場合は特殊だった。
確認をしようにも意思疎通が出来るわけではない。教会は生後2、3日の赤子ゆえに保護を目的として「聖女の素質あり」と認めただけだったのだ。

王家は教会の真意を知らず、年齢も合う事から早々にウェンディを囲ってしまったのである。


しかし、王子妃になるのは簡単な事ではない。
5歳からは初級の学問が始まり、8歳になると15歳でデヴュタントを迎える令嬢達と同じカリキュラムで教育が組まれ、朝から晩まで勉強浸け。

寝る暇もなく王子妃になるための素養だと叩きこまれ、ウェンディはこんな事をしなくていい他の令嬢が羨ましくて堪らなかった。

「はぁー。私も庭を自由に歩き回りたいなぁ」

そんな願いすら一蹴されてしまう。
ウェンディには単独での行動が許されているのは夢の中だけだったのだ。

学問だって歴史が好きな子もいれば算術の子もいる。
ウェンディは父親に似たのか植物学は大好きだったが歴史は苦手だった。
全てに於いて完璧を求められるのに婚約者のクリストファーは何故かそこまで求められない。

求められたのは完璧でウェンディには1つの誤答も許されなかった。

過去に一度、300問の設問で5問間違った事に講師に2時間の叱責を受けた時、半分も正解をしていなかったクリストファーはどうなのだ!と講師にキレたこともあった。

が、講師ではなくクリストファーがキレるウェンディを小馬鹿にするようにせせら笑い言ったのだ。

「どうして私だけこんなに勉強しなくちゃいけないの!殿下だってしてみればいいのよ!」
「低位貴族だからな。仕方ない所はあるが本当にお前は馬鹿だな」
「馬鹿…そんな事をあなたが言うの?言えるの?!」
「聖女の素質が無ければその辺の石と同じなんだ。素質があった事に感謝するんだな」


余りにも悔しくて従者にも問うたが誰も納得できる答えは返してくれなかった。

ウェンディとクリストファーでは既にウェンディの方が学力は上回っていたが、それを認めてしまえば不敬にあたる。ウェンディは何時まで経っても及第点扱いしかしてもらえない。

クリストファーの出来ない部分を補うためにウェンディには多くの事が課せられてしまった。

「第1王子殿下も同じなのかな…」

そっと覗いてみたこともあった。

第1王子は既に成婚の儀を済ませていたため、王子妃となっている妃を労わり多くを課してはいなかった。むしろ本当に第1王子が不得手とする分野を補うだけの妃。

第1王子その人が日々の研鑽を怠らない人だったからか。それとも次期国王としての役目を見据えていたからなのか。クリストファーとは全く違っていた。

立太子をする前の2人は本当に仲が良く、ウェンディは見るんじゃなかったと後悔した。
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