聖女じゃなくて残念でしたね

cyaru

文字の大きさ
16 / 37

第16話  反省室にて

しおりを挟む
クリストファーが反省室に放り込まれて5カ月が過ぎた。

週に1度か10日に1度。母親の側妃か国王がやって来て様子を見ていく。
扉が開くたびにクリストファーは入室者を睨みつけ、誰なのかを確認すると顔を背けた。

部屋の中は嵐が通り過ぎたのかと見紛う惨状で、足の踏み場もないくらいに色んな物が散らばっている。

鉄の格子は残っているが窓のガラスが全て割れているので風だけでなく虫も入ってくる。

供給される食事は食器やトレーは片付けられているが投げつけて至る所にシミがあり、絨毯に落ち、掃除しきれなかった食べ物の痕には虫もわいている。動かせる調度品はひっくり返されて転がり、壁も物を投げつけた穴だらけ。

麗しいかんばせは無造作に伸びた髭と落ちくぼんだ目と頬で台無し。
湯も浴びないので髪は皮脂で異様な輝きさえ持っていた。

10代になる前は3日も放り込んでおけば泣いて「出してくれ」と懇願してきたのに国王の目にはいまだに反抗心があるとしか思えず、反省室からクリストファーは出して貰う事が出来なかった。


周囲を屈強な衛兵で固め、見えるのはデップリと横に広がっただらしない体躯。
安全を確保した上で国王が珍しくクリストファーに話しかけた。

「そろそろいい加減に諦めたらどうだ」
「諦める?何を。あぁ…父上の息子に生まれた事をですか」
「何言を言っている。私の子供に生まれるなんて選ばれた人間だという事だぞ?名誉な事じゃないか」
「ハッ。馬鹿馬鹿しい。犬に食わせても食わない輝かしい名誉など不要です」

何を言っても歯向かってくるクリストファーは国王に向かって唾をペッと吐いた。

国王にもクリストファーが愛しさの裏返しでウェンディに酷い言動を取っていたことくらいは察しがついていた。ウェンディに力が発現すればそれで良かったのだ。

が、ウェンディに力は17年経っても発現しなかった。
何が悪いのかと言えば、発現をさせる努力を怠ったウェンディが悪いのだ。

人は自分よりも優れた者には嫉妬を覚え、憎悪する。クリストファーはまだ若く憎悪と愛しさを混同しているだけ。放っておいても目は覚ますだろうが、時間は待ってくれない。

国王として今すべき事は、徒労に終わった17年を早く取り戻し、聖女サラをクリストファーの妃とする事で安寧を図る事だった。

――現実を突きつけ、強制的に目を覚ましてやらんとな――

国王はクリストファーの知らない事実を突きつけた。

「ボルトマンの娘ならもう王都にはいない。何時までも居ない者を思ってどうする」
「いない?どういう事だ!」

椅子に腰かけていたクリストファーは立ち上がり、その椅子を蹴り飛ばした。
衛兵たちは国王を守るべくさらに国王に体を寄せた。隙間が更に狭くなり国王の横腹も見えなくなる。


「聖女はいる。2人も必要が無い。判るだろう」
「判らないな。あんな紛い物」
「紛い物だと?まぁお前はあの稀有な力を間近で見ていないからな。信用できないのは仕方がない。だが事実として
ボルトマンの娘には力はなかった。お前を誑かす力以外はな」
「僕は誑かされてなどいない!紛い物に誑かされているのは父上だ!」
「まだ言うか。まぁいい。来月にはお前と聖女サラ様の婚約を民衆にも発表する。半年も禊の期間を置けばバカな民衆は王家を悪く言う事もあるまい」
「馬鹿なっ!ディーを何処にやった!王都にいないとはどういうことだ!!」


クリストファーは国王に飛び掛かろうとするが、その前に立ちはだかる衛兵に制されてしまった。

食事も碌にとっていないクリストファーが幾ら19歳と言う若さがあろうと鍛え上げた兵士に敵うはずもない。簡単に手で制された反動でクリストファーは床に転んだ。

いつか投げて壊した花瓶なのか茶器なのか。絨毯に埋もれていた破片に腕が切れ、シャツの袖が赤くシミを作って行く。

「全く世話の焼ける。聖女サラ様は不調で寝込まれたこの時に負傷するとは。誰か手当をしてやってくれ」
「いらん!!僕に触るな!」

駆け寄ろうした従者がクリストファーの声に足を止めた。

国王は衛兵の隙間から足を止めた従者に「手当しろ」と顎で指示をし、部屋を出ていこうとした。

「殿下、傷を――」
「僕に触れるなと言っただろう!!」
「あっ!!」

パンと弾いた手が従者の持っていたハンカチも弾き飛ばした。
国王は面倒そうに振り返った。

「はぁ…判った。聖女サラ様を呼ぼう」
「ここに来れば殺す!」
「クリス…聞き分けのない子供ではないだろう」
「もう一度言う。次にその扉を開けたら誰であろうと殺す」
「まだ反省が必要だな。いいだろう。しかし来月もそんな世迷言を抜かすようならこちらも考えがある」
「フッ。薬漬けにするか。木偶にした王子が王弟。兄上も難儀なものだ」

クリストファーは床に落ちたハンカチを拾い、従者に手渡した。

「あ、あの…お手当を‥」
「不要だ。去れ」

国王はもう一度溜息のような長い息を吐いて従者に声を掛けた。

「要らんと言ってる。もういい。下がれ」
「は、はい…」

国王達が去り、扉が閉じるとまたクリストファーだけの静かな空間に戻った。

「さて、続きをするか。もうちょっとだな。王都からいないなんて…急がないと」

寝台のマットに手を入れると隠しておおいたナイフやフォークをごそごそ取り出した。投げつけた食事に付けられていたカトラリーはトレーごと投げつけるのであちこちに散らばる。拾い集める使用人に「出て行け」と怒鳴れば全てを拾う事も出来ずに部屋から出ていく。

そうやって集めたカトラリーでこの5カ月、地味に窓に嵌る鉄格子を削って来た。
ウェンディが王都から追放された事を知ったクリストファーは想定外の出来事に「急がねば」と、あと僅かとなった鉄格子の枠にまたカトラリーをあてて削り始めたのだった。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」 新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。 1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。 2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。 そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー… 別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

処理中です...